目指すは海の果て 作:ワンピの風
ルフィに対してのエースの態度を、警戒心を抜きにして言葉で表すと、「鬱陶しい」が適切だろう。
「中間の森」の木の上で、町で得た金品を穴の中に隠しながら俺はそう考えた。その場にぼんやりと寝っ転がる。エースからすればルフィは「ついてこられると邪魔」「あと単純に気に入らない奴」。そんな感じだろうか。
ルフィはよく頑張っていると思う。エースに谷に突き落とされ、一週間狼に追い掛け回され、傷だらけになってもエースについていくのをやめないし、俺でもあまり通ろうと思わない場所でも、迷いなくエースについていく。ルフィが来た初日に「山賊が嫌い」だと言っていたが、その言葉通りダダンたちといるのがよっぽど嫌なんだろう。毎日どんなに傷だらけになってもルフィは追いかけることを辞めない。その根性には素直に感心する。もうここにルフィが辿り着くのも時間の問題だろう。
そしていつも、ルフィは何故か俺を追いかけようとはしなかった。俺がわざとエースと時間をずらしているのもあるかもしれないけど、いつも追いかけるのはエースだけだ。
「ルフィ、俺じゃなくてエースだけを追いかけるのは何でだ?」
いつかの夜、エースを追って怪我をしたところにグルグルと包帯を巻いてやりながら聞いてみたところ、
「ルークとはもう友達だからいいんだ。おれは一人じゃねぇ。でも、おれはエースとも友達になりたいんだ!」
とのこと。通る道は違えども、俺の行き先が最終的にはエースと同じ場所だということを知っているのかどうかはともかく、エースを追いかけるのには目的があったわけだ。「友達になりたい」という目的が。
………ちょっと健気すぎません? 俺って今のところルフィに肉あげただけなのに、それだけでもう友達なの? 今時こんなにピュアな子いないよ? もう俺が「中間の森」までの道教えちゃってもいいかな?
何度かそう思ったが、それを教えてしまうとこれまでのルフィの頑張りが水の泡だし、俺もエースに睨まれるだけでは済まなさそうだ。何より、あそこには「海賊貯金」がある。これまでの様子を見て、「海賊貯金」の存在を知ったルフィがそれを誰かに話すとは思えないが、だからといって嘘や誤魔化しが出来るようには見えない。多分、誤魔化そうとはしてくれるんだろうけど、あのピュアっぷりだ。誤魔化せる可能性は限りなくゼロに近い。
「………うーん」
普段の俺だったら「なるようになるさ!」とか言って割り切っていたかもしれないが、こればっかりは、俺だけの問題じゃない。3人で苦労して貯めた大切な貯金……。
「う゛う~~~ん!!」
頭を抱えて呻いていると、たんっと軽やかな足音がして、ふっと頭上に影が差した。見なくても分かる。サボだ。もう町に行ってきたのだろう、重そうな袋を担いでいた。
「なーに唸ってんだ、ルーク?」
「うんにゃ、ちょっと考え事………」
「またあれか、ルフィってやつのことか?」
「うん……結構巻き上げてきたな」
「ああ」と嬉しそうに答えたサボが、じゃらじゃらと今日の戦利品を木の穴に入れていく音がする。
「そのルフィってやつだけど、お前がそこまで気にかけてるんだ。悪い奴じゃないんだろ?」
「うん。ただ、ちょっと素直すぎるんだよなぁ………嘘とかつけないタイプ」
「んん、そうか。……エースは相変わらずか?」
「変わりなし。むしろ、俺がルフィに良くしてるのがあんまり気に食わないみたい」
最近のエースは俺に対してもちょっぴり不機嫌だ。サボが諫めてくれてはいるけど、そろそろ寂しいので機嫌を直してほしい。
「アイツも素直じゃないからなぁ………エースに懐いてたお前が、最近は何だかんだルフィの世話焼いてばっかだから面白くないんだろ」
「え、なにそれ」
思わぬ言葉にむくりと起き上がる。サボは少し苦笑気味に「今の、エースには内緒な」と口の前で人差し指を立てた。何だ、それで機嫌が悪かったのか、エースは。
「………おい、からかうと怒りだすからな。やめとけよ」
「わかってるって!」
え~~~? も~~~? かわいすぎだろ、俺の兄。表情筋に力が入らない。きっと今の俺の顔は緩みまくっているはずだ。 ちょっと今日からは暫くエースに付きまとうことに決めた。というかサボ大人すぎないか? ちょっとびっくりしたぞ。
「サボ! ルーク! いるか!?」
ゴロゴロ転がっていると、下から声が聞こえた。
「いますよー!」
飛び起きてから声を投げかけると、怪訝な顔をしたエースがスルスルと木を登ってくる。
「わりぃ、遅くなった。……何でルークはそんなに上機嫌なんだ?」
「んー……さあな、おれにもわかんねぇ」
サボがそう言いながら、意味ありげに片眉を上げた。その顔は少しニヤついている。俺とサボの顔を見たエースが一歩後ずさった。
「何だよ、二人して気持ちわりぃ顔しやがって。何かあったのか?」
辛辣だなオイ。思わず真顔でサボと顔を見合わせてしまったじゃないか。
「んー? 別に何もないですけど?」
「? そうか。それより、見ろよこれ!」
エースがこれまた重そうな袋を俺たちの前に置く。その中には大量の札束と金貨が入っていた。これまでで一番の金額かもしれない。
「!? うわあ、すげえ! おれよりすげえ! 大金だぞ!? どうしたんだこんなに」
「大門のそばでよ、チンピラ達から奪ってやった!! どっかの商船の運び屋かもな」
「商船か……俺も次からは運び屋を狙おうかな」
何人も襲って少額の金を奪うより、一人だけ狙ってドカンと大金を奪うのであれば効率もいい。次のターゲットを探す場所は大門のそばで決定だ。ムン、と気合を入れていると、サボが笑って言う。
「もう結構貯まってきたけど、幾らぐらいあれば海賊船なんて買えるんだろうなー!」
「2億とか? 船の相場なんて正直全くわからんけど」
実際幾らぐらいなんだろうか、船って。想像もつかないので適当な金額を言ってみたが、別に笑われたりはしなかった。エースもサボも、船の相場は知らないらしい。ちょっとこれからは本とかを読んで勉強してみようかな。いやそもそもダダンの家には本がない。結局は町で集めるしかなさそうだ。
「さあなァ。早くしまえよ、誰に見られるかわからねぇ……」
「海賊船~!? お前ら海賊になんのか!?」
突然、木の下から無邪気な声が聞こえてきた。この声は、ルフィだ。そろそろ来るとは思っていたが、まさか今日来るとは思ってなかった。
「「「!?」」」
「おれも同じだよ!!」
下を覗いてみると、ぶんぶん手を振るルフィの姿が。バッチリこっちを見上げている。
とりあえず木から降りると、ルフィは俺も一緒にいるとは思っていなかったのか「あれ、ルーク!? お前もここに来てたのか!?」と驚いていた。「うん」と短く答えながらも、俺は気が気じゃなかった。なぜって、後ろにいるエースの機嫌が最高に悪くなっていくのがわかったからだ。
「お前がルフィだな? 二人から話は聞いてるぞ」
「とうとうここまでついてきやがったのか……人が通れるような道は通ってねえのに」
エースのその言葉に、サボがルフィをまじまじと観察する。身体にある幾つもの傷に気づいたのだろう。サボの顔に少し感心したような笑みが浮かんだ。
「お前、意外とタフなんだな……そんで、エースについていくだけの度胸と根性もある」
「? お前誰だ?」
「おれはサボ。ルークとエースの友達だ」
「そうなのか! じゃあおれとも友達になろう! おれはルフィだ!」
ふんふん、見た感じサボとルフィの相性は悪くなさそうだ。お互いに名乗りあう二人の様子は朗らかで、俺としてはこのまま仲良くしてほしい。
エースがそれを見て面白くなさそうに顔を顰めた。その時。
「おい、森の中から声が聞こえたぞ! 子どもの声だ!」
「探せ! お前らがやられたっていうガキかもしれねえ……」
「「「!?」」」
誰かのそんな声が聞こえてきて、俺たちは一斉に口を噤んだ。ルフィだけが、「何だ? どうしたんだよ?」と呑気に首を傾げている。
何故子どもが探されているのか、理由はわからない。が、このあたりで知られている子どもと言えば、それは俺かエース、サボの三人だけだ。奴らが探している「子ども」は十中八九、俺たちの中にいる可能性が高い。
「マズイ、ここにいたらおれたちの宝が見つかっちまう……!! オイ急げ、こっちだ!」
慌てた俺たちが、少し離れた場所に群生している茂みに身を隠すのと、声の主が木々の間から姿を現したのはほぼ同時だった。
四人の男だ。そのうちの三人は怪我をしたのかあちこちに包帯を巻いている。最後の一人―――シミターを片手にぶら下げた大柄な男が、声に不快感を滲ませて言った。
「エース、サボ、ルーク……ここいらじゃ有名なガキだ。お前らから金を奪ったのは、そのエースで間違いねえんだな?」
「はい……情けねえ話です。油断しました」
「呆れたガキだぜ。ウチの海賊団の金に手ェつけるとはな……!! これがブルージャム船長の耳に入ったら……おれもお前らも命はねえぞ」
ブルージャムとは、少し前からこの島にいる海賊団の船長の名だ。今は
じゃあつまり、エースが手を出した金はブルージャムのだったってことか……!
「……やべえ金に手ェ出しちまった!」
「しょうがないさ、大金持って無防備にウロチョロしてる方が悪い。襲ってくれって言ってるようなもんだし。とりあえず俺たちは、ほとぼりが冷めるまで身を隠そう」
エースの肩を叩いて励ます。エースと同じ立場だったら、俺も間違いなく襲ってしまうだろう。カモがネギ背負って歩いてくるみたいなものだ、見逃すなんてことはできない。仕方のないことだ。今回はちょっと相手が悪かっただけさ。
「ルーク、お前最初は食い逃げにすら罪悪感持ってたのに、随分成長したな……!」
ちょっと感動したようにエースが目を潤ませるものだから、俺は少し誇らしくなって胸を張った。俺だって日々成長してるんだ!
「いや、おれが言うのも何だけどよ、人としては最低だからな、それ」
サボが何か言っているが、聞こえなかったふりをした。
「ま、まあそれは置いておくとして…………。見ろよ、手下のポルシェーミだ! 知ってるか、あいつ、戦って負けたやつの頭の皮を生きたまま剥ぐんだ!」
「まじか!? 絶対捕まりたくねェ……あれ、おいあのチビはどこ行った!?」
その言葉に慌てて茂み周辺を確認するも、どこにもルフィの姿が見当たらない。一体どこに―――?
「あ」
エースの視線が一点に向けられ、止まった。つられて俺とサボもそちらを見る。そこには、ポルシェーミに首根っこを掴まれたルフィの姿が。
「放せーー!! こんにゃろーーー!!!」
「何だこのガキ?」
何で捕まってんだよ―――!!! おかしいだろ、ついさっきまで俺の隣にいただろうが!? 何をどうしたら捕まるんだよ!?!?
「助けてくれーー!エースーー!!!」
ちょっ!! ここでエースの名前呼ぶのはアウトだぞルフィ! 怖いのはわかるけどさぁ!
案の定、ポルシェーミはルフィが何か情報を持っていると思ったのか、ルフィをどこかへ連れて行ってしまった。
わあたたたたた!