カナエは、学校の中を真っ直ぐに歩いていた。
明かりを点けることもなく、まるで見えているようだった。
「……そう、ここにいたのね。しのぶ」
理科室の机の片隅に置かれていたスマホそれを、指先で撫でた。
冷え切ったそれに、カナエは目を伏せた。
そして、その次の瞬間だった。
しのぶのスマホから放れた手が、虚空で何かを掴んだ。
掌を握り込んだ時、パキ、という軽い音がした。
目に見えていない何かを、カナエは掴んでいた。
「なるほど、
カナエの白く細い手の中で、
成人とは言え、女性の力で簡単に割れてしまう程に脆く、そして小さい。
掌の中でそれを弄んだ後、カナエは息を吹きかけた。
塵となって消えるそれに、カナエの眉が厳しい形に歪む。
「…………」
それから、自分が入って来た理科室の扉を見つめた。
何かが視えているのか、あるいは何かが聞こえているのか、カナエはその場から動いた。
元々入って来た――今は閉ざされている――その扉とは別の扉、つまり教室の反対側の扉に向けて、歩き出した。
「……まったく」
ふう、と、息を吐いて、カナエは呟くように言った。
「しのぶも助けなきゃいけないし、あの子達も守らなきゃいけない。両方しなくちゃいけないのが、お姉ちゃんの辛いところね」
とは言え、これは先に生まれた者の宿命だ。
人によっては嫌がる宿命かもしれないが、カナエはむしろ喜びとさえ感じていた。
長子という立場は、望んで手に入るものではないのだから。
だからその立場に立った者は、それを貴重な宝物として握り締めなければならない。
それに弟妹という存在は不思議なもので、自分に力を与えてくれるのだ。
弟妹が見ていると思えばこそ、背筋は伸びるものだ。
情けない背中を見せるわけにはいかないと、そう思うからだ。
だから長子は強くなれるのだと、
「お姉ちゃん、頑張るぞ、っと」
そう言って、カナエは理科室後方の扉から廊下へと出た。
そのほんの数分後に、入れ替わるようにして、理科室前方の扉が開くことになる。
カナエの消えた教室に顔を覗かせたのは、顔立ちに幼さを残す少年だった。
彼は恐る恐ると言った様子で理科室の中に入ると、きょろきょろを中を見回した。
「しのぶさん……?」
炭彦がやって来たのは、そのタイミングだった。
◆ ◆ ◆
理科室に残されていたしのぶのスマホには、それ自体には変わったところは無かった。
ごくごく普通のスマートフォンであって、それだけだった。
黒い画面を眺めて見たり、裏返してみたりしたが、普通だった。
「うーん」
「どうしたの?」
「何か無いかなって」
「起動してみたら?」
「でも、ロックとかあるんじゃ……って、あれ?」
カナタに言われてスマホを起動すると、ふっと画面が点いた。
スライド画面からロック画面に行くのかと思ったが、そのまま進めてしまった。
どうやら、何のロック設定もパスワード設定もされてしまなかったようだ。
しのぶにしては、警戒心が無いと言える。
(まあ、わざとかな)
カナタには、しのぶの意図がわかるような気がした。
あのしのぶに限って、自分のスマホにフリー設定などという無警戒なことをするはずが無い。
となれば、わざとそうしていると考えるのが妥当だった。
すると、何故そうしたのか、という問題が出て来る。
ああ見えて警戒心の塊のような少女だ。
何の意味もなくそんなことをするような人間では無い。
つまり、しのぶはスマホこれを見せたいのだ。
「あれ、でも変だよ。これ」
「変って?」
「うむ! 何も入っていないな! 綺麗さっぱりだ!」
しのぶのスマホの画面には、何も入っていなかった。
デスクトップもデフォルトの状態で、まるで購入直後――いや、購入したての方がマシなくらいだ――のように、何のアプリも表示されていなかった。
いや、1つだけ。画面をスライドしていくと残されていたものがあった。
「何だろう。メモかな」
メモアプリが、スマホの画面の片隅に1つだけ残されていた。
最初の画面で何も無いと諦めていれば、気が付かなかっただろう。
保存されていたメモには、タイトルも何も無かった。
開けて見ないことには、何もわからない。
「開けてみる……?」
「そうだね」
と言うより、開く以外に選択肢があるとも思えなかった。
このままあてもなく校舎を歩くよりかは、いくらか生産的だろう。
「じゃあ、開けてみるね」
「うん」
「おう!」
カナタと桃寿郎を左右にして、炭彦はメモアプリを起動させた。
メモにもパスワードは設定されておらず、すぐに開くことが出来た。
開いたメモに書かれていたのは――――しのぶの、
◆ ◆ ◆
転校生が来た。
季節外れの転校生だけれど、それだけなら何とも思わなかった。
でもこの転校生は、明らかにおかしかった。
「いえ、違いますね」
そこでしのぶは考える。
己の表現の正確性について考える。
転校生は、何もおかしくはない。
外国人という特徴以外には、これと言った特徴は無い。
素行が悪いとか、問題を起こしたとか、そういうことも無い。
この転校生自身には、何の問題も無かった。
だから、転校生がおかしい、という表現は正確さに欠けている。
では、どう言い直すべきだろうか。
「おかしいのは、
転校生自身ではなく、転校生の周囲にいる生徒がおかしい。
最初は物珍しさで人が集まっても、その内に落ち着くのが転校生の常というものだろう。
それがどうしたことか、あの転校生の周囲からは人が消えることが無かった。
むしろ逆だ。
日を追うごとに、転校生の周りには人が増えて行った。
最初は数人、やがてクラス全体に広がり、普段は会話することもない他のクラスの生徒にまで、その輪は広がり続けた。
まるで感染力の弱い、しかし毒性の強い病のように。
それは、広がり続けて行ったのだった。
「でも、彼女の周りにいる生徒に話しかけても、不審な点は見つからなかった」
あったのは、
誰に話を聞いても、転校生を悪く言う人間はいなかった。
肯定的と言っても、盲目的に称賛するということでは無い。
ただ、
10人に聞けば、誰かしらは悪口を言う者がいるものだ。
人に嫌われるように見えないカナエや炭彦でさえ、悪く言う者はいる。
しかしこの転校生には、そう言った者が皆無だった。
そんなことが、果たして普通の人間に可能なのだろうか。
「
そう判断した上で、しのぶは考える。
それは、今の時点では仮説に過ぎない。
仮説を証明するには、どうするべきだろうか。
「
けれど、それは危険を伴う。
だから、カナタに相談しておこう。
そして、念のために私が来るとわかる場所に
あの子達ならきっと見つけてくれると、そう信じて――――。
◆ ◆ ◆
しばらく、沈黙が続いた。
炭彦はしのぶスマホを手にしたまま、カナタと桃寿郎と顔を見合わせた。
「しのぶさんは、危険だとわかっていて」
「……うん」
特に、カナタの気持ちは複雑だった。
しのぶは行動を起こす前に、カナタと話をしている。
カナタはしのぶの考えに同意しつつも、しかし実際に行動を起こそうとはしなかった。
おそらくこれは、カナタとしのぶの立ち位置の違いから来るものだ。
長男と、次女の違いだ。
この両者の間には、その行動様式に小さな、しかし決定的な違いが出て来る。
動と静の違いも、そこから生まれて来るのだった。
「みんなが何かされてるかもしれないって、どういうことだろう」
「何かの術と言うことか?」
「それはわからないね。けど……」
その時、3人のスマホが同時にメッセージの着信を知らせた。
音は切っていたはずだが、通知音はそのままだった。
3人は再び顔を見合わせて、そしてそれぞれ自分のスマートフォンを取り出した。
手に取って操作すると、やはり、着信したメッセージは3人とも同じだった。
『体育館に来てください』
冷たい何かが、背筋を伝うのを感じた。
しのぶのスマホは炭彦の手の中にあるというのに、しのぶから3人にメッセージが届いたのだ。
ごくり、と、誰かが生唾を呑み込む音が響いた。
「……どうする?」
「…………行くしかないだろうね」
不安気な弟に、カナタはそう言った。
このメッセージの差出人がどういうつもりであれ、このタイミングでメッセージを送って来たということは、自分達が学校にいることを知っているということだ。
とすれば、余計な動きをするのはかえって危険だということになる。
その時だ。バンッ、と、理科室の窓が大きな音を立てた。
桃寿郎の口から大きな、炭彦の口から小さな悲鳴が上がった。
カナタは歯を噛んで耐えたが、内心は口から内臓が飛び出そうな程に驚いていた。
音は一度きりで、その後は続かなかった。何の物音も気配も、その後はしなかった。
「行こう」
「う、うん」
行くしか無かった。
体育館に待っているのがしのぶであれ、あるいは他の何者かであれ、この場に留まるのは得策では無かった。
理科室後方の扉を静かに開けて、廊下が無人であることを確かめる。
後ろの2人に手で合図をして、カナタは冷たい空気が張り詰める廊下へと出て行った。
◆ ◆ ◆
体育館は、校舎からそう遠くない程よい位置にある。
炭彦達も、授業や生徒集会で何度も移動している。
それにも関わらず、まるで何キロもある道のりのように感じられた。
「……静かだね。やっぱり」
炭彦の言葉に、カナタと桃寿郎は頷きを返した。
マンモス校だけあって、キメツ学園の体育館も非常に大きい。
標準的な公立校の1.5倍ほどはあるだろう。
場合によっては複数のクラスが合同で授業を行うので、大きな設計になっているのだ。
そのため、普段は校舎以上に賑やかな場所でもある。
しかしそれが今は、何の物音ひとつも聞こえてこない。
今まで通って来た校舎と同様、静か過ぎる程の静寂に包まれていた。
「本当に、ここにしのぶさんがいるのかな」
「入って見ないとわからないだろ」
それは、カナタの言う通りだった。
ただ正面入口のガラス戸から見ただけでも、中が真っ暗であることはわかる。
怖気おじけづいてしまうのも、無理は無かった。
「開けるぞ」
桃寿郎が、体育館の入口のドアを開けた。
軋む音を立てて開いていく扉。
開き切ったその先にあるのは、暗闇だ。
まるで巨人が大きく口を開いているような、そんなイメージを受けた。
「……しのぶさん?」
暗い。余りにも暗かった。
ある程度は視界が暗がりに慣れて来たものの、人のいない体育館は寒々しい程に暗い。
そう、体育館には誰もいなかった。
「誰も、いないね……」
「匂いはしないの?」
「うん、何だか変なんだ。匂いをほとんど感じ取れない……」
入口から、体育館の中央あたりにまで歩いた。
響くのは炭彦達の足音ばかりで、それ以外は何の音も気配もしなかった。
周りを見ても、暗闇があるばかりで誰もいない。
誰も、いない。
その時だった。体育館の奥、壇上の照明が点いたのは。
急に光が弾けたので、炭彦は小さく呻きながら目を庇った。
何事かと思って、目を瞬かせながら、そちらを見た。
そして、壇上に立っていた人物に、炭彦は目を丸くすることになった。
「……しのぶさん……!?」
壇上の照明の光の中で、美貌の少女は一枚の絵画のように美しかった。
しかし、闇の中で唯一の光に包まれるその姿は、美しさと同時に、不思議な畏れを抱かせた。
そんな炭彦の考えを知ってか知らずか、しのぶは静かに微笑んでいた。
◆ ◆ ◆
「しのぶさん! 良かった、無事だったんですね」
しのぶの姿を認めて、炭彦は心底からほっとした。
何しろ、ここまでとにかく不気味だった。
それがようやくしのぶの無事な顔が見れて、安堵するなと言う方が無理だろう。
だからそのまま、炭彦はしのぶに駆け寄ろうとした。
しかしそんな炭彦の顔の前に、カナタの掌が広げられた。
駆け出そうとしたところを制された形で、炭彦はその場でつんのめってしまった。
だがそれでも、カナタは炭彦を前に出さなかった。
「か、カナタ?」
カナタは、厳しい顔でしのぶを睨んでいた。
「
え、と、炭彦はあたりを見渡した。
壇上の照明が点いたとは言え、体育館全体はやはり暗い。
しかしそれを差し引いて考えても、人気は無い。誰の姿も見えなかった。
そう訴えるように、炭彦はカナタを見た。
「
「電気って…………あ」
言われてみれば、だ。
先ほど、しのぶが立っている体育館奥の壇上の照明が点いたことを思い出した。
当たり前の話だが、壇上に電気のスイッチなどは存在しない。
壇上の照明装置は、別の場所にあるのだ。
つまり、
「どうしたんですか? 早くこっちに来てください」
当のしのぶは、微笑みながら壇上に立っていた。
その姿からは、何の怪しさも感じなかった。
しかしこの場合、怪しいところが無い、ということ自体が怪しさを証明していた。
「……その前に、ちょっと教えてくれないかな」
「何をでしょう?」
「あの転校生のことは、何かわかったの?」
「はい。その話をするために、まずこちらに来てくれませんか?」
しのぶの表情は、やはり変わらない。
「……さっきのメッセージ」
「はい」
理科室で受けたメッセージのことを、カナタは言った。
「どうやって送ったの?」
「もちろん、私が送信したんですよ」
「へえ、キミのスマホは理科室にあったけど?」
「ええ、ですから理科室で」
「……俺達はその時、理科室にいたんだけど」
カナタがそう言うと、しのぶは一瞬、考えるような仕草をした。
しかしすぐに面倒になったのか、宙を舞った視線をカナタ達に戻った。
そして、ゆっくりと、唇の両端を三日月の形に吊り上げた。
それは、余りにも邪悪に歪んでいるように見えた。
◆ ◆ ◆
「存外、上手くいかないものですね」
細く白いそれは少女のもので、そしてその少女はしのぶの後ろに立っていた。
(何だ? いつからいた? 壇上には誰もいなかったはずだ)
突然、現れた。
そうとしか表現できない。
だが今は、どうやって、ということを考察している場合では無かった。
誰が、というのも考える必要は無い。
何故ならしのぶの後ろから顔を出したのは、カナタ達の想像通りの人物だったからだ。
「こうしてお話をするのは、初めてでしたか?」
「さあ、どうだったかな」
西洋人の、美しい少女。転校生――――セッカだった。
しのぶの身体に絡みつくようにして、彼女は立っていた。
ああ見えて、しのぶはパーソナルスペースが広い方だ。
あそこまでの距離感で触れ合える存在がいるとすれば、それこそカナエだけだろう。
それがどうだ。まるで反応を示していない。
受け入れるとか、跳ねのけるとか、そういうことでさえ無い。
「炭彦、何か感じる?」
「う、うん」
外面の情報だけでも異常だが、炭彦が
「
いや、それも正確では無かった。
何かがいると言うよりは、ある、と言った方が正しい。
植物の根のようなものが、しのぶの体内に
透き通る世界を通じて、炭彦にはそれが視えていた。
「……しのぶさんに、何をした!?」
「何もしていないですよ。人聞きが悪い。ただ、
そう答えながら、セッカが片方の手を炭彦達に向けた。
何かが来る、と、素人でもそう判断するだろう、そんな動作だった。
「あなた達も、私とお友達になりましょう?」
第一に、警戒を解かずに集中していたこと。
そして第二に、透き通る世界を継続していたこと。これが良かった。
そうしていなければ、そこで
渇いた音がした。
咄嗟の判断で、炭彦はカナタと桃寿郎の袖を掴んで倒れ込んだ。
2人は、意外なことに抵抗しなかった。それもまた良かった。
そうでなければ、
聞こえた音の方に目を向ければ、体育館の床板に何かが突き刺さっているのが見えた。
「あれは……!?」
◆ ◆ ◆
それは、種子というには大ぶりだった。
親指の先程の大きさをしていて、僅かに根のようなものも見える。
それがウネウネと動いていて、不気味だった。
「まあ、酷い」
クスクスと、セッカが嗤っていた。
「どうして避けちゃうんですか?」
そりゃ避けるよ! と、3人は思った。
ここまで来れば、しのぶに何が起こったのかは明らかだった。
絡繰りは不明だが、あの種子を打ち込まれると、セッカの支配下に置かれるのだろう。
この時点で確定する。
「どうする!?」
「どうするって言われてもな……」
「しのぶさんを置いていけないよ!」
「それはそうだけど……」
数で言えば、三対一である。
しかし人数で上回っているとしても、実力までその通りでは無い。
いや、むしろ純粋な力という意味では、人間3人で吸血鬼1人に勝つのは無理だ。
いくら炭彦や桃寿郎が日輪刀を持っているとしても、それは変わらない。
(何より、今のこの状況は相手が作ったものだ。まずここから抜け出さないとマズい)
まして、相手の土俵での戦いとなればなおさらだ。
まずはこの体育館、いや校舎から外に出なければならない。
と言うのが、カナタの冷静な部分。
しかし同時に彼はそれが不可能なことも知っていた。
しのぶが、
すると、もう「この場から抜け出す」という選択そのものが取れない。
カナタもそうだが、炭彦や桃寿郎はそういう
(どうする……?)
逃げることは出来ない。
一方で、自力での解決は難しい。
そういう場合において、人間は――否。
「カナタ! 桃寿郎くん! しのぶさんを!」
「うむ!」
「待て! 2人とも、待って!」
答えは簡単だ。というか1つしかない。
大正時代ならばいざ知らず、今は令和だ。
(とはいえ、まさか目の前で
となれば。
「良いのかな、悠長なことをしていて」
セッカに向かって、カナタは言った。
「
「…………あらあら」
そして、セッカの顔から微笑みが消えた。
◆ ◆ ◆
カカカ、と、聞いたことも無い音がした。
それはどこから聞こえたのかも判然としなかったが、確かに笑い声だった。
背筋が凍り付くような、そんな声が、どこからともなく耳朶を打って来た。
「カカカ、面白いではないか。良いぞ、
それがセッカの声だと理解するまでに、少し時間を要した。
何故ならばその声が、セッカからしている声だと認識できなかったからだ。
矛盾するようだが、実際にそう思えたのだから仕方がない。
そして実際、セッカの声はそれまでと違っていた。
話し方も、声音も、急に変わった。
年若い少女のようでもあり、しわがれた老婆のようでもあった。
「
何よりも、この威圧感だ。
炭彦や桃寿郎が廃倉庫の戦いで感じたものより、さらに強かった。
頭の先端から、何かで押さえ付けられている感覚。
汗が引き、対照的に喉が激しく渇きを訴えて来る。
(呼んじゃ駄目だ)
当たり前だが、炭彦はカナタが瑠衣を呼んでいないことを知っている。
だから、さっきのカナタの発言がブラフーー炭彦は嘘が吐けない――だということはわかっている。
その意図までは理解できていなかったが、何か狙いがあってのことだとは思っていた。
そして相手が「瑠衣を呼べ」と言ったことが、カナタの狙いとは違っていたことも、わかっていた。
つまり、今が非常に不味い状況であることを理解していた。
そしてそれ以上に、自分達の立場を理解した。
セッカは、しのぶを使って自分達を呼び出したのではない。
(瑠衣さんを、呼んじゃ)
「まあ、ただ呼ぶのなら早くした方が良いと思うがの」
「……え!?」
その時だ。炭彦達がやって来た体育館の扉が開いた。
いや、扉だけでは無い。窓から倉庫の扉から、何もかもが音を立てて開いた。
そしてそこから
「もしかして、とは思っていたけれど……」
外れていて欲しかった、という意味合いを言外に込めつつ、カナタが言った。
「ああ、そうじゃよ」
セッカの嗤い声が、返事だった。
「
体育館に押し寄せて来たのは、
セッカのクラスメイト、いや、何人か教師も混ざっている。
というより、学園外の人間の姿もある。十数人――いや、数十人の人間が、体育館に殺到してきた。
突然に、何の予告も無く、いきなり。
余りにも急激な状況の変化に、ついて行けない程に。
「ほれほれ」
そんな炭彦達を嘲笑うように――実際、嘲笑っている――セッカは言った。
「早くせんと、お前達も――――
カカカ、という嗤い声だけが、耳に響いて来た。
それでも、なお。
呼んじゃ駄目だ、と、炭彦は胸中で思ったのだった。
最後までお読みいただき有難うございます。
不覚にも風邪をひいてしまいました…。
皆様もお気を付けください。
それでは、また次回。