ようやく家に着きました。
ラインを通じて、ライダーを退けたことは報告しましたが、すっかり遅くなってしまった。シロウも心配してるでしょう。
「おかえり、セイバー。」
「シロウ!?起きていたのですか。もうすぐ朝になってしまいますよ。」
「寝てられなくてさ。無事でなによりだ。」
伝えておきたいことはあるが、いままでずっと起きていたなら無理は禁物だろう。
「少しでも寝てください。報告は後にしましょう。」
「そうだな。明日・・・もう今日になったか・・・は休みだし、ちょっと起きるのが遅くなっても大丈夫だろうし。」
あくびをしながらシロウは寝室へと入っていく。
休みならちょうど良い。凛やキャスターにも時間をとってもらおう。
ようやく確信が持てた諸々について、しっかりと説明しておきたいのだから。
◇◇◇◇◇
私の姉さんは朝が苦手だ。
だから私は、朝早くから姉さんの為に準備をする。洗面器とタオルとうがい薬を用意して、寝室で姉さんが起きるのを待つ。
姉さんの寝顔を眺めていられる至福の時だ。
それなのに、いつもは穏やかな寝顔がひどく険しい。うなされている!?起こした方が良いのでしょうか?
「ッ!!イヤアアァァァァーーーー!!」
姉さんは、悲鳴をあげながら跳ね起きたかと思うと、私を見て、怯えたような顔をして、怒ったような顔をして、ついには泣きそうになりながらうつむいてしまった。
「怖い夢でも見たんですか?」
そう声をかけたら、視線を合わせてくれないまま、姉さんが声をしぼりだした。
「どうして・・・言ってくれなかったの・・・」
・・・・ああ、知られちゃったんだ。隠しておきたかった、隠しておけるかもしれないと思ってしまった。
私は馬鹿だ。
サーヴァントとマスターなんだから、夢を介して記憶を共有することがある。わかっていたのに。
「・・・もう少しだけ・・・姉さんの可愛い妹でいたかったんです・・・」
でも、もうそんな時間も終わりなんですね。夢のような日々でした。
これからは姉妹ではなく、魔術師とサーヴァントの関係になるのでしょうか?
それでも、姉さんのそばにいられるなら、そばにいることを許されるなら、私は死力を尽くして戦います。
だから、どうか私を捨てないで。
「マスター・・・」
「やめて、妹にそんな呼び方されたくない。」
「!!・・・ありがとうございます。姉さん。」
まだ私を妹と呼んでくれるんですね。
「知られたくなかったけど、言わなくちゃならなかったことは、もう姉さんに伝わってるんですよね。・・・それなら、間桐桜を生かしておけないことも、わかってくれますよね。」
「まって!!こちらの桜は・・・まだ・・・誰も殺してないじゃない・・・」
「そんなに言いにくそうにしなくても良いですよ。そう、私と違って『こちらの私』はまだ誰も殺してませんね。」
「だったら!!まだ命まで奪わなくてもいいじゃない!!」
「姉さん?もしかして、こちらの私を見逃しても、犠牲になるのは顔も知らない他人だと思ってませんか?」
気が動転してるようだけど、私に言われずとも、いつもの姉さんならわかるはずです。
「化け物になった私には、顔見知りをさけるような理性はないんですよ。・・・もしかしたら、最初に食べてしまうのは美綴先輩かもしれません。」
そう、化け物になった私には理性なんてない。もう、自分でも自分を止められなくなってしまう。
「あるいは藤村先生かもしれません。藤村先生だって先輩の『家族』なのに。」
私は先輩の家族だったかもしれない。
だけど、家族は私だけじゃない。それに、先輩ならすぐ新しい家族だってつくれるでしょう。
以前はそれが恐ろしかった。でも、今は違う。
「そんなことになってからじゃ遅いんです。そんなことになったら、助かったとしてもどんな顔をして暮らしていけばいいんですか?どんな顔で先輩のそばにいられるんですか?」
姉さんは、ゆっくりと天を仰いで何やら思案をはじめたようです。
葛藤しているのでしょう。でも、再びこちら顔を向けてくれたとき、その目に迷いはありませんでした。
「わかったわ。たしかに桜は殺すべき。だけど、それは貴女がやってはダメよ。」
「え?」
「自分で自分を殺す。そんなのいくらなんでも矛盾が大きすぎる。いくらサーヴァントの貴女でも消えてしまうかもしれない。」
ああ!!そうだ!!そのとおりだ。
やっぱり姉さんは賢い。私は私を殺すことばかり考えてて、そこまで気がまわらなかった。
「だから・・・桜は私が殺す。貴女は邪魔が入らないようサポートにまわって。」
目に涙を溜めながらも、その視線には強い覚悟と決意がある。本当に姉さんは強くてかっこいい、私の憧れ、私の理想。
「遠坂として、魔術師として、やるべきことは・・・ちゃんとやり遂げるから・・・だから・・・だから、貴女だけはいなくならないで。」
姉さんに抱き締められながら、姉さんを抱き締め返しながら、私は誓いを立てた。
「はい、ずっと姉さんのそばにいます。」