New Japan Fleet   作:YUKANE

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Episode.42 幕開け

東京で1人の外交官がこの世を去った頃,朱雀列島の蘭島も雨に襲われていた。

 

雨はアスファルトの地面には水溜まりが出来ており,近くに止めてあったウラル-4320の荷台の幌にも打ち付け,独特な音を発していた。

 

司令部の建物にも例外なく雨は打ち付け,窓に当たった雨は水滴として下へと流れ,地面を泥へと変えていた。

 

そんな中シ連陸軍第3軍司令官 ユラージ・チュイコフと参謀 レアル・ストラータは,司令部の入り口に立っていた。2人の数m先は雨が激しく打ち付けていた。

 

ユラージは自らの愛用煙草 (カールトン)を吸おうとしたが,湿気で濡れていた為に残念そうな顔をしながら煙草を胸ポケットに閉まった。

 

ユラージは両手を胸の前で組むと,

 

「正面に自衛隊,後方に中国軍。我々は正に四面楚歌だな。」

「下手すればそれより酷い状況ですがね。」

 

ユラージの発言にレアルが冷静に指摘する。レアルは何時でもこう冷静な男だと5年も一緒にいるユラージは分かっていたかのような表情に自然のうちになった。

 

「この雨で日本の特殊部隊も何かしら傷ついてくれれば幸いだが,そんなうまい話あるわけないもんな。」

「そうなった場合我々も傷つくのが確定ですが?」

 

またもレアルは遊び心の無い言葉をかける。

 

「それとレアル。自衛隊のB-1(ランサー)が百里基地を離陸したらしい。」

 

レアルは即答しなかったが,すぐに眼鏡を上に上げると,

 

cape(裏切り者)の情報を信じるんですか?」

「いやこれは別の諜報員からの確実な情報だ。向かった方角は北西······つまり朱雀列島(ここ)だ。」

「司令部を狙おうとしてるのでしょうか? 移動されれば終わりなのですがね。」

 

レアルは“理解できない”とも聞こえる言葉を投げ掛けたが,ユラージは分かりきっているように,

 

B-1(ランサー)の爆弾搭載量はおおよそ34t。どこに逃げたって発見されて爆撃されるのがオチだ。

そこでレアル。君は嵐が過ぎ去り次第飛鷹島の飛行場へと向かってくれ。」

「·············は?」

 

レアルは初めて応対に困った。ユラージの言葉の意志が理解できなかったからだ。

 

「私が飛鷹島に行く理由は何ですか?」

「理由? そんなの簡単だ。司令部の分散だ。」

 

ユラージは説明を続ける。

 

「指揮系統が止まれば部隊なんて簡単に崩壊する。自衛隊もバカじゃない。それぐらい分かっているだろう。

つまり我々は司令部を集中させてはいけない。各所に分散させる,若しくは権限を移動させるしかない。」

「話が読めました。司令部を2つの島に移動させる事で,片方がやられても指揮を保てるようにするのですね。」

 

レアルの補足にユラージは“そのとおり”と頷いて,

 

「分散すればその分だけ質は落ちるが,それでも部隊が瓦解するよりはマシだろう。

だが分散した結果,無能な奴が指揮官になってしまえばどちらにしろバットエンドだ。だからこそお前だ。お前ならしっかり束ねられる筈だと思っているからな。」

「そういうわけですか。司令がそう考えているなら私も従って向かうことにしましょう。

それで司令。私はどうやって飛鷹島へ行くのですか?」

 

レアルの疑問にユラージは,

 

「今小学校の校庭に止まっているKa-52(ホーカムB)で阿月空港に向かうついでに同乗してくれ。」

「あんな狭いのに乗るのですか··········」

 

レアルはこの会話で本音を言った様にも感じられた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

嵐がシ連海軍太平洋艦隊を襲う。荒波が駆逐艦の前甲板を越え,艦橋に海水の滝を叩きつける。

 

艦内も荒波で大きく揺れ,熟練の乗組員も手すりに掴まっていないと立っていられなかった。

 

「S-107 ウリヤノフスク」も例外なく,荒波が船体を叩きつけ,まるでお風呂の玩具(おもちゃ)のようになっていた。

 

既に航空機を格納した航空甲板に唯一残っている構造物 艦橋に太平洋艦隊司令のレバル・スグワークはいた。

 

彼は椅子から立ち上がっており,座っていた椅子の背もたれを左手で掴んでバランスを取っていた。

 

「全く自衛隊艦隊の前に嵐とは! 一体我々と第2機動部隊が戦えるのは何時になるのだ!?」

 

戦いもせずに艦隊が嵐に呑まれた為に,レバルは不満を爆発させていた。

そこに艦橋内の機器にしがみついていた隊員が大声で,

 

「司令!! やはり嵐に突っ込むのは危険だったのでは!! 我が艦隊はこれが初陣(・・)です!!

只でさえ緊張している者が多いのに,これでは戦闘時に使えません!!」

 

彼の隣にいた隊員も,

 

「そうですよ!! 何故わざわざ危険な道を選んだのですか!?」

 

2人の叫びは艦橋内に響き渡ったが,レバルは動揺しておらず,寧ろ喜んでいた。

 

「2人に聞くが,お前達は自分が戦いに慣れていると思っているのか?

全く違う。そんなのただの妄想だ。本当の戦争ってのは何倍も残酷だ。

お前達が勘違いしているには体験したことが無いだけで,こんな嵐で音をあげているようじゃお前達には早すぎた様だな。

2人とも今何歳だ?」

「5月で23です········」

「25です·········」

 

2人はレバルの言葉に反論の余地を失っていた。

 

「思ったより若かったな······今のうちに現実を体験しておけ,それが将来の役に立つ。」

 

そう言いきると2人の艦橋要員は,元の仕事へと意識を集中させた。

レバルもその様子に安心した様に見えたが本心は全く違っていた。

 

「嵐もそうだが,レーダーはまだ写らんのか?」

「はい。まだノイズが激しいです。直るには時間がかかりそうです。」

 

艦隊に発生している問題は嵐だけではなく,レーダーにも発生していた。艦艇のレーダー画面は不規則なノイズが発生していて,役目を失っていた。

その為に太平洋艦隊(彼ら)は目視での周囲確認をやらざる終えなかった。

 

「はたまたこれがこの嵐のせいなのか,それとも人為的な物なのかさっぱり分からん。

可能性としては両方あり得そうだからな。第2機動部隊の位置は分かっているのだな。」

「おおよそですが,朱雀列島(バレリオーストラフ)南西に300kmの海域だと思われます。」

 

艦隊要員のその言葉にレバルは口先を上げながら,

 

「嵐を抜け次第,艦載機を発艦させろ。おおよその位置は分かっているのなら先制攻撃を浴びせてやる。」

 

レバルは目の前の優秀な敵に対して子供のように心の底から喜んでいた。

 

そしてさっき言葉が全て自分らの艦隊に返ってくる事になるとは知らずに。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

能登半島の最先端部 珠洲岬北東50km 高度2000mの空。

 

蒼い空に馴染むかのような水色の胴体。翼に取り付けられた4基のIHI F7-IHI-10 ターボファンエンジン,翼のハードポイントには今年導入されたばかりの最新兵器 24式空対艦誘導弾(ASM-2C)を計8発取り付けていた。

 

海上自衛隊が保有する日本が独自に開発した対潜哨戒機 P-1 16機は綺麗に編隊を組んで黒に支配されていた空を飛んでいた。

 

海上自衛隊第3航空隊所属の16機は厚木海軍飛行場を離陸して,シ連艦隊へと翼の空対艦誘導弾(ASM)群をお見舞いすべく飛んでいた。

 

コックピットのレーダーには後方50kmを飛んでいるE-767(J-WACS)が探知した輪形陣を構成するシ連海軍太平洋艦隊がハッキリと写っていた。

艦隊中央の一番巨大な光点(ウリヤノフスク)からは小さな光点が幾つも出現しており,Su-33(艦載機)が発艦したことを意味していた。

 

「悠々と出てきたな。ここで終わらせてやる!!」

 

操縦席後方の席に座っている指揮官 山岡が意気揚々と声を上げる。

いつも通りの様子に操縦席に座っているパイロットも落ち着いて操縦できていた。

 

右側に座っていたパイロットがふと思い出したように,

 

「しかしよく空自がE-767(J-WACS)出してくれましたよね。

聞いた噂によると頑なに出撃を断っていたらしいですが。」

空自上層部(奴ら)だって只でさえ貴重な機体を失いたくないんだろうな。

だが決戦となれば話は別だ。この為に温存していたのだと信じたいよ。」

 

第602飛行隊所属の早期警戒管制機(AWCAS)E-767は世界で4機しか存在しない貴重な機体。

その内の1機を既に昨日の戦闘で失っていた為に,上層部は出撃に慎重になっていたが,今回の決戦にあたって腹を括ったようだ。

 

浜松基地を離陸したE-767(J-WCAS)第306飛行隊(ゴールデンイーグルス)所属のF-15J(イーグル) 2機の護衛を連れてを旋回していた。

 

「しかし司令。本当に敵艦隊への電子妨害(ジャミング)には成功しているんですよね?」

「恐らくな。幾らEC-2が電子妨害(ジャミング)を行っているとはいえ不安だな。」

 

彼らが口にしていたEC-2とは,空自の電子戦訓練機で前任のEC-1の置き換えで導入された新鋭機で,本来は名前にあるとおり電子戦の訓練に使われる機体だが,今回の実戦投入を受けリミッターを取り外して機器をフル稼働させていた。

 

この機体は入間基地を離陸し,北方領土奪還作戦において電子妨害(ジャミング)を実施してF-2Aの爆撃を支援し,入間への帰路につかせようとしたが,決戦と言う事で急遽千歳の第203飛行隊(シークレットイーグルス)F-15J(イーグル) 2機と共に男鹿半島西150kmの空域を飛んでいるのだった。

 

「敵艦隊。24式空対艦誘導弾(ASM-2C)の射程にはもう入っています! 」

 

機首のHPS-106レーダーが探知した情報を受け取った山岡は“そうか”と一言置くと,

 

「採用1年で実戦投入とはこの兵器は非常に運がついているぞ!!」

 

なんかずれているような前置きを言いきると,右手を前に付き出して宣言した。

 

発射(Fire)!!」

 

その声で8発の24式空対艦誘導弾(ASM-2C)がハードポイントから切り離れた。

 

重力に従って落下していく誘導弾後部のターボジェットエンジンが出力をあげ,白い線を描きながら目視では見えない標的へと向かって海面スレスレを飛び始めた。

 

16機のP-1から放たれた24式空対艦誘導弾(ASM-2C) 計128発はシ連艦隊へと迷わず向かっていった。

 

決戦の火蓋は落とされた。




愚痴を言わせてください。

先日新型地対艦誘導弾の予算が大幅に上がり,航空機搭載型と艦船搭載型も開発するという事になりましたが,よくもまあ半月でこうも軍事情報がバンバン更新されましたね······

お陰でこの小説の設定との調整が大変です。只でさえ現実と色々違っているのに········

UP-1Bの話も妄想ですので恐らく実際とは違っていると思います。

あと全く違う話で,しかも構想段階なんですけど,日本国召喚のIFで,“日本の転移場所がムーとミリシアルの間だったら”というのを考えています。

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