――――人は、死を恐れる。
古来、人類というものが死を恐れなかったことは無かった。
死とは終焉であり、喪失であり、忌むべきものだった。
その証拠に、考えてみれば良い。
およそ「死」を題材としたもので、前向きなものが存在しただろうか。
いかなる神話であれ、伝説であれ、昔話であれ御伽噺であれ。
死を司るものは常に、人間から何かを「奪う」存在だ。
だから人は死を恐れる。避けることの出来ない災厄として、膝を屈して頭を垂れるのだ。
(私は違う)
鬼舞辻無惨も、同じだった。
母親の胎内にいる頃から、彼の心臓は何度も止まった。
生まれ落ちた時でさえ、死んでいると思われて荼毘に付されかけた。
虚弱な体で、死の腕に抱かれながら毎日を生きてきた。
恐ろしかった。
だがそれ以上に、許せなかった。苛立った。腹立たしかった。
まともに生きたことさえないのに、死なねばならないことが納得できなかった。
こんな理不尽が、許せるはずがない、と。
(だから私は、死を克服する。死という理不尽を克服して初めて、私はようやく
千年も生き永らえたが、死の可能性が0にならない限り、実は何の意味も無いのだ。
心の片隅で、死ぬかもしれない、そう思い続けることの苦痛。
何をしても、何処にいても、絶対に死なない。
そんな存在になってこそ、本当の生を謳歌できるのだから!
(青い彼岸花だ……青い彼岸花さえ、手にすれば!)
炎の剣を弾き、風の刃をかわす、水の刀を砕いて、岩の鉄塊を打つ。
その他にも、次々と技を仕掛けられる。
息つく間もない、とはまさにこのことだった。
無惨に休息を、あるいは思考する暇さえ奪おうと、怒涛の如く攻撃してくる。
(どれもこれも、
無惨の攻撃は、まさに致死の一撃だ。
当たっただけ、触れただけで致命傷になり兼ねない。
しかし柱達は一陣が攻撃する時、他の者が防御や援護に回る。
これを突破することは、いかに無惨と言えども容易なことでは無かった。
「無惨!」
「無惨……!」
「……無惨!!」
そして、誰も彼もが自分に明確な殺意を向けている。
己の命など、まるで省みていない。
命さえ投げ打って攻撃してくる相手。それも複数人。さらに最強の達人ばかり。
――――理解できない! 何なのだ、こいつらは!
◆ ◆ ◆
落ち着け、と
竈門炭治郎を始めとする鬼狩り達は、確かに厄介だ。
1人1人ならともかく、攻防連携されれば容易には振り払えない。
たとえ百獣の王でも、体に
(とにかく、分裂して離脱する)
無惨が多少なりと苦戦するのは、今の形だからだ。
鬼狩りの眼を晦まし離脱してしまえば、二度と同じ形には出来ない。
何となれば、この場にいる全員が――鬼である珠世だけは例外だが――寿命で死ぬまで地下に潜っていれば良いのだ。
事実、前回――継国縁壱の時は、そうやって
「鬱陶しい異常者どもめ! 粉々に吹き飛ぶが良い!!」
ガパッ、と、無惨の体の前面が割れた。
無数の牙の奥に光がちらつき、次の瞬間には無惨の言葉が現実のものとなった。
衝撃波。
並の人間であれば肉体をばらばらにされるだろうそれは、しかし。
――――岩の呼吸・参ノ型『
鉄球と鎖、そしてそれを補助する恋と蛇の柔らかな斬撃。
まさに剛柔の斬撃が、衝撃波そのものを斬り散らしてしまう。
「隙ありです」
――――蟲の呼吸・蝶ノ舞『戯れ』。
衝撃波を放った直後に起こる硬直。
そのわずか一秒の隙に、
そうして生まれた毒の一瞬に、他の柱が攻撃を仕掛けて来る。
この攻撃を捌くのに、やはり2手3手は遅れる。
そして次の攻撃を受ける。ループしている。
やはり、抜け出せない。
このループから抜け出すためには、いかにするべきか。
「無惨!」
炭治郎の斬撃。熱い。忌々しいこの熱量。
忌々しいが、今は強力な斬撃こそが必要だった。
「ふん、それにしても死んだふりまでして私の命を狙うとはな」
そのためには、どうすれば良いか。
この点に関しては、皮肉なことに無惨は
「本当にしつこいな。それともお前達は台風や津波で身内を殺されても報復を誓って自然現象に千年つきまとうのか?」
場の空気が固くなり、無惨はニヤリと笑った。
「とんだ異常者だ。そんなお前達の身内も異常者だったんだろう。死んだ方が世の中のためだったな」
その、次の瞬間。
まさに、殺意をぶつけられたかのように。
無惨に対して、暴力的とさえ言える量の斬撃が繰り出されたのだった。
◆ ◆ ◆
結論から言おう。
無惨の言葉に激昂した炭治郎や柱達の攻撃は、完璧に届いた。
日輪刀の刃は無惨の肉体を切断し、その再生速度さえも上回った。
また斬り付けた当人達の手にも、着実な手応えがあった。
まさに、完璧だ。完成された攻撃だ。欠けている点は何もない。
(――――おかしい)
しかし、1人だけ違和感を覚える者がいた。
産屋敷輝利哉である。
彼は、実は戦場付近まで出張って来ていた。
鎹鴉に出来るのは――産屋敷家直属の鎹鴉は知能も流暢さも他の鴉と比較できない程だが――基本的に
無惨の前には出ない。
しかし、無惨の近くにはいる。灯台下暗しだ。
無惨に見つからない場所は、
(
輝利哉は、父からこの計略を実行するにあたっていくつか話を聞いていた。
父の話の中には、始まりの剣士――継国縁壱と無惨の因縁についても含まれている。
そして、いかに無惨が狡猾で、
そんな無惨が、こうもあっさり柱達から致命の攻撃を受ける。
産屋敷家特有の直感とも言うべきもので、輝利哉は強烈な違和感を覚えたのだった。
「ク――――」
「クク、ククク、クハハハハハハハハハハッッ!!」
哄笑。
無惨の嗤い声が、その場にいる全員の耳朶を打った。
誰もが不快さを隠さず、無惨を睨んだ。
「馬鹿め、まだわからないのか!?」
無惨は嗤い続け、そして言った。
「
しまった、と、何人かは気付いた。
こちらの波状攻撃によって、無惨の頚は飛んでいる。
「今頃になって気付いても、もう遅い! お前達がいくら頑張ったところで、我が肉片の全てを斬ることはできまい!」
全員で手分けすれば、いくらかは斬れるだろう。
だが「いくらか」では駄目なのだ。
散らばった肉片を一度に、逃さずに斬らねばならない。
そんな技は、この場にいる誰も持っていなかった。
「ハハッ、ハハハハハッ、ハハハハハハハハハハハッッ!」
そんな、と、この後の展開がわかる炭治郎の焦りは特に強いものだった。
喋っている無惨の頭がすでに
斬る意味がない。だから動けない。
(ああ、無惨が逃げる! 逃げてしまう……!)
珠世の分裂阻害を過信した。
愚かだった。
自力で無い分裂を予測しなかった。
迂闊だった。
ここで無惨を逃がしてしまったら、次の機会までに何年かかる。
四百年か、千年か。その間に、何人が死ぬ。
何百、何千、いや何万もの人間が死ぬだろう。
「無惨――――ッ!!」
叫ぶ。返って来るのは嗤い声だけだった。
脳裏に、夢で見た継国縁壱の姿が浮かんだ。
誰よりも強く、誰よりも弱かった人。
託されたもの、繋いでくれたもの。
それが無駄になろうとしている。
(誰か……!)
誰かを、変化を望んだ。
自分では覆せない状況を前に、人間は祈る。
他者に、神に、仏に、祈る。
だが仲間の剣士はおろか、神も仏も応えはしない。
救いは、もたらされない。
「他者に救いを求め…。手を止めるとは…」
救いをもたらしたのは、神でも仏でもなく。
「軟弱千万…」
そして、人ですらなかった。
◆ ◆ ◆
それは、誰もが予想していなかった男の登場だった。
黒い、そして紫の刀を持つ男。
六ツ眼の男。
――――黒死牟。あるいは、
「こ――黒死牟!? 貴様……ッ」
「……御意。生きておりました…」
黒死牟は、頭が生えていた。
瑠衣に頚を斬られたはずだが、再生していた。
(そうだ。思えば、あの時……体は倒れたけど、
疲労困憊の極みにあったせいで、死体の確認が不十分だった。
再生する気配もなかったし、鬼気も失せていたので、見落としてしまった。
普通に考えれば、大失態だ。
上弦の壱が無惨の援護に来たのだ。そう考えるのが当然だろう。
だが、黒死牟は今、
その場にいる全員が、それを目撃した。
黒死牟の斬撃、あの月輪の斬撃が無惨の肉片を薙いだ。
鬼殺隊側の衝撃は、凄まじいものがあった。
しかし無惨の受けた衝撃は、それ以上のものであっただろう。
「……日の呼吸…」
「あ……」
炭治郎は、そばに立ったその鬼を見上げた。
背丈だけの話ではなく、何故か、圧倒されるような、仰ぎ見るような感覚を覚えたのだ。
「何故、手を止めた…」
ずん、と、両肩に重しを置かれたような重厚感。
「刀が折れることは恥ではない…。だが、
心せよ。
剣士とは、侍とは。
心の刀を他者に見せることを許された、唯一の身分なのだから。
「黒死牟、貴様……何故、
「……あの男に、そしてあの娘に頚を落とされた時点で…。我が命は潰えておりました…」
頚を落とされたことで、支配の枷が外れた。
鬼として一度死に、再誕したのだ。
すなわち今の黒死牟は、無惨が生んだ鬼ではない。
だから、黒死牟は、
「思い出しました…」
彼は。
「
何故かは、黒死牟自身にもわからない。
だがその名を口に出すと、何故か妙に清々しい気がした。
あの男、煉獄槇寿郎の拳を打たれた時、久方ぶりの痛みと懐かしさを覚えた。
それは黒死牟の奥底で眠っていた何かを揺り動かし、そして。
「
みし、と、再び手にした刀の柄が音を立てて軋んだ。
すると、不思議なことが起こった。
紫色だったその刃が、徐々に別の色に染まっていく。
「貴様、その刀は……!」
「……左様。貴方に鬼にしていただいたあの日、自ら封印した
「……貴方には、大恩がある。しかし」
その刀を、黒死牟は肩の上あたりまで振り上げた。
ミシミシと音を立てる刀は、今にも砕けそうだ。
「――――悪鬼、滅殺」
――――月の呼吸・拾肆ノ型『
無惨の目には、膨大な数の月輪が見えていただろう。
そしてそれが、鬼狩り達によってバラバラにされた肉片の数を遥かに上回っていることも、彼の目には見えていたのだった。
◆ ◆ ◆
(――――嗚呼)
珠世は、それを見て思った。
あの時、鬼舞辻無惨が継国縁壱から逃れたあの時に、もしも。
もしも、
無惨はけして、継国兄弟から逃れることは出来なかっただろう、と。
月の呼吸は、広範囲殲滅型の技が多い。
これは黒死牟が――巌勝が、一撃必殺の日の呼吸への対抗心で生み出した型だからだ。
攻撃範囲と手数で圧倒しようという、強い意思の下で開発した技の数々だからだ。
(縁壱さん)
もちろん鬼の力で拡大している面があるが、人として放たれても同じだっただろう。
まして巌勝は痣持ちで、透き通る世界にも入門していて、しかも赫刀の発現者だ。
巌勝自身は、今も気付いていないだろう。
今の彼は、もう十分に――――
「終わりです。無惨」
珠世が宣言するまでもなく、無惨は逃走経路を失った。
しかも、なまじ分裂してしまったために肉体の大半を失ってしまった。
戦う力はおろか、逃げる力さえ無くなったのだ。
「ぐ、ぐおおおおおおお……!」
頭と、片腕。それも頭の四分の一は欠損しており、腕は二の腕のあたりまでしかない。
それが、無惨に残された肉体の全てだった。
他は全て、巌勝が斬り消してしまった。
「……日の呼吸の継承者」
「あ、はい!」
「後は、委ねる…」
「……はいっ!」
巌勝に促されて、炭治郎が無惨に近付いていく。
黒刀、耳飾り。それを見て、巌勝は目を細めた。
懐かしい。今となっては、それしか思い浮かばなかった。
「ま――――待て! 待て待て! よせ、来るな。来るんじゃあない!!」
無惨は、怯えていた。
迫りくる死の予感が、そうさせた。
無惨の頭にあるのは、いかにしてこの場から逃れるか、ということだった。
逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ。
「そうだ。お前にも私の血をやろう! 永遠を生きられるぞ!」
「無惨」
「待て! 止まれ! 私……私を殺せば、全ての鬼が死ぬんだぞ。何の罪もない犠牲者だ、お前はそれを殺すのか!?」
「お前は」
「黒死牟も、亜理栖も死ぬ!
「もう」
「待て、よせ。考え直せ! やめろ」
「喋るな」
「やめろおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッッッ!!」
命乞い。
それが、千年を生きた鬼の首魁が、最期に行ったことだった。
◆ ◆ ◆
それを、
何故なら鬼のすべては、無惨に命を握られていたからだ。
(失われていく)
四百年。あるいはそれ以上。
長い、永い時間をかけて我が身に培ってきたものが失われていく。
その独特の喪失感に、巌勝は大きな溜息を吐いた。
情けないことに膝が落ちて、立つことさえ出来ない。
「あ……えっと、あの」
そう言えば、名を名乗っていなかった。
目の前でどうしたら良いかわからない、という顔をする炭治郎を見て、巌勝はそんなことを思った。
名乗っておこうかとも思ったが、いや、と思った。
今さら、人間としての名乗りをしても仕方がないと思えたのだ。
(灰の匂いがする)
そして、炭治郎は巌勝の死を嗅ぎ取っていた。
巌勝の肉体が崩壊を始めていることを、鼻で察していた。
だが炭治郎には、かけるべき言葉が見つからなかった。
「炭治郎」
その時だ。炭治郎を呼ぶ声がした。
振り向くと、善逸がいた。
彼もまた炭治郎と共に、亜理栖の鏡の中にいたのだ。
もっとも、それも今や
「禰豆子ちゃんが」
禰豆子。その名前に、炭治郎は目に見えて揺れた。
「行くがいい…。私など、捨て置け…」
「でも」
「…………」
目で、巌勝は語った。それだけで十分だった。
炭治郎は頭を下げると、巌勝に背を向けて駆け出した。
(嗚呼)
再び、巌勝は大きな息を吐いた。
炭治郎の発する日の呼吸、日輪の耳飾り。
それを、視界に収めて、思う。
(嗚呼、私はついに……何も。何も残すことが出来なかった)
呼吸も、技も、何も。自分の何かを継いでくれる者もいない。
このまま自分が消滅すれば、それで終わりだ。
それに対して、日の呼吸とその技は、炭治郎が子々孫々に伝えていくのだろう。
ずっと、残っていくのだろう。
(何者にも、なれなかった)
ついに、縁壱に追いつくことは出来なかった。
縁壱のように、なることは出来なかった。
何者にもなれず。
何も残せず。
自分は、このまま消滅するのだろう。
(私のような者には、相応しい死に様だ)
せめてこのまま、潔く地獄に行こう。
そう、思った時だった。
不意に、巌勝の前に立つ者がいた。
「……?」
不思議に思って顔を上げると、そこに時透が立っていた。
年若い少年。
しかし、どこか――――懐かしい。
そう、思った。
◆ ◆ ◆
犬井透という剣士は、鬼殺隊としては極めて標準的な男だった。
異人との混血であること。体格に恵まれていること。犬のブリーダーであること。
それらは人となりを示す個性ではあるが、鬼狩りとしての境遇を表すものではない。
鬼に家族を殺され、家族を鬼にされ、鬼殺隊に流れ着いただけの男。
鬼殺隊士としては標準的とも言うべき境遇で、犬井は鬼狩りになった。
そして運よく今日まで生き残り、そして運よく。
「バウッ」
「おう」
そばに駆け寄って来たコロに、犬井は目を向けなかった。
犬井が何かを言わなくても、コロは尻尾を振って前に回り込んで来る。
怪我をしているのか、前足の片方が動いていなかった。
「
「どがんしたと」
「……なんでんなか」
大きく、本当に大きく、息を吐いた。
犬井は、
もう、必要なくなったからだ。
鬼を斬るための力は、もう犬井には必要なかった。
「なんでんなかよ」
「う、ん……」
ただ、妹を腕の中に抱く力さえあれば良かった。
しかしそれも、もうすぐ必要ではなくなるだろう。
犬井には、それが良くわかっていた。
(オレ達はこれで良い。だけど、願わくば)
願わくば、あちらの兄妹には別の結末がありますように。
犬井は、心の底からそう思ったのだった。
「禰豆子!」
炭治郎が駆け寄った時、禰豆子の傍には伊之助と、そして鱗滝がいた。
禰豆子は何枚か重ねた布の上に寝かせられていて、荒い呼吸をしていた。
苦しんでいる、ように見える。
「お、おい! ねづ公は大丈夫なんだろうな!?」
伊之助の言葉に、答える者はいなかった。
「おい!!」
「あー、もう五月蠅い! ちょっと静かにしてろ馬鹿!」
触れると、異常に熱かった。
鬼の身体だ。人とは違う。それを加味しても異常な熱さだった。
まるで、
今になって、無惨の最期の言葉が重く圧し掛かってきた。
後悔――はしていない。何度繰り返しても、同じ選択をする。
同じ選択をする。しかし。
しかし、と、思わずにはいられないのだった。
「禰豆子……」
その直後、炭治郎はハッと顔を上げた。
そしてその匂いの源は、空から落ちてきた。
まるで、
◆ ◆ ◆
本能で理解していた。
自分はもうすぐ死ぬ。
死を避ける方法は、今度こそ存在しない。
それを自覚した時、彼は――猗窩座は、自然と行動していた。
「お前は……!」
不意に飛来したその鬼は、大胆不敵にも鬼狩り達のいる場の中心に着地した。
彼は、手にしていた金属製の鞄のようなものを、足元に投げ捨てた。
重い音を立てて落ちたそれに、場の視線が集まる。
さして興味もなさそうな顔で、猗窩座は言った。
「
町の入口には、青い彼岸花の移送部隊――達の、
良く見れば、猗窩座の手は血に塗れている。
日ごとに強まる猛りのままに、猗窩座は拳を振るった。
外道。鬼畜。まさに鬼の所業。
だが、それで良い。それが良かった。
求めていた
ならば、自分に残された道は修羅の道しかない。
そして死を前にして、修羅がすべきことは1つしかない。
「
無限列車で受けた屈辱を、返すことだけだ。
それが最後の命を使って、すべきことだと見定めた。
猗窩座にとって、戦い以外で命を使うことは考えられなかった。
「え……」
一方で、呼びかけられた側はどうか。
すでに事態の推移を見守るばかりとなっていた瑠衣は、不意の「決闘」の申し入れに反応できなかった。
一度切れてしまった糸を、すぐに張り詰めることは出来ない。
「……チィ」
そんな瑠衣の様子を見て取って、一歩前に出たのが不死川だった。
しかし彼が実際に声を上げる前に、手で制して先んじた者がいた。
「ここは俺に任せて貰おう!」
杏寿郎だった。
全身から力を漲らせて前に出る彼を見て、不死川も口を閉ざした。
この場にいる誰も、杏寿郎の実力を疑っていない。
何より、杏寿郎の一挙手一投足がこう告げていた。
これは、自分がつけるべき
「俺が相手をしよう――――猗窩座!」
「……杏寿郎か」
もちろん、杏寿郎の目は節穴ではない。
おそらく、無惨の血を受け、新たに人も喰ったのだろう。
しかし、杏寿郎に退がるという選択肢は無かった。
「元々、これは俺とお前の戦いだった」
1つ、決着をつける責務がある。
そして、もう1つ。
柱として、そして兄として。
杏寿郎は、今ここで戦わなければならなかった。
「そうか。ならばまず、お前との決着をつけるとしよう――――杏寿郎ォッ!!」
「来い、猗窩座!」
そして、これが最後だった。
鬼舞辻無惨率いる鬼と、鬼殺隊の戦い。
その最後の戦いの火ぶたが、切って――否。
最後までお読みいただき有難うございます。
一件落着!
ハッピーエンド!
いやー、素晴らしい。私はそういうのが大好きなんですよね。
……何ですかその目は(え)
もしかして疑っているのですか?
ならば断言しましょう。
このお話はこのままハッピーエンドに向かう、と!(曇りなきまなこ)
それでは、また次回。