ようこそ実力主義者の教室へ。元脳筋は苦労する。 作:赤山大和
5月の初日から早くも一週間が立った。
その間に龍園はクラスを纏めリーダーとして君臨する。
中間テストの攻略法である過去問については龍園が手に入れた物と俺が先生から頂いた物を照合して間違いないと確定。
この過去問はテストの数日前に龍園が皆に配る予定だ。
中間テストで赤点の生徒を出す事はないだろう。
まぁ、赤点を回避する為の勉強に根を詰めすぎないように椎名さんと読書をしたり、夕方や夜に軽いランニングや散歩をして気分転換はしているのだが。
後は錆び付かないように習っていた武術の型を鍛練するために人通りの少ない寮の裏手で体を動かしていた。
だから、これは偶然だったのか、もしくは必然だったのか。
夜遅くに寮の裏手で見覚えのある生徒会長が一人の女生徒と言い争い、暴力を振るおうとしている場面を携帯で録画してしまった。
まぁ、現在も録画中なのだが。
少しばかり危機感を覚えながら生徒会長へと近づく。
いざとなれば力付くでも止めるという思いで。
だが、俺は一歩遅れたようだ。
生徒会長の手によって女生徒の体が宙に浮く。
危ない!
思わず飛び出したが、俺よりも先に生徒会長の腕を掴み動きを止める男がいた。
「――――――――何だ?お前は」
「あ、綾小路くん!?」
飛び出した男は女生徒の知り合いらしい。
彼らの会話を盗み聞くと生徒会長と女生徒が兄妹らしい。ずいぶんとバイオレンスな兄妹なんだな。
生徒会長と綾小路という男が暫くにらみ会う。
女生徒の声で腕を話した綾小路の顔面に生徒会長の裏拳が。
体を半身にしてのけ反るようにして避ける。
どういう反射神経してんだよ。
綾小路に対して追撃の蹴りが放たれるがそれも回避、その後に伸ばされた腕をはたくようにして流す。
凄いな。二人とも化け物か天才って奴か。
「いい動きだな。立て続けに避けられるとは思わなかった。それに、俺が何をしようとしたのかも、よく理解している。何か習っていたのか?」
「ピアノと書道なら。小学生の時、全国音楽コンクールで優勝したことがあるぞ」
優勝は凄いな。いや、ボケているだけか?
「お前もDクラスか?中々ユニークな男だな。鈴音」
「堀北と違って無能なんでね」
嫌みか!それだけの動きが出来る奴が無能って!
同年代でそれだけ動ける奴何て初めて見たぞ。
俺のお前たちへの認識は格上だからな!
「鈴音、お前に友達が居たとはな。正直驚いた」
兄、公認のボッチか。
友達がいたというだけで驚かれるのか堀北鈴音。
「彼は………友達なんかじゃありません。ただのクラスメイトです」
「相変わらず、孤高と孤独を履き違えているようだな。それからお前。綾小路、と呼ばれていたな。お前が居れば、少しは面白くなるかも知れないな…………それと、そこで動画を撮っている男はお前たちの知り合いか?」
まぁ、気付かれているよな。
特に隠れてもいないし。
「はじめましてですね生徒会長。一応、自己紹介すると1―Cの月村です。クラスが違うからそこの二人の敵となりますね」
「―――ほぅ。それで、その動画は敵である二人に対する物か?それとも俺に対する物か?」
1―Dの生徒と会長の喧嘩の動画の価値は幾らかね?
会長ならば力付くで携帯を奪う事も出来るわけだからな警戒しよう。
「現状ではポイントの関係で1―Dそのものはすぐに敵対する必要はないと考えてますね。偶然ではありますがこれは会長用になりますね。3―Bの人に売るか生徒会の人に買って貰うか。とりあえず、これで渡すつもりです」
片手を広げる。
偶然取った動画で五万も貰えればボロ儲けだ。
それに、今回の件で大切なのは綾小路の実力の一端を知れたこと。
自分たちの敵となるクラスに綾小路?いう規格外が存在している事を知れたという価値に比べれば動画は対して価値がないと思える。
「ふぅ、良いだろう。払おう。ただし、その動画が流出した場合は相応の罰を受けて貰うぞ」
ハハハ、怖いね。
「取引で下手を打つつもりはないですよ。携帯を渡すのでコピーやバックアップも無いのを確認してから消してください。それを確認したらポイントをお願いします」
携帯を渡された生徒会長は眉をしかめる。
「データを消した後にポイントを払わないとは考え無いのか。契約を交わしてないのに随分と迂闊な真似をする」
「生徒会長がそんなセコいことするとは考えられないですから。それに、偶然で手に入れた動画ですからね。ポイントが貰えなくとも諦めはつきます」
「そうか」
会長の手から戻って来る携帯。
ポイントを確認すると………六十万を超えている。
俺の所持していたポイントは十万よりも少し多いくらいだぞ。
…………なるほど。
片手を開いて五万のつもりだったがこの会長は五十万と解釈したのか。
しかし、あっさりと五十万を払える会長に内心ではドン引きだ。いや、3年間Aクラスでいれば簡単に払える額なのか?
それとも、3年Bクラスや生徒会にそれだけ払っても渡るのを避けたい相手がいるとか?
まあ、いいや。
どれだけ考えても仮定にしかならない。
それに3年である会長はこちらに絡むことなどめったにないだろう。
今回は運が良かったとでも思っておこう。
目下の問題は会長ではない。
同じ学年で隣のクラスという激突する可能性の高い場所にいる強敵、綾小路。
こいつの情報と能力を探ることだ。
身体能力は化け物で喧嘩が強いとか暴力を主な力とする龍園にとって厄介な相手だろうな。
さて、どうするか。
いや、下手に考えないほうがいいか。
軽く試すか。
綾小路に向けて拳を振るう。
元々、寸止めするつもりではあったが目の前にある此方の拳を冷静に見詰めている。
表面上は驚いたような顔をしている。
だが、目だけは違う。
こいつの目だけは違う。
自分の拳が震えている。
ああ、情けない。
俺はこいつを怖いと思っている。
なら、やることはと、
「…………綾小路。俺と手合わせをしてくれないか?」