「逃げられたか、あの速さでは追うだけ無駄ね。帰りましょう。」
凛がそう考えるのも当然でしょう。しかし、まだ私にはやらねばならないことがあります。
「士郎、市内の偵察の許可を求めます。会敵すればラインを通じて直ちに知らせますし、朝までには帰りますので。」
「えっ!?なんでさ?」
「ライダーは魔力不足に陥っています。追い詰められれば、人目を憚らず魂喰いをすることも判明しています。今この瞬間も人を襲おうとしているかもしれません。」
私の言葉を理解して、士郎と凛の顔色が変わった。
「私はサーヴァントですので、睡眠は必要ありません。本来はマスターの側を離れたくはありませんが、凛とキャスターを信じます。」
「わかりマシた。」
「ええ、任せておいて。」
「いや、待てよ。セイバーをおいてノンキに寝てられるわけ・・・ぶっ!!」
「あら便利ね。簀巻きにすると簡単に運べるわ。キャスター、そのまま家までお願いね。それじゃ、セイバー。くれぐれも無理はしないでね。」
「心得ました。」
皆が去ったあと、ふと空に目をやると、夜のとばりの深さが増したように見えた。これは私の心が疚しさを感じているからか。
「私は、マスターを謀った。騎士を名乗る資格をなくてしまっているのかもしれませんね。」
戦場と化した学校から無事帰還、綺礼に慎二たちの魂喰いを通報して対処を要請したのち、土蔵に入ってから、士郎に魔術を教える。
眠れないっていうなら徹夜で特訓といきましょう。
魔術師の工房とは言い難い場所だけど、長年ここで鍛練してたなら、この場所が最適でしょう。
ああ、メガネを忘れちゃダメね。
スチャ!!
「さて、それでは説明をはじめるわよ。」
「ああ、頼む。」
えっ、正座するの?
変なところで真面目というか、まぁそれで集中できるならいいけど。
「貴方の強みは、まず『解析』よ。無駄な才能だなんてどんでもない。巧妙に秘匿された術式でも一目で見破れる。これはれっきとした才能よ。」
言いたいことは山ほどあるけど、へこませ過ぎてやる気を削ぐのは不味いから、ここは誉めておこう。
「そして、魔力で物をつくる『投影』ね。外見だけでなく礼装の技能すら再現できるなら、これも大きな強みよ。」
いまいちピンときてない顔してるわね。
「いい?解析と投影を組み合わせれば、一目見ただけで礼装を複製できる。この特殊技能を活かさない手はないわ。」
「そうなのか?」
あきれた、本当にわかってないのね。これは骨が折れそう。
「そうなのよ。しかも、相手にしてみれば対策が立てづらいの。能力を発揮しなくても、見られただけでコピーされてしまうのだから。」
私だったらまず正面からは戦いたくない。確実に仕留められる状況になるまで、遠くから監視するにとどめるでしょうね。
「見られたらコピーされる。そうわかったら相当イヤなはずよ。せっかくの切り札も使うことを躊躇せざるをえないわ。」
潜在的脅威ってやつよ。実際にはそこまで万能ではないけど、相手にしてみればどうしても悪い方に想像をしてしまうでしょう。つまり、なんでもすぐコピーできてしまうと錯覚しても不思議はない。
そんなハズない、限界があるはす、とおもっていても具体的にどこに限界があるかわからなければ、念のために士郎の投影を過剰に評価して、用心せざるをえないはず。
「使わなくても、知られてしまっても、相手にプレッシャーをかけ選択肢を制限することができる。これは大きなアドバンテージよ。」
「なるほど!!そうなのか。」
どうやら自信をもったようね。
やる気がでたのは結構、だけどコイツはほっとくと突っ走りそうだから釘をさしておきましょうか。
「まあ、私から見たらアンタはへっぽこもイイトコなんだけどね。基礎固めなんてしてる暇ないから、解析と投影だけを重点的に特訓していくわよ。」
「おっ、おう。」
オイコラ、なんだそのひきつった顔は。あかいアクマって聞こえたゾ。
「わかったら特訓開始。まず、コレを投影してみて。」
◇◇◇◇◇
路地裏で通行人を襲おうとした天罰でしょうか。やはり私は神という神に心底嫌われているようです。
私も神は大嫌いですが。
「やはりココでしたか。」
そう呟きながら、少女の姿をした絶望が現れた。
「まずはお前からだ。」
「うわぁぁぁ!!」
偽臣の書を斬られた慎二は、情けない悲鳴をあげながら逃げていく。
それを追うこともなく、セイバーは私に向き直った。
「悪いことはいいません。ライダー、本来のマスターの元に戻りなさい。彼女を守るのです。」