活動報告でも書いたのですが、少しゴタゴタが有りまして執筆出来ませんでした。
でももうひと区切り着いたので再開します!
とはいえ次回最終話なのですが……
それでは大変お待たせ致しました、今回は少し長めです。
静かだ。
普段ジムバトルが行われるターフスタジアムの中心に立ち、目を閉じて静寂をその身に受けて思う。
もちろん風の音など微かな物は感じられるが、瞼の裏に広がる華やかな光景を思うと、むしろ逆にその静けさが際立つ要因となっている。
瞼の裏では俺がヤローさんに対してジムチャレンジを挑んでいる光景が浮かんでいる。
観客席からは空気が震える程の声援が届き、俺とヤローさんのポケモンが技を繰り出す度にそれは大きくなる。
あり得ない光景だが、ここ何週間かジムチャレンジを含めたリーグを見て感化されて、不意に妄想してしまう。それも新たなチャンピオンが生まれた試合を見れば、ポケモンバトルに少しでも心得の有る者なら似たような妄想をするだろう。
舞台がターフスタジアムで相手がヤローさんなのは、ただ単に今俺が居る場所がターフスタジアムなだけで、他の人は恐らく歴史が動いたシュートスタジアムでそれを思い浮かべると思う。
事は数日前、ガラル全土を巻き込んだブラックナイトが二人と二匹の英雄によって解決され、それが周知の事実として広まった頃。そして、その事件によって怪我を負ったチャンピオンが完治した時。例の事件によって中断されていたガラルで最も注目されるイベント『チャンピオンマッチ』が再び開催された。
ブラックナイトやローズ委員長の自首、等の混乱の多い三日間であったが、ガラルの人々はそれを乗り越え、試合当日は大変な盛り上がりを見せた。
無敗の英雄。
ブラックナイトを鎮めた英雄。
この二人の英雄のバトルは、それはもう頂上決戦と呼ぶにふさわしい白熱したバトルだった。
一進一退の攻防。
高度で複雑な駆け引き。
ポケモンとトレーナーの一体感。
そのどれもがテレビ越しでも熱を感じられる位に白熱していた。
そしてお互いに最後の一匹。
ユウリはインテレオン、ダンデはリザードンと奇しくもお互いのパートナー対決となり、互いのダイマックス(キョダイマックス)が切れてもしばらく続いた戦いは、流石に相性の差を覆し切れなかったリザードンがインテレオンの正確無比な"ねらいうち"を急所に受け、地面に伏せた所でこのガラルに新しいチャンピオンが生まれた。
「ふぅ……」
息を吐きながら妄想を止め、目を開く。そこには先程の妄想とは正反対の光景が広がっており、妄想で少し高ぶっていた心を落ち着かせる。
今から自分が行うバトルは妄想の様な華々しさからは程遠い物になるだろう。
歓声も無い、勝利の栄光も無い、記録に残らない勝敗が互いの胸に刻まれるだけの小さなバトルが行われる筈だ。
だけどそれでも構わない。
"それ"を求めているのでは無く、ただ恩人や友達に対する小さな恩返しとお節介がしたいだけだ。
そんな気持ちでここに立っていると言うのにあのような妄想をしてしまうなんて、あのバトルの影響力は計り知れないな、と苦笑いする。
……カツン
……カツン
……どうやら待っていた相手が来たようだ。
「やれやれ……セレブなワレワレが来たというのにレッドカーペットの一つも無いとは」
「全くですな兄者。ここの平民はワレワレが来るという事の重要性を全く理解出来てない様子……ですがそれもこの計画が成功すれば変わるでしょう。暗愚な平民達にワレワレやご先祖様が偉大であるという事を改めて知らせてやるのです」
そう言いながら選手用出入口から出て来たのは、片方は赤いスーツに盾のような髪型をした男。
もう片方は青いスーツに剣のような髪型をした男。
ガラルの王達の末裔のシーソーコンビだ。
そして髪の毛の形を整えるためなのだろうか、ジェルで固められているようで、空から差す光が髪に当たり妙にキラキラと輝いている。
「……おやおーや?なにやらスタジアムの中央に人が居るみたいですね。確か今の時間ココに人は居ないと聞いていましたが?」
「えぇ、兄者。ワレもそのように聞いていますが、どうやら情報に誤りが有った様子。ですが見たところただの平民。ワレワレの威光を示せば自ずとワレワレの指示に従うでしょう」
俺と例の二人の目が合い、向こうはなんとも失礼な会話をし始めた。元からこんな人達である事は知っていたが、いざ対面してみるとその言動に面食らってしまう。
ただ、目的の彼等が来たので俺もただ立ち続けるだけじゃなく行動を起こす。
「こんにちは、二人はターフスタジアムに何か用でしょうか?」
彼等の目的を知っている上でとぼけて話しかける。その事実を意識し過ぎたせいか、前から考えていた台詞が棒読みになってないか心配になる。
「えぇ!えぇそうですとも!」
「ワレワレはある計画の為にココに来たのです!」
……どうやらバレなかったようだ。これは俺の話し方に違和感が無かったのか、彼等の仰々しい話し方に比べたら小さすぎる違和感なのか判別に困るがとりあえず上手く行っているので良しとしよう。
「そうですか、でもおかしいですね。今日は来客の予定は無いと言う話をターフジムの人達から聞いているんですよね」
とりあえずの牽制。これでここから手を引いてくれれば万々歳だが……
「やれやれ……それは当然の事。何故ならワレワレ、アポ無しでココに来ているのです!」
「しかし! ワレワレはガラルの純血なる血族! 故に! 突然の訪問でも歓待を受けるべきセレブリティ!」
「よって少女よ、ココをワレワレに差し出しなさい!ワレワレには重要な計画があるのです!」
……何となく結果は読めていたが、まさか開き直るとは思わなかった。
それに思考がジャイアニズムを想起させるような横暴っぷりだ。ガラルの高貴な血筋=ジャイアンの図式が頭に浮かんでしまい、思わず吹き出しそうになるが、無理やり息を飲み込み抑えた。
そして彼らはその意志を変えるつもりは無いように見えるので、彼らが来る前から考えていた台詞を言う。
「なるほど、でも私もスタジアムに用が有ってココに居るんです。でもお二人もここを使いたいご様子。でしたらバトルで勝った方が使えると言うのはどうでしょう?」
若干理由としては苦しい部分があるが、それでも俺の予想通りなら、彼らはこの提案に食いつく筈。
「なんと野蛮な!そしてワレワレの威光を前にしても意見するとは何たる無礼!」
「しかし!ワレワレ、売られた喧嘩は二倍の値段で買うセレブ!」
「あなたはこのソッドがお相手しましょうぞ!」
そう言い、青いスーツの方が俺の前にやって来た。
チョロい。
チョロすぎる。
こんな雑にバトルを挑んでも即それに応える様子はなんだかんだ言ってポケモントレーナーだ。
でもこれで、後はバトルをするだけだ。
俺は中央に立っていたので、ソッドに背を向けトレーナーが指示を出す場所へ歩き始める。
ソッドも反対側に歩き始めた。バトルの直前だからか、今の俺は背中越しの革靴の音しか聞こえない。
そしてお互いにバトルするための定位置に付く。
妄想の内容と立っている位置は一緒だ。
ただ周りに居るのはシーソーコンビの片割れだけ。
先程少し妄想していた光景は、俺のスタイルでは有り得ない物だ。
だからこの状態がベスト。
勝利を掴むのに余計な柵は一切無い。
そして互いに最初に出すポケモンのボールを掴み、準備が完了する。
ポケモントレーナーのソッドが勝負をしかけてきた!
「行ってこいガブリアス!」
「ネギガナイト、セレブなワレに勝利を!」
ギュァッ!
ガグワァ!
互いの先発のポケモンが出てきて睨み合いになる。
俺の先発はバトルが始まる前からやる気をボールの中から感じたガブリアスだ。この子の『それ』が出来るチャンスだと感じたら一直線な所は相変わらずだ。現にネギガナイトと対峙している中俺の方をチラ見してきている。そして俺もその期待に応えるように頷いてみせる。
「ネギガナイト!"スターアサルト"!」
「ガブリアス!"げきりん"!」
指示は少しだけソッドの方が早かったが、ガブリアスはその差を覆す勢いでネギガナイトに迫る。
"スターアサルト"の予備動作の時点でガブリアスはネギガナイトの懐に潜り込み、その後の動きは速すぎて俺には見えなかった。
ガスッ、と鈍い音が響き、その音に反応出来た時にはネギガナイトが離れた場所で剣を支えによろめいているのが見えた。
「ネギガナイト?!」
「そんなっ?!兄者のネギガナイトが押し負けるなんて!」
その一瞬の攻防の結果にシーソーコンビは驚きを露わにして叫ぶ。
そして俺も叫びはしないが内心でガブリアスの"げきりん"を耐えたネギガナイトに驚いていた。ほぼクリーンヒットの状態で、下手したら急所に当たっていてもおかしくない一撃を耐え、よろめいてはいるものの大きな隙が有るようには見えない気迫を放っている。
ギュアアッッ!!!
「ッ!ネギガナイト!盾で防いで"たたきつける"!」
もう一度"げきりん"を放てるのが嬉しいのか、ガブリアスは先程よりも大きな叫びと共にネギガナイトに突進する。
それに気が付いたソッドは急いでネギガナイトに指示を出した。
そしてネギガナイトが構えた盾にガブリアスは頭からぶつかる。だがそれでガブリアスの勢いは止まらず、二匹はズザザとぶつかった状態のまま勢い良く地面を滑った。
次第に勢いが収まり始めた時、ネギガナイトはもう片方の手に在る剣を掲げ、ガブリアスに振り下ろした。
グワァッ?!
「んなっ?!」
ガブリアスは体勢を崩さず、その体で剣を受け止めていた。
一人と一匹はその事実に驚く。ガブリアスは突進した状態で前のめりの所を上から"たたきつける"を受けたのだ。普通はそのまま地面に叩きつけられてしまうだろう。
だがガブリアスは強い意思で踏み留まり、その眼光をネギガナイトに逆に叩きつけている。
一人と一匹はその強い意思に戦慄している様だが、俺には分かる。
あいつ"げきりん"打つ以外何も考えてねぇ、と。
"たたきつける"を耐えたのも、"げきりん"を打ちたいが為に気合で無理をしているのが分かる。恐らく普通に食らうよりも大きいダメージを負った筈だ。
ギュァッ!
グワッ――
そして彼らの意識の隙をつき、抑えつけられていた盾と剣を弾き、無防備の体をもう一度ガブリアスの"げきりん"が貫いた。
「ネギガナイトッ!」
「そんな、兄者のネギガナイトが……」
二度目の"げきりん"をその身に受けたネギガナイトは大きく吹き飛び、地面を転がった後に仰向けで目を回していた。審判が居なくても分かる。ネギガナイト戦闘不能だ。
ギュアァァッ!!!
勝利の雄叫びの様な鳴き声を上げているが、あれはただ単にもっと"げきりん"を打ちたいと言う意思表示なだけだ。ガブリアスにとっては勝利よりもそちらが優先される。ただ……
「ガブリアス、お疲れ様」
今回はこれで我慢して欲しい。このままでも勝てない事は無いだろうが、勝利条件が満たされない。少し残念そうな波動がガブリアスの収まったボールからしてきたが、それと一緒に満足げな波動も伝わってきた。……いやだからなんでお前が波動っぽいもの使えるんだ。
「ドヒドイデ、後は頼んだ」
ぽにゃー!
そして今度はドヒドイデを出す。表情は見えないが、やる気十分な鳴き声が聞こえる。
「よくもワレのネギガナイトを……仇を取るのです、グソクムシャ!」
グオォ゛ォ゛ォ゛!
ガブリアスの雄叫びとはまた違った迫力が在る雄叫びがスタジアムに鳴り響く。それに対して俺とドヒドイデに動揺は無い。
互いに二匹目のポケモン。まだまだこれからといった所だが、ここからが長くなる、いや『長くする』。
「グソクムシャ!"であいがしら"です!」
「ドヒドイデ!"まもる"!」
グオォ!
ポニャ!
ドスっと確かにグソクムシャの"であいがしら"は当たったようだが、ここから見えるグソクムシャの表情は虫なので分かり辛いが、困惑している様だ。
それもそのはず、恐らく手応えがほとんど無かったのだろう。守りに徹したドヒドイデを抜くのはそう簡単な事じゃない。そして何時もならこの隙に"どくどく"を放つのだが、それはしない。
彼らにはまだまだ付き合ってもらう必要がある。
「耐えられましたか、それなら"アクアジェット"!」
「"ねっとう"!」
放たれた"ねっとう"は俺が狙う場所を指定しなかったからか、グソクムシャに当たらず、逆にグソクムシャの"アクアジェット"が決まる。
「ハーッハッハ!どこに向けて放っているのです!」
「……」
煽られるが黙ってそれを受け止める。防御一辺倒では張り付かれて必要以上のダメージを食らってしまう。そこで当たらなくても攻撃は行う事で相手に防御だけでは無いと思わせる。
そして当てるつもりも無い、と言うより当てられない。
今自分はドヒドイデの状態と攻撃が飛んでくるタイミングに全神経を注いているのだから。
早すぎてもダメ。遅すぎてもダメ。
ちょうどいいタイミングに指示をしなければ成功しない。逆にそれさえ出来れば大丈夫だ。
「もう一度"アクアジェット"!」
「"まもる"!」
そしてそんな攻防がしばらく続く。
アクアジェット、じこさいせい、シザークロス、まもる、シザークロス、ねっとう、シザークロス、まもる、ふいうち、まもる、アクアジェット、ねっとう、ふいうち、じこさいせい……
タイミングだけでは無く"ふいうち"にも気を回しながら、技を選んでいく。
初めの内は手を出せていないこちらを、余裕綽々と見つめていたソッドも、技の応酬で考えを変えたのかその顔からは笑みが消え、冷静に状況を判断し技を指示する。
しかしそれでも有効打は出ない。
タイミングを外してシザークロス、ねっとう、遠くから勢いをつけてアクアジェット、まもる、連続でアクアジェット、じこさいせい、ふいうち、まもる、ふいうち、じこさいせい……
プルル……プルル……
そんな技の応酬が長く続いてお互いのポケモンとトレーナーに疲れが出てきた頃、側でバトルを見守っていたシルディのロトムフォンの着信音と思われる音が鳴ってきた。
「おっと、ワレに電話が来たようです……」
そう言い、会話をはじめたようだ、俺は次に繰り出される技とタイミングを図る為そちらを向けないが聞こえてくる音で電話に出ている事が分かった。
「はい、セレブリティ…………えぇ、…………なんとっ!…………連絡ご苦労でした」
そう言い通話を切る音をさせた後シルディはバトル中にもかかわらず、ソッドに声を掛けた。
「兄者、計画変更です。次の場所に早く向かわねばならなくなりました。ココでの計画を中止して今すぐ向かいましょう」
「なんと!もうそんなに時間が経って……クッ、勝負を投げ出さなければならないとは!」
片手で顔を覆い劇場の様に大げさなアクションを起こし、ほんの少しそうしていた後、顔から手をどけた。
「しかし、ワレワレは物事を見極める事のできるセレブリティ!ココは戦略的撤退を選ぶのです!戻りなさいグソクムシャ!」
「う〜ん、セレブリティ!」
……もはやセレブがゲシュタルト崩壊しそうだ。
セレブとは……
「と言う訳で少女よ!グッドバイ!」
グソクムシャをボールに戻し、妙な別れの挨拶をした後、彼らは元来た道を歩いて戻って行った。
電話が来てからの一連のやり取りは流れが速く、彼らの計画を知らない人間であったら呆気にとられてしまうだろう。
でもこれで肩の荷が降りた気分だ。もうここで彼らがダイマックスをする事は多分無い……はず。
「おつかれドヒドイデ」
ぽにぁ〜♪
長いバトルを終えたドヒドイデを労るために近づいて撫でる。バトルを行ったにしては余り傷が見えないが、"じこさいせい"で無理やり癒やした分、エネルギーを使って疲れているだろうと、持っていたヒメリの実も一緒に渡す。
「コウミが空いてるスタジアムを使わせて欲しいなんて珍しい事を言うから用事を速攻で終わらせて来てみたけど、さっきのバトルは何?あの二人は誰?」
「あ、ミドリ。来てたんだ」
ドヒドイデを労っていると、後ろから声をかけられて振り向くと、そこには困惑顔のジムトレーナーのミドリが立っていた。
「ちなみにヤローさんも気になって……ほら、あそこに居るわよ」
ミドリが指差した先を見ると、観客席の一つに座ってこちらを見ていた。そしてこちらが見ている事に気が付くと笑顔で手を振ってきたので、俺は軽く頭を下げてそれに応えた。
「あー、それでさっきのバトルだっけ?それがどうしたの?」
「いや、どうして"どくどく"を打たなかったのか気になって。少なくとも打てるタイミングはたくさん有ったし、あんたなら当てられたでしょ」
「あ〜、なるほど。あれはね『わざと打たなかった』んだ。打ったら倒しちゃうから」
「……はぁ???」
先程よりも困惑が強くなって、まるで訳のわからない生き物を見るような目で俺を見てくる。
「まぁ、時間切れで勝つためにやったって事」
「えぇ……あんたを今以上に理解出来ないと思ったことはないわ。時間切れって…………なんで普通に勝つのじゃダメだったの?」
「普通に勝ったら彼らの邪魔が出来ないから。ターフスタジアムを守るついでに時間を無駄に使わせてやろうって思ったんだ」
そう言ったあと、ミドリは頭を抱える。
「性格悪いわよ、なんでこんなのにポケモン達はなついてるんだか……」
こんなの呼びとは失礼な。でもまぁ今回のバトルに関しては頷くしかない。時間切れで勝利なんてイイ性格してる人しか使わない戦法だ。……いや、この世界のバトル事情を考えると使ったのは俺だけか?
「所で、そんな邪魔をしたあの二人だけど、結局何者なの?」
「犯罪者予備軍」
「ちょっ?!」
俺が端的に彼らを表す言葉を告げると、それに驚いたミドリは俺の肩を掴んで揺すってきた。もしかしたらセレブリティの方が良かったか?
「なんであんた一人でそんな連中と相対してんのよ!」
「いや、ほら、あくまで、予備軍だし、バトルすれば、おとなしく、引き下がる、人達だし」
揺すられながら、とぎれとぎれに成りつつ言いたい事を言う。言葉だけを捉えれば俺は結構危ない事をしていた様にも見える。そんな俺を心配してミドリは怒ってくれてるんだろう。
「うーん、それなら……っていやいや、騙されないからね。なんで警察を頼らないのよ」
「だってまだ何もしてないし」
「うっ、で、でもほら、ターフジムのみんなで言えば」
「あ〜、そんなに心配しなくても大丈夫。今新チャンピオンと旧チャンピオンの弟とジムリーダーのネズさんがこの件の解決に動いてるからそのうち解決すると思うよ」
俺がそう言うと、先程まであたふたしていたミドリも落ち着く。三人のビッグネームが事件解決に向けて動いていると言う事が彼女を一旦冷静にさせたのだろう。
「……はぁ、あんたいつもの事ながらどこからそんな情報を仕入れてくるのよ」
……どうやら違ったようだ。俺の謎情報網にあきれていただけだったみたいだ。
「"みらいよち"」
「いいわよ、マトモな答えなんて期待して無いんだから」
少しそっけなく感じるが、この手の話題になるといつもこうだ。それで助かっている部分もあるので、これが彼女の優しさだと思い少し笑う。
「それで、もうスタジアムは良いの?もう用事が終わったなら掃除を始めようと思うんだけど」
「あぁ、もう大丈夫。あと掃除手伝うよ。俺がバトルしたんだし」
そして二人と一匹で掃除用の車両を出してスタジアムの掃除を始めた。もちろんドヒドイデは運転できないので俺の側に控えてるだけだ。
運転しながら今後の事について考える。
恐らく自分が明確にあの二人に関わるのはこれで最後だろう。ターフスタジアム以外のスタジアムまで追うとなると農場を空けなければいけなくなるため、それは出来ない。
後はあの三人に頑張ってもらおうと思いながら運転を続けた。
静かなスタジアム内に清掃車の重低音、俺とミドリ、そしてヤローさんの話し声が響き渡る。
華やかなスタジアムも好きだが、こんな落ち着くスタジアムもまた良い。そして掃除を続けながら先程のバトルの熱を冷やしていった。