目指すは海の果て   作:ワンピの風

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完全なる見切り発車です。気が向けば続きます。


目覚め

「うぎゃ―――!!」

 

 

 

 たった今頭をぶつけて前世を思い出したので、いきなりだが自己紹介をしようと思う。

 

 俺の前世は令和の時代を生きたごく普通の日本人。トラックに轢かれて意識を失い、この世界に転生した。神様らしき人物とはエンカウントしなかったので、いわゆる転生特典とやらは貰っていない。

 

 今世での名前はルーク。現在3歳。今お世話になっているのは、コルボ山の山賊ダダン一家。0歳の時からここにいると、俺より3歳年上のエースが教えてくれた。……もう分かると思うが、ここはかの有名なONE-PIECEの世界だ。とは言っても、俺は漫画を一通り読みはしたが、主要人物の顔を覚えている程度なので、この世界を冒険することになってもあまりあてには出来ないだろう。うわあああ、もし俺がこの世界に転生すると分かっていたならもっとちゃんと漫画を読み漁ったのにいい!

 

「ルーク! 大丈夫か!」

 

 名を呼ばれ、俺は考え事を中断した。記憶を思い出した衝撃が強すぎて忘れていたが、今俺はエースと川に釣りをしに来ていたんだった。

 

「だいじょう……」

 

 顔を上げた俺の視界いっぱいに、大口を開けたワニが映った。

 

 ……え?

 

「ぎゃあああああ! エース助けてえええ!!」

 

 記憶取り戻して速攻喰われて死亡とか笑えないからああ!!

 

 悲鳴を上げていると、バコォン! という音がして、ワニのガパリと開いた口が何かに叩きつけられたかのように物凄い勢いで閉じた。

 

「ルークに何してんだてめえ!!」

 

 やだ、イケメン……!! 信じられるか、この人これで6歳なんだぜ?

 

 ワニはどうやら鉄パイプで頭を強打されたらしく、そのまま動かなくなった。気絶ではなく、間違いなく絶命している。ワニを一撃で屠った6歳児はそのままこちらに歩いてくると、尻もちをついたままの俺の手を掴み、引っ張り起こしてくれた。

 

「あ、ありがと」

 

「おう。魚は釣れなかったけど、もっといいもんが釣れたな。今夜はワニ飯で決定だ」

 

 エースは嬉しそうにワニを眺めてそう言った。

 

 

 

 ダダン一家での俺とエースの食事は、基本的に一日一回、茶碗一杯の米とコップ一杯の水が保証されている。

 

 これ以外に何か食べたければ、それは自分で調達してこなければならない。しかし、調達した食材は山賊たちに分け前を渡すことで食卓に並ぶ。なので、腹いっぱい食べたければ分け前を引かれても大丈夫なくらいの量が必要になってくる。もちろん俺は腹いっぱい食べたい。

 

 俺もこれでもこの世界で3年生きている。小さい動物なら問題なく狩れるし、食べてもいい植物もエースに習いながらではあるが大体分かるようになったので、最近はダダンから課せられる家事をほっぽりだしてエースと一緒に森に出かけている。……前世では到底考えられないだろう。記憶を思い出した今、そんな自分に戦々恐々としている。適応力ってすごいね。

 

 今日はエースの仕留めたワニと、俺が仕留めたウサギが2羽、それから二人で採取してきたキノコが食卓に並んでいる。分け前分を引いてもまだまだ量があるので、これなら腹いっぱい食べられるだろう。

 

 ウサギを丸焼きにした柔らかい肉を頬ばっていると、エースが、米とワニの肉を混ぜ合わせて炊いた「ワニ飯」を茶碗に山盛りにしてやってきた。そのまま茶碗を突き出される。

 

「ほら、お前の分だ」

 

「でもこれ、エースが仕留めたやつじゃねえのか? 俺が食ってもいいの?」

 

「お前が囮になってくれたから倒せたんだよ。遠慮してねえで食え」

 

 ぶっきらぼうに言い、そっぽを向いたエース。何て優しいのだろう。もしかしたらエース的には年下の俺に兄貴風を吹かせたい年頃なのかもしれない。かわいいかよ。

 

 正直、ワニ飯は俺の好物なので嬉しい。ありがたく頂戴した。そのワニ飯の美味さにひとしきり狂喜乱舞した後、我に返った俺は自分の皿に乗っていたウサギ肉をエースに差し出した。

 

「このウサギ、エースと一緒に作った罠に掛かってたんだ」

 

「いや、おれは」

 

「一緒に食おう!」

 

「……しょーがねぇなあ」

 

 にかっと笑顔を浮かべて言えば、流石のエースも断れなかったのか、しょーがねぇなあとか言いながらも、嬉しそうな様子でウサギ肉にガブリと噛みついた。

 

 俺は前世では両親が早くに他界していて、一人暮らしが長かったので食事はいつも一人だった。その時食べていたものと比べれば、この肉よりもっと贅沢だったけど、美味しさは断然この肉が上だ。誰かと一緒に食べるだけで、こんなにも違いが出るものなのか。

 

 エースと二人、並んでウサギ肉をもぐもぐした後、腹いっぱい食べたせいか急に眠気が襲ってきたので、その日は速めに寝た。

 

 家族って、いいなあ。

 

 眠りに落ちるその前に、そうぼんやりと思った一日だった。

 

 

 

 

 

 そんなこんな過ごしているうちに、俺は5歳になった。その頃の俺には新しい友達が出来ていた。エースが紹介してくれたサボという少年だ。彼は不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)に住んでいると聞いた。

 

 最近はその3人で町に出かけ、町のチンピラから金を巻き上げたり、レストランで食い逃げしたりしている。最初は……まあ、少しは罪悪感があったが、もう慣れてしまった。慣れって怖いね。俺の精神も大分この世界に染まってきていると思う。

 

 もうね、今世での俺のモットーは「人生楽しんだ者勝ち」で決定だ。じゃないとこの世界ではやってられない。

 

 俺たちのいるこの国の名は「ゴア王国」。ゴミ一つないことから東の海(イーストブルー)で最も美しい国だと言われている。確かに城壁で囲まれた壁内はきれいだが、それは毎日大量に出るゴミを、壁の外―――不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)、通称「ゴミ山」に押しやっているからだ。まあそのゴミを漁って生活している人もいるから、俺的にはちょっと複雑な気分。

 

 唯一壁の内側へと行ける通路は「大門」と呼ばれていて、大門をくぐるとすぐに「端町(はしまち)」に出る。端町は町の不良やチンピラが屯している場所で、もっと奥に進むと小綺麗な「中心街」。更にその中心に高い壁があり、その中には王族と貴族が暮らす「高町」がある。

 

 今日の俺たちは端町で片っ端からチンピラを襲い、金を巻き上げていた。

 

「おらあっ、それ寄越せ!」

 

「ぎゃああっ!?」

 

 エースがぶん回した鉄パイプがチンピラの顔にクリーンヒットしたのを、そこらに転がっていた樽の上に座って眺めていると、隣に来たサボが金貨の入った袋を嬉しそうにじゃらりと揺らした。

 

「今日も結構集まったな。いい感じだ」

 

「うん。幾らくらいになるかな。……あ、おかえりエース」

 

 手で持っていた札束をサボが持つ袋の中に放り込んでいると、エースが小さな箱を抱えて戻ってきた。

 

「それ何?」

 

「さあ? さっきの奴が持ってた。中身はまだ見てねえが……。とりあえず、帰ってから開けるぞ。急げ、そろそろ人が集まってきた」

 

 確かに、先程から少し人が増えてきている。捕まらないうちに逃げた方がよさそうだ。俺たちは今回の戦利品を手にさっさと端町を出た。

 

 

 不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)を出て少し森に入ったところの「中間の森」に、俺たちは来ていた。そこには大きな木がたくさん生えていて、そのうちの一本に俺たちは金を貯め込んでいた。この金は将来の為に貯めている「海賊貯金」だ。エースとサボは将来海賊になりたいらしい。俺は将来何になるかはまだ決め切れていないが、二人は俺の意思を尊重すると言ってくれている。優しい兄たちだ。

 

 木に登り、中心をくりぬいて開けたスペースに札束や金貨、宝石類をどんどん入れていく。毎日少しずつではあるが、順調に溜まっていく貯金に満足していると、サボがそわそわしながら言った。

 

「なあ、さっきの箱の中身見てみようぜ! 何が入ってんのか気になる」

 

「ああ。……ちょっと待て、意外と固いぞこの箱っ!」

 

 エースが思いっきり叩いても割れない。この箱、思いのほか頑丈にできているらしい。すこし手加減しながら鉄パイプで殴ると、箱が壊れ、小さな果物が転がり出てきた。

 

「何だ、これ? 梨?」

 

 見た目は果物だ。前世でも見たことのある、梨だ。ただ、実の表面に走る模様が問題だった。実の全体が薄くひび割れていて、半分が赤、もう半分が青に染まっている。見るからにやばい見た目だった。サボとエースは恐る恐るその実をつついたり、匂いを嗅いだりしている。

 

 しかし、俺はそれどころじゃなかった。流石の俺でも、ONE-PIECEに登場するおかしな見た目の果実には心当たりがある。

 

 ……これってもしかして、悪魔の実ってやつじゃね?

 

「これ、色すげえけど食えんのか? どうする……?」

 

「いや、どう見ても駄目だろ。多分これ腐ってるぞ……。これは捨てよ―――ってルーク!?」

 

 俺は果実を遠くに投げ捨てようとしたエースからそれを奪い取った。原作ではエースは確か……メラメラ? の能力者だった。サボは分からないが……。

 

 とりあえず、俺は二人に尋ねた。

 

「これ、俺が貰ってもいい?」

 

「いや、そりゃ別に構わねえけど……」

 

「腹壊すといけねえから、間違っても食うなよ?」

 

 二人とも「腹が減ってるなら代わりに食えるやつ探してくるから」と言ってくれる。ごめん、二人とも。別に腹が減ってるわけじゃないんだ。でも……!!

 

 俺の二つ目のモットーは「疑わしきは食ってみろ」。これまで毒に当たり腹を壊した回数は数知れず。しかし、このモットーは俺の味覚に多大な変化をもたらし、今では口に含むだけでそれが食べても大丈夫なものかわかるようになりつつある。我ながらこれまでよく死ななかったな、俺。

 

 二人はそんな俺のモットーを知っているからこそ、不安げな顔をしている。しかし、その俺の勘が言っているのだ。「食え」と。なら俺は、それに従うのみ……!!

 

「「あああああ!?!?!?」」

 

 俺は二人の静止を振り切り、果実に思い切りかぶりついた。ふむふむ、感触は完全に梨だな。シャキシャキしている。味は――――――っ!?!?!?!?

 

「うぶっ!?!?!?」

 

 未だかつて経験したことのない不味さに悶絶する。吐き出しそうになるのを堪え、何とか飲みこんだ。それだけで途方もない疲労感を感じた俺は、その場にガクリと両手をつく。

 

「バカ野郎! やっぱ腐ってたんじゃねえか!」

 

「おいっ大丈夫かルーク! さっきの吐け! 腹壊すぞ!」

 

 背中を擦られ、俺はえずきながらも何とか顔を上げて言った。

 

「く、口直しをおぉおえええ……!!」

 

 後味がしつこく口に残っている。「吐け! 吐け!」としきりに聞こえてくるが、今吐いたらもう一度あの地獄を味わうことになる。それだけは御免だったので首をフルフル振りながら「今吐いたら死ぬ……!!」と訴えると、吐かせることを諦めたのか、エースが干し肉を差し出してきた。

 

 夢中でその肉を頬張る。塩の味が濃いのが幸いして、果実の後味はすぐに薄れていった。

 

「おい、平気か?」

 

「ごめん、ありがと。落ち着いた……って」

 

 ぐったりしていると頭をエースに叩かれた。ちょっと痛いが、これは俺のせいだし、エースが俺を叩くのは俺を心配しての行動なので甘んじて受け入れる。

 

「お前ェ! 食うなって言っただろうが!」

 

「こらエース! 気持ちはわかる! わかるけど、具合悪い時に頭叩いたら駄目だぞ!」

 

「ごめん、二人とも。つい気になって……」

 

「いいか!? なんかちょっとでも具合悪くなったら絶対おれたちに言え! いいな!?」

 

「ハイ……」

 

 過保護なエースに思わず笑みが浮かびそうになるが、ここで笑うと暫く口をきいてもらえなくなりそうなので我慢する。多分サボにはバレバレだったと思うが、彼も苦笑いを浮かべただけで黙っていてくれた。

 

 




主人公ルークの一人称は「俺」で、その他の人物は「おれ」で行きます。
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