鬼滅の刃―鬼眼の少女―   作:竜華零

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第6話:「上弦の肆」

 夜明け前に、ふと目が覚めた。

 ずっと目を閉じていたせいだろうか、暗がりでも視界が真っ暗になるということはなかった。

 病衣姿で寝台(ベッド)に横になっていたその少年は、寝たままの姿勢で頚だけを動かした。

 痛みがあるのか、う、と小さく唸ってしまってから、唇を引き結んだ。

 

 年の頃は15ほどか、今は暗がりで見えないが黒い髪と瞳に僅かに赤が混じっている。

 赫灼の子と言って、火仕事をする家では縁起が良いとされる。

 しかしそれ以上に特徴的なのは、左額の大きな痣だ。

 初対面なら誰でもまず目が行くだろうが、不思議と醜いという印象にはなっていない。

 寝台の名入れに「竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)」と書かれていて、それが少年の名前だとわかる。

 

(皆は……)

 

 そこは病室のようで、周囲には同じ形の寝台が15ほど並んでいた。

 その内の、炭治郎から見て右側の2つには、彼の友人が眠っていた。

 この2人も、炭治郎に負けず劣らず特徴的な少年だった。

 

(良かった。苦しそうじゃない……)

 

 まず手前の寝台に眠っている少年、嘴平(はしびら)伊之助(いのすけ)

 炭治郎と同じ病衣姿で眠っている彼だが、顔が見えない。

 包帯でぐるぐる巻きにされているとかではなく、被り物をしているのだ。

 猪頭の被り物。作り物ではなく、本物の猪の頭を使ったものだ。

 その由来は炭治郎も知らないが、大切なものなのか、彼はずっとそれを被っていた。

 

 そしてもう1人が、我妻(あがつま)善逸(ぜんいつ)

 こちらは動物の毛皮を被っていたりはしないが、髪が鮮やかな黄色だった。

 炭治郎も故郷の山から下りて色々な人に出会ったが、彼のような髪色の人間には初めて会った。

 2人とも炭治郎の同期で、最終選別を生き残り、そして下弦の鬼と戦った任務を共にした仲間だった。

 まあ、そのせいで3人揃って入院の憂き目にあっているわけだが。

 

「…………」

 

 それから、炭治郎は反対側に首を回した。

 寝台の傍に、背負い紐のついた大きな木箱が置かれていた。

 金属の枠で補強を施された箱で、小さな子供くらいなら入れそうだ。

 炭治郎がその箱を不思議と優しい目で見ていると、その視界に誰かの足が入って来た。

 ぎ、と音を立てるそれは、車椅子だった。

 

「あ……ありがとうございます」

 

 口元にそっと水差しを差し出されて、静かにお礼を言った。

 自分が思っていたよりも喉が渇いていたのか、喉を通る水の感触が心地よかった。

 そんな炭治郎を、車椅子の女性は慈しみに満ちた表情で見つめていた。

 蝶の柄の羽織を着ていて、長い黒髪の両側にやはり蝶の髪飾りを着けている女性。

 

「カナエさん」

 

 カナエと呼ばれたその女性は、炭治郎ににっこりと笑いかけてくれた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 ――――土の味。

 土の味で、瑠衣は目を覚ました。

 その際に口元の砂を吸い込んでしまい、咳き込んでしまった。

 

「う……」

 

 咳き込むと、左の脇腹に鈍痛が走った。

 起き上がることが出来ず、腹を抱えるようにして(うずく)った。

 軋みと痛みがじわりと広がってくる感覚。

 肋骨が、2本――悪くすれば3本は折れているかもしれない。

 

 刀は、と頭の片隅で考えたが、気が付けば手に持ったままだった。

 意識を飛ばしても、これだけは手放さなかったらしい。

 そこまで来ると、霞がかったようだった意識もはっきりとしてきた。

 呼吸で鎮痛を図りながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「そうだ……私、飛ばされて……」

 

 顔を上げると、不自然に枝が折れていたり、葉が散っていたりする木がいくつか見えた。

 それは瑠衣の頭上の木――太い枝が1本、ぼきりと折れている――まで、まっすぐに続いていて、まさに何かが通り過ぎた跡、という風だった。

 その何かとは、瑠衣自身だ。

 

 思い出してきた。

 そう、飛ばされた。()()()()()()()

 全身を暴風に包まれる感触、それが肌に甦ると、直前の光景まで浮かび上がってくる。

 ()()()の姿も。

 

「そうだ。皆……!」

 

 その時だ、羽音が聞こえた。

 聞き慣れた鴉のものとは明らかに違う、もっと大きくて、力強い音だ。

 そして、瑠衣の上に影が差した。

 

「カカカッ、思ったよりは近くにおったのう。木にでも当たったか、手間が省けて喜ばしい」

 

 それは、鳥の類ではなかった。

 癖の強い黒髪に、頭から大きく伸びた2本の角。猛禽類のような手足と羽根。

 間違いなく、鬼だ。

 いつか見た蝙蝠鬼に似ているが、放っている鬼気と威圧感はその比ではなかった。

 

 ――――風の呼吸・壱ノ型『塵旋風・削ぎ』。

 その鬼が空から飛来した瞬間、瑠衣は攻撃に動いた。

 螺旋状に刻みながらの突進、並の鬼であれば屠れる技だ。

 しかし、その瑠衣の攻撃を。

 

「何じゃ、お前! 意外とすばしっこいのう! カカッ」

 

 4本指の鬼の足が、あっさりと受け止めてしまった。

 鉤爪で掴まれた刃がギリギリと音を立て、ともすれば刀の方が折れてしまいそうだ。

 と、鬼が口を開けた。

 鬼らしい鋭利な牙と、「喜」と書かれた舌が見えた。

 

「さあ、もう少し俺を楽しませてみせろ!」

 

 そして、鬼の目の()()が見えた。

 左目に「上弦」、右目に「肆」――――十二鬼月・上弦の肆。

 ()()()()

 瑠衣が何故、ひとりそんな鬼と戦っているのか。

 それを説明するためには、少しばかり時間を遡る必要がある――――……。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 山門にその鬼が姿を見せた時、瑠衣達は呆けたような反応を示した。

 誰も彼もその老人が鬼だとわかっていながら、同時にこう感じていたのだ。

 ()()()()()()()()

 先程まで戦っていた下弦の肆・零余子に比べれば、肌に迫ってくるような威圧感もない。

 

 ただのはぐれ鬼、そう思った。

 とは言え鬼は鬼だ。見つけたのなら、人を襲う前に討っておこう。

 そう思って瑠衣が刀を抜いた時、獪岳がすでに飛び出していた。

 鬱憤(うっぷん)を晴らすように日輪刀を振るい、鬼の頚が宙を舞った。

 

「ヒイイイ! 斬られたあああっ!」

 

 ここまでは、流石は獪岳と思った。

 しかしすぐに、瑠衣は眉を寄せた。

 何故なら、頚を斬られていながら鬼の身体が崩壊を始めなかったからだ。

 

「何だ……?」

 

 最も近くにいる獪岳は、よりはっきりと怪訝(けげん)の色を浮かべていた。

 何故なら、彼が斬った鬼の頚。

 その頚の傷の断面が、うぞうぞと蠢めいてた。内側から肉が盛り上がっている。

 ()()()()

 

 頚の断面から、あっという間に新しい体が生えてきたのだ。

 獪岳は、いや全員が驚愕した。

 鬼は頚を斬られれば死ぬ。頚を斬られて死なない鬼はいない。いないはずだ。

 それなのにこの鬼は、体を再生させた。それも(まばた)き程の間にだ。

 これ程の再生の速い鬼を、獪岳は見たことがなかった。

 

「獪岳さん、後ろ――――っ!」

 

 瑠衣の声。獪岳は「馬鹿か」と思った。

 鬼は彼の正面にいる。この状況で「後ろ」とは何だ、と。

 それよりも正面の、頚から再生した鬼だ。姿が違う。

 先程のような老人の姿ではなく、まるで天狗のような装束を着た若い男の姿になっている。

 

「カカッ、別れるのは何年ぶりかの。積怒(せきど)

「……話しかけるな馬鹿が。可楽(からく)、貴様のせいで不意を討てなくなったではないか」

 

 背後。声。

 混乱した。

 鬼は自分の目の前にいるのに、どうして後ろから声などするのか。

 

「獪岳さん!」

 

 ――――風の呼吸・壱ノ型『塵旋風・削ぎ』。

 獪岳の背後にいる鬼――可楽という鬼が積怒と呼んでいた――に、瑠衣は突進した。

 先程の老人の鬼の身体に頚が生えて、積怒になったように見えた。

 手に錫杖のような物を持っていたが、構えるでもなく瑠衣のことを静かに見つめていた。

 その頚に、迷うことなく日輪刀を振り下ろした。

 

(――――斬れた!?)

 

 余りにもあっさりと頚を斬れてしまって、瑠衣は驚いた。

 見れば、獪岳も正面の鬼――可楽の頚を刎ねていた。

 宙を舞う2つの頚、しかし、やはり体は崩れなかった。

 2つの頚と胴体が、再び再生する。()()()()()だ。

 

「おおっ、4人に別れるのは久方ぶりじゃのう! 喜ばしいのう、哀絶(あいぜつ)

「儂はひたすらに哀しいよ、空喜(うろぎ)

 

 作務衣姿の鬼・哀絶に、鳥の姿をした鬼・空喜。

 舌にそれぞれ喜怒哀楽の文字が見える。

 いや、それ以上に問題なのは目だった。

 両目に刻まれた「上弦」「肆」の文字――――上弦の肆!

 

「じ……上弦だと」

 

 十二鬼月は最強の12体の鬼だが、実は「階級」が存在する。

 肆という数字はもちろん「上から何番目」かを示すものだが、それ以前にまず上弦と下弦がある。

 上弦の壱が最上位で、下弦の陸が最下位だ。

 そしてここ100年余り、鬼殺隊が上弦の鬼を討ったという記録はない。

 100年無敗の鬼。零余子と比べて大したことがない? とんでもない勘違いだった。

 

「危ない!」

「なっ……てめ」

 

 相手が上弦という事実に、獪岳は固まってしまっていた。

 そこへ瑠衣が跳び出してきて、しかしだから防御が遅れた。

 哀絶が手に持っていた十文字槍を横薙ぎに振るい、瑠衣の左脇腹を打った。

 嫌な音がして、瑠衣は顔を顰めた。

 

「カカッ、何じゃお前? 面白い女子じゃのう」

 

 可楽の手には八つ手の葉の団扇があり、彼はそれを瑠衣と獪岳に向けて縦に振った。

 猛烈に嫌な予感がして、瑠衣は獪岳を突き飛ばした。

 獪岳が何事かを叫んでいたが、それを聞き取るよりも先に、暴力的な風が瑠衣を包み込んだ。

 耐え切れずに、体が吹き飛ばされた。

 視界が回転する――――。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 そして、今に至る。

 

「ほれほれ、どうした小娘!」

 

 空喜が両足の爪を交互に繰り出してきて、瑠衣はそれを刀で受け流し、両側に逸らすことで何とか回避していた。

 だが、一撃が重い。

 爪と刀が火花を散らす、強度で負けているのは刀の方だった。

 しかも空喜には余裕があり、戦いを楽しんですらいた。

 

 爪の連撃を凌ぎ、日輪刀を袈裟切りに振るった。

 羽根を羽ばたかせて容易にかわされ、空中で回転、そのまま突進してくる。

 速い。

 いつかの蝙蝠鬼とは比べ物にならない。

 

「……っ!」

 

 左肩、血が噴き出た。

 同時に後ろに跳ぶ、狙いはまだ振り向いていない空喜の背中だ。

 ――――風の呼吸・陸ノ型『黒風(こくふう)烟嵐(えんらん)』!

 

 風を纏った、下からの切り上げの斬撃。

 攻撃直後の空喜に反応できるものではなかったはずだが、彼は下からこちらを覗き込み、そのまま縦に回転してきた。

 足の爪が、瑠衣の刀を蹴る。

 しかし瑠衣は踏み込んだ、蹴りの勢いに負けずに斬り抜ける。

 

「カカカッ、小娘のくせにやりおるのう。退屈せずに済んで喜ばしいぞ!」

 

 空喜の右足が、踵の辺りから膝までが斜めに裂けていた。

 しかしその傷は、2つ数えるよりも先に治ってしまった。

 裂かれた肉が張り付き、傷の線すら消えてしまう。

 

(何て再生の速さ、これが上弦……!)

 

 鬼は不死身だ、陽の光を当てるか日輪刀で頚を斬らない限り再生する。

 しかし雑魚鬼なら、いや下弦の鬼ですら、再生までに一定の時間がかかる。

 現に零余子は頚や腕の再生が間に合わず、瑠衣達に頚を斬られた。

 しかしこの鬼、上弦の肆にはその時間が全くと言って良い程なかった。

 

(再生するよりも速く、連続で斬るしかない!)

 

 ――――風の呼吸・弐ノ型『爪々・科戸風』。

 振り下ろしの斬撃、爪状のそれが空喜に襲い掛かる。

 空喜はそれを左手で半分、右足で半分撃ち落とした。

 鋭利な金属が擦れ合うような、嫌な音が響く。

 

 ――――風の呼吸・伍ノ型『木枯(こが)らし(おろし)』。

 その間に跳び上がっていた瑠衣が、空喜の頭上から突き下ろしの一撃を放つ。

 壱ノ型同様、風の刃を纏ったその突進は、真っ直ぐに空喜の喉元を狙っていた。

 ふわっ、と空喜の身体が浮き上がる。羽ばたいている。

 まるで暖簾を刺すように、瑠衣の刀の切っ先は表皮以上に届くことがなかった。

 間近で嗤う空喜の顔に、ぞっとしたものを感じた。

 

「……ッ。参ノ型……!」

 

 その時だ、上の方から轟音が聞こえた。

 空喜から距離を取る。

 遊んでいるつもりなのか、彼は追ってこなかった。

 

「おおっ、向こうも楽しんでいるな」

 

 カカ、カカ、と空喜の哄笑が聞こえる。

 どこまで吹き飛ばされたかわからないが、空喜が言っていたように廃寺からさほど遠くはないのだろう。

 獪岳達も零余子との戦いで負傷している。衰弱した榛名もいる。

 ここでいつまでも空喜と戦っているわけにはいかない。だが、すぐに倒せそうもない。

 

「お? 何じゃそれは、何のつもりだ?」

 

 とんとん、と、瑠衣が小さく跳ね始めた。

 空喜はそれを楽し気に見つめている。

 そして次の瞬間、瑠衣は跳んだ。

 空喜の方ではなく、上――廃寺に向かって、地面を、木を蹴って駆けた。

 

「おいおい、それはなかろう! もう少し俺と遊べ!」

 

 背後、思いのほか近い声に、跳ぶ。

 縦に回転し、後ろからの空喜の爪を刀で弾く。

 そしてその衝撃を利用して、また跳ぶ。そして駆ける。

 空喜と戦いながら、瑠衣は駆けた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 駆け続けていた。

 人通りのない、谷間の道だ。

 月明かりだけを頼りに、杏寿郎は駆けていた。

 

「ガアア――――ッ!!」

 

 頭上を飛ぶのは、煉獄家の鴉・長治郎だ。

 彼の道案内で、杏寿郎は現場に急行しているところだった。

 十二鬼月かもしれない鬼がいる、という情報に従ってのことだ。

 同時に、杏寿郎の炎柱就任のための試練でもある。

 最も、それは公言されているわけではないが。

 

(……妙だ。どうしてか落ち着かない)

 

 冷静な顔で駆け続けながら、杏寿郎はそう思った。

 緊張とは違う。

 もちろん緊張はしているのだが、体が固くなっているというわけではなく、集中と言った方が正しい。

 事実、杏寿郎の足取りは力強く、また軽やかだった。

 

 それが胸騒ぎだと気付くのに、それほど時間は必要なかった。

 その胸騒ぎは、これから向かう場所に瑠衣がいると聞いた時から続いている。

 ざわざわとした、落ち着かない感覚がずっと胸につかえているのだ。

 何故か、と、冷静な部分が呟く。

 

(瑠衣がいるのなら、まず問題はない)

 

 杏寿郎は、瑠衣を信頼していた。

 それは瑠衣が妹だからということではなく、鬼殺の剣士としての瑠衣の実力を知っているからだ。

 柱に指導される継子が並の隊士より遥かに強いように、幼少時より槇寿郎――杏寿郎が知る限り最強の柱――の指導を受けていた瑠衣もまた、並の隊士よりも遥かに強い。

 鬼狩りの一族は伊達ではないのだ。

 

『杏寿郎』

 

 だが、何故だろう。

 

『何故、自分が兄として生まれたかわかりますか?』

 

 今は亡き母親との会話が、思い出されてならない。

 どうして今、そんなことを思い出してしまうのだろうか。

 ()も言えぬ焦燥感に駆られる。

 知らず、足が速くなっていった。

 

「焦るな」

 

 その時だった。杏寿郎の前を行く背中が声を落としてきた。

 

「焦れば焦るだけ、逆に速度は遅くなる。その程度のことがわからないお前ではないだろう」

 

 その通りだった。

 呼吸は極めれば様々なことが可能になるが、逆に言えば、呼吸を乱せば何も出来ない。

 故に冷静さと集中が要る。

 その集中をどこまで続けることが出来るかで、剣士の強さは決まると言って良かった。

 

「見えて来たぞ。夜明け前には着く」

 

 ネチネチとした物言いの割に、不意に気遣いを見せたりする。

 ふとおかしな気分になって、杏寿郎は口元だけで小さく笑った。

 その気配が通じたのか、もう声が落ちてくることもなくなった。

 

 長治郎がまた鳴いた。

 目的の、十二鬼月が巣食う山が見えて来た。

 足に力を込めて、杏寿郎は駆けた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 頚を斬っても死なない鬼など、柚羽は初めて見た。

 どうすれば良いのか、わからなかった。

 

「カカカッ、どうした。もう技はないのか?」

 

 体中を、切り刻まれていた。

 頬、首、肩、腕、胴、太腿、手。

 ただどの傷も浅く、僅かずつ血が滴る程度に抑えられている。

 それがわざとだと言うことは、容易に想像が出来た。

 

 可楽、と呼ばれていたか。この鬼は。

 柚羽の目の前で団扇を持った手をゆらゆらと動かしながら、楽し気に嗤っている。

 獲物を傷つけ、弱らせていくことを楽しんでいる様子だった。

 血と汗を流しながらも、柚羽は深く呼吸をした。

 ――――水の呼吸・参ノ型『流流(りゅうりゅう)()い』。

 

「つまらんのう」

 

 移動しながらの連続切り。

 しかし、可楽は素手で柚羽の刀を掴み取った。

 信じられないという顔をする柚羽に、団扇を振り上げて見せる。

 刀を捨てて逃げるべきか一瞬迷い、その間に。

 

 ――――(から)の呼吸・壱ノ型『空裂(からざき)』!

 可楽を背後から無数の斬撃が襲った。

 それは特に団扇を持つ腕に集中しており、いくつもの裂傷が走るのが見えた。

 榛名だった。衰弱が激しい中、柚羽を助けるべく飛び込んできたのだ。

 

「何じゃ、お前?」

 

 しかし、意味がなかった。

 裂傷など気にも留めず――というか、ものの数秒で再生してしまって――団扇を、柚羽と榛名の頭上に振り下ろした。

 鈍い悲鳴と共に、2人とも豪風に()()()()()()()

 地面が、八つ手の葉の形に陥没した。

 

「哀しい程に弱いな、お前の仲間は」

「は? 仲間? 誰が?」

 

 哀絶という鬼は、武器を持っていた。十文字槍だ。

 禊の日輪刀も槍であり、自然と相対することになった。

 横走りしながら互いの突きを弾き、時に薙ぐ。

 鋭い金属音が何度となく廃寺に響き渡り、禊と哀絶の位置も幾度も入れ替わった。

 

「あんな連中、どうでも良いわ。わたしが興味あるのは――――あんたの頚だけよ!!」

 

 踏み込む。哀絶の喉元を狙う一撃。それを哀絶は(しのぎ)の部分で受け止めた。

 禊の身体ががくんと揺れる。ぎりぎりと嫌な音が日輪刀の柄から響いていた。

 鬼の力は凄まじく、全く動かなかった。

 

「身の程を知らぬとは哀しいな」

「身の程? チョー心外なんだけど」

 

 ぐん、と、槍を持ったまま腕を回した。

 金属が擦れる甲高い音が響き、鎬から外れた穂先を、哀絶の槍に添わせるようにして突いた。

 2本の槍の影が、瞬間的に1本に重なった。

 ――――欺の呼吸・参ノ型『独楽旋槍』。

 

()った――――!)

 

 頚を斬っても死なない。

 ならば()()()()()()()()()

 

「何を遊んでいる哀絶、苛々させるんじゃあない」

 

 側面で何かが光った。衝撃を伴った閃光。

 それが雷だとわかったのは、打たれて吹き飛ばされた後だった。

 視界の中で、錫杖持ちの鬼・積怒。あの鬼がこちらを見ていることに気付いた。

 簪が砕け散り、己の髪が散らばるのが見えた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 獪岳は、刀を握ったまま動けずにいた。

 上弦の鬼との遭遇。

 しかも、頸を斬っても死なない。

 この事実を前に、身が竦んでしまっていたのだ。

 

(どうする……どうすれば良い)

 

 あの3体――瑠衣を追って行った鬼を含めると4体――の鬼は、先ほど戦った零余子とは比べ物にならない程に強い。

 1体なら何とかなったかもしれないが、4体。

 しかもそれぞれに厄介な能力を持っている。

 

 そもそも、上弦の肆が4体いるということはどういうことか。

 最初の老人の鬼は何だったのか。擬態だったということなのか。

 4体1組で「上弦の肆」なのか、あるいは何かの血鬼術なのか。

 そうだとして、頸を斬っても死なない理由がわからない。

 急所が別にあるということか?

 

「さて」

 

 そう、色々と考えていると、積怒が獪岳の方を向いて来た。

 獪岳の肩がギクリと震える。

 あの錫杖の攻撃は強力だった。雷を放つ血鬼術。

 雷など、回避する術がない。

 

「まったく腹立たしい。あやつめ、鬼狩りなぞと遭遇しおって」

 

 舌の「怒」の文字が恐ろしくて仕方がなかった。

 冷や汗が溢れて止まらない。

 今まで何体もの鬼を斬ってきたし、鬼に怯えて戦えない隊士を軽蔑したこともあった。

 その自分が、今はこの様だった。

 

 どうする、積怒が近付いてくるぞ。

 どうする、錫杖を掲げているぞ。

 どうする。どうする。どうする。

 ――――どうする。

 

「た……」

 

 その時だった。聞き覚えのある音がした。

 先程まで散々聞いたその音は、徐々に近付いてきていた。

 そして不意に、塀の一部が爆発した。

 巻き上がった土煙の中から、刀を構えた姿勢のまま飛び出してきたのは――瑠衣だった。

 

 それだけではなく、空喜と切り結んでいた。

 両足の爪を受け流し、驚異的な足捌きで腕の鉤爪を避ける。

 ああやって戦いながら、ここまで移動してきたのだということがすぐにわかった。

 その証拠に、隊服の至るところが破け流血している。

 零余子に受けた傷の止血も、戦いに呼吸を集中しているせいか緩んできていた。

 

「遅くなりました」

 

 しかし、声から力は失われていない。

 額に汗と血を滲ませたまま、言った。

 

「獪岳さん……獪岳さん?」

「な、何だよ」

「柚羽さん達はどうしましたか?」

「……やられちまったよ」

 

 見れば、可楽と哀絶の足元に倒れているのが見えた。

 僅かに動いているので、とどめを刺されてはいない様子だった。

 ほっとする反面、次の瞬間に殺されない保証はない。

 

「空喜! 貴様まだ遊んでいたのか!」

「あの娘は俺の獲物だ! 誰も手を出すな!」

「もういい、儂が突き殺そう」

「カカカッ、あっちの方が面白そうじゃのう!」

 

 こうして見ると、4体は個別に自我を持っているとしか思えなかった。

 今も言い争いのようなことをしている。

 人間の喜怒哀楽が具現化すれば、あんな風になってしまうのかもしれない。

 そんな鬼達に、瑠衣は言った。

 

「全員」

 

 深く力強い呼吸を繰り返しながら。

 

「全員、まとめてかかって来い」

 

 4体の鬼の目に、苛烈な色が宿った。

 瑠衣は、それを真っ直ぐに睨み据えていた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 賭けだった。

 しかし瑠衣は、上弦の肆がこの挑発に乗るという確信に近いものがあった。

 ――――カチ、と、詰襟の留め具を外した。

 

(何……してんのよ。あいつ……)

 

 辛うじて意識のあった禊が、それを見ていた。

 獪岳も、見ていた。当然、鬼も。

 瑠衣は詰襟の留め具を外した後、そのまま隊服の前を開いた。

 と言うより、脱ぎ捨ててしまった。

 

 刀を口に咥えて、隊服の上着を投げ捨てる。

 すると、ただの衣類にしては随分と重々しい音がした。

 地面に落ちた際、鈍い金属が擦れる音が確かに聞こえた。

 重りだった。

 積怒が目を細めて、それを冷ややかに見つめていた。

 

「何のつもりだ? まさか、それ(重り)を外せば儂を倒せるとでも言うつもりか?」

「上下合わせて10貫(約37キロ)程度です。大して変わりませんよ」

 

 言う間に、革帯(ベルト)を外していた。

 洋袴(ズボン)を脱ぎ、やはりこれも投げ捨てた。

 重々しい音が聞こえて、言葉通り重りが仕込まれていることがわかった。

 残すは首元と肩の辺りが血に染まった白いシャツだけだ。

 裾から肌着と下穿きの僅かに覗いていて、白い肌と肉付きのよい太腿が露になっている。

 

「まさかとは思うが」

 

 苛立たしそうな表情を、積怒は隠そうともしなかった。

 

「この儂に色仕掛けでもするつもりか? だとすれば腹立たしいことこの上ない」

 

 そんなわけはなかった。

 この場合の色仕掛けには2つの意味――食欲と性欲――があるが、瑠衣はそのどちらも狙ってはいなかった。強いて言えば前者に微かな期待を持っていた程度か。

 後者については考慮さえもしていない。むしろこんな貧相な身体に欲情する男がいるのかとさえ思っている。

 

 そうではなく、ことここに及んで瑠衣は全力を攻撃に注ぐことにしたのだ。

 鬼殺隊の隊服は濡れにくく頑丈で、一定程度の鬼の攻撃なら防いでくれるという利点がある。

 隊服というより鎧と言った方が良いだろう。製法も特殊で職人にしか縫うことが出来ない。

 しかし、だからこそ「万が一、鬼の攻撃を受けても」という甘えが生じる。

 これからの一連の攻撃で、瑠衣はその甘えを捨てたかった。

 

「……どうしました?」

 

 瑠衣の師、不死川実弥。それから、いわば姉妹弟子に当たる甘露寺蜜璃。

 この2人は隊服の露出――甘露寺が聞けば憤慨するだろうが――という点で共通項がある。

 思えば、理由の1つに「防御への甘えを捨てる」という考えもあったのかもしれない。

 だいたい、上弦が相手では隊服の防御など紙切れ同然だ。

 着ても着なくとも同じなら、いっそ捨ててしまった方が潔く攻めに転じられる。

 

「まさか……いえ、私の勘違いであれば本当に申し訳ないのですけれど」

 

「まさか上弦の鬼ともあろう者が、私のような小娘が怖いのですか?」

 

「まあ、そうですね。怖いのなら仕方ないですね。私も鬼じゃありません」

 

「無理なことを言って申し訳ありませんでした。どうぞ聞かなかったことにしてください」

 

 100年不敗の鬼、上弦の肆。

 文字通り無防備な女子に刀を向けられて、こうまで言われて、なお黙っていられるか?

 答えは。

 

「――――――――小娘がッッ!!」

 

 否、だった。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 肌が痛い。喉の奥がヒリついて、胃の腑から何かがこみ上げてきそうだ。

 積怒が、顔面に血管が浮き出る程の怒りを見せていた。

 狙ってやったことだが、いざ剥き出しの敵意を向けられると、その鬼気の凄まじさに圧倒されてしまいそうになる。

 

(怯むな)

 

 自分を、叱咤する。

 

(私は煉獄だ。こんな奴に負けるわけがない)

 

 深緑の日輪刀を、腰の横に構える。刃を立て、柄を強く握り締めた。

 4体の鬼が、じりじりとこちらへと迫って来る。

 瑠衣は、下がらなかった。距離が詰まって来る。やはり下がらなかった。

 

「……おい」

 

 獪岳が話しかけて来たのは、そんな時だった。

 

「何をする気だ?」

「頚を斬ります」

「頚って、お前……馬鹿か!? あいつは頚を斬っても死なない。お前も見ていただろう!?」

()()()()()()()()()

 

 4体の頚を同時に斬り落とす。

 獪岳は、頭でもおかしくなったのかコイツ、という表情を隠そうともしなかった。

 

「思い出したんです。私の家には、歴代炎柱の遺した膨大な量の記録があります」

 

 戦国時代から鬼狩りを続ける煉獄家。

 後世のため、子孫のために、炎の呼吸を伝え続けて来た。

 そして遺されたものの中には、歴代の炎柱が戦ってきた鬼の情報も含まれる。

 幼少時から、瑠衣や兄弟達はそれらを絵本代わりに読み込んできたのだ。

 

「鬼の中には、分裂したり、自分の代わりに人形を戦わせたりする類の血鬼術を使う者もいるそうです。他にも、幻覚を操る者とか……」

 

 上弦の肆は、瑠衣達の目の前で()()()()

 そして先祖が倒したという分裂の血鬼術を持つ鬼は、共通の弱点というか、倒し方がある。

 同時に頚を斬ることだ。正確には、同時に頚のない状態にする。

 幻覚だとどうしようもなくなるが、同時に斬るだけなら事は単純だ。

 後は、剣士の技量次第ということになる。

 

(私に、ご先祖様と同じことが出来るかどうか……!)

 

 上弦の鬼4体の頚を同時に斬る。瑠衣にその技量があるかどうかだ。

 

「……また分裂したらどうする?」

 

 獪岳の思考もまた、鋭いと言える。

 4体が最大数である保証はどこにもない。

 最悪の場合、4体が8体に増えるだけ、ということもあり得るのだ。

 

「だったらそれも斬ります。8体になろうと、16体になろうと。32だろうと64だろうと」

 

 鬼は強力な存在だが、無限の力を持っているわけではない。

 いつかは限界が来る。力の限界が。

 上弦の肆の力の限界が何体なのかはわからないが、斬り続ければいつかは届く。

 その()に、刃が届くはずだ。

 

「だから獪岳さん、お願いします。私が斬り損ねた頚を、斬ってください」

「う……」

「呼吸の剣技で最も速い、風と雷ならやれます。きっと倒せます」

 

 そうだ、きっとやれる。勝てる。

 獪岳に言っている言葉は、その実、自分を鼓舞するためのものだ。

 煉獄家の人間として、恥ずかしくない戦いをしろ、と。

 

 4体の鬼が、集まっている。

 狙い通りだった。柚羽達から引き剥がせた。

 それにまとめて頚を斬るためには、近くに固まっていて貰う必要もあった。

 

「話し合いは終わったか?」

 

 積怒、錫杖を掲げている。

 

「頚を斬るとか聞こえたぞ。カカッ、面白いのう!」

「未だかつて、儂の頚を全て落とした者はおらん」

「身の程知らずもここまでくると、哀しくなるな」

 

 他の3体も、にじり寄って来る。

 瑠衣は、呼吸を深く、集中した。

 頬を伝い、顎先から汗が一滴、落ちていった。

 地面に、落ちた。

 

「――――いきます」

 

 駆けた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

 ――――風の呼吸・壱ノ型『塵旋風・削ぎ』!

 螺旋の斬撃を纏いながらの突進。

 もう、今日は何度呼吸の剣技を繰り出しただろうか。

 これだけの長時間、全力で戦闘を続けたのは初めての経験だった。

 

「カカカッ、まずは俺か! 良いぞ!」

 

 瑠衣がまず向かったのは、空喜だった。

 空喜もまた、猛禽類が獲物を狙うかのように、上空から突進した。

 回転しながら、足の爪を繰り出してくる。

 それを見て、壱ノ型の突進の最中、瑠衣は地面を蹴った。

 

「おおっ!?」

 

 蹴り足にかなりの衝撃が走り、嫌な音がしたが、成功した。

 空喜の爪を掻い潜って、その中に乗ったのだ。

 しかし高速で交錯していることに変わりはなく、乗る、というよりは。

 

 ――――風の呼吸・伍ノ型『木枯らし颪』。

 空喜を踏み台に、空中で加速した。

 突き下ろしの突進。瑠衣の狙いは空喜ではなかった。

 可楽だった。

 

「扇をッ……!」

 

 しかも狙いは頚ではなく、可楽の持つ団扇だった。

 刀が団扇を貫き、可楽の右手から奪い取った。

 着地と同時に駆ける。半身を回すようにして、可楽の背後に回った。

 独特の足捌き。さしもの可楽も一瞬、目が泳いで反応が遅れてしまった。

 

 可楽の背後で、真上で跳ぶ。

 両手で刀を振り上げていて、柄が軋む程に力を込めた腕は血管が浮き上がり、膂力の程を窺い知らせた。

 そしてそのまま、可楽の頚の右側に刀を叩き付けた。

 

(行ける……!)

 

 皮を裂き、肉を切り、骨を砕く感触。

 確かな手応え。

 そのまま、刃が反対側へと抜けていく。

 可楽の頚が落ちる。しかし落とすだけではダメだ。

 

 転がり落ちて来た頚を、瑠衣は思い切り蹴飛ばした。

 すぐに再生されてはダメなのだ。

 頚を斬っても可楽の体は崩れない。だから頚を出来るだけ遠くに飛ばした。

 しかし、そのせいで可楽の腕が瑠衣の肩を掴んでしまった。

 

「カカカッ、手を放すなよ可楽!」

 

 空喜が戻って来た。

 凄まじい速度で瑠衣へと迫り、爪を振り上げている。

 可楽の体に掴まれていて瑠衣は逃げることが出来ない。

 

 空喜の足の爪が、右肩に喰い込んできた。

 次の一瞬には、肉ごと削がれるだろう一撃。

 その一刹那、ほぼ同時に片手で刀を振り上げた。

 狙いは、空喜の顔面。

 

「カッ……!」

 

 目を狙ったのだが、少しズレて口を斬っただけに終わった。

 しかし結果として、それが瑠衣を救った。

 何故か、口――舌を斬られた空喜が、明らかに怯んだのだ。

 肩に喰い込んだ爪が外れる。隙が出来る。見逃さない。

 

 ――――風の呼吸・肆ノ型『昇上砂塵嵐』!

 斬り上げの斬撃、連続で放った。

 可楽の腕と、空喜の翼を斬り飛ばした。

 舌を再生させた空喜だったが、翼を失って地面に膝をついていた。

 まるで罪人を斬首する処刑人のように、瑠衣は空喜の頚に刃を振り下ろす。

 

(2体目……!)

 

 この時点で、瑠衣は己の身体が鉛でも背負ったように重くなるのを感じた。

 折れた肋骨の、脇腹の痛みはもはや尋常ではない。

 しかし、どうやらさらなる分裂はしない様子だった。

 それがわかっただけでも行幸だ。さらに舌を斬ると怯むこともわかった。

 

 ――――血鬼術『激涙(げきるい)刺突(しとつ)』。

 背後から、哀絶の槍の刺突が来た。

 空喜の頚を斬った直後、振り抜きの終わり、身体が硬直する一瞬を狙われた。

 己の足を叱咤する。走れ。しかし間に合わず。

 

「後ろだ哀絶!」

 

 ――――空の呼吸・参ノ型『空割(からわり)』!

 ――――水の呼吸・漆ノ型『(しずく)波紋(はもん)突き』!

 積怒の声。

 しかしその直後には、大上段から振り下ろされた榛名の日輪刀が哀絶の槍を地面に叩き付け、柚羽の突きが哀絶の胴を貫いていた。

 

「楽に死ねないとは哀しいな」

 

 力尽きたのか、勢いが余ったのか、榛名はそのまま転がっていった。

 しかし柚羽は刀を突き刺したまま、哀絶の胴に抱き着いた。

 哀絶の手が、柚羽の頭を握り潰そうとする。

 

「ちょっと、何してんのよ」

 

 ふわり、と、影が落ちて来た。

 

「あんたの相手は、わたしでしょうが」

 

 ――――欺の呼吸・弐ノ型『面子』。

 禊が、短槍2本を両手に舞っていた。長槍を分割したものだ。

 哀絶が顔を上げた時には、すでに必殺の間合いに入っていた。

 簪を失った山吹色の長髪が、風に流れていた。

 肩、そして舌――見ていたらしい――から、頸へ。流れるような6連撃。

 

「何をしている、この馬鹿者共が!!」

 

 激怒した積怒が、錫杖を振り下ろした。

 雷が走る。

 それは哀絶の周囲に群がっていた鬼狩り達を打ち払い、吹き飛ばした。

 同じ上弦の肆である哀絶は無傷で、彼は禊に落とされた頚を拾おうとしていた。

 

「あんな小娘共にこうまで手こずるとは、腹立たしい」

 

 そして再び、錫杖を掲げて。

 

「お前もそう思うだろう、のう?」

 

 自身の背後に忍び寄っていた獪岳に、じろりと視線を向けた。

 ぐ、と、獪岳は歯噛みした。

 しかしすぐに、冷や汗をかきながらも、口元に笑みを浮かべた。

 何がおかしいと積怒が目を細めれば、やはり冷や汗をかくままに、獪岳は応じた。

 

「死ねよ、カスが」

 

 積怒の顔面に血管が浮き出るのと、()がするのは同時だった。

 何だ、と積怒が視線を向ければ、そこには地面を砕きながら駆ける瑠衣の姿があった。

 哀絶を見ていた積怒は気付かなかった。

 あの時、地面を転がっていた榛名が、雷が放たれた瞬間、瑠衣を庇ったことを。

 

「風の……呼吸……奥義……!」

 

 一瞬だった。

 

「捌ノ型……『初烈(しょれつ)』……『風斬(かざぎ)り』――――ッ!」

 

 豪、と、風が吹き抜けた。




最後までお読み頂きありがとうございます。

原作を知る方であればおわかりかもしれませんが、我ながら今回の話はえげつないなと思っています。
と言うか、書いていて改めて思ったのですが…。

原作の主人公同期組がチート過ぎるんですよ…!


というわけで、前回もちょっと話題にした瑠衣以外の主人公候補をちょろっと公開。

その①「朔大納言」
鬼舞辻無惨の妹。この世で2番目の鬼。「上弦の零」。
人間時代の本名は鬼舞辻輝子(兄が嫌いな名前らしいのでまず名乗らない)。
他の鬼と違い、平安時代に兄と同じ薬を服用して鬼となったもう1人の「鬼の始祖」とも呼ぶべき存在。そのため「呪い」による無惨の支配を受けていない。
いわゆるのじゃロリキャラ(え)。血鬼術はきっと髪とか使う。

性格は極めて我儘(兄と違い取り繕うこともしない)
事あるごとに「あ~、暇じゃ。退屈に殺される……猗窩座! あーかーざー!」と兄の部下を呼び出しては退屈しのぎを命じたりする。

初恋は継国縁壱(え)。お気に入りは上弦の壱(え)。
たぶん炭治郎にトゥンクする(えええ)。

採用されなかった理由…竜華零に平安時代の知識が足りないから。
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