バトらない自分のガラルな日々   作:アズ@ドレディアスキー

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プロローグだけでは味気ないのでこちらも投稿


2話 日常と非日常

 廊下に出ると放熱器を置いてないためか、少し肌寒く感じ身震いした。

 

 このガラルではもう初夏とも言える時期な上、温暖な気候のターフタウンでもこう感じてしまうのは、日本の気候に比べこちらが寒いのか、それとも「この体」が前に居たと思われる場所がアローラだからなのか。

 

 さっさと顔を洗おうと早足で廊下を抜け、洗面台に着く。

 冷えた水で顔を洗うと、鈍っていた感覚が段々と鋭敏になっていき、スッキリとしたところで隣に掛けてあるタオルで顔を拭く。

 

 そしてタオルから顔を離し鏡に目を向けると、そこには寝起きだからか、下ろした髪が少しぼさついたミドルティーンの少女が映っていた。

 

 まぁ、一言で言ってしまえば「USUMの女主人公」だ。

 

 

________________________

 

 

 寝て起きたら全く見知らぬ場所だった時の感情は全く言葉に出来ない物だった。

 

 余りに混乱して、ただ動悸が収まらず虚空を見つめる事しかできなかった事は覚えている。

 

 起きた後しばらくして、ナースと思われる人が部屋に入って来たのだが、その容姿とその隣に居たモノを見て、呼吸を忘れるほどに驚いた。

 

 明るいピンク色の髪を束ね、ナースのような服装をした女性。所謂ポケモンアニメでジョーイさんと呼ばれる人が俺の目の前にいた。

 そしてその隣には、かんじょうポケモンのイエッサン(メスのすがた)がクリップボードを持ってこちらを見ていた。

 

 しばらくの間思考がショートしていたが、とりあえず話ができるまで落ち着いたあと話を聞いてみると以下のことが分かった。

 

・朝にターフタウンのウールー牧場の草原で気絶している所を牧場主が発見した。

・特に外傷は見当たらず服や荷物も軽装だった。

・トレーナーIDカードを所持していたので現在確認中

 

 話の途中で自分が男から女に変わっている事を知り、後々頭を抱える事になるのだが、当時は自分がポケモンの世界にいる事に比べたら驚きは大したことがなかった。

 そして窓に映った自分の顔を見て、自分がただの女性では無く、USUMの女主人公になってしまった事に気付く。

 

 しばらくの説明の後、今度はいくつか質問をされた。

 

Q:お名前は?

A:分からない。(名前はあるけど多分この体の名前じゃない)

 

 始めの質問から躓き、ジョーイさんの優しそうな表情が少し険しくなった。

 

Q:起きる前に何をしていたか覚えてる?

A:家で寝てた。起きたらここに居た。(性転換込み)

 

Q:お家はどこ?

A:多分アローラ。(具体的な住所を知らない)

 

Q:両親はどこ?連絡先は?

A:分からない。(そもそもこの体の両親の情報を知らない)

 

 このあたりでジョーイさんの表情は笑顔をしていても目は笑っておらず真剣そのものになっていた。

 そして次の質問を始めようとした時、部屋に少し太り気味の警察官らしき人物がやってきた。

 その警察官の風貌はまんまゲームに出てくる物と同一だったが、表情だけはゲームで見たようなヤバイものではなく至って普通の物だった。

 

 警察官がジョーイさんに耳打ちをすると、しばらくこの場を離れることを俺に伝え、部屋には俺とイエッサンだけが残された。

 

 手持ち無沙汰となると、どうしても視線がイエッサンの方に向かってしまう。それを受けてかどこか居心地が悪そうなイエッサンは、こちらをチラッと見ては目を逸らす行為を繰り返した。

 

 ただ、自分にとって架空の生き物であるポケモンと、触れ合えるかもしれない興奮を抑えることが出来なかった。

 

「あの……」

 

 遠慮がちに言ったつもりだったが意外と声が大きかったらしく、イエッサンはビクリと震えたあとこちらに目を合わせた。

 

「頭を、撫でてもいいかな?」

 

 こう言った後、イエッサンは少しキョトンと首を傾げたあとこちらに近寄ってきて頭を差し出してきた。

 これを了承とした俺は恐る恐る頭に手を置いて、ゆっくりと撫でた。

 

 見た目通りサラサラとした感触で、何より温かかった。

 

 ここで初めて俺はポケモンの世界にいる事を実感した。イエッサンやジョーイさんなどを見た時、会話の内容などで状況として理解はしていたが、どこか浮ついていてまだ夢の中に居るような感覚だったからだ。

 

 そしていざ実感してみると、自分の境遇と今後に対する不安が溢れ出た。

 自分はゲームやアニメとしてでしかこの世界を知らない。

 

ゲームに近い世界だとしたら時系列はいつだ?

自分はこの世界で生きていけるのだろうか?

退院してからの生活をどうする?

知己が誰も居ない、誰も頼れない。

 

 頭の中に沢山のどうしようが浮かんだとき、少し撫でて止まっていた手をイエッサンが優しく両手で包んでくれた。

 

 イエッサンは感情を読み取ると言われるその角で俺の不安を読み取ったのかもしれない。

 その気遣いに心の中が温かくなり、いくらか不安感が落ち着いた。何も問題は解決してないが、これ以上悪い方向に考える事は無いだろう。

 

 そして、今度は包まれている手と反対側の手を使い、気持ちを込めて撫でると、イエッサンの方から気持ち良さそうな鳴き声が聞こえてきた。

 

フィルーウ♪

 

……ゲームで見たけどちゃんとそう鳴くのね。

 

 

 

 そうしてしばらく撫でて居ると二人が部屋に戻って来た。

 何かあったのか先程よりもジョーイさんの顔が明らかに険しくなっていたが、それはおいといて、"なやみのタネ"であった俺の今後について話し合われる事になった。

 

 まず俺の今後についてだが、しばらくターフタウンに住む事になった。

 

 多分と曖昧に伝えたが、アローラ出身と伝えたため、アローラに送られるかと思ったがそんな事は無かった。どうやら俺をアローラに送るための手続きに時間がかかるらしい。

 

 当時は実質不法入国だからそういう事もあるか、むしろ捕まら無くて良かったと思っていた。後で気づいた事だがむしろ送られずに済んで良かったかもしれない。

 

 あくまでゲームだが、知識として知ってる範囲で推測すると、もし俺がアローラに送られていた場合、まず間違いなく問題が起きていた。それも割とシャレにならない奴。

 火中の栗を拾いに行くという表現があるが、俺は下手したら火中の栗の中に投げ入れられる所だった。

 

 次に俺の生活だが、なんとジムトレーナー達の寮に住みつつ、ジムのお手伝いをする事になった。

 

 理由としてはガラルのトレーナーIDを発行していないにも関わらず俺がポケモンを複数匹所持していたため、ガラルのトレーナーIDが発行されるまでその監督役としてジムトレーナー達が選ばれた訳だ。

 こちらも後々に詳しい話を聞いたところ、俺の所持していたトレーナーIDに問題が有り、普通であれば移行するだけで済むところを、新しく発行するのに時間がかかり、未許可でポケモンを所持している状態をどうにかするため、このような処置となったそうだ。

 

 話を終えると、預かっていたらしい白い肩掛けバッグと、USUM主人公の顔写真が写り、名前の欄に「コウミ」と書かれたトレーナーIDカードが渡された。

 

 先程の説明とどこか見覚えのある肩掛けバッグにもしや、と思いバッグの中を確認すると、いくつかの小物に加えて、目的の物があった。

 

プレミアボール3個

ラブラブボール2個

ゴージャスボール1個

 

 それは、寝る前にポケリフレで戯れたポケモンのボールの並びと全く一緒だった。


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