鬼滅の刃―鬼眼の少女―   作:竜華零

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エピローグ

 その山には、名前が無かった。

 昔は名前もあったし、今も法律上は名前があるのだろうが、それを呼ぶ者はいない。

 麓にあった小さな町も、時代の流れと共に寂れていき、今では僅かな名残りを遺すばかりだ。

 

「はあ……はあ……」

 

 その名も無き――いや、長い時間の中で名前を失った山には、中腹あたりに小屋があった。

 小屋と言っても、もはや使用に耐えるものでは無い。

 屋根は雨風に傷み、壁や床は植物に覆われてほとんど見ることは出来ない。

 ほとんどの人間にとって、それはもう何の役にも立たない廃屋だろう。

 

 しかしその少女にとっては、目を細めて眺めるに足る大切な物だった。

 小屋の裏手に――少女は随分と足取りが重そうだった――回ると、少し開けた場所に出た。

 広場の中心に、小綺麗な岩と、岩を囲むようにして広がる白詰草の花々が目に入った。

 岩の足元の地面は、他と比較して色合いが少し違うようにも見えた。

 

()()()()

 

 その岩の前に、少女は――竈門禰豆子は、膝を落とした。

 崩れ落ちる。まさに、そんな風な膝の落ち方だった。

 パキ、と音がしたのは、小枝を踏んだからではなく、彼女の肉体が硝子のように罅割れていたからだ。

 罅割れはもはや全身に及んでいて、顔の一部や手指の先など、欠けてさえいた。

 

「ただいま、みんな。終わった、よ」

 

 終わり。

 世界最後の鬼である禰豆子は、本来は不老不死に最も近い存在だ。

 しかし最後の力まで他人に渡してしまった彼女は、もはや回復(睡眠)しようがない程に衰弱していた。

 いや、あるいは全力で回復に入れば、多少の延命くらいは出来たのかもしれない。

 

 だが、禰豆子はそうしなかった。

 元々、永遠の命などに関心がない娘だった。

 そもそも、永遠の命などあってはならないのだ。

 神ならざる人間に、そんなものは不必要なのだと、禰豆子は信じていた。

 そして、彼女の兄も。

 

「遅くなって、ごめん、ね」

 

 それでも、禰豆子は仮初(かりそめ)の永遠を保持し続けた。

 それは、約束だったから。

 兄との、仲間との、約束だったから。

 

『あの人を、瑠衣さんのことを、頼む』

 

 瑠衣は、良い人だった。

 鬼殺隊の先輩として、兄も自分も良く面倒を見てもらったと思う。

 そんな人がああなってしまったのは、とても哀しいことだった。

 (もっと)も、瑠衣が聞けば「気にしなくても良いのに」と呆れたかもしれない。

 

 ただ、自分には瑠衣を救えない。そういう確信もあった。

 だから、待った。

 瑠衣を救ってくれる誰かを、100年前からずっと。

 それが自分達の家の子孫(炭彦)だったというのは、意外なような、納得なような。

 

「……話したいこと……たくさん……」

 

 話そう。そう思った。

 この100年のこと。可愛い子孫達のこと。瑠衣との決着のこと。

 この物語の、結末のことを。

 たくさん話そう。

 きっと、自分の家族なら、嫌な顔ひとつせずに、聞いてくれる。

 

「……あのね……」

 

 さあ、まずは何から話そうか――――。




最後までお読みいただき有難うございます。

というわけで、『鬼滅の刃―鬼眼の少女―』は本話で完結です。
3年…いや4年?
やっぱり月2回だけの更新だと長くかかってしまうなと思いつつ、皆様のおかげで概ね締め切り通りの投稿を続けることが出来ました。
いやー大人になると時間ってなかなか取れないものですね(言い訳)

ま、まあとにかく(目逸らし)。
読んでくれた方、キャラクター等を投稿してくれた方、誤字脱字を毎回ご指摘くださる方(目逸らし)、皆様の助けがあって今話まで来ることが出来ました。
本当に感謝に堪えません。

ありがとうございましたー!
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