転生者だけどDIOに目を付けられました。【没作品】   作:家葉 テイク

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ACT6:裏切りの皇帝 その3

「く、来るなーッ! アヴドゥル、花京院、こっちに来るんじゃあねーぜッ! 『ハングドマン』は既にそっちに向かってる! そのままだとモロに攻撃を食らうぜ――ッ‼‼」

 

『ハングドマン』は自らを追いかけようと健気に走るポルナレフを見てほくそ笑んでいた。

 実は、花京院とアヴドゥルを狙う……というのは完全な『ポーズ』。そう見せかけて、二人を助けようと向かっている真っ最中のポルナレフが、『ハングドマン』――J・ガイルの真の標的だ。

 確かに花京院とアヴドゥルは『ハングドマン』の能力を知らない。殺すのはたやすいだろう。しかし――、

 

(人間、誰かを助けようとするときが最も無防備になるものよのォォ――。()()()()()……お友達を助けようとしたその瞬間が一番無防備で『狙いやすかった』ぜェェ――――ッ‼)

 

 能力の弱点を知る者を簡単に殺すことができる機会が来たとなれば、真っ先に狙うのはそいつだ。

 キラ! と光が一閃する。

 鏡面の一つから、ポルナレフの足元へ飛び、ポルナレフが『ハングドマン』を見失った一瞬でポルナレフの背中を一突きする。完璧な作戦だった。

 

 ジュウウオオ! と、ポルナレフの足元の鏡面に飛んだ瞬間、『ハングドマン』の全身が燃え上がっていなければ。

 

『ウギャアアアアアアアアアア⁉⁉⁉ ば、馬鹿なッ! な、なんだこのスタンド能力はッ⁉』

 

 炎を自在に操るアヴドゥルの『マジシャンズ・レッド』ではない。アヴドゥルからはまだ射程距離外だ。ならば――と考え、『ハングドマン』は自身のいる鏡面の周囲に、うっすらとだが――――『無数の鋭い眼が浮かび上がった煙』のヴィジョンがあることに気付いた。

 

『ま、さか……桜ヶ丘桜子ッ! このJ・ガイルの戦略を見抜いて、あらかじめ足元の鏡面にスタンドを仕込んでいたと……これはきさまのスタンド能力……ウゴアア!』

 

 慌てて別の場所に飛ぼうとして――『ハングドマン』はさらなる異常に気付いた。鏡面が……粉々にされているのだ。もはや何も映らないくらいバラバラに、打ち砕かれている。おそらくは、ホルホースの『エンペラー』によって。

 

『ば、馬鹿なアアアア~~~ッ! こいつら! 最初からおれがヤツを狙うと分かっていて、全員がこのおれの挙動に意識を向けているその時に罠を仕込んでいたというのかァ――ッ! ぐげっ』

「ふふん。見ましたか。これが桜子さんの戦いの年季ですよ」

「二〇にもなってねーガキが何言ってんだか……だが()()()おれ達のサポートは完了したぜ」

「ホル・ホース、桜子、おめーら……」

 

 ポルナレフが感じ入っているその足元で、火傷の激痛をこらえて『ハングドマン』は思考する。

 

(ぐ、グゲグググ……ククク……油断しおってッ! 確かに重傷だがこのおれのダメージはまだ再起不能ではないッ! あそこにいるアヴドゥルと花京院とのラインはまだ潰されていないのだッ! あそこに行って連中を始末し、精神的ダメージを受けて弱っているポルナレフを始末してくれるッ! そうすれば一旦退くことができる……ホル・ホースと桜子のことは予想外だったが、このことをDIO様に報告すればさらなる援軍が呼べるはずだッ!)

 

 キラ! と、『ハングドマン』は人知れず移動を繰り返し、そしてアヴドゥル達の乗るトラックのサイドミラーに映る。アヴドゥルと花京院は、ポルナレフの様子を見て何やら話しているようだった。

 

「ポルナレフのあの様子……どうやらぼくたちの言っていたことを理解してくれたようですね」

「ああ……わたしも彼を侮っていたのかもしれない。うぬぼれが強く、すぐに油断する性格だと……ああやって、わたし達のことを省みるやさしさも持っている男だったのだ」

 

 そう言っている間にも、鏡像に映り込んだ『ハングドマン』はアヴドゥルの背後に回り込む。『ハングドマン』にとってアヴドゥルの炎は致命的なまでに相性が悪い。此処で、殺しておくに越したことはない……。と、腕を振り上げたその時。

 

「しかし、あの不思議な少女……一体何者なのだろうか」

 

 アヴドゥルの言った言葉に、『ハングドマン』は思わず手を止める。

 そんな『ハングドマン』の様子を知ってか知らずか、二人はさらに話を続けていく。

 

「ええ。あのテンガロンハットの男と一緒にポルナレフと戦っているだけでなく……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『ナニッ』

 

 言われて、『ハングドマン』は慌てて桜子の方を見た。

 そこには――――、

 

 

『BURN THE MIRROR(鏡を焼け!)』

 

 

 の文字。

『バーニン・ブリッジ』は煙のスタンド……つまり不定形。ということは、煙の形を変形させて文字を形作ることもできるということ。これをずっと、アブドゥルたちに見せていたのだ。移動に必死な『ハングドマン』には絶対に気付かれないように。

 

「よく分からんが、この『スタンド』が映っている鏡を焼けばすべてに決着がつくのだというのであれば、喜んでそうしよう。『マジシャンズ・レッド』ッ!」

「おっと……きさまが『鏡から鏡へ映る』スタンドだということには既に気付いている。この車のすべての鏡面にはぼくの『法皇(ハイエロファント)』を忍ばせている。映り込めるとは思わないことだな」

『ナアアアアアアアアアアニイイイイイイイイイイ‼‼‼』

 

 そして、鏡を粉砕され、車の鏡面も塞がれ、唯一自分が残る鏡面も焼かれて鏡面として成り立たなくなった『ハングドマン』が次に行ける場所と言えば。

 

『まッ、まさ……か……ポルナレフの……!』

 

 ポルナレフの――『瞳』のみ。

 

『ひ、ひィィィえええええェェェええええええええええええ~~~~~~~ッ‼‼ や、やめてくれッ! それだけはやめてくれェェえええええ~~~~~~ッ‼‼』

 

 その瞬間。

 ポルナレフからは遠く離れているはずの『ハングドマン』にも、その声は聞こえた。

 『ハングドマン』の移動は、一度発動すれば本人にも止めることはできない。ゆえに強制的に近づいて行く銀の騎士を見ながら、『ハングドマン』は――、

 

『や、やめろォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおお』

「食らえ! J・ガイルッ‼‼」

 

 ゾバンッ‼‼ と。

 風をも断つその刃が、光を貫いた。

 

***

 

「ひっ、ひっ、ひっ……! に、逃げなくては……グギギギ……生き延びなくては……」

 

 J・ガイルは――――、

 まだ息があった。息があるどころか、這いつくばりながらもその場から逃げるくらいの生命力を持ち合わせていた。頬から首筋に至るまでの貫通痕、全身の大火傷など、殆ど再起不能の様相を呈しているものの、それでも辛うじて生きている。

 ズリザリザリ、と這って移動していくJ・ガイルには、解せない点が一つあった。それは桜子とホル・ホースのことだ。

 

(しかし何故……何故あの二人は……いや桜子はこのおれを裏切った? DIO様を裏切ればジョースター一行と同じようにどこにいても刺客に追われる、心安らぐ時のない生活を送らなくてはならないのに……大金も得られないのに……)

 

 と、そこまで考えてJ・ガイルはハッとする。

 

(まさか……まさかだが、あの女……()()()を狙っているのか⁉)

 

 DIOの財産は莫大だが、当然ながら追手にその全てが支払われるわけではない。だがDIOを殺してしまえば、その財産は丸々乗っ取ることができる。エンヤ婆はJ・ガイルに『桜子にだけは気を付けろ、ヤツもまた女帝の器を持つ人間だ、分不相応な器ではあるが……』と忠告していた。そのことからも可能性は十分にあり得る。(実際には、桜子が肉の芽を植え付けられ心からDIOの部下になるというのを嫌っただけなのだが)

 

(や……ばい! この事実を! 桜子の裏切りを伝えねば……我が母エンヤに知らせねば!)

 

 ズリ、ズリズリ、とJ・ガイルはさらに這いつくばって――そして自らに差す陰の存在に気付いた。ハッとして顔をあげると、そこにはポルナレフ、桜子、ホル・ホース、アヴドゥル、花京院の姿があった。

 万事休す――――J・ガイルの脳裏にその四文字がよぎる。

 そして、その刹那、桜子と目が合った。

 

「………………」

 

 桜子は何も語らなかったが、しかしその目は冷徹にJ・ガイルを見据えていた。ポルナレフやアヴドゥル、花京院のように仇敵を倒す高揚もなければ、ホル・ホースのように敵を無事始末できる安堵もない。ただ、これからこなすべきタスクの一つとして……機械的にその『始末』を観察するだけの眼差し。そこには、なんの感情の色もない。

 

「やはりな……J・ガイル。まだしぶとく生きていやがったか。桜子のスタンドでとらえていなければ、まんまと逃がしてしまっていたかもしれねーぜ」

「ま、また桜子か……」

 

 ポルナレフの言葉に、J・ガイルは思わず呻く。その呻きは、やがて罵声に変わっていく。

 

「ウグググゲゲ…………やはり母エンヤの言っていたことは正しかった!」

「何だコイツ? 何を言っている?」

「……! ポルナレフ! 何か策しているのかもしれません! 早くトドメを!」

「『バーニン・ブリッジ』! タロット占いですらはかることのできない『焼失する「運命」』の暗示のスタンドよ……! DIO様を裏切っておいて、生きていられると思うなよ‼‼」

 

 J・ガイルがそう言った瞬間。

 確実に、空気が凍りついた。

 

 

***

 

 桜子がDIOにすら刃向う気概を持っているのは良い。だが、ホル・ホースはそうではないし、DIOの手勢に自分達まで狙われることがあってはならない。『呪いのデーボ』や『灰の塔(タワー・オブ・グレー)』、『鋼入りの(スティ―リー)ダン』などをはじめとする世界中に広がるスタンド使いの『業界』全体からつまはじきにされる可能性すらある。

 危険はそれだけではない。もし仮にジョースター一行の味方の振りをして、その途中でDIOの手先であることが相手側からバラされてしまえば、ホル・ホースまで巻き添えを食う危険性がある。

 もし、桜子がそういった状況に追い込まれたなら、その時は。

 

***

 

ACT6:裏切りの皇帝 その3

 

***

 

 

「何を……何を言っているんだJ・ガイルッ⁉」

「ポルナレフ! 話を聞いてはいけません! 相手はこちらを動揺させて逃げ切る気でいるんです‼」

「その『ポルナレフ』もだ! さっきからだが、そう言えば……おれはおめーに一度も名乗ってねェーぜ!」

「あっ……」

 

 桜子のマヌケな声が、決定打になった。背後にいる花京院とアヴドゥルまでもが、桜子を警戒しだす。

 その様子を見て、あくまでもホル・ホースは冷静に思う。

 

(やっぱりなァ~~……こうなっちまったか……)

 

 J・ガイルは桜子とホル・ホースがDIOの手先であることを知っている。だから余計なことを言う前に始末したかったのだが……こうなってしまう可能性も、当然ながらホル・ホースは考えていた。こうなってしまえば、どさくさに紛れてJ・ガイルは逃げるだろう。

 そうなれば、ホル・ホースもまた命を狙われることになる。だが、ホル・ホースは慌てていなかった。最悪の事態を回避する為の方法は非常にシンプルだからだ。

 ここで『エンペラー』をブチかまして全員殺せば良い。まず桜子を撃ち抜いてから殺せるだけ殺せばそれで済む。J・ガイルはこの負傷だ。ここで取り逃してもDIO陣営に連絡を入れる前に居場所を突き止めて殺すことは容易だろう。よしんば失敗しても、ジョースター一行三人の首をDIOに送れば、エンヤ婆の敵対は避けられないが首の皮一枚は繋がる。

 今はまだ、疑惑の目は桜子一人に向いている。J・ガイルに身内を殺された男()()()()()()()()()()()ホル・ホースがDIOの手先とは、三人は夢にも思っていない。

 

 この引き金を引けば。

 桜子を裏切れば、まだホル・ホースは安泰な生活に戻れる。

 

(悪いなァ――――)

 

 そして、引き金を引く。

 

「……ぎゃああああああああァァあああああッッ⁉⁉」

 

 ――――J・ガイルに向けて。

 

(J・ガイルの旦那よォ。おれぁやっぱり、女を傷つけることだけはできねーぜ)

 

 ドッサァ! と右手を撃ち抜かれたJ・ガイルはそのままのたうち回る。それを目の前にして、ホル・ホースが銃口を上に向けて、残る硝煙のヴィジョンを吹き消すように息を吹きかける。

 

「ナメんなよぉ、J・ガイル。このホル・ホースがそれしきのことを知っていねーとでも思ってんのか。おれらを動揺させてその隙に逃げてやろうって魂胆が見え見えだぜ」

「なっ、あっ、あがっ……」

「……そーだったな。J・ガイル。きさまが心底のクズだってことをようやく思い出したぜ……。桜子のことは気になるが、後回しだ。まずはてめーの……裁きからだぜッ!」

「ひっ、ひっ、ひっひッ……ひィィェェエエえええええええええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ‼‼‼ や、やめてくれっ、助けてくれ! 頼む! 頼むゥー!」

 

 最後の力を振り絞ってか、J・ガイルはポルナレフに縋りついた。

 血まみれの醜い男を前に、ポルナレフは興味深そうな表情をして問いかける。

 

「ほ~お? それじゃあ質問だ。きさまはそう言って許しを乞うた相手にこれまで何と言ってきた?」

「え、あ、ひ……『許す訳がない』……」

 

 剣閃。

 光が煌いたかと思った次の瞬間には……J・ガイルの両目が穿たれていた。

 

「じゃあ――――答えはそれだッ‼ 許しは地獄で、閻魔大王にお願いしな! もっとも許してもらえるとは思えねえがよお~~ッ‼」

 

 嵐の夜の雨粒のような激しさで、J・ガイルの全身に斬り穿たれた傷が量産されていく。

 どのタイミングでJ・ガイルが絶命したのか、ポルナレフにも分からない。

 ただ、結論は至ってシンプル。

 

「……これが本当の『吊られた男(ハングドマン)』か……心底ゲス野郎だったな」

「当然の報いだ。地獄でたっぷりと償いをするが良い」

 

 数瞬で幾千もの穿ち傷を作ったJ・ガイルは、広場の鉄柵に引っかかって、逆さ吊りになって死亡する――という結論だけだ。

 

 

          J・ガイル。

          スタンド名――『ハングドマン(吊られた男)』…………死亡。再起不能。

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