できることなら、力ずくでも、記憶を書き換えてでも、先輩には冬木から避難してほしかった。
姉さんにもそう頼んだ。
だけど姉さんにこう言われた。
「それは相手の人生を勝手に奪う行為よ。」
たしかにそうだ。その方が貴方のためだから、と言って相手の人生を変えてしまう事がどれほど罪深いか、私は、それを痛いほど知っている。
「ところで姉さん、顔が赤くありませんか?」
「えっ!?そ、そんなことないと思うけど。」
ひょっとして、さっきの先輩の言葉が原因ですかね?
ちょっとイタズラしてみたくなってしまいました。
「姉さん、安心してください。私が守ってあげますからね。」
後ろからギュッと抱きしめながら耳元で囁いてみた。
「あう、あう、あうあう。」
やっぱり守ってもらうことに免疫がないんですね。
「強くなったからといって、誰かに頼ってはいけないなんてことはありませんよ。」
「きゅう~・・・。」
姉さん、可愛い。
「ちょっと桜!!私で遊んでるでしょ!!」
いけない、ちょっと怒らせてしまった。
「でも姉さんに叱られるのって、久しぶりだから嬉しいです。」
思わず頬が緩む、それは姉さんも同じのようだ。
「・・・確かにそうね。本当に久しぶり。でも、今はしんみりしてる場合じゃないのよ。」
「ええ、では次善の策に移るのですね。」
「そういうこと、衛宮君にサーヴァントを召喚させるわ。もしセイバーを引けるなら、これ以上ない前衛になるんだから。」
「そして、先輩にはしっかり訓練を受けてもらって、無茶をしないようにしてもらうのですね。」
「そういうこと、任せておきなさい。それじゃ戻りましょう。」
◇◇◇◇◇
土蔵に戻って姉さんの説明が再開された。
「待たせたわね。それじゃ衛宮君は聖杯戦争に参加するってことで良いのね。」
「そうなるのかな?遠坂の助太刀はするつもりだけど。そもそも何がきっかけの戦争なんだ?」
「名前の通り、万能の願望器である聖杯を手に入れるための戦いよ。」
「キリストの血を受けた!!」
「まさか?それなら今頃は・・・ええと、聖堂教会ってわかる?」
「ああ、それなら、・・・そうだな、そんな聖遺物なら教会の人間が大挙して押し寄せてるよな。」
「そういうこと、だけど願望器としては聖杯の名に恥じぬ代物のようよ。だから、魔術師だけではなく、普通なら人間の召喚になんて応じない英霊たちも、この冬木にやってくるの。」
「そんなことになってたのか・・・ずっとこの街に住んでいたのに気がつかなかった。」
姉さんが目配せしてきた。いよいよ私の出番ですね。
「すでに私は、その英霊を召喚してるわ。・・・キャスター!!」
霊体化を解き、先輩の目の前に姿を現す。
もっともローブで体にラインを、仮面で顔を隠してるので正体がばれるおそれはない。
「はイ、まスター。」
先輩は首を傾げてる。
「あの・・・遠坂?なんか声が変だけど?」
「英霊は正体を隠すものなの。有名なら有名なほど、手の内が知られているでしょ?」
「ああ、なるほど。」
「いまから衛宮君にも英霊を召喚してもらうわ。方法は教えるから、召喚できたらまず私たちは味方だと伝えて。敵と思われて、出会い頭に攻撃されたらたまらないわ。」
「わかった。言われたとおりにする。」
ここまでは順調。どうか先輩が良い英霊を召喚できますように。セイバーさん、今度はしっかり先輩を守ってくれるとよいのですけど。
姉さんが召喚の説明を終えたので、私たちは土蔵を出た。
「よう、お嬢ちゃんたち。ちょっと突きあってもらうぜ。」
そこに、ランサーさんがいました。