転生者だけどDIOに目を付けられました。【没作品】 作:家葉 テイク
私とホル・ホースはカイロを出てインドのカルカッタにやってきていました。
ホル・ホースの(得体の知れない)情報網によると、ジョースター一行は既にカルカッタ入りしているらしく、今頃はホテルで一休みしているだろうとのことでした。
「どういう情報網なんですか?」
「へっへ、お嬢ちゃんの桜子には少し早えーかもなあ」
「……」
バカにされていると感じたので無言で脛を蹴りつつ、移動すること数分。
「バクシーシ‼」
「
「両替スルヨー」
「タクシー乗ってかない? 安くしとくよ!」
「そこのお嬢さんお守りはいかが?」
「お恵みしないと来世でひどい思いをするぞォ」
「バクシーシっつってんだろコラ!」
インドの雑踏に巻き込まれてしまっていました。
対人交渉の専門家と言って良いコミュニケーションスキルを持っている桜子さんの技量を以ってしてもこの喧騒は捌けそうにありません。
能力を使う手も考えましたが、流石に一般人相手にスタンドを使うのは桜子さんの矜恃が許さないのでした。
……っていうか、転生者である私に来世の話とかある意味笑えませんよね。桜子さんはどんな世界であろうと幸せになるので、別に来世がどうとかはあまり関係ないですけど。
まあ、そこはあんまり大きな問題ではないのです。もっと大きな問題は、
「やっとの思いで雑踏を抜けたと思ったら、荷物をすられていました、と」
「おれがやったみてーな言い方だが、荷物を持ってたのはてめーだからなッ⁉ どォォ――――すんだこの状況ッ! 路銀も吹っ飛んじまったぜッ!」
「ちがいます。すられたのではなく恵んだのです。ほら……来世の為とかで……」
「来世なんか信じるタイプじゃあねーだろうが! おめー!」
「いえ? 桜子さんは意外と信心深いですよ。鰯の頭も信心からって言うでしょう? ……それに、今話すべきは誰の責任とかそういうことではないはずです」
私の超建設的意見に感動したのか、ホル・ホースは何も言えなくなったようです。
そう。荷物をすられたということは、路銀以外も失っているわけなのでした。たとえば――地図、とか。そして地図がないということは、土地勘のない我々はジョースター一行の居場所が分からないということにもなるわけで。
「さしあたって……どうやってJ・ガイルとジョースター一行の戦闘に介入するか、ですね」
どうしようもないじゃねーか! とホル・ホースが喚いていますが、これは黙殺することにします。
***
ACT4:裏切りの皇帝 その1
***
どうしようもない、とホル・ホースは言っていましたが、案外割と何とかなってました。桜子さんのスタンドは遠隔まで飛ばすことができ、独自の感覚も備えています。つまり上空まで飛ばして街を一望することだってできるわけです。
「これが桜子、おめーの『バーニン・ブリッジ』か」
立ち上る、『無数の目が浮かび上がった煙』を見て、ホル・ホースが感心して呟きます。前に見せたことがありましたが、その時はじっくりとって雰囲気ではありませんでしたしね。
「この桜子さんに感謝するんですね」
「てめーが蒔いた種だろうがッ! それにおれが言うまで気付かなかったくせによォー」
「失敬な。桜子さんだって真っ先に思いついていましたよ。ただスタンドを見せびらかすことでJ・ガイルやジョースター一行に我々の存在がバレてしまうことを警戒していたのです」
「へいへい」
全く信じていないホル・ホースを伴って、私達は足を進めます。
先程見た時ポルナレフは既にジョースター一行とは別行動をとっており、市街地から郊外へ移動しているところのようでした。彼の周囲を光が飛び交い、『シルバー・チャリオッツ』が次々と反射物を破壊していることから、どうやら既に戦闘中みたいですね。その体は大小様々な切り傷でいっぱいで、J・ガイル相手に苦戦していることがありありと分かります。
「しかし解せねーな……」
歩を進めながら、ホル・ホースがそんなことを言います。
「どうしました?」
「いや、J・ガイルはおれと組んでるとき、おれを目の前に立たせて自分は後ろから狙うって作戦をとってたんだ。なのにおめーの話だと『ハングドマン』はポルナレフの背後を狙ったりはせず、致命傷にならない程度の傷を負わせているんだろう?」
「おかしくはないのでは? ポルナレフの『シルバー・チャリオッツ』が単純に想像以上のスペックだったのかもしれませんし」
そう返しつつ、私も内心ではホル・ホースに同意していました。なにせ移動スピード自体は光の速さなのです。姿をくらませて鏡に映ったポルナレフを暗殺すれば良いのに、そうせず真っ向勝負を挑むのは、漫画で清々しいまでのゲス野郎っぷりを見せたJ・ガイルに似つかわしくありません。
そう思って、私は足を止めます。
スタンドを発現し、ヴィジョンを上空に飛ばし、辺りを確認……、
「! ホル・ホース!」
「なんだなんだ、何があった⁉」
「ジョースター一行です! アヴドゥルがポルナレフを追い、花京院が買い取ったトラックに乗り込み、承太郎とジョセフが路地裏を抜けてショートカットしてポルナレフを先回りしようとしているようです! ポルナレフの向かう先には鏡を散りばめたり立てかけたりした広場があります。……けっこう人がいますよ」
スタンドの視界からカルカッタの街を一望している私は、その全景がしっかりと見えていました。
ポルナレフとJ・ガイルの戦闘で割れる反射物に驚いた通行人がびっくりしてズッこけているのも。
走るアヴドゥルに怪訝な表情を向けている通行人の顔つきも。
そんな光景とは関係なく休憩してコーラを飲んでいる少年の姿も。
花京院から札束をもらってニヤニヤと笑うトラックの持ち主の表情も。
ニヤニヤ笑いのトラックの持ち主を見てさらに悪巧みをしているゴロツキも。
承太郎とジョセフが道脇に置いてあった空き瓶を盛大に蹴り飛ばしたのも。
その近くで物音に首を傾げているご婦人も。
それらから離れた位置に私とホル・ホースが立っているのも。
そして、その後方にいる
「なるほど、J・ガイルは仲間が追ってくることを見越して、むしろ一網打尽にするつもりなのかッ!」
漫画ではホル・ホースと組んでいた為に、ホル・ホース任せにしていた部分を事前に準備していた、ということのようですね。流石にJ・ガイルも馬鹿ではない、ということでしょうか。
いえ、問題はそこではなく……、
「ヤバい……ヤベーぜ桜子! ここから広場まで最短でも徒歩なら一時間かかる! ただ歩いてるだけじゃ、まず間違いなく! おれらが向こうに到着する頃には戦闘が終わっているぜッ!」
……どうやって、戦闘に間に合うように合流するか、ですね。
***
J・ガイルはスタンドを操作しながら内心でほくそ笑んでいた。車に乗った花京院はアヴドゥルを途中で拾ってポルナレフを追っているようだが、人混みの多いカルカッタの街で道を知らない余所者がそこまで速度を出せる訳ではない。ポルナレフはもはやJ・ガイルのいる広場からは目と鼻の先。広場に入った瞬間に散らばった鏡の破片でポルナレフをかく乱させ、動けなくしたところで始末してやれる。
それにもしそれを切り抜けたとしても、物乞いにカネを渡して『左手を隠すように』と指示を出してあるので、それでポルナレフの気を惹ける。その間に不意打ちで始末するチャンスもあるのだ。
完璧なプランだった。
J・ガイルは強力なスタンド使いだが、同時に狡猾で下種だ。だから、他人を巻き込むような手も平然と遂行できてしまう。
「野郎ッ! J・ガイル、テメー此処に潜んでいやがるなッ! とうとう追い詰めたぜッ!」
広場に到着したポルナレフは、呑気にそんなことを言っている――が、すぐに表情を変える。
『ククククク……いいや違うぞポルナレフ……追い詰められたのはきさまの方だ。
「うッ、うおおおおッ‼ この鏡の破片はッ‼」
キラ! キラ! キラ! と、散らばった鏡の破片の間を『ハングドマン』が飛び交っていく。
……『ハングドマン』は『鏡面に映り込む「鏡像」のスタンド』だ。つまり、本質的に『光』の性質を備えていると言って良い。だから鏡面から鏡面の間を飛び交う時は『光のような状態』になり、そのスピードは『光速』に近い。
だが、その動きはきわめて直線的であり、ポルナレフの『シルバー・チャリオッツ』の早業を以てすれば、軌道さえ読めていれば斬りつけるのも難しくはない。そう……
達人並の剣裁きがあるとはいえ、無秩序に鏡面の間を飛び交う『ハングドマン』にダメージを食らわせるなど、正確無比な狙いと電光石火の速さを誇る『スタープラチナ』くらいしかできまい。少なくとも『シルバー・チャリオッツ』には不可能な芸当だった。
(ククク……! 攪乱されているぞォ、この次の攻撃で仕留めるッ!)
そして、鏡像の中で適度にポルナレフをいたぶったJ・ガイルは、次でトドメを刺そうと思ってポルナレフの背後に位置する鏡に転移しようと動き――、
ドッギュウンッ! と。
まさにその途中で、軌道内に入り込んできた『銃弾』に『映って』しまった。
『何ッ! このスタンド能力は!』
不自然に旋回する『銃弾』に映り込んだままの『ハングドマン』は、周囲を見渡す。『そいつ』はそこにいた。ポルナレフの後方二〇メートル。車の傍で、少女を傍らに伴わせて拳銃を構えているテンガロンハットのその男を、『ハングドマン』は、J・ガイルは知っていた。
『きさま、何故――』
思わず声を書けようとする『ハングドマン』だが、テンガロンハットの男の攻撃はそこでは終わらない。『銃弾』はそのまま大きく旋回し……そのまま本体J・ガイルの方へと移動していく。
『う、うおおおおッ!! きッきさまッ!』
それを悟った『ハングドマン』は、急いで本体の方へと戻る。キラ! キラ! キラ! と、相手――ポルナレフに自分の居場所を悟られないように攪乱しつつ移動すると、『ハングドマン』は広場の装飾の一つを殴り壊す。
ゴボガギャア‼ と瓦礫片が飛び散り、それがちょうど『銃弾』の通過する場所と重なって、『銃弾』の勢いを完全に奪う。
無事に『銃弾』の無力化に成功した『ハングドマン』は、ふうと安堵して一息つく。この『銃弾』の能力を、彼は既に知っていた。ここまでやれば『銃弾』は無力化される、とあらかじめ説明をされていたので大丈夫だろう。
もう無理だと判断したのか、像を解除された『銃弾』を横目に見つつ、『ハングドマン』は呟く。
『しかし…………いったい何のつもりでこのおれを裏切ったんだ……「ホル・ホース」のヤツは』
腕を組み、考えるが答えは出ない。
ホル・ホース。
銃弾の軌道を自在に変えることができる拳銃のスタンド『エンペラー』を扱うスタンド使い。
J・ガイルが前に組んでいた、金でDIOに雇われたしがない女好きの殺し屋だった。まさか金を独り占めする為に他のDIOの刺客を殺すほど金にガメツい男ではなかったし、そこまでの野心もない。
考えられるとすれば……、
『確か、ニッポン人のメスガキのお
そこまで考えて、『ハングドマン』は『まあ良い』とホル・ホースが裏切った経緯について思考を放棄する。
問題なのは、向こう側が『何故か』本体J・ガイルの居場所を突き止めている、というところだ。つまり相手は何らかの方法でこちらを監視している、ということに他ならない。
幸いなのは、ホル・ホースのスタンド能力『エンペラー』の射程距離がせいぜい五〇メートル程度というところだろうか。現状でもかなり射程ギリギリのはず。J・ガイルが位置を変えれば、『エンペラー』の弾丸はJ・ガイルには届かなくなるだろう。
そう考え、ひとまず本体を移動させて『エンペラー』の射程距離外に逃れつつ、『ハングドマン』は空を見上げる。
ホル・ホースにこの周辺に監視の為の設備を用意する時間はなかった。であれば、ホル・ホースが組んだ少女――桜ヶ丘桜子の能力に依るものだと考えるのが妥当だ。
そしてJ・ガイルは、桜ヶ丘桜子の能力をエンヤ婆から聞いていた。
(『煙』のスタンド能力……クク、上空に飛ばしてオレを見ているようだが、あいにくそれは、オレに居場所を教えているようなものだぞッ!)
キラ! と『ハングドマン』の身体が光になって、別の反射物へと移動する。
その直前に『ハングドマン』に浮かび上がっていた表情は、愉悦に歪んでいた。まるでここからはおれの独り舞台だ、とでも言わんばかりに。