New Japan Fleet   作:YUKANE

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Episode.4 海の刺客

第2機動部隊が不明潜水艦を探知した頃,この艦隊の母港でもある舞鶴基地に併設されている自衛隊舞鶴病院の一部屋にある人物が入院していた。

その人物は本を読んでいると病室の扉が開き,御盆に切られたリンゴを乗せた20代位の少女が入って来た。

 

「お父さ~ん。リンゴ切ってきたよ~。」

「おお! 美空ありがとう!」

 

彼の名は石見惣一海将。そう第2機動部隊の本来の司令である。彼は約3週間前に自家用車の日産・ブルーバード U14型系 2.0SSSリミテッドを運転中に霧によってハンドル操作を誤り,ガードレールに激突。左足に全治1ヶ月の骨折を負ってしまったのである。

彼の事を「お父さ~ん」と言ったのは惣一の娘の石見美空。今は嫁いでいる為に名字は別になっているも,時間があればこうして見舞いに来てるのである。

 

「いや~本当にありがとう。お父さん美空が来ると元気が1000倍になるよ!」

「もう~。お父さん! それは言い過ぎw あ,皆さんもこれ食べますか?」

 

仲睦まじく会話をする家族二人に周りの看護婦や同じ部屋の患者も微笑ましく見守っている。皿に乗せられたリンゴに手を伸ばし,食べようとした瞬間彼の自衛官の勘が何かを察知した。

 

「・・・・・なんだ?」

「どうしたのお父さん?」

「何か・・嫌な予感がする。美空! 車を出してくれ!」

「・・・・はあ!?」

 

美空が呆れたように言葉を発するうちに惣一はリンゴを一飲みにし,ベットの側に立て掛けてあった松葉杖を持って今までの様子が嘘のように立ち上がった。

 

「お,お父さん! 本当に行く気なの!?」

「勿論だ! 美空も手伝ってくれ!」

「石見さん! 先生から今は安静にって言われてますよ!」

「今は安静にしてられないんだよ! 悪いけど邪魔しないでもらえる!」

「お,おい! 早く石見さんを止めろ!」

 

医者の言うことも聞かずに出ようとする惣一を看護婦や同室の患者達が急いで取り押さえる。しかし取り押さえても惣一は落ち着かずに暴れだした。

 

「は,話してくれ! 俺は行かなきゃいけn」

 

そんな惣一の顔の間近を果物ナイフが物凄い速度で通過して,窓際に置いてあった花瓶に刺してあるラナンキュラスの花柄を綺麗に切り裂いた。

全員がナイフが飛んできた方を見るとどす黒いオーラを纏って,不気味な笑顔を浮かべている美空がいた。

 

「き・ざ・む・よ。」

「・・・・・・・・はい。」

 

あんな不気味な笑顔でそんな事を言われたら誰であっても黙るしかない。

惣一は抵抗を止め持っていた松葉杖を置いてベットの上に戻り,上から毛布を被ってさっきの状態へと戻った。そんな父親の姿を見た美空はどす黒いオーラを消して,ドアを開けた。

 

「じゃあお父さん 帰るね!」

「あ,ああ。気をつけて帰るんだよ。」

 

美空は笑顔でドアを閉める。そして美空は先程の笑顔が消え,まるで何かを察してしまった様な顔でドアに寄りかかった。

余談だが美空のナイフで斬られたラナンキュラスの花言葉は「幸福」である。

 

「・・・・大丈夫だよね。音弥。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

桐島がCICに到着すると室内は潜水艦が現れた事もあって,落ち着きを失っていた。

しかし彼らが落ち着きを失っている最大の理由は「初めての実戦」だという事だ。

 

「・・遂に来たのか。」

「何だか不思議な気分だな。」

「俺達訓練通りに出来るのかな・・」

 

彼らは興奮というより不安の方が大きかった。もし自分が何かしてしまったら,もしミスを犯してしまったのならこの船(あまぎ)はどうなってしまうのかという恐怖に怯えていたのだった。

 

そんな彼らに声をかけたのは「人間コンピュータ」こと宇津木だった。

 

「君達は劇の練習とかで先生に「練習は本番。本番は練習と思ってやれ。」と言われなかったか?」

 

彼からの言葉に隊員達は顔を見合わせながら首をかしげた。

 

「今から始まる事態はいつもの訓練だと思え! もし誰かがミスをしてもそのミスは必ず誰かが直してくれる。だから! いつも通りに自分の成すべき事を行え!」

 

宇津木の言葉を受けて隊員達は勢いを取り戻し,「いつでもかかってこい!」状態へと変わった。

そんな様子を見た桐島は微笑んで囁いた。

 

「なかなかやるな。あいつも。」

 

その後直ぐに顔をいつもの冷静顔に戻し,CICを任せていた水上の元へと向かう。

水上は入ってくる情報を一つ一つ確認していて,余裕無いようにも見える。

 

「艦長! お戻りになられましたか!」

「船務長。潜水艦()について何か分かったか?」

「艦種は887型(キロ級)と思われ,全4隻で艦隊針路上約40kmに展開しています。」

「キロ級か・・971型(アクラ級)ではないのだろう?」

「それは確実です。」

「なら良かった。」

 

桐島がわざわざ聞いた理由は「アクラ級が原子力潜水艦」だからだ。

仮に敵が攻撃して,我々が反撃して撃沈したとする。もし相手が原子力潜水艦なら当たり場所が悪ければそこから放射線が海に広がり(汚染され)深刻な問題へとなってしまうからだ。

そうなって仕舞えば例え朱雀列島を取り返しても日本いや世界中から非難を浴びる事になってしまうのだ。

 

それだけは絶対に避けたい桐島はわざわざ聞いて確認したのだ。

 

「・・・最初は潜水艦が相手か。」

「会議の通りだったな。」

「艦隊に対潜警戒は出したんだろうな?」

「はい。陣形はどうしますか?」

「艦隊を輪形陣から単縦陣に変更しろ! 各艦に通達しろ。」

「了解しました!」

 

約10分後「DDG-175 みょうこう」を先頭に11隻が一直線に並び,空にはあまぎ・かつらぎ・ひゅうが・あそ・たかちほの各艦から発艦したSH-60JとKが哨戒についていた。

 

「奴らがもし魚雷(シクヴァル)を持っていたら射程はおよそ15km。後たった5kmで射程圏内にへと入る。」

 

水上の言葉の通り,シ連の潜水艦に装備されているVA-111(シクヴァル)は射程は最大15km程だが200ノット(370km)の高速で迫って来るために,通常魚雷の感覚で行ってしまえば易々と撃沈されてしまう。

 

『艦橋よりCIC。桐島艦長応答願います。』

「桐島だ。」

『艦長。ヘッドセットをお願いします。』

「分かった。」

 

桐島は通信機を置いてヘッドセットを掛けて通信を行った。

 

「副長。わざわざヘッドセットとは,何か大事な話か?」

『ええ,大事な話ですよ。』

「・・ちょうど俺も話そうと思ってたさ。」

 

こういう時は息が合う艦橋の長瀬とCICの桐島は真剣な顔をして話続けた。

 

『艦長は奴等が射ってくると思いますか?』

「・・・あり得ない(・・・・・)だろうな。」

『やはりですか。』

「ああ,おそらく奴等が狙っているのは・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「我々からの攻撃(・・)だ。」』

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

第2機動部隊から約20km地点の海中270m付近に鮫こと第17潜水艦旅団所属キロ級潜水艦

「B-187 コムソモリスク・ナ・アムーレ」

「B-190 クラスノカメンスク」

「B-274 ペトロパブロフスク・カムチャツキー」

「B-603 ヴォルホフ」

4隻が鶴が羽を広げた形の鶴翼陣に展開していた。

 

その内の1隻「B-190 クラスノカメンスク」に乗艦している第17潜水艦旅団司令 バレル・チェルベア大佐はソナー手の傍にいてじっと画面を見つめていた。

長い時間見つめている為にソナー手は仕事がやりずらそうに見える。

 

「動きはまだですか?」

「ああ,奴等は来てない。」

 

艦長と第2機動部隊の様子について普通に話してるが,実はこの時艦長が心は揺らいでいた。

 

(第2機動部隊が真上を通過するまであと20分。それまでにお前らが射たないと我々の負けだ。)

 

あくまでも第17潜水艦旅団の目的は“第2機動部隊からの攻撃を受ける“事である。

シ連からではなく,日本側から攻撃したとなるとそれは日本国憲法に違反する行為となって,国内を混乱させる事が可能で,更にシ連側も攻撃の大義名分を掲げる事が出来る為にこの任務は重要だった。

 

しかしもし第2機動部隊が攻撃せずに通過したとなると,それは作戦の失敗を意味しており,シ連の大義名分は全て消し飛ぶ事となる。

 

それだけは避けたいバレルは行動に移った。

 

「艦長。魚雷発射管を開いてくれ。」

「・・・・・は?」

「奴等に脅しをかける。その為には我々が狙える準備が整っていると宣言しなければいけないのだ。」

「では。 1・2番魚雷発射管注水!」

『注水開始!』

 

艦長が命じると共にキロ級の1・2番発射管に注水が始まり,終わると魚雷の入ってない(・・・・・)魚雷発射管の外扉を開口した。

 

「しかし。魚雷の入ってない発射管を開けるとは思いもしませんでしたよ。」

「そりゃそうだ。元々発射管は射つためにあるのだから。」

「これで相手は動きますかね?」

「動くさ。銃の引き金に手を当てたのに動かない人はいないだろ?」

 

しかし,第2機動部隊が動く前に動く物がいた。同じ第17潜水艦旅団所属の「B-603 ヴォルホフ」だ。

 

「ヴォルホフ 魚雷発射管開口!」

「ヴォルホフもかこれで奴等は動かざる終えない。」

「ええ,・・・・・・!? ヴォルホフ浮上して行きます!」

「な!? 何を考えているんだ! VLF用意!」

「きゅ,急に言われても無理ですよ!」

 

VLFとは潜水艦が海中で通信を行う際に使う方法だ。しかしそのアンテナは非常に長い紐の様な形をしている為に咄嗟の通信は不能で,また他艦の近くでやってしまうとそのアンテナがスクリューに絡まって同士討ちをしてしまう可能性がある。

 

そんな方法で米潜を損傷させたロシアのサソリがいたという事は置いといて,海中ではそのVLFとELF以外の通信方法がほとんどないのだ。

 

そしてヴォルホフはバレルにとって最悪の流れを引き寄せてしまう。

 

「・・!? ヴォ,ヴォルホフ魚雷発射しました!?」

「な,なんてこった・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風は我々に吹いているようだな。」

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