転生者だけどDIOに目を付けられました。【没作品】 作:家葉 テイク
七話以降はございませんので、ご注意ください。
――走馬灯、という言葉があります。
死に直面した時に、それまでの記憶が急に思い返されていく、というアレです。
本来の用法は『記憶が走馬灯のように駆け巡る』みたいな感じで、走馬灯っていう単語そのものが記憶のリフレインというような使い方は間違ってるらしいですけど、最近はもう間違った使い方が浸透しすぎて誤用じゃなくなってるらしいですね。
そしてその走馬灯の正体は『今までの記憶を高速で検索することにより、現在直面している危機的状況を打破する為の材料を探している本能の働き』、なんだとか。
まあ、往々にしてそこまでやろうとしてる場合は死ぬことになるので、最後に思い出に浸る為の時間になったりしますが。
で、その走馬灯なんですけど、私、見たことがあるんですよ。っていうか、今見たんですけど。
話は、少々遡ります。
「何を怖がっているんだね…………?」
両親に連れられて、冬休みに行ったエジプト旅行。なぜか夜眠れず、トイレに行こうと部屋を出た、その途中のことでした。
ばったりと出くわした男が声をかけてきたのです。
男はヨーロッパの人間らしく、金色の髪に、女の私よりもきめ細かい白い肌をしていました。……男の人のはずなのに、奇妙な色気すら感じさせる佇まいでした。多分、めちゃくちゃモテるんだろうな――と見た瞬間に思ったものです。
その男の表情は暗がりで見えませんでしたが、多分見えても何も変わらなかったと思います。
「桜ヶ丘桜子…………だね?」
男はゆっくり、じりじりと、しかし余裕を感じさせるたたずまいで少しずつ私との距離を縮めようとしていて、私は男から目を離さず後退りすることしかできませんでした。
彼我の距離は、およそ一〇メートル強。
この距離が一〇メートル以下まで縮まった瞬間、自分が『死ぬ』ということを私は
だから、慎重に距離をとりつつ私はにらみ合いを続けるのです。
何故なら、私はこの男が何者かを知っているから。
「そんなに警戒する必要なんかないじゃあないか。おそれることはない……友達になろう?」
その瞬間、窓から月明かりが差して、一瞬だけ男の顔が見えました。
鋭く輝く赤い眼光、思わず身を任せてしまいたくなるように蠱惑的な笑み、そして――左耳の耳たぶにある、三つのホクロ。
先程も言いましたが、私は、彼が誰かを知っています。
ディオ・ブランドー……いや、邪悪な吸血鬼DIO。
そいつが今、私の目の前にいます。
……ね? 走馬灯を見るのも、仕方がないと思いません?
***
ACT1:転生者、DIOに会う! その1
***
私こと桜ヶ丘桜子は、一九七一年の四月、M県S市は杜王町に生を受けました。
考古学者の父と専業主婦の母のもとで、私はたっぷりと愛情を注がれて成長しました。考古学者の父の影響で好奇心旺盛だった幼少時代、私はいろんな場所を探検しては親や先生がたの手を焼かせていたそうです。今? 今はそんなことないですよ。品行方正な生徒会長で通っていますから。
そんな私が変わったきっかけは、小学校一年生の夏でした。
いつものように家で走り回ったりして遊んでいたところ――家の階段から足を踏み外して転落してしまったのです。
結果、私は頭を強く打ち、頭蓋骨を骨折して一週間ほど昏睡状態に陥りました。その時の傷は、髪で隠していますが今もオデコに残っています。女の子の顔に一生ものの怪我なんて、あんまりな話ですけど。
それから目を覚ましたとき、私はあることに気付いたのです。
つまり、前世の記憶がある、ということに。
前世の私は、二八歳で交通事故により死んだOLでした。ジョジョの奇妙な冒険を愛読し、一番好きな部は七部で、死ぬ前に出ていた新刊は八部ジョジョリオンの九巻でした。
まあ、七部が好きと言っても、そこはそれ、ジョジョ信者であれば大体の部の内容には精通していて当然ですから、私はすぐに気付きました。杜王町、という地名から、私が生まれ落ちた世界がジョジョの世界であるということに。
それだけではにわかに信じがたいものがあったのも確かなんですが、昏睡状態から目覚めたと同時に何の因果かスタンドに目覚めてしまったのですから、もう疑いようはありませんでした。
私はこの能力を『バーニン・ブリッジ(炎の橋)』と名付け、人生に役立てることにしました。
これがまあ、――ここで詳しく語ることはしませんが――非常に便利な能力でして。というのも、人には見えない能力ですから、好き放題できるのです。たとえば、カンニングとか。私のスタンドは遠くまで飛ばすことも可能なので、そういう小技めいたこともできるのでした。もっとも、学生の本分が学業というのであれば、この桜子さんはカンニングがなくとも成績優秀なのは変わりませんが。
なら何故カンニングをするのか? プロは少ない労力で最高の結果を叩きだすものなのですよ。
ともあれ、そんな風にスタンドによって人生をエンジョイしていた私でしたが、ある時、お父さんがこんなことを言ったんです。
「仕事の都合で、今度の連休にエジプトへ行くんだ。せっかくだし、家族みんなで旅行ってことにしないか」
お父さんは考古学者で、大学の教授もやっていました。そういう都合もあって家を空けることが多かったのですが、実はついこの間、そのことでお母さんと大喧嘩をしてしまい、あわや離婚の危機に陥ってしまっていたのでした。
私の『そういえば承太郎もこんな感じで離婚してたのかなー』と思いながらの仲裁によってなんとか仲直りし、今はもう前にもましてラブラブ夫婦なのですが、その反動かお仕事の旅を家族サービスの旅行にしようと考えたようです。
正直エジプトなんて衛生観念がなさそうだし不潔で嫌だったのですが(完璧にジョジョの三部のイメージですよね)、せっかく夫婦円満になったのを私が邪魔するのも嫌だったので、OKしたのです。
で、エジプトにやって来ました――――……。
――そこまでを、走馬灯で見たのです。
何で走馬灯に見るほどびっくりしたのかって、私、この流れ知ってるんです。ほら、アレですよ。花京院典明。エジプト旅行中にDIOと出会い、そして肉の芽を植え付けられてDIOの手先にされた――というお話です。そしてシチュエーション的に、私の用件も同じに決まってます。第一に私はスタンド使いですし、それに勧誘目的でなければDIOが自ら出向いてくるはずがないですし。
私は、
だって、植えつけられたら最期、命が助かる保証なんてどこにもないんですから。
運よく承太郎一行と戦うことが出来たなら最高です。肉の芽を引き抜いてもらえれば完璧でしょう。私は旅に同行する気なんてありませんし、そのまま日常に戻ります。
でも、肉の芽を引き抜いてもらえるかどうかは分かりません。私のスタンドはかなり強力ですので、手加減できずそのまま殺されてしまう可能性だってかなりあります。
承太郎たちに会えない可能性だって十分あります。何せ、億泰と形兆のお父さんなんかは承太郎に会えないままDIOが殺された為に肉の芽が暴走して、醜い生き物になってしまったのですから。
総合的に言って、肉の芽を植え付けられた時点で敗北と言って差し支えないでしょう。そして黄金の精神に満ち溢れた桜子さんが肉の芽を植え付けられるのは必定。
…………そして相手は、時を止めることができる吸血鬼。
――早急に、手を打たなければなりません。
「桜ヶ丘桜子……ぶどうが丘学園高等部三年生…………一八歳。学業は成績優秀、運動神経も良好、性格も
そう言って、そいつは――DIOは、ぱちぱちと手を叩きます。
「だが……きみは現状に満足していない。違うかい? きみの才能は辺境の島国のいち地方都市で留まるようなものじゃあない。そしてきみの本質はこんなものじゃあない。実はわたしは優秀な仲間を探していてね……どうだ? わたしのもとで、振るってみる気は……ないか? その力を……」
どこでどう調べたのか――多分、ジョナサンの肉体に宿るスタンドじゃないでしょうか――私の素性を読み上げていますが、私はゾッとする以外の感情を全く抱きませんでした。……DIOって、凄いカリスマがあるというので、私も面と向かえば魅入られてしまうかな――という危惧はあったのですが、それは全くありません。
まあ、それもそうですよね。何せ私ですし。DIOは自分のスタンドを『全世界のすべての生き物をブッチギリで超越した(うろおぼえ)』とか言ってましたけど、スタンドはその通りとしても『スタンド使いとして』そうかは別ですし、この桜子さんが気圧されるはずもないです。むしろDIOを返り討ちにするまであります。
それに……現時点では起こっていないことですし、これから起こるかどうかも不明なことですが、私と同い年の少年にプッツンされたってだけで負けそうになり、『過程や……方法など……どうでもよいのだァァ――――ッ‼』なんて言っちゃう人に、どうやってカリスマを感じろというのでしょう。
どうやら、直前までの走馬灯は、DIOのカリスマを無効化するという意味で上手く働いてくれたようです。
「ほう? ……面白い目をする……その目はこのDIOを恐れていない目だ、な……。『逆にこのDIOを倒すことさえできるッ!』と確信している目だ」
「仮にそうだ、と言った場合は?」
そう言いながら、私は相手の一瞬の動きも見逃さないように、警戒します。
「――――やめておいた方が良い。きみのスタンド能力は既に
次の瞬間。
一〇メートル以上は先にいたはずのDIOが、いつの間にか私から二メートルほど先の位置に移動していました。
ええ、知っていますよ。
最強のスタンド能力――――『
前世では立派なジョジョヲタで馴らした桜子さんです。大統領の無敵の能力『D4C――ラヴ・トレイン――』を蹴散らした『
もっとも、この桜子さんがそんな凡策に手を出すはずもありませんが。
直後。
私とDIOの間で、爆発が起きました。
ドムッッン‼ という爆音が響き、DIOはもと居た方向に吹っ飛ばされます。
この行動は、DIOの『時間停止』を計算にいれて計画していた行動です。時を止めた直後で油断しまくっていたDIOに、察知する術はないでしょう。
「ひゃあッ!」
軽くよろけながらも私は姿勢を立て直し、そのまま起き上がってDIOを見据えます。
DIOの『ザ・ワールド』……この世の時を止めることができる能力は確かに凶悪で、真っ向勝負ではこの桜子さんの『バーニン・ブリッジ』よりも強い能力でしょう。
しかし、私は知っています。DIOはまだ、この段階では身体が
「貴方のスタンド能力が何かは知りませんが、今のではっきりしました。射程距離は長くとも一〇メートル以下。そして相手を『一瞬のうちに』始末できる能力がある」
煙が……爆発によって生まれた、
ですが、私の能力はDIOにダメージを与えうる。そして最悪殺すことも可能である。DIOは用心深いので、そのことに気付いたことでしょう。そして人が集まって来ればDIOも本調子でないのに騒ぎを大きくすることはできないから、それまでに何らかの決着をつけなくてはいけない。
「その距離です」
そう言って、私は再度状況を仕切り直します。派手に吹っ飛んだこともあり、彼我の距離は再度一〇メートル強。何か策を練らない限り、また時を止めて接近しようとしても私に肉薄することは不可能。
DIOがその策を練る前に、こちらも勝負に出ます。
「
DIOの動きが、にわかに止まります。
私の言っていることが意外だったのでしょうか? ですが、こちらとしては、最初からDIOと真正面からかち合うつもりなどありません。
「何…………?」
さて、DIOが乗って来るか否か。
桜子さんにとっても、一種の賭けですね。