バトらない自分のガラルな日々   作:アズ@ドレディアスキー

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20話 夜の日

 昼なのに辺りは妙に暗く、空は赤みがかった雲に覆われており、天から差し込む光まで若干赤い。

 そんな光景から、まるで自分達が世界の終わりを体験しているような気分になる。

 

 これが所謂ブラックナイトと言うやつなのだろう。

 

 セミファイナルトーナメントを勝ち抜き、ファイナルトーナメントにも勝利したユウリちゃんがチャンピオンであるダンデに挑む直前にこれが始まった。

 

 その時俺とポケモン達は家のリビングで鑑賞会を開いており、いざ二人のバトルが始まろうとしたその瞬間にテレビがジャックされ、ローズ委員長の短い演説と共に空に変化が訪れた。

 やはり起きてしまったかと感じると共に、俺はポケモン達が不安にならないように全員とコミュニケーションを取ろうとした。

 

 ……でも俺のその考えは杞憂だったらしい。

 

 今俺とポケモン達は農場の開けた所に居るのだが、ほとんどのポケモン達は余り不安を感じず、何時ものように過ごすか、それどころかまるで祭りでもあるかのようにはしゃいだりしている。

 

 チュリネ達は若干赤みがかった地面や普段と色の違う他のチュリネ達に興奮して、そんな赤い部分などを触ったりしてはしゃいでいる。

 ドレディアとエルフーンはチュリネ達と一緒にはしゃいだり、はしゃぎ過ぎている子を注視して気に掛けたりしているようだ。

 ラティアスは空から何かを感じたのか、空が変化してから少しの間顔をしかめていたが、今では何事も無かったように俺の背中を占領してリラックスしている。

 ドヒドイデとウツロイドは農場にある小さな池で自由に過ごしており、ドヒドイデは池の縁に張り付きながら水浴びを、ウツロイドは頭だけが水面に露出した状態でぷかぷかと浮かんでいる。

 鑑賞会が終わり、ボールから出したテッカグヤは先程からずっと空を見上げたままだ。どこか物欲しそうな顔をしている事から、ダイマックスエネルギーを食べているあの子からすると、今の空一面がご飯だらけに見えるのだろう。

 

……チュピピ

 

「ん、怖くないよー、大丈夫、大丈夫」

 

 椅子に座りながら両手で抱えているチュリネが不安そうな顔をしながら、弱く鳴いた。頭の葉もしっかりと立っておらず、へにょんとしていて元気がない。

 そんな子を落ち着かせる様に優しく声を掛ける。

 

 殆どのポケモン達は特に怯える事は無かったが、中には今俺が抱えているチュリネの様に臆病で不安になっている子も居る。

 抱えている子以外にも、座っている椅子の隣で腰にしがみついて顔をうずめている子、足のズボンの端を掴んで離さない子も居る。

 

 波動やサイコパワー等に疎い俺でさえ、あの赤みがかった雲からは不吉な何かを感じ取れるのだ。臆病な子達が怯えるのは何もおかしい事じゃない。

 

 そして俺の声に少し安心出来たのか、抱えている子の頭の葉に少し元気が戻った。

 

 逆に顔をうずめている子は緊張しっぱなしのようで、体も頭の葉もピクリとも動かない。

 今度は抱えている子を膝の上に下ろし、空いた手で顔をうずめている子の後頭部をゆっくりと撫でる。

 

 するとターフタウンの方から人々の混乱した声が少しターフタウンから離れているこの農場まで聞こえて来た。

 そんな声が聞こえたからか、顔をうずめている子は頭の葉がこれ以上無い位上に向かってピンと伸びている。

 

「大丈夫。そのうち普通の空に戻るから。そんなに怖いならとりあえず今はポケリゾートの方に行く?」

 

 そう俺が聞くと全く動かなかった子は顔を擦りつけながらイヤイヤと首を振った。どうやら今は離れたくないみたいだ。

 それを受けた俺はその後も声を掛けながら頭を撫で続ける。

 

 ターフタウンの方から聞こえてきた混乱の声は、今撫でている子をより不安にさせたが、それはしょうがない事だと感じた。

 むしろこんな天変地異が起きているのに、ここまで落ち着いている俺やポケモン達が異常なのだろう。

 

 俺はこれが近い内に収束する可能性が高い事を知っているし、ポケモン達はそんな動揺していない俺を見て安心している。

 実際にテレビで見たユウリちゃんは驚く程に強くなっていた事から、この天変地異の原因でもあるムゲンダイナの捕獲も出来るだろうと踏んでいる。

 

 それにもし、彼等が失敗したとしても、最悪俺が動けば何とかなると楽観視している部分もある。

 

 対人のポケモンバトルは余り得意では無い俺だが、野生のポケモンバトルはほぼポケモンの能力が勝敗に直結する。そんなバトルが余り得意では無い俺でもポケモン達の力を借りれば多分大丈夫だろう。

 いざという時は色々な法律などを無視して、リゾートで過ごしているポケモン達も連れて行って全力であたれば、力負けする事は無い筈だ。

 

 ……そんな考えを抱く度に何処からか強烈な波動を感じる。『げきりん』をしたいという波動が。

 彼は遠く、もしかしたら次元すら違っているリゾートに居るはずなのにここまでその念を届かせるなんて渇望がヤバすぎる。俺はこういった波動とかは全然なのに。

 

 どこかでアップを始めている彼には申し訳無いが今回は我慢して欲しい。

 その最終手段はとにかく諸刃の刃なのだ。

 

 まず移動する時の手持ちは最大6匹という法律を破る事になるし、バトル時の指示は大雑把になり、恐らくナックルシティの城が崩壊する。

 最大火力を出すとなると、ヘビーボンバー、りゅうせいぐん、ふんか等周りにも被害が及ぶであろう技を出し惜しみする余裕はない筈なので、恐らく城があぼんして、下手したら町も大打撃を受けるかもしれない。

 その被害額を補填できる程の財力を一農家である俺は持っていないので、本当にやりたく無い。

 

 そしてこの件に関しては俺は完全に部外者で、急に出て行って、『誰だお前?』となるのは少し凹む。くだらなく感じるかも知れないが、そんな目をむけられたら指示に集中出来る筈もなく、より指示が大雑把になって被害額が更に増えるだろう。

 

 もしそうなった時の被害額や借金に顔を青くしていると、南東の方角から二つの流星の様な光が、北東の方角に向かって飛んで行く所が見えた。

 

 ポケモン達は興味深そうにそれを目で追って、俺は先程まで考えていた最終手段をしなくても良くなったと安堵した。

 

 一対の流星からは闇を払うような聖なる何かが発されており、赤みがかった雲を切り裂くように一直線に飛んで行っている。

 光の隙間からちらりと見えた姿に、柔らかそうという感想を感じたのも最終手段に手を染める必要が無くなって安堵したからだろう。

 

 それらはしばらく空を飛んだ後、ある地点で地面に向かって落ちて行った。

 位置的に丁度ナックルシティの辺りだろう。

 

 俺から完全に緊張が取れたのを察したのか、背中のラティアスや側に居るチュリネ達が反応した。

 ガラルの一大事なのに随分と俗な悩みに振り回されていた気もするが、一般人的感覚からすれば、世界の命運よりも身近な悩みの方がイメージしやすい。

 正義のヒーローなど柄ではないし、もし成るのだとしてもそれは身近な誰かの為にだろう。

 

 ただその責を自分よりも年下な少年少女におしつけてしまう形になってしまったのは少し心残りだ。

 果たして大人な自分がこんな風に傍観しても良かったのだろうか?被害等を無視して駆け付けるべきでは無かったのか?と考えを巡らす。

 

フゥーン

 

 そんなもう過ぎてしまった事に悩み始めると、背中からラティアスが俺の肩を叩きながら柔らかい声で鳴いた。それはまるで先程抱えていたチュリネを俺が撫でた時の様だった。

 ラティアスだけでは無く、近くに居る他のポケモン達もそんな俺を心配そうに見ている。

 

「ありがとう、もう大丈夫」

 

 そんな彼らを見て、考える事を止めた。

 俺にとってはこの子達や、この子達と一緒に暮らす農場が一番大切だ。

 それを犠牲にする可能性がある位なら、やらない方が良い。

 

 そうして考えを落ち着けると、再び側に居るチュリネ達を撫で始めた。

 

 

 

 その後しばらくすると雲が晴れていつも通りの空に戻った。

 ポケモン達はいつも通りの農場に戻って少し残念そうにしている子、何も変わらない子、安堵している子等その反応はまちまちだ。

 

 そんな中、先程まで俺の近くを離れなかった子達は一日中俺の側を離れる事なくずっとついてきて、最終的には寝る時のベッドの中まで潜り込んできた。

 

 しょうがないなぁ、とその日はそのまま一緒に寝る事になったのだが、それ以降他のチュリネ達や手持ち達もたまにベッドに潜り込んでくるようになり、後にベッドをもう少し大きい物にしようかと検討する事になる。

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