New Japan Fleet   作:YUKANE

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Episode.6 知り始める人々

第2機動部隊と第17潜水艦旅団が戦闘を行っていた頃。

 

東京都大田区の羽田空港第3滑走路に1機の機体が着陸した。

白い機体に青いライン。エンジンは機体後部に2基設置され,水平尾翼は垂直尾翼の最上部に取り付けられており,会社の社長が乗るようなビジネス機を想像させる。

 

この機体は航空自衛隊所属のU-4多用途支援機。民間のガルフストリームⅣの自衛隊仕様で,主に総理大臣等の移動の際に使用される。

 

そして今回も内閣にとって重要な人物を乗せて沖縄県那覇市 那覇空港から飛んできたのである。

 

U-4は第3滑走路からトーイングカーに誘導されてスポット V1へと向かう。

 

機体の停止位置に着くと機体左前に設置されたドアが開き,機体内蔵のエアステアが自動で展開され,タラップの下には漆黒に塗られたトヨタ・クラウン S22#型が後部ドアを開けて待っていた。

 

U-4のドアが開き,中から40代くらいの中年だがカッコよさを持った男性と,眼鏡をかけまるで秘書のような感じを醸し出している女性が現れた。

 

二人はタラップを降りて,クラウンへと乗り込む。乗り込んだのを確認するとドアが閉められ,クラウンは動き出す。

 

男性の名は安川孝之。鈴村のキーパーソンの一人で外務大臣を勤めている。彼は朱雀列島侵攻の前日 23日に沖縄県に飛び,1月18日に尖閣諸島沖で発生した中国軍艦船による領海侵犯事件の対応を現地調査する予定だった。

しかし,シ連が朱雀列島に侵攻したとの情報を受け急遽U-4で帰還したのだ。

 

「しっかし面倒な事になったもんだ。なんでこんな時期にシ連が朱雀列島に侵攻するなんて。」

「戦いなんて始まるタイミングなんて分かりませんよ。偶然今日だったというだけですよ。」

 

安川に冷静に声をかけたのは外務事務次官の三崎霞。24歳の若さながらその優秀さで外務事務次官へと登り詰めた外務省きってのエリートだ。

 

「君はそうやっていつも変わらないねぇ。」

「私は常にどの様なことにも対応出来る様にしているだけです。」

「固いなぁ~。そんなだとお婿さん貰えないよ。」

「貰えなくても良いですよ。それよりも大臣。早く官邸に報告した方が良いと思われます。」

「それもそうだな。」

 

三崎に促されるがまま安川はスーツのポケットからスマホを取り出し,電話をかける。

宛先は勿論官邸だ。

 

安川が電話をしている最中三崎は,自分の鞄からノートパソコンを取り出し,キーボードを叩いて画面を操作する。

 

「はい・・・・はい・・・・・・分かりました。あと20分位で着くと思います。それでは。

官邸は朱雀列島の事態を電話塔の故障(・・・・・・)と発表する様だ。」

「また強引な手をとりますね。国民にばれたらどうするんでしょうかね。」

「恐らくばれるまでに済まそうという沙汰だろうな。」

「そう簡単にシ連が終わらせてくれると思いませんがね。」

「それはやってみないと分からないさ。」

 

二人を乗せたクラウンは東京の摩天楼(高層ビル群)を走って行く。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

朱雀列島攻撃が始まってから約11時間後の東京都千代田区の高層ビルの3階にある新聞会社。いや正確にはネット新聞会社と言った方が良いだろう。

 

国内でも有数のネットニュース会社 OREjournal。そのオフィスの扉を1人の女性が手にコンビニの袋を下げながら開けた。

 

「編集長。お昼買ってきました!」

「おう! そこに置いといてくれ。」

 

編集長と呼ばれた男がこのOREjournalトップ 荻窪大介。

そして彼の事を編集長と言った彼女はOREjournal記者の瀧川沙織。

OREjournalでも有数の記事を書くエリート記者だ。

 

「編集長。言われた通り焼肉弁当買ってきましたよ。」

「済まないねぇ急に頼んじゃって。」

「いえいえ大丈夫ですよ。

ですがいつもは自分で買う編集長が今日はどうしたんですか?」

「瀧川。これを見てくれ。」

 

荻窪の操作していたパソコンの画面を瀧川は隣から見る。画面にはこう書いてあった。

 

「“朱雀列島の電話塔が故障し,通話不能。復旧には一週間かかる。“これって。」

「ああ,政府からの発表だ。」

「これを見てくれって私もちゃんとスマホで見ましたよ。」

 

先程官房長官 大洋が記者会見で発表した“朱雀列島との通話が不能“というニュースは瞬く間に各種報道機関に取り上げられ,瞬く間に日本中を駆け巡った。

勿論それはこのOREjournalも同じだ。

 

「瀧川。政府によると電話塔が故障したとなってるな。」

「ええ,勿論です。それがどうしましたか?」

「じゃあこれを見てもか?」

 

荻窪がパソコンを操作し画面を変える。荻窪が写し出した画面は“Twitter“で,朱雀列島という言葉で何件もの投稿が上がっていた。

その内容はというと

 

『俺日本海沿岸に住んでんだけどさ。さっき家の近くの浜に漁船が流れ着いて,人が要るっぽかったから近くに行ったら,「戦争が始まった!!」とか言ってきてね。でその人は朱雀列島からやって来たらしいんだ。

みんなどう思う?』

『戦争ってマジな話!?』

『いやでもまだ情報が少なすぎるから断定は出来ない。』

『まじか~戦争になったら俺の街攻撃来たりするのかな~ww』

『えぇ~!? もう最悪なんだけど!? ゆーたんまだ死にたくなぁ~い!!』

『もし戦争だったら相手は何処なんだろうな? まあ自衛隊が倒してくれるよ。』

『戦争なんて絶対にいや!! 皆さん戦争に反対しよう!!』

 

「・・・・・・これって・・」

「どうやら話題は電話塔じゃ無いみたいだ。」

「で,でも政府は電話塔の故障だっt」

「これを見てもか?」

 

瀧川の見た画面に写っていたのは漆黒の空を優雅に飛ぶSu-33の写真だった。

 

「これシ連機ですか!?」

「そうだ。シ連海軍のSu-33 艦上戦闘機。通称フランカーD。」

「か,海軍!?」

「こいつは艦上戦闘機。つまり空母から発進する。言ってしまえばF-35JCと同じだ。」

「F-35JCと同じ?・・・・・・・・!?」

 

この時瀧川の頭をある予感が横切った。

 

「ま・さ・か。シ連の機動部隊が朱雀列島に向かってるって事ですか!?

「声でかい!」

 

瀧川の発言に周りの社員全員が注目する。二人は目をキョロキョロして焦った。

 

しかしそんな状態はある男で解消された。

 

「編集長! ただいまもどr あぁ!!」

「進一~。全く何やってんだ。こんな段差で転けて。」

 

扉の段差で躓き転んでしまったのはOREjournal 記者の木戸進一。瀧川には及ばないものの,journalを裏から支える一人だ。

 

「すいません編集長。急いでたもんで,例の写真とか見っけて来ましたよ。」

「本当か!! よし瀧川! 移動するぞ。」

「瀧川さんも連れていくんですか?」

「エリート記者を舐めない方が良いぞ。」

 

編集長含め三人はオフィスから壁1枚隔離された部屋へと移動する。

移動を終えると木戸は持っていた茶色の封筒から何枚もの写真を机に出した。その写真はどれも護衛艦や自衛隊機の写真だった。

 

「編集長これであってましたか?」

「200点満点だ。で横須賀基地についてはどうだった?」

「外から見ても分かるぐらいに車とトラックが行き交っており,とてもドタバタしているようでした。」

「車やトラックは民間のではないな?」

「はい! ちゃんと調べましたもの!!」

 

話している二人を横目において,瀧川は写真を取った。彼女の写真には横須賀のヴェルニー公園から撮ったと思われる護衛艦 こんごう型イージス護衛艦が写っていた。

 

こんごう型イージス巡洋艦は世界で2番目のイージスシステムを搭載し,かつ海上自衛隊初のイージス艦でもある。

彼女(こんごう型)の特徴は前甲板のオート・メラーラ 127mm砲で,これを装備している海自のイージス艦はこんごう型だけである。

 

横須賀基地には太平洋防衛を行う第1機動部隊と,首都東京防衛を行う第6護衛艦隊が配備されている。

 

写真に写っているのは第6護衛艦隊所属の「DDG-173 こんごう」で,第6にはもう1隻「DDG-177 あしがら」も配備されている。

 

「編集長これは?」

「見ての通り海自のイージス艦だ。どうやら出航準備中らしい。」

「分かるんですか?」

「進一。港の動きはどうだった?」

「まるで落ち着きがなく,とても急いでいる様な感じでした。」

「このように海自の各所港が急に慌ただしくなり始めたんだ。」

「急にですか?」

「ああ,今朝からだ。」

 

編集長が手に取った写真は横須賀ではなく呉・舞鶴・佐世保の港の物で,それはどれも落ち着きを失っているように感じられる。

その中でも一際際立って落ち着いていないのが,

 

「・・舞鶴・港」

「舞鶴は日本海の防衛の要として昔から重要視されている。今はいないが第2機動部隊の母港さ。」

「日本海・・・・・自衛隊・・・・・朱雀列島・・!?」

 

この瞬間瀧川の頭が何かが思い付いてしまったらしい。

 

「編集長!! 申し訳ながらも考えを言っても宜しいですか?」

「どうやら気づいたみたいだな。」

「朱雀列島の電話塔故障とほぼ同時に自衛隊も慌ただしくなった。これはほぼ同時なのは明らかにおかしいです。

つまり今朱雀列島では電話塔故障として隠さないといけない位の緊急事態(・・・・)が起こっていると。」

「おそらくそうだろうな。で相手は多分シ連だろう。」

「ですがこんな事があるんですか?」

 

彼女の推測は正解だ。

朱雀列島にシ連が侵攻という緊急事態に日本政府と自衛隊は慌ただしくなっており,そんな状態で国民に情報が伝われば国内のすべてが混乱する事は間違いないだろう。

 

そんな最悪の事態を避ける為にこの事態をあえて報道してないのだが,現代はネット社会。ネットから様々な情報が黙っていても流れてくる。

中にはデマ情報もあるのだが,時にテレビ等が報道しないような情報も流れてくるから油断出来ない。

 

現に今ネットの話題は朱雀列島についてだが,時々いる推測民は流石としか言い様がない。少なすぎる情報で様々な推測を行い,中にはぶっ飛んだ物もあるが,真実を正確に捉えた物もあるためその凄さには脱帽する。

 

話がずれたがこんなにも少ない情報でここまで考えれた瀧川を評価したい。

しかし彼女は不安な様だ。

 

「自分で言ってなんですが本当にこんな事が起こってるんでしょうか? たまたま朱雀列島の電話塔故障と自衛隊の緊急事態が偶然にも重なっただけなんて事もありますし。

それにまだシ連との関わりなんて全く証拠がありませんし。」

 

そんな不安そうな様子を醸し出している瀧川に大窪は1枚の写真を見せた。

 

「これって民間のビジネスジェットじゃないd・・・!?安川外務大臣!?」

 

写真に写っていたのは羽田空港スポット V-1に止まるU-4から降りる安川外務大臣だった。

進一はここまで撮ったのか!! と思いだがこの写真は他の人が撮ったのを許可を貰って印刷したもので彼の写真ではない。

 

「えでも待って下さい!! 安川大臣は確か23日から那覇の方に行ってましたよね? なんでこんな早くに帰ってきたんですか?」

「要は外務大臣が出なければいけない事態が発生したのだろう・・・・・な。」

「外務大臣って事は外交・・・・・・・ま待って下さい!?」

「気づいたみたいだな。朱雀列島の電話塔故障・自衛隊の緊急事態・外務大臣の緊急帰還この事が偶然重なると思うか?

こんなあり得ない事が同時に起こってるということは何れかが繋がっている見ていい。もしかしたら全部繋がっているかもな。」

 

大窪の言っていることは大正解だ。全てが繋がって真実へと導かれるのだが,この事に早く気が付いた編集長は天才なのかもしれない。

 

「編集長この3つが重なる可能性が最も高い事態って?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・シ連による朱雀列島侵攻。」

「おそらくそれが一番だろうな。だがまだ確信がない。木戸お前は舞鶴の第2機動部隊について,瀧川は政府の様子について調べて報告するように!!」

「「分かりました!!」」

 

二人は大きな返事をすると編集長室のドアを開け,勢いよく外へ飛び出して行った。

1人残った大窪は自分以外聞こえるか分からない位の声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どちらにしろ大変な事が起こったな。第2機動部隊(あんたら)がどう動くか見せて貰うよ。」




本文の一部が消えて萎えていた為遅くなりました。申し訳ございません。

あとタグを数個追加しました。

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