明らかに急遽建てられた感満載のテントの1つに彼ら·····第24独立特殊任務旅団を率いるサレス・ノイガール大佐が折り畳み式の椅子に座っていた。
彼の椅子にはAK-74········ではなく先程の自衛隊との戦闘で鹵獲した89式5.56mm小銃が立て掛けてあった。
銃床を下にして立て掛けてある89式小銃の銃口を撫でていると,テントの幕が開けられ1人の軍曹が入ってきた。
「大佐。情報が集まりました。先程の
ユラージ司令は離脱していたために難を逃れたものの,誘爆で負傷され,現在治療中とのこと。命に別状は無い模様です。」
「そうか··········司令の命が無事なら安心だ。」
サレスは司令が命に別状が無いことに安堵した。だがそれを軍曹の報告が無慈悲に打ち砕いた。
「多千穂島ですが,司令部施設を破壊され司令官は行方不明とのこと。
築館島は司令官こそ無事でしたが,駐機されていた攻撃ヘリ部隊*1を壊滅されたとのことです。」
「状況は宜しくないな··········」
彼の言葉の通り状況はシ連の宜しくない方向に進んでいる。いつこの島が爆撃されても可笑しくはなかったのだが,日本は行わなかった。
その理由が果たして何なのか彼らには分からなかったが,寧ろ爆撃されなかった事でじわじわと恐怖が増していくのを彼は感じていた。
報告を伝えた軍曹も恐らくそうなのか,顔をしかめていた。
不気味で気まずい空気がテント内に流れていたその時,1発の重い発砲音が彼の鼓膜を襲った。
遅れて発砲時の衝撃による風がテントの裾を捲って侵入してきた。
「なんだ!?」
彼は立ち上がりながら発砲音の正体を探った。答えは直ぐに出た。
(この様な発砲音は·········戦車砲か!?)
明らかに小銃や拳銃の様な軽い音ではなく,体の底に響くぐらいの重い音。
こんな音が出せるのは戦車や自走砲の様な100mm以上の口径を持つごく一部の車両だ。
一応飛鷹島には100mmの滑腔砲を装備する
つまり今の発砲音の正体は自衛隊の
サレスがそう結論つけたと同時に明らかに人の手によってテントが捲りあげられた。
サレスが思わず椅子に立て掛けた89式に手をかけるが,現れたのは周辺を警戒していた一等兵だった。
「大佐!! 2時方向に自衛隊の装甲車両を確認!! 空砲を放って離脱した模様!!」
「空砲だと!? 奴ら何をしに······」
サレスは自衛隊側の行動が読めなくて困惑したが,困惑する暇など無いと知らせるように,再び重い発砲音が鼓膜を強く刺激した。
発砲音によって現実に引き戻されたサレスは指示を仰いでいる一等兵と軍曹に向けて,
「部隊は動かすな!! 最低限の反撃しつつ現状を維持しろ!! 敵車両に対して
そう言いきった。
サレスの判断は正しかった。彼の脳内には数時間前の戦闘の光景がハッキリと映し出されていた。
敵味方入り乱れる乱戦。あの状態になれば,敵味方双方にそれ相応の被害が出る。
それは彼や隊員達が望んでいない戦い方だ。さっきはあっちの手の内だったが,今度は我々の手の内に納めてやる。
サレスには無意識の内にそんな願望を抱いていた。
だがサレスは知らなかった。既に
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第24独立特殊任務旅団と自衛隊の間で多くの銃弾が交わっている頃,海東ら60名程の特殊作戦群隊員と10名程の自衛隊の隊員達は飛鷹島空港を見下ろせる高台に陣取っていた。
「しかしこんな絶好の高台を抑えていないなんて,シ連軍って馬鹿しかいないんですか?」
「そう言って油断していると,逆襲を食らうぞ。まあそれが出来るか分からないけど。」
シ連軍をあからさまに馬鹿にする隊員を海東が注意したが,その言葉にはシ連軍への侮辱が混じっていた。
海東は今現在も自動小銃の発砲音が聞こえる森林の方向を向いた。
あの暗い森で戦闘の指揮をとっているのは魚島敬次3佐だ。
今回の作戦立案時に魚島は敵司令部への
さっきの海藤との一対一の話が原因なのかは分からないが,自ら戦場へと向かおうとした彼を海藤は指揮官へと任命した。
「今のところは計画通り。魚島君が計画通りやってのけることを期待するよ。」
海東が魚島に重い期待をかけている脇で,海藤の副官でもある高崎が,ある人物と話していた。
その人物は航空自衛隊の整備員が着ているグレーのデジタル迷彩が印刷された作業着を見に纏っていた。
「それで妙高院君だっけ? 抜き道を知っているのだろ?」
「院が余計です。確実な抜け道を知っています。通るのが大変ですけど,
「
高崎の急かす言葉にこの場で唯一の航空自衛隊隊員 妙高恵也は“ついてきてください”と一言行って山の方へと向かった。
枯れ草を掻き分けながら進む妙高に高崎以下30名が小鴨のように列をなしてついていった。
列が完全に見えなくなると,海藤は歩いて高台の先に向かった。
首から下げている双眼鏡を手にとって,飛鷹島空港を隅々まで見つめた。
配備されていた戦闘機が全て出撃した空港には
「不気味な暗い静かだけど,そっちの方が楽だ。
「勿論出来てます。ですけどこれ
「車両以外射撃不能*2な
「まあそういうことなら·········それと滑走路は
「ああ,滑走路を破壊されたらこっちが困るからね。」
海藤がそう言いつけたのを確認して,橋川という名の隊員は
自らの目で照準器を覗き,標的の歩兵戦闘車を確実に捉えた。
「目標は歩兵戦闘車··········
トリガーを引くと後方に燃料ガスを噴射しながら,砲弾が射出された。
放たれた84mmの対戦車榴弾がエプロンに止まっている
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時を少し戻して,飛鷹島空港の建物に
彼は今も痛む腰を右手で擦すっていた。彼の状態を察したのか,隊員の1人が折り畳み式の椅子を差し出した。
レアルはそれを受け取って展開して,座ると黒い生地で覆われている背もたれに寄りかかった。
背中を背もたれに寄りかけて休んでいると,飛鷹島司令のロイザム・ウルザールス少将が近づいてきた。
階級が上でも下でも対等に接する為に,隊員から好かれている彼はレアルと視線を合わせるかの様に自らも椅子に座った。
「攻撃ヘリに同乗して来るとは········私だったら耐えられませんな。」
「私も二度と乗りたくないですね。それでこの島の様子はどうですか?」
レアルの苦労に同情したロイザムは,彼の質問に真剣な表情をした。
「どうやら先程動きがあったようです。サレスは無闇には攻撃せずに現状維持の体制を取ったらしいです。」
「ここで動きましたか·········島への爆撃とほぼ同時刻に動き出したということは動揺で動きを封じようとしたのでしょうか?
もしくはそれとも何か狙いがあって行ったのか?」
レアルがそう言った刹那滑走路方向の窓から光が差し込んだ。光に遅れて爆音と衝撃波が建物を包んだ。
レアルらは咄嗟に目を隠して光から目を保護した。光が落ち着くと,音と光の発信源を見た。
そこには······
「BMD-4が!!」
「まさか!?」
空港周辺を警戒していた筈の歩兵戦闘車 BMD-4が大破した姿で彼らの目に写った。
車体はぐにゃぐにゃになり,履帯はハズレ,砲身は折れ曲がっていた。
先程まで動いていた歩兵戦闘車はただの残骸へと化したのだ。
彼らが驚愕している中,レアルは窓を開けて外にいる兵達に指示を出した。
「急いで消火しろ!! 機体に誘爆させるな!!」
レアルは指示を出している中,滑走路へと
正確には滑走路上で榴弾が爆発して,破片が滑走路上に撒き散るのを。
あれでは滑走路は使えない。あの状態で着陸すればタイヤがパンクするのが目に見えている。
片付けるのは10分ぐらいで済むだろう。だが今の状況では10分はとても長く感じる時間だった。
まだ上を飛んでいる航空隊から着陸の言葉は入っていないが,現にいつ帰ってくるか分からない。
········そもそも落ちていなければの話ではあるが。
BMD-4から漏れでたディーゼル燃料に引火して激しく燃える炎に隊員が鹵獲した航空自衛隊の破壊機救難消防車を操作して消火剤をかけていた。
本来の使い方では無いのだが,それでもやらないよりはマシの理論で消化を続けた。
ロイザムも大声を出して指示を出し,隊員らも通信機等を使って各所と連絡を行っていた。
とその時。レアルらは後ろの方から爆発音がしたのを聞いた。その音は小さく,幾重に障害物を挟んだ先で爆発したのだろうがその爆発した地点は明らかに建物内だった。
「まさか奴らこれを狙って!!」
レアルが咄嗟に叫ぶと同時にロイザムがドアの封鎖を命じた。
ドアの一番近くにいた隊員が勢いよくドアを閉めた。鍵を閉め,折り畳み式テーブルや折り畳み式椅子等の部屋にあったものを使って急造のバリケードを作り上げた。
こんな雑なバリケード突破されるのは間違いないのだが,それでも時間は稼げるだろうと彼らは見込んでいた。
重厚な足音が連なって近づいてくる。音源は徐々に近くなってきて,ドアの前で止まった。
レアルは本能的にもうダメだと判断して窓から飛び出そうとしたが,そこで彼は見てしまった。
エプロン上で手を上げて降参しているシ連兵とM4カービンを向けている自衛隊員の姿を。
「幾らなんでも······」
レアルがそう言ったと同時に自衛隊が仕掛けた手榴弾で扉が爆発した。
爆風でレアルは窓枠に頭をぶつけ,そのまま体を窓枠に乗せる形で倒れ込んだ。
意識は辛うじてあったが,視界はぶつかった衝撃でボンヤリしていた。
そんなレアルを特戦群隊員は無理やり引き剥がして,何処から持ってきたのか分からないが,手錠で拘束した。
「司令部確保!!」
隊員の1人がそう宣言した。特殊部隊としての常識を叩き込まれた
レアルは拘束されながらも周囲を見回した。先程の爆発でドアは上下真っ二つに裂かれ,接続していた金具と共に残骸として床に散らばっていた。
扉の前に置かれていたテーブルや椅子も周辺に転がっており,その中で自分やロイザムら司令部要員が拘束されているのだと知った。
そんな彼に話し声が聞こえてきた。
「いやぁ。まさか抜け道が防空壕とは,我々も見落としてました。」
「ここは旧軍時から重要拠点でしたから,こういう設備は各所にあったらしいですよ。*3まあ半分は壊されたらしいですけどね。」
レアルは1人だけ違う格好をした隊員とトップと思われる人物が話しているのを見ていた。
恐らくシ連軍人には日本語が分からないと判断して話しているのだろうが,日本語が理解出来るレアルは会話の内容を理解していた。
「空港制圧が思ったより早く完了しそうだな。山下,本隊に信号弾を撃ってくれ。
本隊は
山下と呼ばれた隊員が窓を開けて,
夜でも見易い様に白い煙を纏わせながら,撃ち上がった発光弾が白い光をチカチカと発光させた。
昼間でも目立つ発光弾は暗い夜空によってより一層輝いた。
山下が信号拳銃を終いながら,戻っていくのを見ていたレアルは口を開いた。
「その紋章は········どこの部隊だ?」
拘束した司令部の1人がいきなり日本語を話したことに,訓練を受けた彼らですら驚き銃を構えようとするが,高崎が止めてレアルの元へと歩を進めた。
「まさか日本語が話せるとは······私は陸上自衛隊の高崎3佐だ。」
「3佐ということは小佐か。私はレアル・スグワーク中佐だ。
1つ頼みがある。」
「“解放してくれ”とかは無しだからな。」
高崎は念を押すように言ったが,“そんな馬鹿げた物ではない”と言った。
「私事で申し訳ないが·······私にはウラジオストクに家族がいる。家族の元には帰れるのか。それだけを聞きたい。」
レアルの表情は真剣だった。高崎にも1歳の息子がいるために,彼の心境は充分理解できる。
だが現在は任務中。私事は禁句だ。それを理解していた高崎はレアルの目線に合わせる様に体を下げた。
「今すぐとは行かないが,ここは日本だ。ちゃんと生きて返してくれるだろうよ。」
「そうか········」
レアルは高崎の返事に安堵した様な表情をした。それから間もなく高崎は最低限の兵士を残して何処かへ行ってしまった。
自衛隊員に起こされて壁に寄りかかっていたレアルはふとウラジオストクに残している年下の妻と5歳の娘を思った。
(暫くは会えないが,帰ったら満面の笑顔を見せてくれよ······)
なんか最近UAの数が好調ぽい? “継続は力なり”なんでしょうかね?
あと久々にとある魔術の禁書目録の単行本呼んだので,それっぽい書き方をしました?
やっぱり鎌池先生の語学力凄すぎる。