「なんの用ですか?先輩。」
聞こえないふりをして、立ち去ることもできたのに、私は実体化してしまった。
私はずるい。こうすれば先輩が私をほおっておくはずがないとわかってるのに。
「遠坂に頼まれたんだ。妹を頼むって。だからどちらの桜も救わないと片手落ちだろ?」
先輩は何を言っているのだろう?
「セイバーさんから、話を聞いてなかったんですか!?」
「桜のそんな怖い声、聞いたことなかったな。」
凄むつもりはなくても、思わず声が剣呑になってしまったんです。
「私は!!そっちの私とは違うんです!!本当に汚れてるんです!!殺してるんです!!もう引き返せないんです!!」
「なんで?アンリマユが悪いんだろ?」
本気で言ってそうなのがイライラします。
「私が持っていた感情が引き起こした惨劇だったんです!!」
「抑えていたのを、無理やり引き出されたんだろ?」
「そうなることはわかってたのに・・・死ねなかったんです!!自分が可愛くて・・・気を強く持てばなんとかなると思い込んで・・・でもダメでした。」
そうだ、あの時は希望的観測にすがり、先輩にすがり、結局みんなダメにしてしまった。
だから二度と間違いないように、ああなりたい、こうなりたい、などという欲は捨てて、最悪の事態だけは避けようと誓いました。
「だから今度はそうならないように戦うと決めたんです。その為にこちらの私を殺そうとしました。どう立ち回っても、私に関わった時点で不幸になるって決まってるから。」
晴れて恋人になったこちらの私の前で、こんな事を言ったら嫌われてしまうでしょう。それがわかっていても、もう止まらない。
「だから姉さんを説得したしました。でも私は馬鹿だったんです。通じあったと思ったのは私だけでした。全部姉さんの手のひらの上でした。」
姉さんは最初から私を救うつもりだったのでしょう。説得を諦めて話にのったふりをして・・・私を欺き、先輩やセイバーさんの妨害をものともせず、お爺様と聖杯のカケラを私の心臓から取り除いた。
やはり、私は姉さんには敵わなかった。
先輩はあっけにとられながらも、何か言葉を探してるようにして・・・ちょっとまってください。恋人の前で他の・・・同一人物なので他といえるか解らないですけど、私の肩に手を置くのはやめた方が良いですよ。
「あの、そっちの俺だけどさ、確かに途中で倒れたのは無念だったろうけど、桜を選んだことを後悔なんてするはずがないんだ。」
なんでそんな事を、真っ直ぐな目で言えるんですか?
「助けるべき人に気づかず通りすぎたり、泣いてる女の子を見捨てたら、どのみち正義の味方なんて名乗れないだろ。」
言われてはじめて自分が泣いていることに気づきました。泣いてる場合じゃない、こんなモノで先輩の気を引こうとするな、自分にそう言い聞かせてるのに、もう止まらない。
目をそらそうとしたら、今度は頬に手を添えられてしまいました。
「そんなに優しくされたら、欲がでてしまいます。やっと姉さんを見ても『私のものになるかもしれなかったものを全部持ってる』とか、先輩を見ても『私だけに優しくして欲しい』とか、思わないようになれたのに。」
「いいんだ、『誰もが持ってる欲を』桜だけが持っちゃいけないなんて、そんな馬鹿な話があるもんか。」
ああ、これは先輩が悪いんですからね。もう、我慢してたものが堪えきれません。
◇◇◇◇◇◇
流れてきた記憶の桜には、もっと未練があった。執着があった。あんな自己犠牲の塊ではなかった。自分を抑えこんだ姿は痛々しい。
とはいえ、私は思わずドストレートに発破をかけてしまうだろうから桜を励ますには向いてない、士郎に伝えたように、そもそも何を言っても嫌みになる虞もある。
士郎は口下手っぽいけど、だからこそ桜の思いを受け止め、その上で桜が受け止められる程度の優しい発破のかけ方をしてくれるだろう。
してくれるわよね?しくじったらネジ切る!!
なんだか心配になってしまった。ちょっと様子を見てこよう。
「うわーーーーん!!先輩のバカバカバカーーーー!!!」