あ〜、本日は晴天なり
本日は晴天なり
本日は晴天なり
……はぁ、遂にこの日が来てしまった。
数日前からガラル地方の天気予報で既に知っていたとはいえ、心の中ではどこか外れて欲しかったが、ダイニングの窓から入り込む日差しが今日は『ひざしがつよい』事を如実に示していた。
本来であればもう既に家を出ている時間なのだが、まだパジャマ姿のままダイニングで現実逃避している。
でも現実は悲しい事に変わる事がないので仕方なく何時もの行動を取る。朝食のシリアルの箱を棚から出し、器も別の棚から取り、椅子に座って器に注ぎ込んだ。
ぽとぽと。
箱から出て来た小さいもこもこに俺の時間が止まる。俺はこのもこもこを知っている。こんな事をする奴を知っている。
周りを見渡すと近くの窓の外からエルフーンがこちらを見てニコニコ笑っていた。
それと一緒に見たくないものも見えてしまった。
エルフーンは全て計算してコレをしている。
俺が現実逃避して普段よりも注意散漫で、シリアルの箱が一個多い事に気が付かない事。
同じ様に既にエルフーンがボールを出ている事に気が付かない事。
姿をわざと見える位置に置き、今俺が一番見たくない物を一緒に見せる事。
農作業の邪魔では無いし、本当にちょっとしたイタズラなので強く怒れない事。
エルフーンはイタズラが成功して満足したのか、窓から離れ、ふわふわと飛んで行った。
エルフーンが視界から外れ、そして時は動き出す。
エルフーン、タイミングを考えてほしい。ホントに。
テンションは更に下がりながら、廊下の物置からもこもこの詰まった袋を取り出し、シリアルの空箱に詰まったもこもこを入れていく。
イタズラされた際のもこもこを取っておいているのは、エルフーンのもこもこが高級品で、布袋に詰めただけで素晴らしいクッションになるからだ。
イタズラされた分せめて有効活用してやるという意地も有る。
今日の分で丁度クッション一個分になるなと虚しい考えが頭を過ぎった。
「チュリネ゛ぇ゛〜!止まれ゛ぇ゛〜!!!」
とても年頃の少女から出たとは思えない叫びが農場に響き渡る。
今俺は特性"ようりょくそ"で元気一杯なチュリネを追っかけている。
そう、日差しが強い時、すばやさが倍になるあれだ。
コレがただ素早くなるだけならこんなにも必死にならない。
"ようりょくそ"持ちは速く動けるだけでは無く、それに見合った元気も手に入れる。
つまり『最高に「ハイ!」ってやつ』になってしまう。
この状態のチュリネ達はところ構わず爆走し、場合によっては障害物を無視して爆走する。
初めてコレを体験した時は、一匹のチュリネが木製の厩舎の壁をブチ抜いた上に扉を逆パカしている。それをしでかしたチュリネに怪我は全く無かった。強すぎる。
開けた場所で暴走する分には全く構わないのだが、時折予想外の方向に爆走する子が居る。今俺が追いかけている子は直進すれば、農場の門をブチ抜くか逆パカして外に飛び出してしまう。
外に飛び出すのは本当に不味い。
うちの農場の被害なら多少は問題ないが、他の農家さんの農場に被害を出されたらたまったもんじゃない。
最悪の考えが浮かんで居ると、俺の後ろからものすごい勢いで影が飛び出してきた。そしてその影は俺とチュリネを追い抜き、正面に止まると暴走したチュリネをドスッとした音を立てつつ受け止めた。
俺はそれを確認し、走るペースをゆっくり落とし追いつくと声をかける。
「はぁ、はぁ、ナイスだ、ドレディア。」
この『ひざしがつよい』なか、チュリネ農場最速はドレディアだ。そのドレディアには暴走して危なそうなチュリネを追いかけ捕まえてもらってる。この子も"ようりょくそ"持ちなのだが進化しているからか、元気は有るがしっかりと考える余裕がある。
うちには通常時・農場最速ガール(性別不明)も居るのだが、彼女はチュリネを受け切る耐久力が無いので、この時には出番は無い。
ドレディアに抱えられてるチュリネはチュピピピピと、まだまだ動き足りないようで、両手とも言える突起を風切り音が鳴るくらい高速で上下に振っている。
そしてドレディアが抱えた子を地面に下ろすと、シュゥーンと開いている場所に戻って行った。
フゥーン!!!
ありがとうの気持ちを込めてドレディアを撫でていると、空からラティアスの鳴き声が聞こえてきた。
暴走チュリネが危険なコースに入った合図だ。
急いで空を見上げ、ラティアスが指差す方向を見る。
テッカグヤ、ウツロイド、ラティアス、エルフーン組は上空、もしくは高い位置からチュリネ達を観察している。そこで危ないと思ったチュリネが居たら、地上の俺やドレディアに合図を出す。
ドヒドイデは日向ぼっこをしている。こちらは必死なのだが、残念ながらドヒドイデに手伝ってもらえる事は無い。そして温暖な日が好きなあの子の邪魔をするのも忍びない。
ラティアスが指差した場所には2匹のチュリネが農場の壁沿いに競争していた。何時もなら微笑ましい追いかけっこだが、今日はそうも言っていられない。
2匹は農場の石壁を右手に爆走している。このまま壁沿いを走ると、緩い右カーブの後にきつい左カーブだ。
そして左カーブの角には石が有り、曲がりきれないとそれがジャンプ台となってしまい、チュリネがターフの空にフライアウェイしてしまう。
「ドレディア!」
俺が叫んだ時には既にドレディアは駆け出していた。急いでハンドサインでラティアスに飛んでしまった場合の位置に向かわせる。
しかし2匹のペースでもあの曲がり角には間に合わない。
2匹のチュリネが最初の緩い右カーブを曲がり始めた時、後続のチュリネがスピードを上げ前のチュリネを追い抜いた。
待て待て待て!目の前!ジャンプ台!すぐそこ!
曲がったすぐ先に左カーブがあり、減速するスペースはもう無い。
もう駄目か、と諦めかけたその時、追い抜いたチュリネが右に曲がった時の勢いを利用し、体を左に捻り、その勢いのままカーブを曲がりきる。
かっ!慣性ドリフトだとっ!!!
衝撃的な出来事に驚いているうちに、追い抜かれたチュリネもフライアウェイせずに曲がりきる。
ただまだ安心出来ない。更に先にあるカーブを曲がると、今度はその直線上に厩舎がある。
また穴が開く事態は避けなければならない。
そのためには2匹いる内の片方をドレディア、もう片方を俺か他のポケモンが受け止める必要があるので、カーブの先までにはドレディアに追いついて貰わないといけない。
万が一を考えると、空からの観察を怠りたくないので、あまり観察してるポケモンを多く動かしたくない。
俺がカーブの先に先回りすると、カーブ直前で2匹のチュリネ達の後ろにドレディアが追いつく。
そして俺の隣に、朝に一発かましてくれたコンチクショウが来たが、ナイスだ。手伝ってくれるなら朝の事は無かったことにしてやる。
丁度3匹が直線に並んだ状態でカーブに差し掛かる。何としてでもドレディアにはあのカーブで追い抜いて貰わないといけない。
チュリネ達はインコースを、ドレディアはアウトコースを取った!
チュリネ達のコースが大きく外側に膨らむ!
スピードが乗りすぎてるんだ!
2匹と1匹のラインが……クロスした!
カーブを抜けた後、追い抜いたドレディアが片方を受け止める。
そしてそれに合わせてこちらも準備する。
「エルフーン!コットンガードだ!」
受け止めるという意味では最高とも言える技を指示した。大きいまりもと化したエルフーンが止まらなかったもう片方のチュリネを、ボフッと空気が抜けるような音をさせながら受け止める。
とりあえず2匹が止まって安心する。
エルフーンが受け止めた子はそのままエルフーンのもこもこで遊び始め、ドレディアが受け止めた子もそれに加わった。
観察要員が減るのは痛いが、代わりにこの2匹を見てくれるので良しとしよう。
フゥーと息を吐きながら天を仰ぐと、まだ太陽は登りきってないのが分かる。
よく晴れた一日は特に長く感じてしまう。
その事実から目を背け、遠くを見つめてターフタウンの長閑な風景に癒やされようとした。
遠くには逃げ出したウールーをにこやかに追いかけるヤローさんの姿が見える。
強い。
強すぎる。
俺にもその心の余裕を分けて欲しい。
ボツサブタイトル 頭文字D
某アニメとドレディアのダブルミーニング
ただネタバレがすぎるのでボツ
あと、重心的に考えて慣性ドリフトとか無理だろというツッコミは無しでお願いします。ただやってみたかっただけなので。