転生者だけどDIOに目を付けられました。【没作品】 作:家葉 テイク
ACT2:転生者、DIOに会う! その2
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「……ほう? 話を聞く気があったとは驚きだ」
DIOの方は、本当に意外な調子で言ってきました。
失敬な。桜子さんはポルナレフのような直情径行型のアホとは違いますよ。
ともあれ、賭けはうまく行ったようです。
「私の『バーニン・ブリッジ』は近距離パワー型でありながら遠隔操縦することも可能な脅威の全距離対応型スタンド――はっきり言って、状況さえ整っていれば貴方にさえ負けないのは間違いないですが、流石に今は状況が悪いです。『桜子さんに不都合があるなら始末する』意志はありますが、別に積極的に争いたいわけではないですよ。桜子さんは平和主義ですから」
「平和主義……フフフ」
何故笑うのでしょう? 私には理解できません。
「……『火のない所に煙は立たぬ』ということわざがあるが……」
DIOは辺りに微妙に漂う煙を一瞥しつつそう言って、くっくと笑いながら腕を組みました。
「ミス・桜ヶ丘――きみの『バーニン・ブリッジ』は、我が部下の情報通りに『油断ならない』能力というわけだ……。それだけじゃあない。『噂通り』の凶悪さだ、きみというスタンド使いは。分かった。ミスの強さと用心深さに敬意を表し……要望通りこの距離から話をしようじゃあないか」
ドドド、と空気が震動するような圧迫感を、私は感じました。
……よし! これで第一関門はクリアです。DIOってこんなに話が早い人だったかと疑問に思う気持ちもありますが、本気じゃないときのDIOはわりと相手を侮っているような気もしますし、そういうものでしょう。
「単刀直入に言おう。わたしの部下にならないか?」
「部下……ですか」
私は、あえてすっとぼけて首をかしげて見せます。
ほんとは、知っています。DIOって世界中でスタンド使いを生み出したり、スタンド使いを金で雇ったりしてジョースター一行を始末しようとしてましたからね。私もその一環――ということなのでしょう。そして、その部下の勧誘方法は大きく分けて二つ。
一つは『肉の芽』。花京院やポルナレフ、(未遂だけど)アヴドゥルなど、信用ならない者には、裏切り防止の為の装置として肉の芽が植えつけられます。これを植えつけられたら八割死亡なので、絶対に回避したい。
そしてもう一つが、『金』です。ラバー・ソール(うろ覚え)、
私が狙っていたのはこれでした。DIOとカネで契約を結び、そしてフツーの刺客としてジョースター一行に戦いを挑み、死なない程度に負けて、再起不能を装って離脱するのです。
……痛い思いをするのは確定なわけですが、万一本気を出したら桜子さんの勝ちは火を見るよりも明らかですし、ジョースター一行に勝ったら、DIOを倒す役目は私が担うことになってしまって非常に面倒です(勝てますけど)。だから、私が選べる選択肢の中ではこれが一番安全なはず。
「先程も言った通り、わたしは優秀な仲間を必要としている。その協力をしてくれるだけでいいんだ」
「それだけの能力を持っているのですから、自分で動けば良いのでは?」
「そうしたいところだ、が……見ての通り、
その台詞は、『テメーがオレにいっぱい食わせることが出来たのはオレが本調子じゃなかったからだぞッ!』――という言い訳を含んでいるように思えました。いや、そんな雰囲気ではないんですけど、漫画を読んでDIOの本性を知ってると、そんな感じがしちゃうんですよね。あれでけっこう、負けず嫌いな性格ですし。
「……当然、タダ、とは言いませんよね?」
「もちろんだとも」
私がそう問いかけると、DIOはそう言って鷹揚に頷きます。目元が陰になっているので表情は分かりませんが、機嫌が悪いというわけではないでしょう。
――と、私が気付いた瞬間、DIOの手元に掌いっぱいに収まるほどの大きさの『袋』が現れました。ゴツゴツした感じから言って……あれは、中には大量の金貨が入っているのでしょう。間違いなく、ひと財産築けるほどの金額のはずです。多分、どこかに隠し持っていたのを、時を止めているうちに取り出して掌の上に置いたのでしょう。相変わらず、へんなところで芸が細かい奴だと思います。(ポルナレフを階段から降ろしたり、蜘蛛の巣を破らないようにくぐってホルホースの背後に立ったりしてますからね)
「これは前金だ――受け取ってくれ」
そう言って、DIOは無造作に私の方に袋を放り投げてきます。
いかに桜子さんでも、基本的にはお金がないと生きていけません。なので、いきなり放り投げられたお金の方に視線が行ってしまうのは仕方がないことなのでありますが―――、
「……ミスは警戒心が強いが……執着心の方は、少し断った方がよさそうだ」
そちらに意識を向けていた一瞬のうちに、私の横にDIOが移動していたのでした。
そのまま、DIOは私のオデコのあたりを撫でようとして、
ジュウウオオオオオ! と。
手の先から炎上しました。
「ぬうッ! この炎は……『バーニン・ブリッジ』を気付かれないように
「そういう貴方は、もう少し警戒心を持つべきですね」
バッッ‼ と腕を振るって炎を一瞬のうちに鎮火させたDIOに、私は渾身のドヤ顔で言い放ち、そして即座に先程と同じように『爆発』によってDIOを一〇メートル近く吹っ飛ばし、安全な距離を確保します。これで、DIOが私に近づこうとしても堂々巡りになります。……飛び道具を使って来たりしない限りは。まあ、その時はその時で別の作戦を用意してありますが。
「……フフ、これは一本とられた……な。良いだろう。きみは、あのジョースターのくだらない精神とは無縁のようだし――その
DIOは焼けた手をさすりながら、廊下を歩いて闇となっている奥の方へ消えて行きます。
……流石に今みたいな古典的な作戦で来るとは思っていませんでしたが(でなければ余裕で対応していました!)、相手はDIOですし、いずれ私が追い詰められることは計算済みでした。そして、私程の実力者は、カネで雇おうとしても完全には信頼できず、何だかんだ言って肉の芽を植え付けようとするってことも、何となく読めていました。なので、もういっそ近づかせないことは諦めて、近づいて来たところで攻撃を加えてやろうと思ったわけです。
DIOはまだ本調子じゃない。だから、肉の芽を植え付けられない
「詳しい話は、追って連絡しよう……近くきみのもとにわたしの『仲間』がやって来るだろうから、それと行動を共にすると良い」
「ええ、そうさせてもらいます。……では、ごきげんよう」
そう言って、私は歩を早めます。
……色々あったので忘れていましたが、私はトイレに行く途中だったのです。かなり大立ち回りなんてしてしまったので、けっこうヤバいです。……これは、ちょっと、まずいッ……!
***
――――エジプト、カイロのとある邸宅。
吸血鬼DIOは、悠々とそこにある自室に帰還していた。その右手はまだ無惨に焼けただれ、それが『彼が本調子ではない』ことを証明していた。
「DIO様ッ!」
彼が戻って来るなり、暗闇の奥の奥からヒステリックな声がかけられる。バタバタと落ち着きのない足音がしてから数瞬後、腰の折れ曲がった老婆が老婆らしからぬ勢いでDIOに駆け寄って来る。
杖を振るう老婆は、そのままの勢いでDIOに詰問した。
「なぜ、なぜですじゃッ! なぜゆえあの女を始末しなんだッ!」
「――エンヤ婆」
そう窘めつつ、DIOはキングサイズのベッドに座り込む。横にあるテーブルの上に置いてあったワインボトルを手に取り、グラスに注ぎながら、
「あの女――というのは、ミス・桜ヶ丘のことかな?」
「他に誰がいるというのですじゃ――――ッ‼‼」
エンヤ婆はことさらヒステリックに喚き、
「あの女は不吉じゃッ! DIO様をちっとも恐れないッ! それに彼奴の略歴はDIO様自らご存じでしょうッ!」
「ああ…………」
そう言って、DIOはなみなみと注いだワイングラスにもう片手も添える。バヂバヂバヂィッ! と紫電が迸るようなイメージと共にワインの表面が波立ち――そして、映像が映り出す。
そこには、ガラの悪い男達を踏みつけにしている少女――桜ヶ丘桜子の姿があった。高笑いをしており、非常にコミカルな絵面のように見えるが――男達の方は、ボコボコの重傷だ。
それだけではない。あたりには小さな火が湧いており、そこから立ち上る煙は何故だか『無数の目』が浮かび上がっていた。
「確かに、少々『お転婆』だったな……部下からの報告通り。……『火のない所に煙は立たぬ』……と言うが……」
「ワシがヤツのスタンド名を知る為にタロットで占った時のことですじゃッ!」
DIOの言葉を遮るようにそう言って、エンヤ婆は話を始める。
これは、DIOも知っていることだった。何度も話され、そのたびに『不吉だから殺せ』と言われたことだった。
エンヤ婆がスタンドの名前を決める――というより、そのスタンドが暗示しているものを知る――時には、タロット占いを使う。
〇から二一までの二二枚のタロットカードの中から無作為に一枚選び、その図柄でスタンド名を判別するのだ。その占いの最中……、
ガッ! と、エンヤ婆は誤って肘で燭台を倒し、長年使ってきた仕事道具のタロットカードを全て燃やしてしまったのだ。
プロの占い師であるエンヤ婆にとって、こんなことは新人のときから数えても初めての経験だった。自分の不注意以上の『大きな何か』が存在しない限り、そんなことは起こり得ないはずだった。
「しかも彼奴めのスタンド名は『バーニン・ブリッジ(炎の橋)』! 燃え上がる
一説によると、『吊られた男』のタロットの絵柄のモチーフは、全知全能の力を得る為に右の眼球を抉り、ニワトコの樹に吊られて自分自身を生贄にしたという北欧神話の主神オーディンとも言われている。
そして神々の国アースガルズと人間の国ミズガルズを繋ぐ虹の橋『ビフレスト』の炎上は、神々の黄昏――オーディンが戦死することになる最終戦争『ラグナロク』の始まりを告げる事件の一つとして数えられているのだ。
「落ち着けエンヤ婆……神話は神話だ」
「それにあの女はDIO様には遠く及ばないにしても『女帝』の性質があるッ! 自分が一番上に立たなくては、ナンバーワンにならねば気が済まないという性質ですじゃッ! いかにそれが自分の力量に対して分不相応だとしても! そういうヤツこそ組織の中では危険なのですじゃ! お考え直しくだされDIO様!」
事実、それが桜ヶ丘桜子という人間の性質だ。
自分が一番すぐれていると信じ、そして実際に一番でなければ気が済まない……。実際、それなりに一番になれる資質は備えているのだが、やはりその資質は本当の頂点に立つには『器不足』。かといって積極的に他人を蹴落としにかかるような悪人ではなく、本来であればそれはただの『思春期特有の感情の動き』で片付いていたはずなのだが、なまじスタンドなんてものを手に入れてしまったために、よけいに助長されているという状況だ。(つまり、桜ヶ丘桜子は『二八+一八歳にも拘わらずスタンド能力を手に入れたせいでハイになって、未だに中二病を発症し続けているちょっとイタイ子』ということになってしまうのだが)
「だが、それでも『魅力的』だ」
そう言って、DIOはさらにワインの表面を覗き込む。意味の通らない言葉をどう勘違いしたのか、エンヤ婆の喚き声がさらに大きくなるが、DIOはもうそんなこと聞いていなかった。
……エンヤ婆の忠告はまさにその通りで、下手にやり方を間違えれば桜子は確実にDIOに牙を剥くし、通常であればDIOはそんなヤツを生かしてはおかない。あの局面で桜子を始末できる可能性は――本気になって戦っていれば、の話だが――あった。にも拘わらずそれをしなかったのには、理由がある。
ワイングラスには、ワインの成分によって発生した濃淡で描かれた『モノクロトーンの絵』が映っていた。
エジプトへ向かう五人の男達の絵。
闘士のスタンドを伴い戦う学ランの青年。
そして、それとぶつかりあう金髪の男。
――――最後に、敗北して粉々になる金髪の男。
「何故、彼女を念写してこんなものが映るのかは知らないが――」
これはエンヤ婆にも見せていない念写だ。
だが、DIOはこの映像に強い興味を持っていた。これが現実に起こり得る『運命』なのだとしたら……その詳細を知り、『運命を克服する』必要がある。試練は必ず『克服して殺す』。それはDIOの研究にも関わってくることだ。
だから、桜子を殺す訳にはいかない。ジョナサンのスタンドは、身体が馴染むにつれてスタンドパワーを『ザ・ワールド』にとられており、今はもう既に相手の心の中を読むほどの力はない。だから、肉の芽を植え付けて完璧に洗脳して話を聞きだす必要があるのだ。
そう考え、DIOは小さく嘯く。
「願わくば、ジョースター一行を相手に『死なない程度に負けて』くれるのを祈るだけだな」
そうなってくれれば、精神的に弱っている桜子に肉の芽を植え付けて洗脳することなど容易い。
『私が狙っていたのはこれでした。DIOとカネで契約を結び、そしてフツーの刺客としてジョースター一行に戦いを挑み、死なない程度に負けて、再起不能を装って離脱するのです』。
――――彼女が考えていた『安全に問題から遠ざかる方法』は、間違いなく『最悪の選択肢』の一つだった。