チャレンジャー達と遭遇してから数日後、俺はチュリネ達をボックスに送り、手持ちを連れてターフスタジアムにやって来ていた。
服装はいつもの農家スタイルでは無く、ツボツボカレーTにジーンズと赤いパーカーと言う休日のお出かけ用の服装だ。
エントランスホールは人で溢れており、グッズなどを販売しているショップはすし詰め状態になっている。先日人が少ない時期に購入していた人達はこれを予見して買い物をしていたのだろう。まぁ、中には当日限定のグッズも存在するので、早期にショップに寄る事は一長一短だが。
そんな中俺が何をしにジムスタジアムにやって来たかと言うと、目的はここに居る殆どの人と同様にジムチャレンジャーのジム戦を見に来ている。数日前にジムに向かった彼ら彼女らの観戦をするためにだ。
ゲームではジムに着いた直後にジムチャレンジを敢行していたが、実際にはそれよりも若干期間を開けてからジムチャレンジが行われる。
理由は二つ、ジム側の準備期間が必要なのと、着いた直後に挑むなど興行的にマズイからだ。
ジム側は、常にスタンバっているなど不可能で、ギミックの整備、ポケモン達のケア、ジムトレーナーやジムリーダーの休息などの期間を確保するため。
興行は、直後に始めてもスタジアムに人は入らず、テレビの生中継も旨味が少ない上に枠の確保が厳しすぎる。運営側も、せっかくのイベントなのだからチケットは捌きたいだろうし、ゴールデンタイムにも合わせたいのだ。
なので、実際のジムチャレンジの流れとしては、以下の様になる。
①チャレンジャーがジムで申し込みをする。
②チャレンジを行う日が決まり、数日間の準備期間が設けられる。この間にチケットが販売され、テレビでは枠が確保される。
③チャレンジ当日の午前にギミックの部分を行う。ジムリーダーとの対決の直前にこれのダイジェスト版がネットやテレビで公開される。
④午後にジムリーダーとの対決を行う。ただジムリーダーは連戦するので、一戦ごとに適度なインターバル時間が設けられる。
そして今は④のジムリーダー戦が始まる前の時間で、選手達やヤローさんは控室で待機しているのだろう。
「ボル?」
「ゲェッ……」
ヤローさんや選手達の事を考えながらエントランスホールを歩いていると、ヤバイ奴に目を付けられてしまった。声を聞いて目があってしまい、ヤツは足元に居る子供達にすぐに戻る事を伝えてこちらに向かってきた。気が付かないふりをして避けるのも今更無理なのでしょうが無く対応する。
「君はいつぞやのオシャレボール少女ボルね〜!お久しぶりボル〜。ボールガイだボルよ〜!」
「あ、あはは。お久しぶりです」
高身長かつマッシブーンを連想させるマッシヴな体型、そして常に笑顔の被り物から溢れる圧力に押されつつ返答する。彼の言動は奇行そのものなのだが、奇行に目を瞑れば紳士的なので冷たくあしらうわけにも行かない。
「うーん、いつ見てもコダワリを感じるボールのラインナップボルね〜。特にラブラブボールを二つも使ってる所なんかさすがだボル〜」
彼は考える様に片手を顎に持っていき、そう言ってきた。
確かに俺はオシャボ勢だが、そのせいでボールガイ(非公式)に目を付けられるなんて思いもしなかった。初めて遭遇した時も、ボールを着けたベルトを見られて話しかけられたのだ。
彼のボールに対する愛と知識は凄く、俺のベルトに着けたボール群を見た時は、同士を見つけたと思い話しかけたらしい。確かにある意味同士とも言えなくも無いが、頼むから普通の服装の状態で話しかけて欲しい。体型とマスコットの顔が致命的に合わないが故の、シリアルキラー感が滲み出ていて怖いのだ。
「今日もボールを配っていたんですか?」
「そうボル。特にチャレンジャー達にはボールの奥深さを知ってもらうために、フレンドボールを配ったボル!」
この人は軽く言っているが、それがどれだけ凄い事なのかは少しボールについて知れば分かる事だ。
彼が配ったフレンドボールは現状、人間国宝のガンテツ氏しか作ることのできない超貴重な品なのである。いわば人間国宝の工芸品とも言える。しかも彼は偏屈である事でも知られ、そのボールの価値は天井知らずなのだ。
そんなフレンドボールをこのボールガイは配っているのである。売ればひと財産になる物をである。
まぁ、そんなボールガイだからこそガンテツ氏が彼にボールを作っているのかも知れない。お金の力をもってしても入手が困難な品故に、俺は彼がガンテツ氏と直接パイプを持っているのでは?と俺は睨んでいる。
「所で先程相手をしていた子供達は大丈夫なんですか?」
「おっと、久し振りにボール好きの少女と会ってつい興奮してしまったボル!そうボルね〜。それじゃボールガイは子供達にボールの素晴らしさと奥深さを伝えに戻るボル!」
短い会話だったが、ちょっとした挨拶だったんだろう。互いに手を振って別れの挨拶をすると、ボールガイは先程交流していた子供達の所に戻って行った。
戻ってきたボールガイに対して子供達は大喜びだ。彼は意外と言ってはなんだが、子供達に人気がある。明るいキャラクターが良いらしい。近くに控えている親御さん達もその光景を和やかに見守っている。
ただ親御さん達、ソイツ、非公認なんですよ。クオリティは高いけど、勝手にリーグマスコットに扮して玉配ってる不審者なんですよ。
でもそれを伝えたところで皆が不幸に成るだけだ。彼は見方によればこの上ない紳士なのだ。リーグスタッフもそれを理解しているためあえて放置している。周りにそう認知されている彼が公式化する日も近いかも知れない。
スタジアムの飲食店でタルップルサイダー(酒)一つとカレーパイ何個かをかなり高いと思える値段で購入し、友人に確保してもらった席に向かう。
スタジアムの中に入ると、空はオレンジ色に少し蒼みがかった色が混じり始めており、スタジアムの照明が強くスタジアム内を照らしていた。
満員御礼とばかりにスタジアム内は人がひしめき合っており、階段を降りていくと周りに比べて不思議と席が空いてる場所に着く。空いている席の様子を見るにまだ午前の後始末が終わってないらしい。
空いている席に座ると腰のボールベルトを外し、膝の上に置くとドレディアをボールの中から出す。そして隣の空いてる席にちょこんと行儀良く座った。
そしてドレディアと一緒にパイを摘みながら試合が始まるのを待っていると、人の集団がこちらにやって来た。
「あれ?コウミってば先に着いてたんだ」
「コウミさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
「おー、皆おつかれ。あとソウタとセイヤは久しぶり」
やってきたのはジムトレーナーのソウタ、セイヤにミドリだ。午前中のチャレンジの後片付けを終わらせてバトル観戦にやって来たのだろう。
ミドリがドレディアを挨拶代わりに少し撫でたあと俺の隣に座り、男子二人組はその更に隣に座る。
「それにしてもわたしにチケット確保を頼んでまでバトルを見たいなんてどうしたの?珍しいじゃない」
そうミドリが俺に話しかけてきた。本来ジムチャレンジのチケットは争奪戦で、簡単に入手できない物なのだが、今回はチャレンジャーがチャレンジャーなのでその入手難易度は更に上がる。それでも俺は今回のバトルは生で見たかったので、ミドリと言うコネを使ってチケットを確保したのだ。
「ちょっと推しのトレーナーが出来てね、見たいと思ったんだ」
「ふーん、なんか心境の変化でもあったの?」
鋭い。バカ正直に言う訳にも行かないのでぼかして伝える。
「まぁ、そんなところ」
そう伝えた後、それ以上の追求は無かった。
度々俺は彼女に対して隠し事がある事を匂わせるような言動をする事があるが、それを深く聞いてこない彼女との関係はありがたい。
「所で今年のジムチャレンジはどう?見込みのある子は居た?」
「…………はぁ、せっかくこっちが追求しないであげてるのにそれを言う?前々からコウミは色々ちぐはぐで不思議な子だとは思ってたよ。でも今回チケットや今の発言は流石にどうかと思うわ」
ミドリの言動を聞く限り、やはり相当凄かったのだろう。
「そうね、今年は凄かったわ。輝いてる子が4人も居た。全員まだ未熟だけど、才能は間違いなく一級品揃い。今年のセミファイナルトーナメントは凄い事になるよ」
やはりあの4人は他のチャレンジャーに比べて突出しているようだ。
「そして、コウミ。なんであんたはピンポイントでその子のチケットをわたしに頼めたの?最初のジムだしまだ彼女のバトルは公開されて無いはず。わたしも実際にバトルして凄さを実感したのに、バトルをあまりしないあんたが彼女とバトルしたとは思えない。出身地も全然違う所だし知り合いでも無い。チャンピオンからの推薦状があったにしても、さっきの発言は確信を持ちすぎてる」
そして出るわ出るわミドリの疑問が止まらない。でも申し訳ないが俺にはその疑問は答えられない。情報源は簡単に口に出来るような事柄じゃ無いのだ。
「まぁ、ちょっと予知夢を見たんだ」
「あんたねぇ……はぁ、もういいわ。そのカレーパイ一個ちょうだい。それで我慢してあげる」
俺がそう言うと、ミドリはジト目になりながらツマミを要求してきた。確かに今の俺の返答は"何か隠してますよ〜"と言わんばかりのものだった。そんな隠す気が有るんだか無いんだか分からない発言に呆れたんだろう。
俺も苦笑いをしながらパイを一つ渡す。
二人と一匹がカレーパイをつまみながら時間を過ごす。もう二人は今回のチャレンジの反省点を話し合っている。わざわざバトル観戦の直前までしなくてもいいのに、彼らは本当に真面目だ。
サイダーを口に含むと、甘いリンゴの香りが鼻を突き抜け、ちょっとした炭酸が喉を潤す。それを見たドレディアが俺に飲み物要求してきて、農場で汲んだ"おいしいみず"を入れた水筒を渡すのを忘れていた事を思い出した。
水筒をドレディアに渡すとくぴくぴと美味しそうに飲みだした。
「やっぱりわたしも飲み物とか買ってくる。目の前でそんな美味しそうにされたらたまらないよ」
「バトルまでに間に合う?」
「多分大丈夫」
そんな俺とドレディアを見て喉が乾いてきたのか、ミドリが飲食店に向かうため、階段を上り始めた。
少し時間が経ち、ミドリがサイダーとフライ盛り合わせを持って戻ってくると、ちょうどモニターにカウントダウンが表示され、それが終わると選手登場出入口からユウリとヤローが出てきた。
彼らの登場に合わせて会場の歓声も大きくなる。
そして二人が中央で向かい合い、いくつか言葉を交わすと、所定の位置に着いた。
いよいよバトルが始まる。
DLCが発表されましたね。
ラティアス参戦が嬉しい作者です。
これで他のポケモン達にも希望が生まれましたね。
ただ発表後でもこの小説のポケモン達の扱いは変えません。DLCをストーリー後のイベントとして扱い、ガラルに居ないポケモン達として扱います。
あと、地味にぼんぐり要素の今後の情報が気になりますね。