「これでスイッチができた。もう魔術回路をイチイチ作るのはダメよ。下手をすれば命がないわ。」
桜から聞いてはいたけど、よく今日まで命があったものね。
いつも鍛練してる場所に移動させたら、こんな土蔵だし。
「ありがとう。我ながら無茶をしてたんだな。」
「そういうこと。自分が素人だと自覚したなら玄人、つまり私の話を心して聞きなさい。これからが本題なんだから。」
「本題?もっと重要な話なのか?」
当然でしょ。
可愛い妹の頼みはまだ半分しか終わってない。
「ええ、そうよ。・・・警告するわ。これから冬木は魔術師達と使い魔達の戦場になる。そんなところに魔術師である貴方がいたら巻き添えになるのは間違いない。早く逃げなさい。おそらく1ヶ月もすれば戦いは終わるでしょう。」
そう聞いた途端に士郎の顔色が変わった。
「ちょっと待ってくれ。街中で戦うっていうのか!?人のいないところで決闘するんじゃないのか!?」
「市街戦よ。おそらくとばっちりを食らう冬木の住人もでるでしょうね。」
「だったら黙ってられるわけないだろ!!」
「どうするって言うの?」
「止めるに決まってるだろ。それが無理なら街の人達を避難させる。」
なるほど、以前からお人好しだと聞いていたけど本当にそうなのね。だけどそれは無鉄砲すぎる。
「そんなことをすれば、貴方も、貴方の話を聞いた人達も殺されるわよ。『魔術は秘匿すべきもの』みんな口封じされる。」
何を言ってるかわからないって顔ね。魔術の基本もロクに教わってないなら無理もないけど。
「魔術師ってのはね、研究成果を世のため人のために使おうなんて考えないの。それどころか、少数の身内だけで独占しようとするものよ。そして、邪魔者にはけして容赦しない。私なら記憶を消す程度で済ませるけど、たいていの魔術師なら手っ取り早く殺すでしょうね。」
「ちょっと待ってくれ。だったらたまたま戦闘を目撃しただけでも殺されるってことか!?」
「そうでしょうね。ただでさえ魔術の秘匿には神経質なのに、戦争中よ。わずかでも手の内を知られたら殺すでしょう。」
「それならなおさら、俺だけ逃げるなんてできない!!」
やれやれ、桜から聞いてはいたけど・・・その桜のためにも身の程をわからせておかないと。
「この戦いの使い魔、サーヴァントは本来なら人間に使役なんてできないはずの最上級のゴーストライナー『英霊』よ。歴史に名を残した英雄・豪傑、あるいは、名はなくとも、それに匹敵する名人・達人、そして、それらと戦った怪物『反英霊』なのよ。貴方も多少は鍛えていて武芸の心得はあるようだけど、サーヴァントから見たら素人に毛が生えた程度。ハッキリ言って雑魚よ。」
意気込みは買うけど、それだけではどうにもならない。それがわからないほど馬鹿ではないでしょう?
「勝てる勝てないじゃない。正義の味方を目指してるのになにもしないなんてありえない。それに遠坂もその戦いに参加するんじゃないのか?」
いや、何よ。高校生にもなって正義の味方って。まぁ、言っても喧嘩になるだけでしょうから、質問に答えるけど。
「当然でしょ。私はこの冬木のセカンドオーナー。そして、聖杯戦争を始めた御三家の一角、遠坂の当主よ。」
「なら助太刀する。遠坂は命の恩人だから。」
「ちょっ!!恩に感じてるなら、なおのこと言うこと聞きなさいよ!!」
「もし遠坂がその戦いで死んだら、二度と恩を返せなくなるから却下だ。」
「私はそんな簡単にはやられないわよ!!」
「わかってる。遠坂は俺なんかよりずっと強い。だけどそれは守らなくても良い理由にはならないだろ。」
こいつ・・・歯の浮くようなことを。
しかも、どうにもならないことをわかった上で引き下がらない馬鹿とは!!
やむを得ないわ。最善は断念して次善の策に切り替える。
「わかったわ。共闘しましょう。勝手に先走るのは厳禁、私の言うことをちゃんと聞きなさい。少し外すけど、ここで大人しく待ってて。」
私は、士郎が頷いたのを確認してから土蔵を出た。
「ああ、月が綺麗。」
「姉さんの方が綺麗ですよ。」
そして、さきほどまで霊体化していた桜も実体となって隣にいた。
「ごめんなさい、桜。しくじったわ。」
「いえ、無理もないです。先輩って頑固ですから。」
苦笑いから伝わってくる。半ば諦めている感情が。
だけど貴女の姉はそんなに諦めが良くないのよ。
「任せておきなさい。その頑固者の手綱をとってやるわ。」