転生者だけどDIOに目を付けられました。【没作品】 作:家葉 テイク
その後、私はそのままDIOの配下と合流することになりました。
お父さんとお母さんには、『ホテルで出会ったエジプトの資産家と仲良くなって、ちょっとの間色々と話を聞けることになったから、先に帰ってて良いですよ』と伝えておいた。元々能天気な上に最強な私のことだからと、両親はそんなに心配したそぶりも見せずにOKを出してくれました。
色々と不用心だと思わなくもないですが……まあ、桜子さんが危ない目に遭うなんて想像をする方が無理のある話ですしね。
しかし、やって来た配下の男を見て、私はまた驚愕しました。まさか、人生の中で『コイツ』と出会うことになるとは思ってもみなかったのですから。
「……レディに会えると思ってウキウキしてたんだけどよお~~」
その男は。
カウボーイハットを被り、しなびた咥え煙草をしているその男は、そう言って肩を竦めました。
年の頃は――老け顔ですが――二〇代後半から、ギリギリ三〇代と言ったところでしょうか。多分、ポルナレフとそう変わりません。
私は、この男も知っていました。
「
その男の名は――ホル・ホース。
……この桜子さんを捕まえて『チンチクリン』とは、良い度胸してますね、コイツ。
***
ACT3:No.1とNo.2
***
ホル・ホースがエンヤ婆からその指示を受けたのは、カルカッタでJ・ガイルと共にジョースター一行を待ち構えているちょうどその時だった。
『ホル・ホースッ! エジプトのカイロに戻るのじゃッ! そこでお前を待つ「新たな仲間」と合流し、ジョースターを始末するのじゃッ‼』
エンヤ婆の指示はあまりにも突然だったが――元々ホル・ホースは雇われの身。拒否権など存在していなかったので、言われるがままにカイロに戻り――そしてその少女と出会った。
立ち居振る舞いからして、年の頃は中学生くらいだろうか? にしても際立つ低身長。プロポーションもお世辞にも良いとは言えず、総じて『ジュニアハイスクールに絶賛通学中』という感じの少女だった。
まあ、これは日本人が欧米人から見れば童顔に見える、といった事情も関係しているのだろうが。
J・ガイルは良かった。
クズではあったが、元々『コンビ』の相手には『仕事ぶり』以外には興味を持たないホル・ホースだ。おそらくスタンドを使って『仕事』以外の犯罪行為に手を染めているのであろうことは想像がついたが、だからといって咎めるほどの正義感は彼にはない。
そして、スタンドの強さでいえばJ・ガイルは優良物件だった。
スタンドヴィジョンが光となって移動することができる能力。ホル・ホースの『
それが、今度のパートナーは東洋人のチンチクリンである。これではまるでお守りだった。
(もっとも、おれはこんなチンチクリンであろうと『女性』である以上尊敬はするがよお~~)
目の前の彼女は、幼さは感じられるが顔のパーツ自体は悪くない。このまま成長するのであれば、確かに美人になるだろう。ホル・ホースの専門ではないが、この世には『青田買い』という考え方もある。
……のだが、ホル・ホースは知らないことだが、目の前の少女は一八歳だ。もう成長期などとうに終わっている。
「桜子さんを馬鹿にしているのですか?」
目の前の少女は、そんなホル・ホースのやる気のなさを悟ったのかどこか不機嫌そうに言ってきた。イカン、とホル・ホースは思う。いくらチンチクリンだとしても女性であり、これから組むことになるパートナーである。こんなところで不興を買うのはマズイ。
「いや! 今のは見間違いだった! 良く見たらヒジョーに美人だったッ! オーマイガッ!」
「……やはり馬鹿にしているのですね? 二番手の癖にこの桜子さんを馬鹿にしているのですね?」
少女のこめかみには、明らかに青筋が浮かんでいた。完璧に怒っている。
「そんなこたあ……あん?」
それでも一応弁解しようとしたホル・ホースは、そこで
少し……空気が煙っぽくなっているような……砂埃が酷くなっているような感覚。
(いや、違う……この『無数の目が浮かび上がった煙』は……まさか、この『煙』がコイツの!)
スタンド攻撃。
その可能性に思い至ったホル・ホースは、慌てて桜子を制止しようとする。
「……おいおい、待てよ嬢ちゃん。おれぁ別に……」
「
「待っ、」
ドガバギドゴグシャ‼‼ という暴力の音が連続し。
ギニャアアア―――――ッ‼‼ というギャグマンガみたいな悲鳴が響き渡った。
***
まったく、無礼な男でした。
……いや、過去形で彼を語るのは、まだ一緒に行動を共にしているのでちょっと違うのですが、まあニュアンスが伝わればよし。
で、今私達は何をしているのか、というと。
ホル・ホースにちょっとした『躾け』をしてから互いに自己紹介をして、カイロのカフェで二人仲良く作戦会議をしているのでした。
コーヒーを啜りながら、顔を惨めに腫らせたホル・ホースが言います。
「……で、これからどうするつもりだね、桜子」
「ずばり、我々が狙うべきは『各個撃破』です」
それに対し、私は自信満々といった風で言い切りました。
「相手は五人組。対して我々は二人だけ。『DIOの軍勢』と考えるとこちらの方が大人数ですが、こうして少人数で動いていると考えると、どう考えても多勢に無勢なのです。ですから、相手が一人になったところを狙う。それが一番賢いやり方でしょう」
「まあそりゃあな。で、誰を狙うよ。ポルナレフか? まあアイツはJ・ガイルの旦那がヤるだろうがよ」
ニヤニヤと、ホル・ホースは笑っています。
そういえばこの男はあえてポルナレフの前に姿を現す、という方法でポルナレフを挑発、単独行動をさせた上で二対一に持ち込む、という戦い方をしていましたっけ。まあ、あのやり方ならホル・ホースがいなくともポルナレフは倒せる――可能性はあります。
まあ、その程度で彼らが倒されるとは、私には思えませんが。
そう思いつつ、私はさらに提案します。
「まずはそのJ・ガイルをやりましょう」
「は?」
「ですから、J・ガイルを承太郎たちの代わりに
「はああァァァァあああああああああああああああ~~~~ッッ⁉⁉⁉」
「うるさいですよホル・ホース」
「バッ、テメッ……何考えてやがる⁉ J・ガイルの旦那はおれらの味方だぞ! 殺す理由がどこにあるって言うんだ!」
「味方? ジョースター家という共通の敵を持っているだけでしょう。敵の敵は味方が通るほど世の中は甘くありませんよ」
それに、と私は付け足し、
「J・ガイルを倒せば、ジョースター一行は我々に対する警戒を緩めるハズです。ジョースター一行もそう考えるでしょうしね。そうすれば我々はジョースター一行に深く食い込める。先程話した『各個撃破』がやりやすくなります」
「……そうかてめーは知らねーのか。やめておけッ! ヤツはエンヤ婆……DIO様の側近の息子だッ! そんなことしたら確実にエンヤ婆が……DIO様が敵に回る! おれ達の命はねーぜッ!」
「果たして本当にそうですか? J・ガイルをやったっていう功績はジョースター一行に押し付けてしまえば良いだけの話じゃないですか。それに、一行に食い込むと言っても旅を共にするというわけではないです。連絡先を教えて、協力関係を装うという意味です。ジョースター一行が口を割らない限りバレたりはしませんよ」
「う、うむう……」
ホル・ホースは思わず唸ってしまいました。彼も馬鹿ではないでしょうし、私の言っているやり方が『自分達の安全を確保する』という点で見れば理に適っていることは分かっているはず。J・ガイルが義理立てする必要のないクズであることも分かっているでしょうし、そもそも彼はそういう騎士道精神とは程遠い暗殺者のはずですからね。ただ、エンヤ婆にバレた時の、DIOを敵に回した時のリスクが大きいと思っているのでしょう。
ですが、私としてはジョースター一行に深く食い込んでおく必要があると思っているのです。
まず、彼らと行動を共にすれば情を沸かせることができる。
次に、彼らと行動を共にすればその行動パターンを把握できる。
最後、彼らと行動を共にすれば行動をある程度誘導できる。
特に、二つ目と三つ目は重要です。何故なら――、
「じゃ、じゃあ仮にそうするとして、だ。まず誰から狙う?」
「まずはジョセフからです」
――このように、戦う相手をある程度選ぶことができる、という利点がありますからね。
「どうやってだ?」
「ジョースター一行の仲間だと連中自身に誤認させることができれば、その中に深く食い込むことで仲間割れを誘発させたり、行動を誘導したりすることで狙った相手を炙り出して倒すことができます」
「だが……もし仮にバレたら、おれらはタコ殴りだぜ。逃げ場もねー」
「だからまずジョセフを狩るのです。彼は一行とSPWの連絡役であると同時に頭脳でもありますから。私のスタンドなら暗殺が可能。それでジョセフを始末すれば、バレる可能性は格段に減ります」
「……報告じゃあ、これまでジョセフはそんなに活躍してねーただの老いぼれって聞くけどよお。連絡役であるのは分かるが、頭脳ってのはどうだ?」
「たとえば、旅程を決めているのはおそらくジョセフでしょう。承太郎と花京院は学生だから旅程を組んだりする知識はないですし、アヴドゥルはかなり直情タイプで口下手なのでリーダーには向いていない。ポルナレフは旅慣れているでしょうが……一番の新参である彼が一行の中でリーダーシップをとることはできません。一番年長で、アヴドゥルなどからの信頼も高いジョセフが一行のチームワークの核になっているのは間違いないはずです」
そこまで、私は一息に言い切りました。
まあ、こんなのはホル・ホースを納得させる為の言い訳で、実際には『ジョセフが一番手心を加えてくれそうだし、スタンドも直接攻撃力がないから後遺症が残りづらい』ってだけなんですけどね。
まあ、此処まで理屈を並べ立ててやれば、向こうも信じてくれることでしょう。流石は桜子さんですね。
***
ホル・ホースは、自分の見る目のなさに愕然としていた。
目の前の少女は……一体『何』だ? 日本という平和ボケの国で二〇年足らず過ごしていた程度の少女が、これほど筋道だった『戦略』を語ることができるのか? まるで『最初から知っていた』かのように的確な分析と作戦……間違いなく、ジョースター一行のアキレス腱を一撃で叩き斬るに違いなかった。
(この女……ただのチンチクリンだと? とんでもねえッ! コイツの戦略眼があれば、どんな敵だってマジに始末できるぜッ! 二人でなら承太郎すらやれるかもしれねえッ! J・ガイルの野郎なんか目じゃねーぞ……コイツ、最高の
ホル・ホースは現金な男だ。
だが、それは彼の住む裏世界においては『切り替えが早い』という長所に変換される。そして、この界隈において過去を引きずらない(考慮しないこととは違う)ことは生き残る最大のコツの一つでもある。
「よし、分かった。あんさんの言う通りにしよう。今からおれのブレインは桜子、おめーだ。おれはおめーの指示に従うぜッ!」
調子の良いこと山の如しなホル・ホースの発言だったが、桜子はというとけっこうおめでたい頭をしているのか、『ブレイン』という役割を与えられた途端にふふんと得意げに鼻を鳴らして胸を張っている始末だった。多分、命の危険とかになってくると敏感に反応して本能的に策略を張り巡らせたりするタイプなのだろう、とホル・ホースは思うことにした。
たまにいるのだ、いつもはおちゃらけている癖にいざというときになると『野性的な勘』としか言えない的確な思考で危険を打破するタイプの強者が。ちなみに、ホル・ホースも意外とそういうタイプである。
「で、そういえばホル・ホース、あなたは少し前までJ・ガイルとコンビを組んでいたんですよね? それなら、J・ガイルがどこにいるのか知っているんじゃないですか?」
「ああ」
桜子の問いに、ホル・ホースは自信ありげに頷く。
「インドの『カルカッタ』。俺達はそこでジョースター一行に仕掛けるつもりだった。まずポルナレフを挑発して、逆上したポルナレフを殺してから一人一人始末していく形でな」
「で、今ジョースター一行はどのあたりにいるんです?」
「さあな……確かオレが聞いたときには、まだシンガポールに着いたばかりだったはずだぜ」
「なら……今からカルカッタに行けば間に合いそうですね。ホル・ホース! 急ぎましょう! 足はDIOが用意してくれているんでしょう?」
そう言いながら、桜子は善は急げとばかりに進んで行く。
その後姿は、遊びに行くのに待ちきれない子供のような無邪気さすら感じられるが――、
(だが、必要とあればDIOにすら刃向いかねない気概ってヤツを感じたぜ)
ホル・ホースは、自らの手の中に『拳銃』を意識する。
桜子がDIOにすら刃向う気概を持っているのは良い。だが、ホル・ホースはそうではないし、DIOの手勢に自分達まで狙われることがあってはならない。『呪いのデーボ』や『
危険はそれだけではない。もし仮にジョースター一行の味方の振りをして、その途中でDIOの手先であることが相手側からバラされてしまえば、ホル・ホースまで巻き添えを食う危険性がある。
もし、桜子がそういった状況に追い込まれたなら、その時は。
ホル・ホースは、一つの決意をした。