バトらない自分のガラルな日々   作:アズ@ドレディアスキー

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22話 バトらない日

 今日も今日とてチュリネ農場は平和である。

 

 農場に居るチュリネ達は、日向ぼっこ、追いかけっこ、水遊び、等自由に過ごしている。

 手持ちのポケモン達もそんなチュリネ達を見守りつつ、のんびりとした時間を過ごしている。

 

 時刻はちょうど太陽が真上に来た辺りで、昼食もちょうど終わり、俺は側に居るポケモン達と地面に寝転がって一緒に空を見ている。

 そしてそんな事をしながら普段は頭の中を空っぽにしたりするのだが、今回はガラルで起きた一連の事件の顛末について考えていた。

 

 ターフスタジアムのバトルの後、あの強烈な印象を残していった兄弟は順当にターフ以外のスタジアムで問題を起こしていった様だ。

 その一連の出来事はガラルの王族が起こした事もあって、一時期はテレビやネットのニュースで大きく取り上げられていた。

 しかしその事件がもう既に二人が自首している事で決着が付いているので、意外と早くその事が報道されなくなり、最近では話題にも上がらなくなって来ている。

 

 最近テレビで見るニュースは、どこそこのカフェが話題、バトルタワーのバトル情報、リーグのオフシーズン中の各ジムリーダー達の動向、ヨロイじまに居る新しいジムリーダー候補達の情報、等明るい物が多い。

 

 テレビと言えば、ついこの間受けた取材も取り上げられていた。

 

 放送された日は何時もの様にリビングで集まっての鑑賞会となったが、一緒に見ていた子達がはしゃいでいたのに対して、俺はテレビに映っている自分に対して少し気恥ずかしさを感じた。

 これが1年位前ならテレビに映っていた姿が自分の物とは思えず、ここまでの気恥ずかしさを感じる事は無かったと思う。

 

 そうして放送された後の反響はそこそこあり、ターフ農場や漢方薬屋さんからは更に品薄状態になった上に、今まで以上に問い合わせの件数が増えたと困り顔で伝えてきてくれた。

 俺も放送直後に漢方薬屋さんに出荷した時の出待ちしていた人達を見て驚いたのだ。

 

 そして、このようにメディアで取り上げられなくなってから、ガラルで起きた一連の大事件は人々から忘れられ始めていた。

 俺もその事件が記憶として過去の物になり始め、それから今後の事についてこうして考える事が増えた。

 

 今まではある意味行動の指標となる様な出来事を知っていた為、それが無くなった今の自分の心境はちょうど空に浮かんでいる雲のようにふわふわとしている。

 むしろこうした他の人と同じ様な状態で過ごす事こそ、自分がこの世界の個として根を下ろしたとも言えるのだが、いざ直面すると何とも言葉にし辛い虚無感の様な何かが時折こうして自分を覆う。

 

 チュピッ!

 

「おふぅ?!」

 

 そんな事を考えているとどこからかやって来たチュリネが、仰向けに寝ている俺の腹にダイブインして来た。痛みなどは全然無いが、急にやって来た事で吸い込んでいた空気が一気に吐き出された。

 

 ピュイ?

 

「あ〜、大丈夫。ビックリしただけだから」

 

 そしてそんな声が聞こえたからか、近くに居たドレディアが上から覗き込むような形でこちらを心配そうに見ていた。他の子達もこちらをチラチラ見ているのだろうか、少し視線を感じる。

 ドレディアに対しては大丈夫だと伝えながら軽く手を振り、乗ってきたチュリネにはやったなコイツめ!と少し強めに上から押さえつけるように撫でる。

 

 そして何かがこちらに向かってサササっと走って来ている音が聞こえ、そちらに顔を向けると一匹のチュリネが俺目掛けて走って来ているのが見えた。

 あの子もダイブするつもりなのだろうと、お腹に力を入れて待機したが……

 

 チュピピ!

 

「……そうきたかー」

 

 その子がダイブしてきたのはお腹では無く、俺の顔だった。ちょうど目の辺りに立っているようで口と鼻は塞がれておらず、そこそこ重量のある立体的なアイマスクと化している。

 

 力んでいた息を吐き、鼻から息を吸うとチュリネの香りらしい少し甘さを感じる清涼な青葉の香りと、走り回った時に付いたと思われる土の香りがした。

 チュリネの香りはミントほど暴力的なものでは無く、優しくて安らぎを感じられるもので、近くでずっと嗅いでいられる。

 顔に乗ってきた子は俺の反応が余り大きくないからか、側頭部をペチペチと叩いてきたので、お返しにデコピンをプレゼントした。

 

 チュピ!

 チュピチュピ!

 

 そうしてお腹の重しと立体的アイマスクと化したチュリネと過ごしていると、周りで一緒に寝ていたチュリネ達も一緒になって俺の体に乗っかかってきた。

 遠くからも先程と似たような走って来ている音も聞こえてきたので、それ以外のチュリネ達も来ているようだ。

 

 どんどんチュリネが体の様々な所に乗り始め、体の至る所に重さを感じ始めた。

 それに加えチュリネの体の柔らかい部分のせいか、体がスライムに包まれているような錯覚がする。

 

 そのまま体で乗れる場所が無くなり、大量のチュリネに包まれた俺はさしずめチュリネのプランターだろうか?

 乗れなくなった後も、周りにチュリネ達がやって来て、それに同調する形で手持ちの子達も周りにやってきているのが気配で分かった。

 

 そんな体全体を、チュリネ達のむにゅむにゅに包まれ、手持ちの子達に囲まれた俺は、先程まで感じていた雲のような感覚は無くなっていた。

 この子達が一緒に居る事で、実感を得ることが出来ている。

 

 テレビに映っていた自分を見た時の感覚の様に、時が経てばあの雲のような感覚も無くなるだろう。

 

 このターフの小さな農場で過ごすスローライフ。

 

 ポケモン達に囲まれて過ごすそんな穏やかな日々。

 

 そんな何気無い日々が続いてくれる事を願う。




まずはこの小説をここまで読んで頂いた読者の皆様に感謝を。

そして感想や評価やお気に入り登録をして頂いた皆様にも重ねて感謝を。

書き始めた当初から絶対にエタらない事を目標に書き続けていましたが、そこに皆様の応援の有無が無関係であったかというとそんな事は無く、そのおかげでひとまず完結と言える形に持っていけることができました。

今後についてなのですが、彼女たちのその後の小話や、どう足掻いてもストーリーに絡ませることが出来なかった話等を書くかも知れません。

あとエキスパンションパスでドレディアが出てきたら書きます。

ではより詳しい事は後で活動報告に書くとして。

本作を読んで頂き、本当にありがとうございました。

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