バトらない自分のガラルな日々   作:アズ@ドレディアスキー

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13話 ラテラルタウンにて

 ここは本当にガラルなのだろうか?

 

 毎回ラテラルタウンを訪れる度に思う疑問だ。日差しが強く辺りを照りつけ、空気が乾燥し、風が砂を巻き上げる光景は、とてもじゃないが俺のよく見る田園風景と同じ地方に有るとは思えない。

 更に砂レンガで出来ているであろう家屋や、賑やかで様々な香りが漂うバザールの様子などを見ると、全く別の文化圏が独立して存在しているように見える。

 アローラのコニコシティやマリエシティはまだアローラに存在する事を認めることが出来る。何故なら少なくとも二つの町は文化を輸入した結果出来上がった町で有ることが伺えるからだ。

 

 だがラテラルタウン、お前は何なんだ?

 

 地理的な背景に基づく必然性から見たら、家屋の件は認める事が出来る。乾燥かつ高温な場所の建材として砂レンガは優秀だからだ。建築方式の違いも建材が違うという理由で一応説明出来る。

 

 ……でも本当にバザールだけは理解が出来ない。商業の方式が地域によって多少違うのは、地域に住む人々の気質が違う事によって起こりうるので、ありえない訳じゃ無い。

 ただラテラルタウンのバザールはその枠から逸脱してしまっている。

 露天商がデフォルトなど、何がどうしてそうなったと疑問符しか浮かばない。

 

ぽにゃ〜?

 

 そう考えていると、隣からドヒドイデの不思議そうな声が聞こえてきた。入り口の門に入った後に立ち止まったら、それは疑問に思うだろう。少し考えに没頭し過ぎてたのかもしれない。

 

「何でもないよ。さ、行くか」

 

 そう言った後、俺とドヒドイデはラテラルタウンのバザールに向かって歩き出した。

 

 バザールの通りを歩く人やポケモンの数はそこまで多く無いが、辺りは不思議と活気に満ち溢れている。多分、所狭しと様々な商品が置かれている雑多な雰囲気が、物言わぬ賑やかしとなって活気を創り出しているのだろう。

 

ヘイヘエイ!

 

 近くから呼び込みの声が聞こえてくると、そちらにはマラカッチがノリノリで踊りながら呼び込みをしていた。元気なのはいい事だがその鳴き声はヘイガニの物だ、訴えられないのだろうか?

 目を向けていると、マラカッチの前には様々なフルーツ類が置いてあり、どれもこの辺りでしか採れないものばかりだった。

 

ぽにゃ

カラコロン

 

 俺が様々なフルーツを見ていると、ドヒドイデとマラカッチが世間話のようなものを始めた。マラカッチが色々なフルーツを指差しながら鳴き、ドヒドイデがそれに対して相槌を打つように鳴く。

 しばらくそのやり取りが続いた後、ドヒドイデがドラゴンフルーツの様なフルーツを掴んで俺に見せてきた。

 

「それが欲しいのか?」

 

ぽぽにゃ〜

 

 そしたら今度は掴んでない方の触手で別の場所を指した。指した先を見ると、そこには香辛料を売っているであろう、広げた袋の中に大量の香辛料を詰めたものを陳列している屋台があった。

 

「カレーの具材に使いたいって事か」

 

ぽにゃ〜♪

 

 指さした先にあった物から連想した内容だったが、どうやら合っていたらしい。確かにフルーツカレーは試してみても良いかもしれないと思い、予定には無かったが、購入を決める。ただし、今購入してしまうと荷物が多くなってしまうため、しばらく買い置きしてもらう事にする。

 ドヒドイデとマラカッチにそう伝えると、ドヒドイデは嬉しそうにしながら、手に取ったフルーツを戻し、マラカッチはマイドアリ!とばかりに手を振って踊りだした。

 

 

 

 マラカッチのフルーツ屋で買い物を済ませた後、今日本来の目的地である掘り出し物屋に向かう。道路の両脇には屋台が沢山並んでおり、ついつい先程のように目移りしてしまう。その中には軽食屋などが有り、様々な香辛料の効いた匂いが混ざって漂い、大してお腹が減っていないのに食欲が湧いてくる。

 ……いや、ほんとここガラルだよな?ヒジャブ着てる人が出て来ても全く違和感が無いぞ。

 むしろ、露天商や買い物客が全員旅行者に見えて違和感を感じてきた。

 

 またラテラルタウンの不思議に頭を悩ませながら歩いているとついに目的地に着いた。

 そこは露店としてはこぢんまりしており、知らない人から見ればガラクタが揃っている、変な店に見えるだろう。ただ俺やポケモントレーナー達にとっては宝の山に見える。

 そんな『掘り出し物屋』の店の主に俺は気軽に話しかける。

 

「こんちわ〜、何か良い掘出し物ないですか?」

 

「ん?おお、嬢ちゃんか。今日は良いもんがそろってるよ」

 

 軽く挨拶を終えたあと、話し掛けながら陳列されている商品を見る。ただその殆どはわれたポットだった。

 

「掘出し物屋って名乗ってるんですから、本物の掘出し物とか出してくださいよ、ポイントマックスとかガンテツボールとか。最近われたポットしか見てませんよ。せめてかけたポット位無いんですか?」

 

「いやいや、ちゃんと掘出し物してるだろ。と言うより、ポイントマックスは薬品だから俺は扱え無いし、ガンテツボールはボールガイが持ってるだろ。われたポットは売れ行きが良いから置いてるんだ。むしろかけたポットを買う奴なんて嬢ちゃん位だろ?」

 

 話を聞きながら商品を全部見終わり、特に目ぼしいものが無いのが分かり、少し落胆する。

 

「うーん、特に新しいものはないか」

 

 そう気落ちしていると、店主がニヤニヤしながら話しかけてきた。

 

「そんな嬢ちゃんに朗報だ。前から嬢ちゃんが欲しがってた例のブツが手に入ったぞ」

 

「えっ、マジですか?」

 

「マジだ」

 

 そう言い、店主は後ろの暗がりに置いてる箱の中から毒々しいナニカが詰まった瓶を取り出した。

 

「おー、くろいヘドロ、手に入ったんですか」

 

「まぁな、珍しくエンジンシティで発見されたものらしいぞ」

 

 くろいヘドロは毒タイプ専用たべのこしと言った立ち位置だが、それだけじゃなく毒タイプは持っていると喜ぶらしい。そこで、ウツロイドはうしおのお香を持っているので、ドヒドイデにこれを上げる予定だった。

 ただ、ガラルではガラルマタドガスが辺りを浄化しまくるので中々入手できず、輸出入禁止品でもあるので入手は困難だったが、やっと手に入れる機会を得ることが出来た。

 

「買います、幾らですか?」

 

「そうだな、嬢ちゃんにはいつも他にも買ってもらってお世話になってるし、こんな値段だな」

 

 提示された値段は他の商品に比べたら高い値段だが、入手難易度の割に安く抑えられていた。

 

「そうですね……もくたんを優先して入荷して、俺の為にキープしてくれるならこの値段で買います」

 

 そう言い俺が提示した金額は提示された金額よりも高めの値段だった。そんな俺の発言に対して店主は思わず間抜け面を晒してしまう。

 

「……俺この店やってて、交渉で値段を釣り上げて来る奴とか初めて見たよ」

 

「まぁ、予約と言うか、依頼と言うか。そんな所です」

 

「緊急で必要なのか?だったらもうちょっと払ってもらえれば、しっかりと早く確実に入荷できるぞ」

 

「いや、そこまでじゃないです。あったらいいな〜程度で」

 

「なるほどな、それじゃその値段で売らせてもらうよ。あと、もくたんについてだが気に掛けておく」

 

 値段交渉が終わり、自分で提示した値段を払い商品を受け取ると、それを隣のドヒドイデに渡す。中身については察しが付いているはずだが、どこか疑問符を浮かばせている様な不思議そうな雰囲気を出していた。

 

 

 

 買い物を終え、フルーツも受け取り、寄り道で今俺とドヒドイデはラテラルタウンの壁画の前で休憩していた。

 俺は鉄の柵に寄りかかり、ドヒドイデはビンの中身を少ししゃぶった後日光浴をしている。

 

 こんな乾燥している場所でもドヒドイデを出しているのは、この子が暖かい日差しが好きだからだ。むしろ暑い位が好きなのかもしれない。

 また、ここの近くには池も有って水分補給も容易に出来る良い場所なのでここで休憩している。

 

 ドヒドイデがじっと動かず、全身で太陽の光を浴びている間は暇なので壁画に目を向ける。

 

 一言で表すのなら、芸術だ。

 

 ふざけている訳じゃ無い。真剣に考えた上での結論だ。

 人々が芸術的だと感じる瞬間は言葉に出来ない感情的なゆらぎが生まれる。こんな理由が有るから素晴らしい!では無く、ただ理由もなく感覚で感動を得る。その感覚の原因を探り、論理的に感動を生み出すのもまた芸術だ。

 ただ個人的には理由が分からない感動を得られる芸術の方が、先に広がりが有るようで好みではある。

 

 そしてこの壁画は、何故かは分からないが、見ている者を不安定にさせるような、脱力感を得られる様な不思議な壁画である。

 

 故に芸術だ。

 

 ただ、奥にあるはずのザシアン・ザマゼンタの石像の方が見たいので、さっさとぶっ壊れて欲しい。

 ポケモンと言う芸術に比べたら、あの壁画に価値は無い。

 

 今度来る頃には、石像が見られるようになっていると良いな、と思っていると、水を浴びたいのかドヒドイデが持っている瓶を俺に渡してきた。それを預かり、一緒に湖の方へ行く。もう少し日光浴をしたら帰ることにしよう。

 


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