そもそもお父様の遺したギミックのせいで予定が狂ってしまったのが始まりだった。
召喚する時刻が一時間ズレた。おまけに詠唱中に肝心なところでしくじってしてしまった。
こんなのは子供の頃に歌の一番いいところでミスって笑われたとき以来の失態だ。
その結果サーヴァントがあらわれるはずの空間には何もない。
「・・・召喚失敗?・・・失敗??えっ、こんなマヌケなミスで私の聖杯戦争が台無し!?」
いや、確かにサーヴァントとのパスを感じる。だいたいの方角はわかる。外に出よう。
たどりついたのは柳洞寺の山門前、朱い縦筋の入った黒服で銀髪の女性がうずくまっている。
間違いない!!あれが私のサーヴァント!!
「私が貴女のマスターよ!!従いなさい!!」
「えっ!?」
「あれ?」
「姉さん!!」
「桜!?」
あんなところに長居して敵サーヴァントに出くわしたらマズイので、とりあえず急いで館に戻ってきたは良いけど、どうしよう?
さっきから桜はうつむいて「どうして?姉さんは私が。」とか「ああ、平行世界だから。でも今さらどうしたら。」とか「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」ぶつぶつ言ってる。
なんだか怖い。
「どうして、どうして姉さんは私なんかを呼んだんですか?」
・・・返答に困る。
そもそも桜を呼ぶ気などなかった。
「~~しちゃったのよ。」
「えっ?」
「だから、~~しちゃったのよ。」
「聞こえなかったんですけど。」
「だから!!しゃっくりしちゃったのよ!!肝心なところで!!」
こんなのは小さい頃合唱の一番良いところでしゃっくりして笑われた時以来の失態だ。
「・・・詠唱に失敗したら、たまたま私を召喚してしまったんですか?」
黙って頷くしかない。あっ、なによその目は。
「姉さんって、もっとしっかりしてると思ってました。」
うちの妹はこんなに言うことキツかったかしら。
「まぁ、そんなところよ。」
プイッ、と横を向きながら答える。照れ隠しも兼ねて多少不機嫌な対応になってもバチは当たらないだろう。
「姉さん、無理は承知でお願いします。今からでも避難できませんか?」
ちょっと泣きたくなってきた。妹にここまで見くびられるとは。
「なにそれ?自分には勝てないから今のうちに逃げ出せってこと?」
「えっ?」
なんか青ざめた顔をしたけど、そうとしかとれないわよ。
「その姿は聖杯戦争のために体を再度調整したってこと?英霊になれるほど大成したなら、戦争後も生き残ってるんでしょ。」
「・・・」
「それで、そっちの世界だと私はどうなったの?」
「・・・ごめんなさい・・・姉さん。」
「謝る必要なんてないわ、覚悟の上よ。気にさわったのは今からでも避難しろって方。」
「この聖杯戦争はまともじゃないんです。話せば長くなりますけど。」
「貴女には聖杯で叶えたい願いはないの?」
「そんなものありません。姉さんや先輩が助かってくれればそれで・・・ーーーーー‼️」
わっ、ビックリした。桜がいきなり、声にならない悲鳴ってやつを上げたわ。
「先輩が!!先輩が死んじゃう!!どうして私は・・・」
さっきまで生気を感じないくらい静かだったのに、今度は激しく取り乱してる。
「どうしたの桜?先輩って誰?綾子?」
「衛宮先輩です!!先輩は、毎晩魔術回路を作ってるんです!!」
耳を疑うというのはこの事だろう。
事情を聞いても頭がクラクラする。
「落ち着きなさい。今何時だと思う?これから駆けつけても鍛練は終わった後よ。明日学校で会ってから対処すべきことだわ。」
冷静さを取り戻したようで、桜も頷いている。
「今日のところはもう休むわ。召喚で魔力は空だし、いろいろ驚きすぎて・・・」
「姉さん!!」
グラついたところを桜に支えられた。
「大丈夫よ、ちょっとふらついただけだから。」
心配そうな顔をさせてしまった。・・・これは・・・
「どうかしましたか?」
「もう少しこうさせて。」
妹に体をよせて、深呼吸する。
遠くから眺めてるだけじゃ気がつかなかった。桜からはお母様の匂いがする。