ようこそ実力主義者の教室へ。元脳筋は苦労する。 作:赤山大和
「は?」
手合わせをを願った綾小路の俺への返答は戸惑いの声であった。
まぁ、当然か。
いきなり手合わせを、願ったのもそうだがそれをいましがたポイントを巻き上げた生徒会長の前で言うのだから。
チラリと会長の方を見れば少しの呆れと興味を感じる。
呆れた感情は俺に興味は綾小路の実力にあるのだろうな。
この二人にからすれば俺なんぞ路傍の石。
だからこそ挑みたい。
馬鹿な事を言ってるのはわかるのだがな。
まず勝てない相手だ。
それでも負けると思って戦うつもりはないが。
「すまんな綾小路とやら。今の会長とのやり合いでお前が俺よりも強いと感じた。それこそ俺が勝てないと思ったそこの会長よりもな」
あくまでも勘だが、この会長よりも戦えば綾小路の方が強いと思う。
だが、より勝てない相手だと思ったのは会長の方だ。
どちらも俺よりも強い事にはかわりないだろうがな。
「ほう」
「いやいや、そんなことはないぞ」
「俺は子供の頃から武術をやっていたし中学の頃に空手で全国大会に出場経験もある。その上での判断だ」
興味を持ったらしい会長ととぼける綾小路。
上着を脱いで携帯も隅に置いてと。
軽く体を解し綾小路を見据えて構えをとる。
「さて、じゃあいくぞ!」
「ちょ、まっ、」
まずは全力の正拳を顔面に。
様子見などはしない。
最初から全力全開。
会長や堀北に止められる前に。
そして、綾小路とまともに戦えるうちに勝つ。
俺の拳は腕を横から叩かれていなされた。
突き出した腕を引かれてバランスが崩れる。
驚く必要はない。
相手は格上。
この位は当然だろう。
崩れたバランスを無理やりに治して下段蹴り。
勢い任せのこれは簡単にかわされる。
かわされたが勢いはそのままに独楽のように体を廻し上段蹴り。
ガードをした綾小路の腕に当たった。
ダメージは無さそうか。
痛っ!
蹴ったほうの足が痛む。
ただガードをしたのではなくて肘での迎撃だったのか。
だが、まぁ、気にする必要はない。
相手は格上で負ける可能性が高い相手。
勝とうが負けようがボロボロになることは決まっている。
ならば後は心の構えを強くするだけだ。
綾小路との間合いを詰めて、
「なぁ、少しいいか?」
出鼻を挫かれた。
「ん?何だ?」
戦いを止めないかとか言ったら即座に蹴ろう。
「お前は何でこんな事をするんだ?お前は俺よりも弱いとさっき言っていた。勝てると思っているようにも思えない。負ける為に戦うつもりなのか」
まぁ、疑問に思うよな。
強制的にだがこうやって、やり合ってもらっているのだし正直に答えるか。
「………勘違いしているようだが負けるつもりはないぞ。そもそも戦いは敗北を覚悟していてもそれでも勝つつもりでやるものだ。それと、綾小路に挑んだ理由は『理解』をするためだ」
「理解?」
ふむ?
戸惑った感じがするが綾小路からすれば意味不明だものな。
まぁ、それもそうか。
「これは俺の恥をさらす事にもなるが、先ほど寸止めの拳で綾小路の反応を見た時に、俺はお前の目を視て恐怖を感じた。………そして、怖いと思ったその理由を俺
は理解しきれていない」
綾小路の目を視て怖いと思ったが何故、怖いのか。どうして、怖いのかが俺自身、理解できていない。
単純にお前の目を視てビビった。
「………………」
「………何かの本で読んだが人は理解の出来ないものを恐怖するらしい。まぁ、恐怖とはそもそも理解出来ないものであるという意見もあるが。手合わせを願った理由は恐怖を乗り越える、恐怖を理解する。そのために綾小路を理解したかった」
ビビった自分を殴り飛ばせれば早いのだが。
それ以上に綾小路に興味を持った。
「あー、この手合わせで理解出来るのか?」
なんか、呆れられた感じがしているが気のせいと思っておこう。
「基本的に無理だな。俺の通っていた道場の師範が言っていたのだが、『人は殴りあって言葉を交わしてぶつかり合うことで相手を理解したつもりになれる』らしいそうだ」
理解したつもり。
『理解した』のではなく『理解したつもり』になる。
「理解したつもりになるだけか?」
「そうだ。そもそも、殴りあって言葉を交わしたくらいで理解しあえるならば人と人で争いや戦争はおこったりしないと笑って言ってたな」
まぁ、自分が理解出来ない人間は本当に理解出来ないからな。
「いや、それなら何で挑んだんだよ」
「そりゃ、0を1にするためだな。こうやって手合わせをする事で解る事があるのも確かだ。石を投げてそれに対する反応で推測できる事もあるかもしれないだろ」
例えば綾小路が俺に興味が有るのか無いのか。
俺を対等に見ているのか格下として見ているのか。
推測にしかならなくても解る事もある。
「………で、何か意味はあったのか?」
「そうだな。少なくとも、お前が感情のない機械のような人間ではないという事は確かだ。俺に呆れたということは多少は心が揺れて動いたということだしな。まぁ、ほとんど無駄ではあるだろうが無意味ではないな」
無表情に見えるし此方を見る目も冷たいが俺が綾小路に感じていた恐怖が減ったと思える。
ならばそれは俺にとってプラスだ。
それだけでもこの手合わせには意味があった。
「…………俺にはお前の考えが理解できない」
「それは当然。基本的に頭の軽い考えだしな。むしろ何も考えてないに近い。何も考えていない人間に対して考えが理解できないのは仕方ないさ」
考えるな感じろといったところだしな。
綾小路が諦めたようにため息をついたタイミングで下段蹴り。
かわされるか。
「おい!」
苦情が来るが問題ない。
話は戦いながらでもできる。
「まだ手合わせをの最中だろ油断する方が悪い」
顔をめがけて殴りかかるが受け止めるつもりなのか手を出して………嫌な予感がする。
だが、構わない。
ぐぁ。
変な声が出そうになった。
殴りかかった拳を受け止められてそれを握り締められただけだというのに。
「っ、っ、万力のような握力だな」
言いながら綾小路の脇腹を殴る。
効いたようにはみえないが多少は体が揺らいだ。
そのまま追撃で蹴りを出すが拳を掴まれたままの崩れたバランスのせいでいま一つ威力がでない。
少なくとも綾小路には俺の拳を離さないだけの余裕がある。
痛みに耐えながら蹴りを、
「……………何を笑っている」
うん?
「笑う?なんの事だ」
むしろ俺は苦しんでいるぞ。
拳は握り潰されるかと思っているし苦し紛れでだした蹴りも効果が無いのだからな。
脂汗が出るほどだ。
不恰好でも構わない。
俺は勝ちたい。
振りほどくために握り締められた拳を大きく振るいながら体当たり。
腹に衝撃。
綾小路の膝が腹に刺さった。
腹に入れられた膝で吐きそう人間なるが構わずその脚を抱えて押し倒す。
コンクリートの地面に叩きつけられたのだダメージは入るだろ。
馬乗りになりマウントをとる。
後はマウントを取ったままひたすら殴って…………。
腹に膝を受けた影響で嘔吐感が。
あ、これはヤバい。
馬乗りになった俺が急に動かなくなった事で綾小路が訝しげな表現をしているが、悪い逃げてくれ。
思わず口を抑える。
綾小路も何かを察したのか焦りが見える。
なんというかスマン。
引き攣った綾小路の表情。
俺の状態を察したのだろう。
今だけは綾小路と目と目で会話ができている。
お互いに理解し合えたと思った瞬間に。
オールリバース!
「うわあああああああ!!」
冷静に見えた綾小路は意外な程に驚く声をあげ、一瞬で馬乗りになった俺から逃げ出した。
どう逃げられたか理解できない速業だ。
マウントを取ったと油断したら逆にやられていたな。
距離をとってこちらを見る綾小路はどうやら無事に回避したようだな。
こちらとしても回避してくれてありがたいが。
とりあえず、リバースを終えて落ち着いてから綾小路に向き直る。
「とりあえず、スマン」
「………ああ、本当にな」
此方を責めるようにみる綾小路の目が冷たい。
「…………さあ、続きをやろう。ただ、腹への攻撃は二発目のオールリバースが発動する危険性があるので注意してくれ」
まぁ、道場での訓練では何度かあった事だからな。
「やれるか!」
さっきまでの冷静さを失った綾小路からのツッコミ。
むしろ冷静さを失っている今こそ攻めるチャンスか!
「………そこまでにしておけ」
こちらの手合わせを黙ってみていた会長から制止の声がかかる。
後ろにいる女性徒が若干引いているのは仕方ないか。
「……俺としてはもう少しやりたかったがやらかした以上は仕方ないか」
「そうしてくれ」
こちらが構えを解くと綾小路が疲れたような表情をしている。
「俺はもう行くぞ。それと鈴音、上のクラスに上がりたかったら、死にもの狂いで足掻け。それしか方法はない」
会長が歩み去るとこの場には微妙な雰囲気が残る。
とりあえず、上着を着て携帯を取り出す。
「んー、ちょっと良いか綾小路」
「なんだ。俺はもうやらないぞ」
「いや、連絡先の交換をしないか。なんとなくだが今後も関わる事になりそうだしな」
こちらに対して嫌そうな表情を向けてくる。
そんなにリバースを食らいそうになったのがイヤだったか?
まぁ、俺でもイヤだが。
「………わかった。だが、本当に手合わせはもうやらないからな」
「安心しろ。俺も暫くは鍛え直すつもりだからな。当分は手合わせに誘うつもりはない」
「当分じゃなくてできれば二度とやりたくないが」
連絡先を交換。
これで何かあれば連絡が取れる。
クラス対抗での戦いだから色々と関わる事も多そうだからな。Dクラスの事を知る為の役に立つかもな。
「じゃあな。綾小路。彼女のこと、ちゃんと送ってやれよ」
2人を置いてこの場を離れる。
綾小路の事を知れたのは嬉しい収穫だ。
脚は痛いし腹も痛い。
リバースした口の中は気持ち悪い。
体調は最悪だが、気分は悪くない。
自分よりも強くて怖い相手がいる。
その相手とクラス対抗という形とはいえ競い合える。
この高校生活に楽しみが出来た。
ああ、いい気分だ。
次は空手だけでなくてちゃんと道場で習った技を使って存分にやりあいたい。
寮に帰って風呂に入って歯を磨いて眠る。
今日はとてもいい気分でぐっすりと眠りにつく事ができそうだ。
あ、リバースの後始末忘れた。