バトらない自分のガラルな日々   作:アズ@ドレディアスキー

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19話 テレビな日

 何時もと違い、シリアルを食べるためのスプーンが今日はちょっと重く感じる。

 

 今日は目覚し時計が鳴る前に起きるし、顔を洗う前から目は覚めてたし、今もシリアルを食べながらどこかふわふわとした妙な感覚に陥っている。

 

 この違和感の原因はこの後に有るイベントのような物のせいだ。

 数日前から予定に組み込まれていたので、心の準備は出来ていたと思っていたが、いざ当日になるとそれらの準備はまるで意味が無かった。

 

ひゅわわわ〜

 

 何時もよりゆっくりと朝食を取っていると、不意に、後ろから肩をとんとんされた。鳴き声からして恐らくウツロイドだろう。いつの間にかボールから出ていたようだ。

 

 何か伝えたい事でも有るのかと思い振り向くと、そこには『うしおのおこう』を両手で持ったウツロイドが浮かんでいた。

 俺が振り向くと、ウツロイドは持っていたそれを俺に差し出して来る。それで呼ばれた理由はなんとなく分かったが、念の為それを受け取り確認する。

 

「……量が少ないな、もうそろそろ買い替え時か。分かった、次バウタウンに行く時に新しいのにしよう」

 

ひゅわ〜♪

 

 そう言うとウツロイドはその場で嬉しそうにくるくると回った後、俺から『うしおのおこう』を受け取り、そのままリビングの方にゆらゆらと向かって行った。恐らく作業の時間までお気に入りの場所でゆっくりと過ごすつもりなんだろう。

 

 そんなマイペースなウツロイドを見て、先程までの妙な違和感が軽くなった。

 浮ついた気持ちが、ウツロイドと交流していつも通りののんびりとした気持ちに変わった感じだ。

 多分ウツロイドは俺のそんな気持ちを察して聞いてきた訳では無いと思うが、とても助かった。これでいつも通りの気持ちでイベントに望めそうだ。

 

 そしてテーブルに向き直り、再び朝食を食べ始める。

 食べているのは何時もの少し甘めのフレークにミルクでふやけた乾燥フルーツの入ったシリアルだが、先程まではそれらの味を楽しむ余裕が無く、余り感じられなかった味が今ではしっかりと分かるようになった。

 しっとりとしたフルーツの酸味や甘みを感じ、口の中で転がすと自然と頬が緩む。

 

 その後ゆったりとしながら、朝食を楽しんだ。

 

 

 

「こんにちは、マクロコスモス・ネットワークです。本日は取材を受けていただきありがとうございます」

 

「はい、本日はよろしくお願いします」

 

 朝食を終えた後、少し農場の門の前で待っていると予定されていた時間にテレビクルーと思われる男女の二人組が小さいバンに乗ってやって来て、リポーターと思われる女性と話している。

 

 そう、今日あるイベントとはテレビの取材だ。

 ターフ農場経由で今回の話が上がってきて、深夜のニュース番組のコラムに出演する事になったのだ。

 話を聞いた時は冗談か何かかと思ったが、取材オーケーをターフ農場に伝えた後、直接メールが届いた時に実感が湧いて、その後はずっと心の準備をしていた。結局ウツロイドに助けられたのでそれらは意味がなかったのだが。

 

「それで今日の取材の予定ですが、メールで伝えたように、話題のチュリネの葉が出来るまでの作業を密着して取材させて頂きたいと思います」

 

 既に聞いていたことだが、再び予定を聞いてお互いに内容に相違が無いことを確認した。そしてその内容に少し疑問が湧いたので、その疑問を聞いてみる。

 

「あの、出来上がるまでとなるとかなり時間がかかりますよ?コラム自体は十数分と聞いていますが、それをそんな長い時間を掛けて大丈夫なんですか?」

 

「それなら大丈夫です。もともとこの企画自体が低予算で組まれています。テレビクルーも見て頂いて分かるように、リポーターの私とカメラマンの彼しか居ません。それに、放送するのは多く録画した内の一部分なので、素材が多いほど後の編集が楽になります」

 

「なるほど」

 

 リポーターの方が答えてくれた内容に納得し、頷く。

 ほぼ密着取材のような物を、短いコラムにしてしまっても大丈夫なのかと思ったが、どうやら問題無いらしい。

 確かに言われてみれば、クルーが二人だけと言うのもかなり少ない。照明やディレクター等他の役職の方達が見当たらない。恐らくディレクターに関しては二人の内のどちらかが兼任しているのだろう。

 

「それでは確認も終了致しましたので、これから導入部分を撮りたいと思います。その後は、基本的に普段通りの農作業をして頂いて、時折私が質問等をすると思うのでそれに答えていただけたらと思います。それでは改めまして、よろしくお願いします」

 

「はい、今日一日よろしくお願いします」

 

 そう挨拶を交わしたあと、二人は導入部分を撮る為に一旦農場の外へ、俺は農場の門の前で待機する。

 事前に何が起こるか知ってる身からすると、殊更茶番感を感じてしまい、うまく受け答えが出来るか不安になる。

 

ピュイ?

 

 そんな考えを巡らしていると、隣にいつの間にか居たドレディアが不思議そうにこちらを見つめていた。

 とりあえず丁度いい位置に居たので、何も考えずに撫でるとドレディアはそれを気持ち良さそうに受け入れた。

 

「本日はこちら。最近密かに流行っている手に入らないあのチュリネの葉を売っている『チュリネ農場』にやってきております!」

 

 撫でて少し時間を潰している内に、二人組が農場の入り口に撮影しながら向かって来ているのが見えた。あと少ししたら俺の軽いインタビューが始まり、それが終わった後に本格的な密着取材が始まる。

 

 そして二人組がやってきたので、ドレディアを撫でるのを止め、聞かれる質問を思い出しつつ準備した。

 なお、その時は台詞を噛んでしまい一回NGを出されたが、それで緊張がほぐれ、その後は特に何も問題が無いまま導入部分の撮影が終わった。

 

 

 

「とりあえず午前中の撮影お疲れ様です」

 

「はい、お疲れ様です」

 

 導入部分の撮影が終わった後、特に何も問題が無いまま午前中の作業が終わり、昼食の部分を一部撮影して全員で昼休憩を取っているところだ。

 レポーターはサンドイッチを食べながら俺のところに来て挨拶をして、カメラマンは同じ物を食べながら機材のチェックをしていた。

 チュリネ達は昼食を食べながらそんな事をしているカメラマンが気になるのか、近づいて作業を見ている。

 

「それにしてもあのポケモン達、テッカグヤとウツロイドでしたっけ?あの二匹を撮影出来ないのはとても残念です。片方はダイマックスしないでもあの大きさですし、もう片方はキラキラしていて映像映えしそうな見た目で勿体なく感じてしまいますね」

 

「あはは、すみません。それに関しては国際警察の方から過度な拡散はNGだと言われているので」

 

 そう会話していると、俺の返しにレポーターの方がクスッと思わず吹き出したような反応をした。

 

「それじゃまるで芸能事務所に所属している方みたいですね」

 

「確かに……言われてみればそんな風にも捉えられますね」

 

 公権力が事務所のような物だと言われ、そのギャップにこちらもくすりと笑ってしまう。

 国際警察が芸能事務所に置き換えると、さしずめハンサムさんはプロデューサーで、リラさんはアシスタントプロデューサーだろうか?

 思わずプロデューサースタイルなハンサムさんとそれに付き添うリラさんの姿を想像し、そのギャップから余計に吹き出してしまう。

 

「まぁ、あの二匹を映像に収められないのは残念ですけど、それが無くても十分に良い映像が撮れたので大満足です」

 

「そんなに良い映像が取れたんですか?」

 

 一通り笑うとレポーターからそんなことを言われたが、疑問に思い聞き返した。

 彼女は良い映像だと言ったそれは、俺からしたら何の変哲もない日常で、特に代わり映えの無いものだ。そんなものが良い映像と言われ気になった。

 

「はい。まるでチョロネコやワンパチを見てる時のような癒やしの映像が撮れました。特に作業しているコウミさんの後ろをタイレーツのように後ろについて回るチュリネ達の映像はぜひとも使いたいシーンですね」

 

 そう言われなるほどと頷いた。確かに俺にとっては日常だが初めて見る人からしたら微笑ましい光景なのだろう。

 

「そう言ってもらえて光栄です。そうだ、ポロックモドキ食べますか?美味しいですよ?」

 

 少し照れてしまい、それを隠すために食べようと用意していたポロックモドキを彼女に薦めた。

 すると俺の言葉が意外だったのか、彼女は少し目をぱちくりとさせた。

 

「あれ?それってポケモン達用と聞いていたと思うのですが、食べるんですか?」

 

「あれ?言ってませんでしたっけ?人でも美味しく食べられるように調合しているので、自分用でもあるんですよ」

 

 そう言いながらポロックモドキの入っている皿を彼女に差し出すと、その皿をしばらく見つめた後にカメラマンの方に振り向いた。

 

「ちょっと食レポしたいんだけど今カメラ回せる?」

 

「ゴメン、テープの確認してるから今は無理」

 

 そんな短いやり取りがテレビクルーの二人の間であった。

 彼らからしたらそれが日常なのだろうが、俺からしたら彼らのスピーディーなやり取りが新鮮に感じた。

 彼女がチュリネ達の行動を良いと思った感覚はこんな感じなのかもしれない。

 

「うーん、それじゃすみません、これ頂きたいんですけど食レポの時まで残しておいて頂けますか?」

 

「はい、全然良いですよ」

 

 彼女は少し申し訳なさそうに俺にそう言ってくるが、俺は全然構わない。主食はあくまでサンドイッチでポロックモドキは副菜のような立ち位置なので食べなくても別に困らない。

 ただ、もしかしたら食レポが終わって余るかもしれないので、その時はつまみながら作業をするとしよう。

 

 俺が答えた後、彼女はテープ交換をしているカメラマンを急かすように近くに行って作業を見つめ始めた。

 少し離れた場所から見ると、チュリネ達&レポーターの女性に囲まれて作業をするカメラマンと言う、なんとも言えない奇妙な光景が広がっていた。

 そんな中我関せずと黙々と作業を続けるカメラマンは、どことなく雰囲気がウツロイドと似ているので、意外とウツロイドとあのカメラマンは仲良く……出来るのか? マイペース同士はどんな交流をするんだろう?

 

 そんなくだらない考えをしながらサンドイッチを食べ、昼休憩の時間が過ぎていった。

 

 

 

「もうそろそろしたらCMが終わるな」

 

フゥーン

 

 昼食後、滞り無く取材を終えてテレビクルーの二人と別れた後、俺はポケモン達と皆でリビングのテレビを見ている。

 俺がそう呟いたあとに返事をしたのは、膝の上に居るラティアスだ。

 手持ちのポケモン達以外にも、広いリビングはほとんどチュリネ達で覆い尽くされており、リビングの中で草の香りが強く漂う。

 

 皆でテレビの鑑賞会をすると大体何時もこんな感じになる。

 チュリネ達の中にはテレビに興味の無い子も居るので、そういった子達は厩舎で既に寝ている。しかしそういった子達は少数派で、ほとんどのチュリネ達は鑑賞会を楽しみにしている。

 テッカグヤは物理的に家に入れないので、プレミアボールの中から観戦する形だ。

 

 そうやって皆で集まって何を見るのかと言うと、今日取材された番組ではない。その番組は数日後に放送される予定なので、そちらもまた鑑賞会を開く予定だ。

 

 それでは今何を見ているのかと言うと、ガラルリーグ、セミファイナルトーナメントだ。

 

 ジムチャレンジの期間はすでに終わり、数日前からトーナメントの発表がされている。

 その組み合わせの中にユウリ、ホップ、マリィの姿が有り、どのような試合を見せるのかとても気になる。

 

 現地で見る事も考えたが、最近ジムチャレンジを見る為に農場を空けがちであったため、この試合に関しては家のテレビで見る事にした。

 

 欲張りの化身が採用されたCMが終わると、ポケモンリーグのロゴが流れ、そこから実況と解説の人の挨拶が始まる。

 CMで見る分にはヨクバリスは笑顔がキュートな可愛いポケモンだ。しかし、起用されたヨクバリスはスポンサー企業に対してどのような報酬をねだったのか気になる所だ。謙虚なヨクバリスはもはやヨクバリスでは無いナニカなので、恐らく何かをヨクバリスしたのだろう。

 

 そんな事を考えていると、実況と解説の挨拶が終わりいよいよチャレンジャー達が登場する場面になる。

 チャレンジャー達の紹介はもう既に少し前に終わっており後はバトルを待つのみである。

 

 テレビにはバトルフィールドの中央に向かって歩くユウリとマリィが映っていた。会場の盛り上がりはテレビ越しでも分かり、それに合わせてポケモン達は各々盛り上がりを見せていた。

 家の外からは微かに雄叫びが聞こえて来て、他の人も同じ番組を見ていることが伺える。

 

 そして二人が中央に立ち、向かい合うとスンッと会場が静まり返る。これから彼らの会話を聞き逃さない為だ。

 

『あんたならジムバッジを集めここに立つとわかっとったよ』

『アニキのこととかスパイクタウンを盛りあげるとかいろいろあるけど……』

『けっきょくあたし自身がチャンピオンになりたか!!』

『だからあんたのチーム気持ちよくおねんねさせちゃう!』

 

『わたしもマリィちゃんならここに来るって分かってた』

『マリィちゃんとは違って背負うものが少ないわたしでも……』

『一緒に旅をして来たポケモン達の為にも勝ちたい!!』

『だからマリィちゃんのポケモン達を全力で倒す!』

 

『モルペコ!!!』

『インテレオン!!!』

 

 互いに啖呵を切った後、腰に付けているボールを同時に投げる。

 ボールからポケモンが出てきた瞬間、再び会場が歓声に包まれ、実況席にも伝わり、それがテレビに流れる位の盛り上がりを見せる。

 

 ファイナルトーナメントの出場権を賭けた戦いの幕が切って落とされた。

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