サボった結果こんなに期間が空いてしまいました。
あと数分で18:00になろうとする東京は激しい雨が打ち付けていた。
それは総理官邸がある千代田区も同じで,官邸前の道路には既に水溜まりが出来ていおり,車が通る度にタイヤが水溜まりの水を跳ねていた。
官邸前の政府の公用車を止まるロータリーに外務事務次官 三崎霞は傘も指さずに立っていた。
雨が彼女の体を激しく打ち付け,髪も服も全て濡れていた。
だがそれ以上に彼女の心は酷く原型がなくなる程に壊れていた。
北方領土奪還作戦を察知出来なかった事でシ連の信頼を完全に失い,“裏切り者!!”と言われて通信も切られ,何度も連絡をしたが帰ってくるのは留守番電話の無機質な音声。
彼女は右手に持っていたスマートフォンを地面に強く叩きつけた。アスファルトと衝突した衝撃が保護フィルムを貫通して画面がひび割れ,ただのガラクタへと成り果てた。
もう彼女に頼るべき存在は皆無となった。
彼女はこの事実を受け入れる事が出来なかった······出来るわけがなかった。
ただ彼女は呆然と立ち尽くしていた。
「いつまでそこで立っているのですか? そんなに雨に当たっては風邪を引いてしまいますよ。」
後ろから雨の音を通り越して聴こえた声。彼女が恐る恐る振り替えるとそこには総理秘書官 本庄香月が傘を指して立っていた。
咄嗟に三崎はスーツの奥に隠していた
動かした筈のスライドがホールドオープンしていたからだ。
これが意味するのは
これでは今手に持っている銃はただの
三崎は引き金を引こうとするも,引き金は無情に動く気配を見せなかった。
動かないと分かっていても尚抗おうとする三崎を前に,
「先程誰かは知りませんが,弾を抜いていかれたようです。いい加減現実を見た方が良いと思われますが?」
本庄の言葉が心に突き刺さる。ただでさえ傷ついていた彼女の心の傷を抉った。
「どうして·········」
三崎の漏れた声は徐々に大きくなっていった。
「どうしてこうなるの!? 私はただこの国の為に!! この国を正しくするためにやっていた!!
それなのにどうして!! どうして!?」
元々濡れていた彼女の顔に目から透明な液体が流れ出す。
「何が間違っていた!? 日本を········この国を救おうとしただけなのに!!
私は悪役なんかじゃない!! 正義のヒーローの筈だったのに·····なんで·····なんで!? なんで!?」
彼女の叫び声が雨の東京に響き渡る。本庄の顔は途中から呆れた様な表情になっていた。
「あのさ,さっきから“正義”とか“ヒーロー”とかうるさいけどさ,あんたの中のヒーローって一体何なの?」
「·······」
「敵国の政府に侵入して情報を味方に渡すだけでヒーローなの?
もしあなたみたいのがヒーローだとしたら私だってヒーローなんだけど。」
本庄の冷徹な言葉が心の傷口を抉る。何回も何回も抉り続け,傷口は塞がらない程大きくなっていった。
本庄はそうなっているとは露知らず,冷徹な言葉を続けた。
「こんな事しか出来ないんじゃ貴女に正義を感じる者は誰1人としていない。
貴女はただそんな自分正義という純粋な想いをいいように使われただけ。」
「黙れよ·······」
「あなたはヒーローなんかじゃない。ましてやそんなことをしてヒーローだなんてヒーローの名が汚れるよ。」
「黙れっつってんだよ!!」
三崎は吠えた。口調も声調もさっきとは別人の様に変わり,心に余裕がない様な様子で言葉を吐き出し続けた。
「私は正義なんだ!! 頼朝だって信長だって裏切りなんて何回もした!!
でも歴史は彼らを正義とした! 今は悪だとしても何時かは正義として世の中に認めらr」
「それは違います。」
どこからともなく声が聴こえた。2人はよく聞く声。特に本庄に関しては毎日の様に聴いている声。
三崎は声の主に瞳孔を見開いて唖然としていた。声がした方向に本庄が振り替えると,そこにはいた。
「総理········」
日本国第100代内閣総理大臣 鈴村隆治。国民から“ミスター”と呼ばれ,支持率も高い現総理大臣。
そんな彼が傘も指さずに立っていた。周囲を6名のセキュリティポリスが囲っていたが,それでも危険なことにはかわりなかった。
思わず本庄が自分の傘を渡そうとするが,彼はそれを拒否した。
「貴女の考えは確かに正しい。日本を平和な道へと導きたい。日本政府の人間としてとても良い人材です。」
「そ,総理·······」
鈴村の言葉に三崎は顔が和らいだ。だが鈴村は“ですが”と言って,
「貴女の考え
そんな事をして貴女は本当に良かったと思ってるんですか?」
本庄よりも鋭く尖った言葉が三崎に無慈悲に突き刺さる。
「間違った事をしない人間はいません。私だってあなただって,私も名も知らない誰かだって間違った事はします。
もしこの世界に間違わない人間がいるとしたらフィクションの中だけでしょう。」
話を一区切りさせるが,尚も鈴村は辛辣な言葉をかけた。
「貴女の行いは間違っています。貴女の行いで何人もの人間が死にました。
貴女の行動で死ぬ筈ではなかった人間が死にました。その事実を分かっているのですか?」
鈴村の辛辣な言葉は無慈悲に続く。
「貴女は自分を“正義のヒーロー”だと勘違いしている。純粋な気持ちで行い始めた情報提供はいつの間にか自分をヒーローへと勘違いさせたのですね。
貴女は“ヒーロー気取りのただの出来損ない”。ヒーローを名乗る資格などありません。」
無情に言いきった鈴村に三崎の心は完全に壊れた。
三崎は無意識の内に自らの
自殺しようと何度も引き金を引くが,銃は未だにスライドストップ状態。弾等出るわけがなかった。
「弾は出ませんよ。
鈴村の何気ない発言に三崎は再び瞳孔を見開いた。それは本庄も同じだった。
「どうすれば········」
そんなか弱い声が三崎から漏れた。
「どうすればいいんだよ!? 死ぬことも逃げることも出来ない!! もう何も出来ることなんて何も······」
掠れた叫び声が2人の耳に入る。悲しい叫び声にセキュリティポリスも顔を
「貴女は少し考えが足りてない様ですね。」
そう悲しげな声でボソリと吐くと,
「人生は何年あると思ってるんですか? 例え実刑判決を受けたとしても死刑もしくは無期懲役で無い限りシャバへと戻ってこれます。
シャバへと戻ってきた人へと風当たりは厳しいですが,世界は広い。日本が嫌だった国外へと言って誰も知らない場所で静かに暮らすのも良い選択肢です。」
「········」
「どうやら私達の神は貴女にも希望を残しているようです。せっかく与えてくれた物を貴女はそのまま握りつぶしてなかったことにするのですか?」
鈴村の言葉に三崎は顔を上げた。顔の表情には希望が宿っているようにも見えた。
「私にもまだ希望があるんですか?」
「挫折を経験しない人間はいません。そして誰もが立ち直れる強さを持っています。
貴女も例外ではありません。」
どん底の絶望から一転して,希望の糸口が現れた三崎の目は光を宿していた。
“こんな自分にも希望はある”・“やり直すことが出来る”。そんなさっきの暗い考えとは一変して明るい考えが彼女の頭をよぎった。
だが,現実というものは非情だった。
「伏せろ!!」
鈴村がいきなりそう言って体を地面に伏せた。本庄処かセキュリティポリスですらポカンとした顔をしていた。
三崎は何かを言おうとしたがその言葉は出なかった。
三崎の体を1発の銃弾が貫いた事によって。銃弾が貫いた三崎は濡れている地面へと力なく倒れこんだ。
三崎の奥には暗闇に紛れるかのように黒く塗られたトヨタ・カローラ NRE210の後席の窓から一丁の銃口が覗いていた。
その事実に漸く気がついたセキュリティポリスは鈴村を伏せようとするが,彼らの護衛対象である鈴村から1発の銃声が鳴った。
鈴村は自らの体を伏せる際に隣のセキュリティポリスのベルトのホルダーからS&W M37を素早く抜き去ると左手でグリップをさげ,引き金を躊躇無く引いた。
放たれた.38スペシャル弾は400mも離れているカローラの右リアタイヤへと迷うこと無く命中し,右リアタイヤがパンクしたカローラはそのまま制御を失って路肩へと激突して止まった。
「嘘だろ·······」
誰かがそうボソリと言った。総理大臣が拳銃を撃つこともだが,撃たれた銃弾がリアタイヤへと迷うこと無く当たっている。
総理大臣とは思えない銃の腕に皆は驚愕していた。
「元特殊部隊だった頃の血は残っていた様ですね。」
そうボソリと鈴村が呟くと,M37を元の持ち主に返却して,
「急いで捕まえないと逃げられてしまいますよ。」
そう言って鈴村は倒れた三崎の元へと向かった。
銃弾は三崎の左胸を貫いており,傷口から赤い鮮血が流れ出していた。
今までフィクションでしか見たことの無い光景に本庄は傘を落としている事にも気づかなかった。
「は,早く医者を!!」
「良いんです········」
本庄が辛うじて出した声で周囲に叫んだが,それを遮ったのは意外にも三崎だった。
「これで良いんです·······悪役として誇れる最後です·····」
三崎の顔は悲しんでいるようにも見えたが,喜んでいるようにも見えた。
「やっぱり悪役を世界は見捨てたようですね······仕方ありませんね。」
三崎が咳き込むと口からも紅い鮮血が漏れ出す。しかし三崎は話すのをやめなかった。
今にも聴こえなくなりそうな微かな声で,
「もし生まれ変わったら·······今度は·····本当に日本の為に······」
三崎は言葉を言いきる事はなかった。鈴村が握っていた右手から力が抜け,そのまま地面へと重力に従って落下した。
辛うじて上がっていた頭も瞼を閉じるとそのまま下へとあり得ない角度で曲がりそのまま動かなくなった。
鈴村はもう動かなくなった三崎をゆっくりとアスファルトの地面に置くと,手を合わせた。
鈴村はただの亡骸へとかした三崎から目を離さずに,
「惜しい人材でした········こんな老人より若い人が死なれると何とも言えない気持ちになってしまいます。」
彼の言葉には後悔しているという本心が混じっている様にも感じられた。
目の前で亡くなった三崎を見続けていた鈴村に本庄が傘を被せた。既に2人ともずぶ濡れになっていたためになんの役にもたっていなかったが。
「もしかしたら彼女は助けられたかもしれないのに·······」
本庄がやりきれない思いで鈴村へと話しかけるが,彼は“いえ”と言って,
「貴女は自らの役目を全うしたのですから何も問題はありません。
それにあの様な殺害担当がいることを考慮しなかった私の責任でもあります。」
鈴村はそう言いきった。本庄はこの話は終わりにすべきと判断して別の話へと変えた。
「先程“部下が弾を抜いといた”と言いましたが,総理自ら抜かれたのですね。
それにあんな離れていた車のタイヤに正確に命中させるなんて,話には聞いていましたが凄腕ですね。」
「あれでも落ちた方です。現職の隊員達には敵わないと思いますがね。」
「充分敵うと思いますよ。まああくまで個人的な予想ですけど。」
「
そう言っていると三崎の亡骸が担架に乗せられて運ばれていった。
車に乗っていた狙撃手と運転手も警備員に引き渡されたらしく,車の撤去に取りかかろうとしていた。
「彼女は私を守って事故死という形にしましょう。そうした方が彼女も,家族も恵まれましょう。」
そう言うと鈴村は振り替えって去ろうとしたが,立ち止まって本庄に聞こえる様に,
「彼女が歪んでいながらも望んでいた平和な日本。叶えるのはとても難しいですが,総理大臣としてできる限り叶えてやりたいです。」
そう言うと今度こそ彼は官邸内へと戻っていった。
英国海軍空母「クイーン・エリザベス」が日本近海に展開ってマジすか·········
こんな状況だけど横須賀行きたい。
しかも艦載機のF-35Bの整備をオーストラリアじゃなくて小牧でやるって,こりゃあ小牧に物凄い人集まりそう。