目指すは海の果て   作:ワンピの風

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この話を書き上げてから気づきましたが、風呂桶と聞いて人が思い浮かべるものは二つあるみたいですね。
木製の浴槽or洗面器
私は前者です。なのでこの作品の「風呂桶」は「木製の浴槽」と解釈してください。
今回は日常回です。


悪童四人組

 

「食い逃げだぁあ〜!! 誰かそこのガキを捕まえてくれ!」

 

 中心街に男の必死な声が響く。が、俺たち四人を捕まえようとする大人はいない。何故って?

 

「どけどけ、邪魔だァ!」

 

 先頭を走るエースが人を殺しそうな声と表情で周囲を威嚇しているからである。荒事に慣れていない中心街の住民たちはその威嚇に怯え、サッと道を開ける。

 

 大の大人が怯える程の圧力を周囲に与えているエースの隣にはサボ。彼も鋭い目つきで周囲の大人たちを睨みつけている。そしてその後ろにルフィと俺が続く。もちろん全員、鉄パイプで武装している。

 

「オラどけカス共! その首叩き折るぞ!!」

 

 ……うん、どこのチンピラかな?

 

 ルフィもエースを真似て威嚇しようとしているが、上手い言葉が出てこないらしい。先程からずっと「バカ! アーホ!」と繰り返している。ルフィはちょっと語彙力が貧相だということが判明した。

 

 そのまま休む事なく街とゴミ山を走りぬけ、あっと言う間にコルボ山についた。新しい宝の隠し場所で、俺たちは足を止める。

 

「ゼー、ゼー、ゲホッ」

 

「おーい、大丈夫か?」

 

 ルフィも体力が増えてきたのか、最近は俺たちのペースについて来れている。ただ、ここまでぶっ通しで走ってきたのは流石に堪えたらしく、苦しそうだ。

 

 背中を擦ってやりながら、俺も息を整えた。最初は辛いもんな、わかるわかる。しかもこれは食い逃げだ。走るのは食事後の逃げる時だし、タイミングとしては最悪である。これに馴れてしまった俺の胃は大丈夫だろうか。

 

「おれも最初の頃は辛かったけど、一回慣れたら平気になるからな」

 

「ルフィは鍛え方が足りねえんだよ。胃を刺激しない走り方を覚えりゃこんなの楽勝だ」

 

 サボとエースは平気そうだ。ぴんぴんした様子でそう(のたま)った。そんな二人を尻目に、ルフィは苦しげに口を押さえている。

 

 …………というか、胃を刺激しない走り方って何?? 初めて聞きましたけど。

 

「おいおい。次行く時は留守番しとくか?」

 

「……!!」

 

 エースの問いに、口を押さえながらも首をぶんぶん振ったルフィから、か細い声が漏れる。

 

「次、は……肉!」

 

 ………。

 

 今にもリバースしそうな状態で食べ物のことを考えられるとは思ってなかった俺たちは、思わず真顔で視線を交わした。間違いなく、ルフィの食い意地はこの四人の中でもトップだ。

 

「……そうだな、次は肉にしような」

 

「……ああ!」

 

 優しくサボが笑いかけると、ルフィが元気を取り戻した。いや回復早っや。どんだけ肉好きなの!? もしかして胃が強いのか。それともメンタルが強いのか。いや多分両方だな、うんきっとそうだ。

 

 

 

 

 これまで三人組だった俺たちだが、ルフィが新しく増え四人組になったということで、街ではちょっとした話題になっているらしい。夕食後、風呂をダダンに借りている時にサボが教えてくれた。

 

「今じゃ「悪童四人組」って言われてるらしいぞ~、おれたち」

 

「へえ……」

 

 身体を洗い終えた俺は、風呂桶に張ってあるお湯に浸かっていた。普段よりも柔らかい雰囲気が俺たちの間に漂っている。皆リラックスした様子で、思い思いにくつろいでいた。

 

 ちなみにこの桶は、俺が造ったものだ。元々あった風呂桶は少し古くなっていたので、古いやつを参考にしながら新しい風呂桶を造ってみた。水が漏れたりしないように、じっくり時間をかけて造ったので、割といい出来だ。これにはダダンも喜んでいたし、俺も満足している。今度はジョッキとかも造ってみようかな。

 

 そんなことを考えながらお湯にのんびり浸かっていると、どうしても気が抜けてしまう。

 

「……あ、ちょっガボボボ」

 

 ついでに力も抜けた。ぶくぶくと身体がお湯に沈んでいく。

 

「おめえは毎回毎回……!」

 

 溺れかけた俺をエースが引き上げてくれる。風呂のたびに溺れるので、皆もうすっかり慣れてしまった様子だ。ちょっと申し訳ないけど、目の前にお湯が張ってあったらどうしても入りたくなる。日本人の名残りかな。

 

 ちなみに、ルフィは石鹸で床を滑って遊んでいる。前に俺も一緒にやってみたが、トリプルアクセルを決めようとして転び、お腹を擦りむいてしまったので即やめた。あの時はお湯が沁みて、とてもお湯を楽しむどころじゃなかった。もう二度とやらない。擦り傷ってどうしてあんなに沁みるの? わけがわからないよ。

 

「はあ~………」

 

 お湯の温かさがじんわりと疲れた身体に広がっていく。その感覚を味わいながら目を閉じる。ああ、これぞまさに至福の時だ。

 

「ルーク、お前って風呂好きだよな。毎回死にかけてるくせに」

 

「やかましいわ。俺だって好きで溺れてるんじゃねぇやい! 風呂は大好きなんだけどな……能力者だし、こればっかりはしょうがない」

 

 悪魔の実を食べるとカナヅチになる。この話は有名だ。俺は実を食べる前までは泳ぎは得意だったが、食べてからは全く泳げなくなってしまった。泳ごうとしても力が抜けてしまうのだ。雨を浴びても力が抜けたりはしないが、海水や川の水、お湯などに全身浸かるとどうしても力が抜けてしまう。

 

「まあ、泳げなくなる代わりに能力が使えるようになるんだから、イーブンかな。なあ、そこんところ、ルフィはどうなの?」

 

 多分ルフィも泳げなくなったとはいえ、悪魔の実を食べたことは後悔してないんだろうな。打撃が効かないって何かと便利だしね。

 

 そう思い、俺はもう一人の能力者であるルフィの方を見たが、ついさっきまで石鹸で床を滑って遊んでいた筈のルフィは、いつの間にお湯に浸かったのかは知らんが、静かに溺れていた。

 

「……」

 

 気づいたサボが、無言でルフィを引き上げる。

 

「ぶふぁ! 死ぬかと思った……ありがとうサボ」

 

「おう。……次からはもう少し騒がしく溺れてくれ」

 

「わかった!」

 

 騒がしく溺れてくれって……いや、でもわかるよ、サボ。静かに溺れられたら気づかないもんな。ここは先輩である俺が、ちゃんとルフィに教えないと……!

 

 俺は湯の中で腕を組み、厳かな声を作ってルフィに語りかけた。

 

「ヘイ、ルフィ。君は俺を見習うべきだ。なんてったってこの俺は、救出(された)回数100超えのベテラン。助けてもらうことにかけて、俺以上の者はいない!」

 

「言ってて恥ずかしくねぇのかそれ……」

 

「むしろお前がルフィを見習え。ルフィは毎回溺れたりしねぇぞ」

 

「ひゃい……」

 

 轟沈した。いや、俺も途中からちょっと「あれ?」って思ったもん。俺、情けなさ過ぎ……? 

 

 放心状態で背を風呂桶の縁に預けていると、ルフィが隣にやってきた。何が面白いのか「にしし!」と笑っている。なーに笑ってんだ、こんにゃろめ。

 

「みょーんみょーーん、うわすっげえ伸びるんだけど……痛くないの?」

 

ひひゃくにぇーぞ(痛くねぇぞ)!」

 

「ほーん、じゃあどんだけ伸ばせるかやってみていい?」

 

「んん!」

 

 風呂桶から出ても、ルフィのほっぺはまだまだ伸びる。ルフィのほっぺたの限界を目指して引っ張っていると。

 

「あっ」

 

 俺の足が何かを踏んづけ、滑った。恐らく床に落ちていた石鹸だろう。その場に尻もちをついた俺は、うっかり手を離してしまった。ばぢぃん!! ともの凄い音を立ててルフィのほっぺたが戻った。

 

「うっわ! ごめんルフィ!」

 

 戦々恐々としながらルフィの顔を覗き込むと、平気そうにしている。ええー、いや凄いけど。

 

 そんなこんなして遊んでいると、風呂場の窓の外から、香ばしい香りが漂って来た。こ、この香りは……

 

「肉だ!」

 

「待て! ただの肉じゃねぇ。この香りは……野牛のヒレ肉だな? それも超絶レアな部位であるシャドーブリアンを焼いてやがる!!!」

 

「ダダンの奴ら、さては隠してたな? おれたちがいない間に一番美味いところをステーキにして食うつもりだぞ! 許せねぇっっ!!!」

 

「君らの嗅覚は一体どうなっているの??」

 

 口々に叫びながら、俺以外の三人は外へ駆け出していった。すっぽんぽんのまま。待って。ねえ待って。色々ツッコみたいところが多すぎて軽くパニックだ。部位の匂いなんて俺全然わかんないよ。ホントにアイツらの嗅覚はどうなってんの?? そりゃあ、肉を焼いてる匂いだってのは俺もわかったけどさ。というか……

 

「せめてタオルぐらい巻いていけよ!!」

 

 自分の腰にしっかりとタオルを巻きつけ、三枚のタオルを手にした俺は馬鹿共を追いかけた。

 

 

 

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