「ん?········」
気を失っていたシ連陸軍第3軍司令 ユラージ・チュイコフ中将は目を覚ました。
瞼を広げて視界が開けると,視線の先には
ユラージがチラッと横を見ると,見るからに気弱そうな兵士が折り畳み式の椅子に座っているのが見えた。
ユラージは彼の事を知っていた。余りに気が弱すぎた為に部隊内で有名になっていたからだ。
「ユラージ司令大丈夫ですか!?」
「あぁ,私は大丈夫だ。君こそ大丈夫かね?」
「私は身体的にも精神的にも無事です。ただ·······戦況は宜しくないです。」
その発言にユラージはただ“そうか”と言った。
「敵の部隊は分かったか?」
「おおよそですが,水陸機動団かと。」
「水陸機動団·········確か日本版海兵隊とかだったな。」
まるで観念したかのような表情を浮かべた刹那,連続した銃声が響いた。
甲高い銃声に気弱な兵士はビクンと驚いて立ち上がった。
「まさかもう!?」
気弱な兵士が言い終わる前に銃声の正体はテント内へと自ら入ってきた。
「
20式小銃を構えながら,ロシア語でそう言ったのは第2水陸機動連隊所属の二等陸尉だった。
気弱な兵士はその声に従う形で手を上げた。その様子を確認した二等陸尉は寝ているユラージへと目を向けた。
「そしてこっちは·····中将!? ということは·········!?」
二等陸尉が日本語で話しているために,ユラージは内容は理解出来なかったが,驚いているいうことだけは分かった。
自衛隊員は急いでテントから頭だけを出して,
「連隊長!! 敵の指揮官を発見しました!!」
「何だと!? 案内しろ!!」
外から聞こえる足音が徐々に近くなっていき,テントが勢いよく開けられる。
そこから中に入ってきた人物はユラージの姿を見ると,目を見開いた。
「確かにこれは指揮官のユラージだ·······爆撃で死んだと思っていたが,まさか生きているとは。
谷川よくやったぞ!!」
連隊長は予想以上の獲物を確保した事に隠しきれない笑みを顔に浮かべていた。
とその時。何か嫌な予感を察したのか,手錠がかけられようとしていた気弱な兵士が声を荒げた。
「
気弱な兵士は二等陸尉こと谷川が20式小銃を向けたことで再び小さな悲鳴と共に手を上げた。
谷川は振り返って,
「連隊長。どうやら敵の司令官は負傷されておられるようです。」
「その様だな。結構な怪我をしているようだ。」
連隊長はユラージの各所に巻かれている包帯を見て,薄々と感ずいていたが,確信へと変わった。
連隊長はテントから顔を出して,
「山本,本部へ連絡してくれ,“敵の指揮官を確保した”と。それと“敵指揮官は負傷しているようだ。「LST-4002 しもきた」に急患の連絡をお願いする”とな。」
外で待機していた山本と呼ばれた通信士は,背中に背負っていた
それを見ていた連隊長は谷川を呼ぶと,ある事を伝えた。谷川は頷くとユラージの元へ向かった。
「
ロシア語で話しかけられたユラージはその内容に安心すると,そのまま自衛隊を身を委ねる事を決めたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朱雀列島第2の島。飛鷹島の北東には列島内唯一の小中一貫校が存在している。
本来なら中心である蘭島に置かれる筈だった学校は建てられる土地が確保できず,やむを得ず飛鷹島へと建築されていた。
既に日は東から登り始め,一週間の始まりの月曜日を迎えており,学校にも生徒達が来る筈だったのだが········今はそんな事言ってられる余裕はなかった。
2日前に突如として上陸したシ連軍によって島民らは,強制的に学校の体育館に閉じ込められていた。
シ連軍の占領・拘束・収容。そしてこの状況がいつ終わるのか。
答えの見えない不安に島民らは夜も眠れぬ思いだった。
そして数時間前の爆発音がより一層彼らの神経を尖らせていた。
“シ連兵に殺されるのでは”、“体育館ごと燃やされるのではないのか”。
島民らの過度な恐怖心は時間が経つにつれて酷くなっていった。
そしてその張り詰めた緊張の糸を切る様に銃声が鳴り響いた。
乾いた銃声が何回も鼓膜を刺激する。銃声は島民らの神経に何倍も増強されて響き渡る。
「
外からシ連兵の叫び声と銃声が響く。内容は理解できないが,銃声がすぐ近くで鳴った事で恐怖心は最上限へと達した。
鉄製のドアが少しずつ開かれる。鉄と鉄が擦れる音を立てて,ドアは開かれた。
島民らが恐怖の目で見つめるなか,ドアから入ってきたのはシ連兵ではなかった。
黄緑や茶色や黒を使った迷彩に塗装された防弾チョッキ3型を身に纏い,同じような迷彩服と88式鉄帽を装着した男達だった。
彼らはその姿を見た瞬間,恐怖心は消え去った。
「安心してください。我々は自衛隊です!!」
そしてかけられたこの言葉で彼らは確信した。
“自分たちは助かった”と。
「やっと来てくれたぞぉ!!」
「助かった! 助かったんだぁ!!」
「やってくれると思ったぜ自衛隊さん!!」
島民らは解放されたという解放感に今まで溜まっていた感情を吐き出すように声を上げ始めた。
自衛隊員こと特戦群隊員もそれを予想していたのか,冷静に落ち着かせようとした。
「皆さん落ち着いてください! まだシ連兵が周囲にいるかもしれませんので。
それとシ連軍が捨てた武器や爆薬があるかもしれないので,確認が済むまで外にも出ないでください!!」
「も,もしかしてさっきの爆発もお前達か!?」
「爆発?······ああ,先程のは空港に立て籠っていたシ連軍に撃ったものですのでご安心を!!」
自衛隊員のその発言に島民らは“そういうことかぁ”・“心配して損した”と次々とぼやきだした。
とその時,島民らの中にいた1人の老人が特戦群隊員の元へと向かった。
その老人は隊員の前に来ると口を開いた。
「なあ自衛隊さん。ちょっといいか?」
老人の口調から何かを察したのか,近くにいた男性が老人に声をかけた。
「ちょちょっと待ちなって,寛治じいさん」
「なあに別に愚痴を言いに来た訳ではねぇ。自衛隊さんよぉ」
寛治と呼ばれた老人は,止めようとした男性にそういうと再び特戦群隊員に向き合った。
特戦群隊員は落ち着きながら次に出てくる言葉を待ち構えたが,彼の口から出てきたのは意外な言葉だった。
「取り敢えず旨いメシを食わせてくれねぇか?
「旨いメシですか········生憎持ち合わせは少ないので,あなた方の家のキッチンと冷蔵庫を使わせて貰えば作れるかも知れませんね。」
「そうかそうかぁ。でも冷蔵庫の中のもの腐っちゃてるかも知れねえから,まずは食材取るところからだなぁ!」
そういうと寛治は豪快に笑いだした。今までの鬱憤を晴らすかのような笑い声に釣られて周りの島民らや特戦群隊員達も笑いだした。
飛鷹島の一角に戦場とはかけはなれた笑い声が響き渡った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
飛鷹島で笑い声が響き渡った頃,多千穂島では未だに銃弾が激しく飛び交っていた。
自衛隊の89式小銃の5.56×45mm NATO弾や中国軍の03式自動歩槍の5.8×42mm弾とシ連軍のAN-94の5.45×39mm弾が幾度となくすれ違う。
大半の銃弾は大気を切り裂くか民家の壁に着弾していたが,兵士に命中した弾は赤い鮮血と共に体を貫き,体中に痛みを拡散させた。
それが敵味方双方に何度も発生しており,状況は膠着状態に陥っていた。
膠着の原因はシ連軍が立て籠っている施設 朱雀警察署の入口にトラックや自動車等をかき集めて急造のバリケードを作っていたからだ。
だがそれよりもバリケード前に展開しているシ連軍戦車 T-80Uの方が厄介だった。
当初は6両もいたT-80Uは
主砲こそ撃ってないものの,存在自体が驚異となる戦車相手に連隊長の角谷は苛立っていた。
「埒が明かん!! 誰か
角谷がそう呼び掛け,自衛隊員が
車体上部の砲塔両脇に取り付けられた
戦車等の装甲車両を破壊する為に作られ,装甲を突き破る為のノイマン効果を発生させる特殊な形状をした2発の弾頭が有線
とその時,T-80Uに搭載されていた
防御弾はHJ-8に着弾する前に爆発して,破片を下へと撒き散らした。
撒き散らした破片がHJ-8の本体に命中し,傷つける。傷つけられた事で弾頭は内部の精密機器を乱され,T-80Uに着弾する前に爆発した。
T-80Uの20m先で破裂したHJ-8はうっすらと明るくなり始めた空を,赤い光球で更に明るく染めた。
そんな明るく染まった空間を切り裂くように,1発の
この攻撃を行ったのは言うまでもないだろう。第1水陸機動連隊だ。
「持ってくるように言って正解だったな。邪魔者は消えた! 迫撃砲発射!!」
角谷の指示に部隊の後方に展開していた水陸機動団特科連隊と第1水陸機動連隊の120mm迫撃砲RTやL16 81mm迫撃砲が一斉に火を吹く。
高く弧を描いて飛ぶ迫撃砲の砲弾が甲高い独特な音を立てて落下し,着弾する。
砲弾が爆発し急造のバリケードは簡単に破壊された。
03式の30mm機関砲も火を吹き,シ連兵に向けて榴弾を何発も発射し,バリケード付近のシ連兵を1人残らず殺害した。
「第3中隊突入!!」
バリケードの破口から何人もの
ガラス製の扉を割って,建物内へと侵入する第3中隊の隊員をAAV-7のキューポラから見つめていた。
とその時角谷に声がかけられた。
「どうやら戦況は決したようですね。」
話しかけたのは,日本語が話せる中国軍兵士だった。
角谷は今話している日本語が話せる中国兵が日本語専門の翻訳だということを既に理解していた。
「どうやらそのようだな。」
角谷はそう返したが,実を言うと彼は
中国が尖閣諸島や南シナ海で行っている事について,日本でどうかと聞くと恐らく10人中9人が良くない感情を抱いているだろう*1。
角谷もそう思っている1人だ。彼が思っている偏見と,現在彼らが行っている行動を重ね合わせると,何か良からぬ事を考えているのではないかと考えるのも無理はないだろう。
その疑念が今でも晴らすことが出来なかった角谷は,こちらの埒も晴らそうと思いきった。
「今聞く話じゃないかもだが,敢えて言わせてくれ。お前達はどさくさに紛れてこの列島を奪う気じゃないのか?」
角谷の発言に翻訳は面食らうかと思っていたが,返ってきた言葉は想定外のものだった。
「それは違いますね。我々にこの列島を占領しろという命令受けていません。これは確実に言えます。」
角谷は翻訳を驚かす筈が,寧ろ自分の方が驚かされた。角谷はその核心を得るために更に踏み込んだ。
「本当か? 俺には信じられないが。」
「もしそれでも信じられないというなら我々の司令官に会われた方が宜しいかと。」
翻訳の言葉に角谷はニヤリとした。司令官なら占領しないという言葉の確実な裏付けを得られるからだ。
それに中国軍の司令官には個人的に会ってみたいと思っていたからだ。
「ではそうさせてもらおう。そろそろ施設の制圧も終わりそうだしな。」
角谷がそう言った数分後,多千穂島のシ連軍は日中合同軍に降伏した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
所変わって東京都千代田区の首相官邸。日を跨いで振り続けた雨は既に上がり,太陽の光が官邸の外見を再び照らし始めた。
首相官邸の地階の危機管理センターには総理大臣の鈴村隆治以下内閣のメンバーが既に2日間程籠ってこの事態の対処に当たっていた。
2日間も籠りっきりでそろそろ皆がウンザリし出していたが,現在に限ってはそれは綺麗サッパリ消えていた。
理由は単純。第2機動部隊から朗報が入ってきたからだ。
『第2機動部隊より首相官邸へ。別動隊が降伏したシ連艦隊との合流に成功したとのこと。
それと数分前に多千穂島の奪還に成功したとの情報が入ってきました。
これで朱雀列島は完全奪還という形になります。
死傷者についてですが,海自は「DD-115 ながなみ」とパイロット含め30名。陸自は15名の総数45名との事です。』
「分かりました。捕虜はジュネーブ条約に従って扱ってください。
それと戦死者については手厚く弔って上げるようにお願いします。」
『了解しました。』
そう言って通信は切られた。鈴村は直ぐ様官房長官 大洋洋司を向くと,指示を出した。
「官房長官。会見の準備を。」
「国民に伝えるのですね。」
大洋の質問に鈴村は首を縦にふった。
「この戦いの結末を全国民·····いえ全世界が知りたがっているでしょう。」
ふと最初の話を見返したら,山のように矛盾点見つけたので色々変更しました。
なんで実質囮の航空隊にF-15JやAH-64Dを入れるんだよ·······と思ったのでF-4EJとAH-1Sに変更しました。
まあファントムとコブラ出せたのでこれはこれでOKですかね?
見返して思ったのは昔の自分を恨みたい。こんな作品 火葬戦記確定ですね。