――――雨が、降っていた。
冷たい雫が地面を打ち、暗闇の中で木々の葉が擦れる音が響く。
夜の森に降り注ぐ雨は、昼間のそれよりも一層寒々しく感じられた。
雨雲は闇をさらに濃くし、この世の何もかもを夜の
「――――!」
その時だ、獣の咆哮にも似た音が森に響き渡った。
それは雨の静寂をかき乱すには十分すぎるもので、恐ろしく、おぞましさすら感じるものだった。
暗く深い闇の中で、おぞましい咆哮が反響していた。
光。
次の一瞬、暗闇を拒絶するかのような光が、その場を照らした。
火焔とすら表現できそうな程に強烈なそれが収まると、どたり、と何か重いものが地面に転がる音がした。
そして再び、暗闇と雨音だけの世界が戻る。
「……哀れな娘だ。せめて安らかに眠るがいい」
男がいた。
明るい色の、燃えるような髪色の男だ。
独特の癖があるのか、その髪はまるで獅子の
男の手には、1本の日本刀が握られていた。
これだけ雨が降っているというのに、不思議なことに刀身は一切濡れていなかった。
そして足元。
男の足元で、女が
両膝を地面につけ跪くように上体を倒した女の身体には、あるべき頭部が無かった。
どうやら、男に
しかしそこで、不思議なことが起こった。
「む……」
ボロボロと音を立てて、女の身体が細かな塵となって消えていく。
塵は雨に流され、地面と混ざり合い、やがて女が着ていた着物だけが残った。
この世のものとは思えない光景だが、男は全く動じず、むしろ祈るような仕草さえ見せた。
そして刀を腰の鞘へと納め、その場から立ち去るべく歩き始めて……。
――――ギャ、ア――――
声が、聞こえた。足を止めた。
男以外に誰もいないはずのその場で、確かに声がした。
最初は、ざあざあと降り注ぐ雨の音を聞き間違えたかと思った。
足を止めた男は、その場で注意深く耳を澄ませた。そして。
――――ギャアッ――――
やはり聞こえた。
酷く弱々しく、くぐもっているが、間違いない。
確かに聞こえる。それも、すぐ近くからだ。
――――ギャア、オギャア、オギャア!――――
私はここだと、世界中に訴えかけるような声。
その声に、よもや、と呟いて、男は再び刀を抜いた。
振り向き、雨と泥と塵に塗れた女の着物に手を伸ばす。
そして。
そして――――……。
お読み頂きありがとうございます。
恥ずかしながら「鬼滅の刃」のハマり、戻って参りました。
およそ1年半ぶりの二次創作作品となります。
リアルの都合もありますので、以前のような定期更新は難しくなっておりますが、何とか完結まで続けられればなと思います。
それでは、またお付き合い頂ければ幸いです。
また次回お会いしましょう。