バトらない自分のガラルな日々   作:アズ@ドレディアスキー

11 / 26
9話 挑戦者達(前)

 今日も今日とて、チュリネ農場は平和である。

 

 特に晴れ過ぎてなく、雨が降っているわけでもない。

 暇なポケモン達は各々自由に過ごし、俺は作業を手伝ってくれているポケモン達と共に農作業を行う。特に変哲もない日常の1ページだ。

 

「うぉわぁっ?!なにあれぇ?!」

 

 ただこの時期はそんな日常にポケモントレーナー達の驚いた声、と言う非日常の一文が加えられる。彼らに加えてバックパッカーが驚く事もあるが、バックパッカー達は割と頻繁に遭遇するので最早少し珍しい程度の日常だ。

 

 まず彼らは一体誰なのかと言うと、ジムチャレンジ中のポケモントレーナー達だ。

 

 つい先日、エンジンシティでジムチャレンジの開会式が行われた。俺自身はそこまでリーグに熱心では無い程々のファンなので、テレビで録画した物を見て、楽しんでいる。

 そしてそれを見て今年も騒がしくなるなと考えたが、去年と同じ様に今年もそうなった。

 

 彼らが一様に何に驚いているかと言うと……まぁ大きさに驚くと言ったらあの子しか居ないのだが、そう、テッカグヤだ。

 

 ターフタウンは長閑な田園風景が広がる町で、ビルなどと言った高い建物がない。一番高い建物もターフスタジアムだ。

 そんな中、高さが10メートル近くあるテッカグヤが目立たないはずもなく、出ている間はターフタウンの新しいランドマークとも言えてしまうくらい目立つ。

 そのせいか、バックパッカーが地上絵に着いても、事前に見たテッカグヤのインパクトに負けてしまい、相対的に地上絵の人気が落ちてしまったらしい。

 ターフタウンの地上絵の広報活動をしている方には申し訳ないが諦めてもらうしかない、うちのテッカグヤが大きくて可愛いのだから仕方がない。

 

 そして、先程驚いた声がした農場の門の近くには少年が来ており、顔を見上げて口を開けて呆けていた。

 バックパッカーにしては軽装で、どこか旅慣れていなさそうな所を見るに、リーグからバックアップを受けているジムチャレンジャーで間違いないだろう。

 と言うより開幕式が終わった後の数日間はほぼジムチャレンジャー達だ。理由はターフジムが最初のジムで、チャレンジャー全員が寄る場所だからだ。

 ジムトレのミドリはこの期間を楽しいけど、死ぬ程大変だとぼやいていた。その時、これ飲んで頑張れよと『ちからのねっこ』を渡そうとしたが普通に拒否された。まだ家の在庫は減りそうにない。

 

「あのー、すみません」

 

 入り口で呆けていた少年チャレンジャーが、農場で作業している俺に声を掛けてきた。無視する訳にもいかず、一旦作業を中断しそちらに向かう。ただ、大体呼ばれる理由は察しがついている。

 

「あ、お姉さん。あのポケモン、お姉さんのポケモンですか?ダイマックスして無くてもあんなに大きいポケモンを見たのなんて初めてで、一緒に写真を撮りたいんですけどいいですか?」

 

 大体予想通りの写真撮影の申し出が出て来た。

 

「あ〜、ごめんね。そこに立ててる看板にも書いてるんだけど写真撮影はダメなんだ」

 

「え?……あっ、本当だ。すみません」

 

「いいよいいよ、あの子を見上げてると、看板なんて目に入らないだろうし。君はちゃんと俺に許可を取りに来てくれたしね」

 

 少年は謝ってくるが、俺は気にしていないと片手を振りながら伝える。寧ろちゃんと確認に来てくれたこの少年は良い子だ。

 

「"俺"?……まぁいいや。あの……どうして写真撮影が駄目なんでしょうか」

 

 少し俺の一人称に疑問を持ったらしい。初めて会う人は皆疑問に思うが、彼はスルーしてくれたようだ。

 そしてこちらの質問も撮影を断るとよくされる。なので、俺も何時ものように答える。

 

「写真撮影が駄目な理由はな、国際警察の方から撮影NGを言い渡されてるからなんだ」

 

「こっ、国際警察?!」

 

 国際警察の名前を出して驚かれるのも、最初のうちは反応を楽しんでいたが、回数を重ねていく内に飽きてきた。今では相手が驚く事に何の感情も浮かばない。

 

 それと国際警察から撮影NGが出されている理由。それは、のほほんと過ごしているので忘れがちだが、テッカグヤもウツロイドもウルトラビーストだからだ。本来であればポケモンの中でも危険な部類のポケモンである。

 なので、彼らに親近感を持たれると不味い。もし仮に別個体が出現した時に、不用意に近付くと下手したら怪我では済まないかも知れない事態に陥る可能性がある。特に今挙げた二匹はウルトラビーストの中でも危険度は上位に位置しているので、国際警察の方からしっかりと写真撮影を断るよう言い含められている。

 

「あっ、あの、もしかして僕捕まっちゃうんですか?」

 

「いやいや大丈夫、それは無いから。それに君は何もしてないだろ」

 

 そう、撮影NGを破らない限りペナルティは発生しない。それにもし無断で写真を撮られて、ネットにアップされたとしても、国際警察驚異の調査力で写真を消されるだけだ。

 まぁ、俺のテッカグヤとウツロイドは色違い個体なので、一発で新しく出現した個体かどうかは分かるらしい。

 

「ほっ……あ、安心しました」

 

「うん、良かった。あの子を見る分には構わないから。あと撮影出来ない事に対するお詫びと言っちゃなんだけど、はいコレ。うちの農場のステッカーときのみをあげよう」

 

 そうして彼に、うちの農場のマークの付いた少し大き目のステッカーとオボンのみを何個か渡す。

 ちょっとしたお詫びでもあるがそれだけじゃない。渡したステッカーをどこかに貼ってもらい、あわよくば彼らに広告塔になって貰おうと言う作戦だ。きのみはステッカーだけじゃ申し訳ないのでついでにあげている。

 

「わぁ、ありがとうございます」

 

 ガラルに居ないポケモンが描かれたステッカーだ、珍しかろう。ジムチャレンジをするようなトレーナーはポケモン好きな事が殆どだ。そんな彼らにこのプレゼントは毎度の事ながら受けが良い。

 

 

 

「うわっ、すごく大きいポケモンだぞ!」

 

 先程のチャレンジャーが去っていったあと農作業を続けていると、今度は別のチャレンジャーがやって来た。

 今度は誰だろうと目を向け、ついに来たか、と少し目を細めた。

 

 録画した開会式を見た時から、俺にとって今年のジムチャレンジとリーグが特別になる事を予感していた。

 そこにはゲームをしていた時に見た、主人公を含めた4人が映っていたからだ。あそこから彼らの冒険・物語が始まる。と録画を見ていた時少し興奮してしまった。

 

 そんな俺が勝手に特別視している4人の内の一人。ホップが、相棒のウールーを連れて先程訪れたトレーナーと同じ様にテッカグヤを見上げていた。

 

「こんにちは、ホップ君。俺の農場に用かい?」

 

「こんにちはお姉さん、ってあれ?オレ名前言ったっけ?」

 

 農場の前で立ち止まっていた所を、俺から声を掛ける。そしてホップからは出て当然な疑問が出て来た。

 ジムチャレンジ中で無ければホラー物なのだが、この期間はしっかりとした理由付けが出来るため、犯罪者にならずに済む。

 

「チャンピオンの弟でチャンピオンから推薦状貰ったチャレンジャーだろ?君は君が思っている以上に有名だと思うよ。かく言う俺も君のファンの一人だ」

 

「そうなのか!オレは無敵のアニキを倒してチャンピオンになるから、これからも応援よろしくな!」

 

 ものすごく明るくてエネルギーに溢れた挨拶を聞き、こちらも笑顔になる。

 

「ははっ、これからも応援するよ。そんな元気な君にファンからの差し入れだ」

 

 そして俺は先程と同じセットに加えシルクのスカーフをホップに渡した。このシルクのスカーフは掘り出し物屋で買って、結局使わなかった物だ。ホップの相棒にはちょうどいいだろう。

 先程のトレーナーに比べてサービスが良いが、ファンの差し入れとなれば違いが出て当然だ。

 

「おおっ、コレ貰っていいのか?!」

 

 ホップは貰ったステッカーやきのみにも喜んでいるが、何よりシルクのスカーフに喜んでいる。渡した物の有用性を理解しているのだろう。 

 

「サンキュー!オレの相棒にピッタリのアイテムだ!」

 

「どういたしまして。ところでお願いが有るんだけど、ホップ君のウールー、撫でてもいいかな?」

 

 ホップに会ったら頼みたいと思っていた事を頼む。実際に会ってみると中々の毛並みで、モフりたい欲が強くなる。多分断られないと思うが、まぁ断られたらその時だ。

 

「おう!ウールーがいいって言ったならいいぞ!」

 

 ホップから許可は貰ったので、今度はウールーに話し掛ける。

 

「撫でたいんだけど、いいかな?」

 

うめぇ〜♪

 

 そう鳴いたあと俺の方に歩いてきたので、了承と受け取り、モフり始める。

 

なでっ……もふぅ……

 

お?これは……

 

モフわぁ……もももふっ……

 

 ふ、深い。重い。それに大味と言うか、エルフーンのもふもふと違って繊細じゃないけど、それがいい方向に作用していて、でもしっかりと柔らかくて……なんだこのもふもふはっ?!イイ!!

 

「あ、そうだ!お姉さんのあの大きいポケモン、もっと近くで見ていいか?」

 

 俺がモフリエストになっているとホップがそう俺に頼んできた。断る理由がないので直ぐに答える。

 

「良いよ。ただもし撫でたい時は本人に確認を取って、しっかりと強めに撫でるようにね。弱いとあの子くすぐったがって、不意に大きく動いて危険だから」

 

「おう!わかったぞ!」

 

 そう言うなり、直ぐにかけていった。俺はもうしばらくもふりに専念する。もちろん独りよがりじゃなくて、ウールーの撫でられて気持ちの良いところを探しながらだ。

 

おめぇ〜♪

 

お?ここがええんか?よしよしよし……

 

 

 

 そうしてしばらく撫でて、十分に満足したのでホップにウールーを返そうと振り向いたら、俺の農場のポケモン達と戯れているホップの姿が見えた。殆ど初めて会うポケモンの筈なのにしっかりと適切に対応している。

 

 こうした彼の姿を見ると、やはり彼の本質は優しいものなんだと思えてくる。

 これから彼は自分の夢と食い違う本質に板挟みにされて大いに悩むのだろう。

 

 でも外野の俺はそれに気付いても、指摘はしない。手も貸さないし、ヒントも出さない。それは、俺が伝えてはいけない物だ。

 

 俺は彼の成長を見守ろう。

 幸いにも彼にはライバルも、支えてくれる人も居るから大丈夫だろう。

 

 あとエルフーン、彼にじゃれつくのは良いが、その隙にお前のもこもこと彼にあげたシルクのスカーフをすり替えるな。

 すり替えたスカーフを別のポケットに入れても駄目だ、ちゃんと戻しなさい。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。