バトらない自分のガラルな日々   作:アズ@ドレディアスキー

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もうちっとだけ導入が続くんじゃ。
あとオリキャラ出します。


2.5話 日常と非日常(裏)

「それで、なにか分かりましたか?」

 

 彼女の病室から出た後、診察室に着いた直後にジョーイは警察官のモリタカにそう聞いた。

 ただの行き倒れならまだしも、それに加えて記憶喪失のような症状を表している彼女の情報を知るためには、モリタカに預けた彼女のトレーナーIDが頼みの綱だった。

 

「いやぁ、分かったというべきか、分からなかったというべきか……」

 

 しかしモリタカの答えはどうも歯切れが悪い。手を首の後ろに回して眉間に眉を寄せてそう答える。

 

「どういうことですか?」

 

 トレーナーIDとはポケモンを所持する際に一人一人に発行される固有の文字列で、トレーナーの情報をデータベースに保存し管理するための情報だ。一部未成年でも親の管理の下、ポケモンを所持する例が認められているため、ID無しでもポケモンを所持している場合があるが、幸いにも件の彼女はIDカードを所持しており、そこから情報を得られるとジョーイは考えていた。

 

「結論から言うと、彼女のIDは存在しなかった」

 

「えっ?」

 

 IDが存在しないなど、普通の事ではない。そうなると考えたくはないが、一つの可能性を考え口にする。

 

「そんな、まさか、偽造カード……ですか?」

 

「いや、カードとID自体はアローラで正式に発行されたものだったよ」

 

 その可能性が否定されるも、余計に分からなくなった。偽造カードは非合法の人間がポケモンをやりとりするために存在する、という話をジョーイは耳に挟んだことがあったためその可能性を考えたが、どうやらそうではないらしい。正式に発行された物なのにIDが存在しない。矛盾だった。

 

「カードに貼り付けられた証明書も完璧。スタンプも問題無し。透かしや隠しIDとの整合性なんかもオールオーケー。ここまで完璧な物を偽造するなんてどこかのアングラ組織のトップでもない限り無理だ。……ただ問題はそこじゃないんだよ」

 

 言い終えるとモリタカの眉間の皺が更に深くなった。ジョーイからしてみればIDが存在しないというだけでも十分過ぎるくらいに問題のように思えるのだが。

 モリタカが目頭を押さえ目頭をもみ、深く息を吐くと悟ったような表情になり、言った。

 

「発行日がな……来年なんだ」

 

 まるで時が止まったかと錯覚してしまうくらいジョーイにとってその発言は想定外だった。

 

「えっと、冗談……じゃないんですよね」

 

「俺も最初はそう思って徹底的に調べたんだがな。調べれば調べるほど、嘘や冗談の類じゃない事が証明できてしまった事はさっき言った通りだ」

 

 ただIDが無いだけではなく、発行日が未来の日付。過去へのタイムトラベルなど都市伝説でしかジョーイは聞いたことがなかった。彼女は何者なんだろうと、考えていると不意にその考えが思い浮かぶ。

 

「あの、もし仮に彼女が未来から来たとしたら、彼女と同姓同名の方がアローラに居ると思いませんか?」

 

「俺も同じ事を考えた。幸いにもトレーナーカードに名前が載ってたことだしな。でも、アローラに彼女と同姓同名の人物は居なかった。彼女の両親も不明だ」

 

「そんな……」

 

 もう既に調べていたらしく、淀みなくその返答が帰ってきた。そして彼女の境遇が予想以上に悪い事に言葉を失う。

 

「そういえばあの子は手持ちポケモンが居たはずだよな。そっちはどうだ?」

 

 今度はジョーイが預かっていた彼女のポケモンについて聞いてきたが、ジョーイの表情は厳しいままだ。

 

「6体とも全員元気でした」

 

 今度はジョーイが歯切れが悪そうに答えた。

 

「それだけって訳じゃ無さそうだな」

 

「はい……6体のうち3体はそれぞれエルフーン、ドヒドイデ、あとガラルには居ませんがイッシュ地方のドレディアでした。でも残りの3体がポケモンセンターのデータベースで検索してもヒットしなくて……もしかしたら新種のポケモンかもしれないんです」

 

 それを聞いたモリタカ再び大きくため息を吐いたあと、上を向きながらつぶやいた。

 

「何というか、お手上げだ。正直俺の手に余る」

 

 そして再びジョーイの方に顔を向け、話を続ける。

 

「まぁ、あの子の出身とかについては、俺は国際警察の方の知り合いを頼ってみるよ。あいつらたまに信じられないような事件に頭突っ込んでたりするしな。何か知ってるかもしれない。それはそうとして、今後の彼女の扱いをどうするかについてだが……」

 

 そう言われてジョーイは件の彼女が、住む場所にも事欠く状態である事を思い出した。

 

「私が預かります。丁度部屋も空いてますし」

 

 ジョーイにとって子供の住人がひとり増えることによる負担は、決して軽いものでは無いが、心優しい彼女には見過ごすという選択肢は無かった。

 

「あ〜、決意してるとこ悪いんだが、それは出来ない」

 

 ジョーイはまさか断られるとは思わず、少し噛みつき気味にモリタカに話し始める。

 

「何でですか?面倒を見切れる甲斐性ぐらいちゃんと有りますよ。……まさかモリタカさんが預かるんですか?通報しますよ」

 

「通報って……まぁ、いい。安心しろ、俺は預からない。というより俺と君じゃ預かれない」

 

 一息置くと、早くと続きを促すジョーイからの圧を感じ、つい苦笑いになった。それで更に圧がかかり急いで理由を語る。

 

「あのトレーナーカードは確かに本物だが、データベースにIDが無い。実際は無許可でポケモンを所持してる様なものなんだ。無許可でポケモンを所持するためには保証人となるトレーナーが必要なんだが、あの子の手持ちは6体だったよな?となるといざという時のストッパーとなるトレーナーにかなりの力量が求められる事になる。普通は1匹、多くて2匹だからあまり気にならない部分なんだがな。ついでに、新しくIDを発行する際にもその保証人が必要なんだ」

 

「むぅ……」

 

そう言われるとジョーイは自分では無理だと言うことが分かってしまう。彼女はパートナーのイエッサンをとても信頼しているが、バトルなどの話に関しては別だ。

 

「俺はターフタウンのジムでしばらくの間預かってもらおうと考えてる。寮に空いてる部屋も有るだろうし、幸いにも今はオフシーズンだから手が空いてるだろうしな。ヤローさんの方には俺から話しておく。多分受けてくれるはずだ。……ヤローさんの優しさにつけ込んで、巻き込んじまうみたいな形になって申し訳ないけどな」

 

「ジムでですか?確かにあそこなら実力の有る方達が居ますけど……」

 

それを聞くとジョーイは納得しつつも、自分が何も出来ないもどかしさに不満顔になる。

 

「後はガラルの自治体のバックアップの書類とID発行の書類を用意すればオーケーだ。とりあえず今はこうするしか無いな。もしかしたら記憶が戻るかもしれないし、これ以上自分達じゃどうしようも出来ない事に悩んでても仕方が無いさ」

 

 モリタカはそう言い終えると部屋の出口に向かった。お互いに確認することは終わった上に、今後の事について彼女に伝える必要がある。

 モリタカに続いてジョーイも部屋を出るが、なにか出来ないかと彼女は考え続けた。

 余りできる事がないが、せめて彼女がポケモンセンターに寄った時に気に掛けてあげようと考え、部屋を出た。


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