「これでよし。名付けて試作『起源剣』よ。」
「ダガーのようですね。」
「ええ、ナイフのように突き刺してもよし。クナイのように投げてもよし。我ながら上出来よ。」
鈍色に濡れたような光沢を放つシンプルな短剣。一夜で造ったとは思えない強力な礼装が手に入った。
そして姉さんは、今後の方針について語りだした。
「慎二は放置してると、よりにもよって学校で魂喰いをはじめるのよね。とはいえ慎二を倒すとこちらの桜が出てくるし、ライダーから確実に倒すべきかしら。」
「はい。でもそれだけだと不十分かもしれません。サーヴァントを失っても、こちらの私がマスターであることは変わりませんから。」
「あー、臓硯が反則召還したサーヴァントを与えるかもしれないわね・・・」
姉さんは、私が話すことのできた断片的な情報だけで戦略を立てている。
いくら姉さんの考えた計画でも、これでは不測の事態が発生するのは避けられないでしょう。
「姉さん、姉さんにどうしても伝えなければいけないことがあります。」
できれば知られたくない。でも伝えなくてはならない。
あのとき私は正気じゃなかった。だけど、あの感情は植え付けられたものではない。間違いなく私の裡から出てきたものだった。
「私はまともな魔術師ではありません。やがて厄災を撒き散らすようになります。兄さんのような魂喰いどころではなく、もっと大規模なそれに手を染めてしまいます。だから・・・」
言うんだ、でないと私はまた化け物になってしまう。
「だから、今のうちにこちらの私を殺すべきです。」
姉さんの表情が消えた。
「そうまでして聖杯がほしかったの?」
「聖杯なんかを手に入れたかったわけじゃないんです。ずっと姉さんに勝ちたかったんです。姉さんが妬ましかったんです。姉さんが選ばれて、選ばれなかった私は遠坂の家に居られなくなって、遠坂を名乗ることもできなくなった。だから勝ちたかったんです。」
ちゃんと目を合わせないとだめなのに、弱虫な私は顔を伏せてしまう。
「姉さんに無視されたくなかったんです。姉さんをひれ伏せたかったんです。それで、もう自分を抑えられなかったんです。」
頬に手を添えられて、静かに顔をあげられて、姉さんと目があった。
「ありがとう、桜。言いづらかったでしょ。」
まだ、まだ私はほんの一部しか伝えられてない。体のなかの蟲のこと、聖杯のカケラのこと、化け物になった私はサーヴァントに対して無類の強さを発揮すること。
全てを白状しなければならないのに、言葉が続かない。
すると姉さんの顔に表情が戻り、歩み寄って来てくれた。
「貴女は私に真剣に向き合ってくれたから、私もちゃんと言うわね。貴女が私を妬んでいたというなら、私は貴女を侮っていたわ。」
そんなことはない。私は化け物になっただけ。姉さんのように魔術師として大成したわけではないのだから、それは侮ったのでなく、正当な評価なんです。
「私の中の桜のイメージは、いつまでも、私の後ろをついてくる小さくて引っ込み思案な桜のままで、とても戦えるように思えなかった。元々の属性をそのまま伸ばしてる私と違って、桜は属性を変えてる。つまり遠回りしてるのだから、そんなに早く追い付かれるはずがないって。思い上がりよね。」
赤いヒビのように頬をはしる線をなぞって、姉さんは撫でてくれた。
「二度も体をつくりかえるのは大変だったでしょ。」
「辛かったです。姉さんともう何もお揃いじゃなくなって。悲しかったです。」
「でもリボンは着けててくれたのね。」
私の頬に当てていた手を下ろし、今度は自分の腰に当て、姉さんは高らかに宣言した。
「もう侮ったりしない。間違いなく桜は強敵。だからこそ、不意討ちなんかじゃなく、魔術師同士の決闘で雌雄を決したいの。」
「でも、それは・・・」
「悪手だってことはわかってる。だけど、サーヴァントも連れてないところを貴女と二人がかりで倒しても、ちっとも嬉しくないというか、私のプライドが許さない・・・わぷっ!!」
感極まって、思わず姉さんに抱きついてしまった。
「姉さん!!それでこそ私の姉さんです!!姉さんなら誰にも負けません!!私は信じてますから!!」
やはり生き残るべきは姉さんだ。
たとえ嫌われたって構わない。今度こそ間違えはしない。
こちらの私は必ず殺す。