それと今回最後に急展開起きますので,それを理解しておいてください。
朱雀列島3番目の島 多千穂島。数日前からシ連軍によって占領されていたが,自衛隊の第1水陸機動連隊及び中国軍の共同攻撃で今日の午前6時頃に奪還に成功していた。
既に日は高く登り,多千穂島へと光を照らしていた。その光は解放された島民達にとってまるで希望の光の様に感じられ,年配者は手を合わせて祈りを捧げる程だった。
解放された住民達が「LST-4001 おおすみ」から
翻訳の中国兵に従ってやって来たのは多千穂島唯一の公園だった。
災害時の避難場所を兼ねている為に無駄に広い敷地の端に檜で作られた東屋がポツンと立っていた。
本来は島民らが雑談や休憩に使われる東屋に,1人の軍人が座っていた。
「角谷1佐。こちらが隊長の
翻訳の中国兵が手のひらを上にして,角谷の視線を向けながらそう紹介した。
角谷は迷わず手を差し出した。
「始めまして。陸上自衛隊水陸機動団第1水陸機動連隊連隊長の角谷仁也一佐だ。」
翻訳の中国兵が
その言葉を聞いた
「ハジメマシテ。
後半の内容は理解できなかったが,おおよそ予想できた。
「お座りください。立ち話も何でしょうから。」
翻訳の中国兵に促され,角谷は檜製の椅子に座った。椅子に座った
角谷もほぼ無意識の内に真剣な表情になる。先に口を開いたのは角谷だった。
「時間もありませんので,単刀直入に言いましょう。あなた方中国軍は朱雀列島を占領する気はあるのか? それともないのか教えて頂きたい。
出来れば理由つきでお願いしたい。」
角谷の発言を翻訳の中国兵が中国語に変換して
そして
「“我々中国軍及び我が政府は朱雀列島をあなた方から奪う気は全くありません”と言ってます。
“理由としては見て分かる通りこの列島は我が国からでは他国の領地・領空・領海を通らなければ到達できない。
確かに戦略的価値は高いかもしれないが,それよりも補給の維持の難しさというデメリットがメリットを上回る”と言っています。」
「なるほど········つまりあなた方は朱雀列島を奪う気はないと信じて宜しいですね。」
角谷の言葉を翻訳の中国兵は再び中国語へと変換して
翻訳の中国兵は
「“そのとおりです”との事ですよ。」
角谷はその言葉を内心信じてはいなかったが,ここで粘っても何も変わらないと分かっていた為に信じていることにした。
とそう考えていた角谷に翻訳の中国兵から声がかけられた。
「“しかしあなたは若いですね。幾つですか?”だそうです。」
自衛隊内でもよく言われる言葉を中国軍にも言われた事に角谷は苦笑いしながら,
「10月で32歳だ。」
そう言った。
翻訳の中国兵も“おぉ····”とびっくりしつつ
「“私の10も下で連隊長ですから,あなたはエリート路線間違いなしでしょう。いつの日か幕僚長になってしまうのでは?”だそうですよ。」
「よく言われますよ。まあそこまで行く気はさらさら無いですが。」
角谷は面倒くさそうにそう言った。ふと右腕の耐水腕時計を見ると,時計の長針は10の数字を刺そうしていた。
「おっとそろそろ10時ですね。私はこの後上の方に戦況報告をしなければいけませんのでここで失礼させて頂きます。」
角谷の言葉を翻訳の中国兵が中国語に,
「“私も上に報告するので,我々もここで失礼させて頂きます。
またいつかあなたと会いましょう。その時までに私も日本語を覚えておこうと思います。”」
「えぇ,今度会う時が敵同士ではないことを祈ります。」
そう言って角谷と
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サファイアの様な蒼い海が一面に広がる日本海。太陽は厚い雲に隠れているが,アクアマリンの空とサファイアの海が支配するこの海に日本とシ連の艦隊は展開していた。
ただシ連海軍太平洋艦隊は壊滅していた為に実質海上自衛隊第2機動部隊のみが展開している状態だった。
現在シ連艦隊の残存艦隊3隻の周囲には第2機動部隊が展開していた。
第2機動部隊の護衛艦はそれぞれ艦尾から縄をシ連艦艇へと伸ばす準備をしていた。シ連艦艇を舞鶴へと曳航する為だ。
この海域には甲板を
だが船体の損傷が激しく舞鶴までの曳航が不可能と判断され,「DD-117 ふじなみ」から発射された97式魚雷が命中し,海底への一方通行の旅を開始していた。
既に海面に姿を現しているのは艦尾のみになっていた。
そんな艦隊の様子を「DDH-185 あまぎ」艦長 桐島龍樹1等海佐は艦橋脇で眺めていた。
手すりに手を掴んで極寒の海に落ちないように気を付けながら,ただ曳航の準備を見つめていた。
そんな桐島の元に副艦長の長瀬竜也2等海佐がやって来た。
「わざわざここに来なくても準備の様子は見れますよ。それともわざわざ見なければ済まない
「どうなんだろうな? 俺自身も分からないな。」
長瀬の疑問を桐島は曖昧に返した。長瀬はこれ以上聞いても無駄だと判断したのか,追及する事はせずに手すりに身を預けてた。
「俺,司令が病院から帰って来たら艦長辞めるわ。」
唐突な発言に長瀬は目を見開いた。桐島は長瀬が返事を返す前に理由を付け加えた。
「この戦いで分かったさ。俺は戦場にいるんじゃなくて後方から指揮を取る方が似合っているってな。」
「じゃあなんだ。防衛庁でも行くのか?」
「防衛庁はちょっと合わなそうだな。個人的には自衛艦隊司令部がちょうど良さそうだが。」
桐島はそう言って自分の考えを長瀬へと伝えた。桐島の発言を長瀬は何も言わず聞いた。
この2日間の戦いで何かが変わった。2日の間に想定外の事態が何回も起きたこと,自らの考えなんか甘過ぎたと彼は痛感したのだと長瀬は解釈した。
と長瀬はふとあることに気づいた。
「ということは,艦長の後任は俺という事か?」
「どうだろうな? 副艦長かもしれないし,葛城かもしれないし,はたまた関係ない場所から来るかもしれないぞ。」
「まあこの艦隊に入れるなら俺はどの役職でも良いけどな。」
「果たしてそんなので良いのか?」
桐島は長瀬の言葉に疑問を抱いたが,答えは無さそうだと感じた。
桐島は手すりから手を離して,
「俺の考えなんて甘過ぎた。副艦長とのあの説教で教えて貰ったさ。で分かったさ,こんな場所は俺にはあわなかったと。
ここで区切りをつけて,考えをやり直そうと思う。俺はまだ未熟だった。副艦長と再び会えるかどうか分からないけど,もし会う機会があったら,また自分なりの考えを作っておくさ。」
そう長瀬へと宣言した。そして“それから”と前置きして,
「副艦長。俺がいなくなった後のこの艦隊を頼むぞ。」
そう頼み込んだ。長瀬は“ふっ”と微笑した。
「言われずともやりますよ。艦長も自らのアイデンティティを再構築される事を期待してますよ。」
「任しておけ。」
桐島がそう言った時,ちょうど雲に隠れていた太陽が桐島の顔を照らした。照らされた桐島の表情は新しい夢を見つけた子供の様だった。
地球とは全く異なる空間。
その空間の周囲は一切の穢れの無い純白に包まれ,それ以外の不純物は1mmたりとも存在しない。
その空間の一角にある建物が立っていた。
その建造物は白い石造りの柱が幾重にも並び,同じく白い石で作られた屋根には裏側まで細かな装飾が施されていた。
もし我々がこの建物を見たならば,まるでギリシャのアテネ・パルテノン神殿そっくりだと思うだろう。
そんな神殿の内部には同じく石造りの長テーブルと椅子が設置されており,まるで会議場の様になっていた。
そんな場所にポツンと1人の女性が座っていた。
女性は白とピンク色のロリータワンピースを纏っており,白いタイツと黒の革靴をブラブラと揺らしていた。
薄ベージュの髪には星の形をしたアクセサリーをつけ,まるでマネキンの様に細い指には赤や青の宝石がついた指輪が何個もはまっていた。
自分の好きなものをこれでもかと纏ったかのような彼女の前には2つの球体がホログラムで存在していた。
両方とも青い海に大小の大陸がある惑星だったが,大陸の形がどちらも違う為に2つが
片方は3つの大洋と6つの大陸が存在する見覚えのある物だったが,もう片方は
女性は見覚えのある星 地球の外縁を指でなぞる様に動かすと,ホログラムが回転して映っている場所も続いて回りだす。
女性はある一点で指を止めた。彼女が指を止めた場所には
「私の予想通りね。
「悪趣味もいいところだな。サリシャ。」
彼女が独り言の様に言った言葉に後ろからそんな返事が聞こえた。
“サリシャ”と呼ばれた女性は体を石造りの椅子の上で90°回転させると,声の主である女性を見た。
その女性は白い空間とは真逆の黒と青のストライプ模様のTシャツに黒の長袖パーカーを羽織っており,手首にはじゃらじゃらと金属製のチェーンを下げていた。
下半身も短すぎると言っていい程の黒のスカートを履いて,白と青のニーソと朱色のスニーカーを身に付けていた。
声の主を横目に見ながらサリシャはホログラムの方向へと振り返りながら言葉を返した。
「誰かと思ったらミネリスじゃない。あなたがここに自ら来るなんて珍しいわね。明日霰でも降るんじゃない?」
「ここに霰なんて降るわけないだろ。」
ミネリスと呼ばれた女性はふてくされながら,返事をした。ふと
「あれならあいつらを貸して上げてもいいぞ。少しの間ならいなくても何とかなるぞ。」
「辞めておくわ。
そう言うとサリシャはホログラムの2つの星の間に右手を入れた。
そして2つの星の間で指を鳴らした瞬間,2つの星を結ぶかのように細い線が現れた。
光ファイバーの線程に細いその線はただ2つの星の間に孤独に存在していた。
「これが組上がるのは凡そ1年後。そうすれば
さすれば双方の世界が交わり,新たな物語が産まれるわ。」
「新たな物語というか,あんたがやってるのはルリーシェの尻拭いに過ぎないんだけど?」
「尻拭いでもいいじゃん。ルリーシェ本人はこの世界でしっかり実刑を受けているんだから。
それよりももっと重罰を下せばいいのかしら?」
「誰がそんなこと言った?」
サリシャとの会話のキャッチボールの球が逸れまくっている様子にミネリスは溜め息をつくと,180°反転して歩きだした。
「もう帰るの?」
「元々来た理由は暇潰しだからな。それにあんたといると余計に体力を使って疲れそうなのが一番だ。」
サリシャの疑問をそう投げ返したミネリスはこの場をそのまま去っていった。
再び一人きりとなったこの場でサリシャは不気味な程に上機嫌だった。
一定のリズムを刻んで指でテーブルを叩き,鼻歌を歌いながら,
「頼むわね。地球の皆さん方。」
と独り言を言った。
サリシャの行った行動が2つの星の運命が誰にも予想出来ない道へと進むことになるとは,この時地球の全人類は知るよしもなかった。