バトらない自分のガラルな日々   作:アズ@ドレディアスキー

14 / 26
12話 ポケモンバトル

 大きな歓声がスタジアム内に響く中、ヤローさんはヒメンカを、ユウリちゃんはジメレオンを先発のポケモンとして出した。

 タイプ相性的に不利で一見選出負けのようにも見える。交代を指示するのが妥当だ。

 

「ヒメンカ!"マジカルリーフ"だ!」

「ジメレオン!左に跳んで避けて!」

 

 しかし、ユウリちゃんはジメレオンをバトルに居座らせた。

 二人の指示と同じタイミングでポケモン達が動き出し、ヒメンカは"マジカルリーフ"を打ち出し、ジメレオンはマジカルリーフにかすりながらも、身軽さを活かして左に大きく跳んだ。ジメレオンにそこまで大きなダメージが有るようには見えない。

 

 バトルにおいて、トレーナーの指示は技に留まらない。バトルのルールにおいてトレーナーに対する攻撃などの禁止されている事柄以外全てが許されている。

 そして"マジカルリーフ"を射出し終えたヒメンカの動きが一瞬硬直する。

 

「ジメレオン!"なみだめ"!」

 

 ユウリちゃんはそのタイミングを逃さず、ヒメンカにジメレオンの"なみだめ"を決める。

 

「ヒメンカ!周りの葉を巻き上げながら"こうそくスピン"!」

「ジメレオン!"ふいうち"!」

 

 ヒメンカが回り始めた瞬間にジメレオンが接近して"ふいうち"が決まり、ヒメンカの回転のスピードが抑えられる。そして接触時にジメレオンも回転しているヒメンカのダメージを食らう。

 

 ジメレオンが弾かれると、ヒメンカの周りには小さな竜巻のように葉が舞っている。そのせいか、ヒメンカの姿が若干見え辛い。

 

「ヒメンカ!続けて"こうそくスピン"!」

「ジメレオン!よく狙って"とんぼがえり"!」

 

 ヒメンカが更にスピードを上げ、舞い散る葉と共にジメレオンに迫り来るが、ジメレオンはじっとヒメンカが居るであろう場所を見つめ、"とんぼがえり"を打った。

 そしてそれは正確にヒメンカに命中し、ジメレオンは再び"こうそくスピン"のダメージを受けつつも、モンスターボールに戻り、ヒメンカは倒れて目を回していた。

 

「ヒメンカ、戦闘不能!」

 

 バトルステージの側にいたジャッジがそう告げた時、会場が音で溢れかえり、振動が体の中まで響いて来た。

 ヤローさんはヒメンカをボールに戻すと、ぽんぽんとボールごとヒメンカを労り、こちらには聞こえないが何かをボールに呟いていた。

 

「……凄い」

「そうね、とても最初のジムとは思えない内容ね」

 

 俺の口から思わず出た発言に、隣のミドリが賛同した。

 ユウリが行った事は不利な相性のポケモンで相手を倒したの一言で済ませて良いものではない。

 

 ヤローさんのヒメンカが出す"マジカルリーフ"+"こうそくスピン"のコンボは中々に厄介で、多くのチャレンジャーが苦戦する。

 マジカルリーフで場に葉をばら撒き、こうそくスピンでそれらを巻き上げる事で、ヒメンカの視認性を下げる戦術だ。

 ターフジムに挑戦するチャレンジャー達の多くは、その対策としてコンボが決まる前に倒す速攻戦術で対応するか、相性の良いポケモンで耐えつつ倒すかの二択に分けられる。

 

 ただ、ユウリちゃんはそのどちらも取らずその戦術に真っ向勝負を挑み、そして勝利した。

 

 まず、最初の"マジカルリーフ"で"ふいうち"を打たず、"こうそくスピン"のタイミングで打ち、回転の速度を落とし、巻き上げる葉の数を減らした。

 

 "ふいうち"と言う技はゲームでは威力が固定されていたが、現実では打つ度に威力が落ちていく技だ。理由はふいうちと言う名前の通り、不意を打つ技なので、回数をこなす程不意では無くなるからだ。なので最も威力の大きい時を"こうそくスピン"の時に合わせたのだ。

 

 そして最初に"ふいうち"を打たない代わりに"なみだめ"を打つ事で、その後の接触時のダメージを減らしている部分も地味に良い行動をしている。

 

 そうやって舞わせる葉を減らし、視認性を良くした状態で、よく狙わせ、確実に"とんぼがえり"を決めて一体倒したのだ。しかも交代のタイミングも"とんぼがえり"でヤローさんと合わせている。

 

 多少は事前に戦術を決めていたのだろうが、それでもこの大衆が見る中で、状況が変わり続けるバトルの中、状況を把握し、ミス無くそれを行えるのは、とてもじゃないが俺には出来ない。

 

「『コレ』で未熟なのか?」

 

 先程ミドリが言っていたことが気になり問いかける。俺が思うに未熟な訳がないのだが。

 

「ん?あぁ、コウミが聞いてきてる部分は全然未熟じゃ無いよ。むしろバトルセンスは少なくともリーグ最上位レベルなんじゃないかな?わたしが言った未熟って言うのはポケモンの育ち具合の事。そこもトレーナーの資質の内の一つだからね」

 

 そう言われて納得する。確かにまだジメレオンには進化が残っているし、育ち具合に大きな差が有れば最初の"ふいうち"で決まっている。

 

「なるほどな〜、確かに育ったら凄そうだもんな〜」

 

「はぁ、これだからコウミは……」

 

 俺が彼女の説明に納得していると、呆れたような声が返ってきた。今日は良くミドリに呆れられてる気がする。

 

「どうしたん?」

 

「あのね、コウミは軽く流したけどポケモンは育てるのも大変だし、育った後のポケモンに言う事を聞かせるのも大変なの。あんたみたいな非常識は本当に稀なの」

 

 非常識とまで言われてしまっているが、言い返せない。確かに俺の存在はある意味非常識だ。しかし、『言う事を聞く』の部分は少しだけ反論する。

 

「でもほら、うちの子達は皆良い子だから」

 

「絶対に『良い子』の一言で済ませて良いものじゃないのに……。コウミの手持ちの中に国際警察が出張ってくるような、危険なポケモンが居るのを知ってるんだからね。と言うより詳しい話は聞けなかったから知らないけど、それって絶対テッカグヤでしょ?」

 

 反論したら過去の事件の話に飛び火してしまった。確かに詳しい話は俺との間でしかして無かった気がする。あとは、その当時の身元保証人だったヤローさん位だろう、詳しい話を知っているのは。

 国際警察から話してはいけないことは、生息地とウルトラホールの存在位だったと記憶しているので、正直に話す。

 

「うん、まぁ、テッカグヤとウツロイドがそうかな。でも本当に良い子なんだって」

 

 そう言いつつ膝の上にあるボールのうち二つのボールを撫でる。気持ち少しボールが揺れた気がした。

 

「やっぱり。ダイマックスしないであの大きさだしそうだと……え?ウツロイドも?」

 

 そうミドリと話してる間にユウリちゃんが出すポケモンを決め、ヤローさんはワタシラガを、ユウリちゃんはアオガラスを出した。

 

 ユウリちゃんはジメレオンを含めてもう二匹手持ちがいるが、ヤローさんの方は最後のポケモンだ。

 先程の華麗なバトルに加えてジムリーダー最後のポケモンと言う事もあり、会場は大盛り上がりだ。観客達の応援歌もボルテージを上げる要因となり、自分も興奮してベルトをつけ直し立ち上がってそれに加わる。

 隣のドレディアも興奮してぴょんぴょん跳ねている。

 

 バトルの展開としてはお互いダイマックスしてのバトルだろう。タイプ相性と残りのポケモンから見て、勝負はほぼ決まってしまっているが、それでもそれが盛り下がる要因にはならない。

 ダイマックス同士のバトルは、ド派手で大迫力のバトルになるのだ。盛り上がらない訳が無い。

 

 ミドリが焦りながら俺に何か聞こうとしているが、音が大きくて何も聞こえない。後で、のジェスチャーで答えて、俺も応援歌に加わる。

 

 そして二人同時にダイマックスする動作を始める。二人がボールにポケモンを戻し、ボールを巨大化させ後ろに投げる。

 激しい光と共に、ダイマックスしたアオガラスとワタシラガが大きな雄叫びと共に姿を表した。

 

「ワタシラガ!"ダイソウゲン"だ!」

「アオガラス!"ダイジェット"!」

 

 お互いに初動は同じタイミング。アオガラスのダイジェットとワタシラガのダイソウゲンがスタジアムの中央でぶつかり合い、ほんの少し勢いが拮抗する。

 しかしタイプ相性的に不利なダイソウゲンが次第に押され始め、ダイソウゲンを維持出来なくなったワタシラガにダイジェットが襲いかかる。

 

 スタジアム内にも暴風が吹き荒れ、響いていた応援歌が止まり、観客達は転んだりしないよう、近くにある物に捕まる。

 

 スタジアム内が振動し、吹き荒れた暴風が治まった後、バトルステージにはダイマックスしたまま飛び続けているアオガラスと、ダイマックスが解け、倒れて目を回しているワタシラガが現れた。

 

「ワタシラガ、戦闘不能!よって勝者、ユウリ!」

 

 ジャッジが叫んだ瞬間、観客達の歓声によって再びスタジアムが揺れた。様々な人の雄叫びや拍手に混ざって、時折ピィーと大きな口笛が鳴り響く。

 勝利宣言をされたユウリちゃんはアオガラスのダイマックスを解き、嬉しさを顕にしてアオガラスと共にポーズを取った。スタジアムの大きなスクリーンにその可愛い様子が映し出される。

 

 ヤローさんがワタシラガをボールに戻し、ボールごと少し労ると、バトルフィールドの中央に歩き出した。それに合わせてユウリちゃんもアオガラスをボールに戻し、中央に向かう。

 互いに一言二言話し、握手をした。

 

 こうしてユウリちゃんは最初のジムを突破した。

 

 

 

 あの後、インターバルを挟みながら何試合か行い、今日のジムチャレンジの日程は終了した。

 俺は全部のバトルを見終わった後、ポケモン達へのお土産として帰り道にパイ屋に寄ってカレーパイを買い、パイがたくさん入った袋を片手に下げ、スタジアムとは打って変わって静かな帰り道を歩いていた。

 月の明かりは雲に隠れており、スタジアムの眩い光が道を照らしている。

 隣にはドレディアが一緒だ。

 

 いつも見ているテレビのバトルと違い、生のバトルは迫力が違った。空気が違った。

 そして、あんなバトルが出来る人達が少し羨ましく感じた。

 

 俺のポケモン達は間違いなく強い。資質や育ち具合だけで言えばチャンピオンをも凌ぐだろう。

 でも、肝心のトレーナーである俺はダメダメだ。

 同じポケモン、同じ育ち具合、同じ技で彼らの様なポケモンバトルをするとしたら、俺はそこら辺の子供にすら勝てるかどうか怪しい。

 常にバトルの状況を読み、把握して、的確にポケモンに指示を出す。それをバトル中の一瞬に全てこなしている彼らの様な真似は出来ない。

 

 だから俺は守りで常に相手の後手に回り、状況をある程度無視して技選択だけを気にしていればいい状況を作り出し、その状態を維持しつつ持続ダメージで倒す戦法が得意なのだ。

 

 ただそのバトルでは、彼らの様な熱いバトルにはならない。

 俺のポケモン達もポケモンバトルは好きだ。バトルをする際には嬉しそうにボールから出てくる。

 だから俺のせいで、ポケモン達に満足の行くバトルをさせてやれて無いんじゃ無いか、と不安にもなるし、もしあんなバトルが出来たらと羨んだりもしてる。

 

 そう考えていると、不意にお土産を持ってない方の手が掴まれ、足が止まる。掴まれた方に目を向けると、ドレディアが少し不安そうな目をして、俺を見ながら手を掴んでいた。

 

 ネガティブな雰囲気になっていた俺を心配してくれたんだろう。……少し情けないが、少しだけ、その優しさに甘える。

 

「なぁ、ドレディア。俺がさ、お前のトレーナーで良いのかな?」

 

ピュイ!

 

 何言ってんの!とばかりにキリッとした顔でそう答え、そして繋いで無い方の手でぺしぺしと腰の辺りを叩いてきた。その気遣いを嬉しく思いつつも、やっぱり情けなかったなと思い、その事について考える事をやめ、雰囲気を変える。

 

「そっか……ありがとな」

 

ピピピュィ

 

 ドレディアに感謝を伝えて、雲が晴れて顕になった月の光と、スタジアムの光を背にしながら、再び静かな道を手を繋いで家に向かい歩き始める。

 ドレディアと繋いだ手の温もりを心地良く感じ、俺も少しだけ力を入れ、その手をそっと握り返した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。