目指すは海の果て 作:ワンピの風
毎日チンピラを襲った後にせっせと置物を造っておじいさんの元へ持ってってを繰り返し、やっと買い取ってもらえるようになってきた数日後。
俺たちは今日も四人仲良く食い逃げをかましてきたわけだが、逃げている最中、サボが一人の男に名を呼ばれているのを聞いた。
今では一緒に生活しているが、これまで数年間一緒に海賊貯金を貯めていたエースも俺も、そしてルフィも、サボが俺たちと出会う前に何をしていたのかは一切知らない。興味を持つのは当然の事だった。
「あの男は何だよ。お前を呼んでたよな。一体どういう関係だ?」
いかにも不機嫌といったエースの低い声を聞いて、サボの表情に僅かな緊張が走った。
「別に……何の関係もねぇよ」
「おれたちの間に秘密があって良いとでも思ってんのか? それは大きな間違いだぜ、サボ……」
「エースの言う通りだ。さあ、とっとと吐いちゃいなよ。楽になるぜ?」
「そうだぞ、吐け!」
「だから、何もねぇって!」
エースとルフィ、そして俺の三人は今現在、森の外れ、海を一望出来る場所でサボをぐるりと囲んでいた。エースとルフィは二人揃って不機嫌。サボに隠し事をされているのが気に食わないらしい。俺は不機嫌と言うよりは、寂しさの方が勝るかな。ただ、やっぱり気になるので大人しく諦めたりはしない。
「サボ…俺たちには、言えないようなことなのか……?」
「……っ!!」
俺はとびきりの濡れた子犬の様な顔をして、サボに悲しげな声を投げかけた。顔も声もかなり頑張ってみたが、効果はどうだろうか。……我ながらちょっとどうかと思わなくもないけど、しょうがない。だって気になるんだから。この溢れ出る好奇心には勝てなかったよね。私、気になります!
「あいつは……父親だ」
「は? 誰の?」
「おれだよ」
「「で?」」
「お前らが質問したんだろ!!!」
「ほーん。そうだったのか」
「お前も聞いたわりには適当だなルーク!」
「適当じゃないよ。色々考えてるところ」
貴族出身のサボがわざわざゴミ山に来るなんて、普通じゃ考えられない。なら、それ相応の理由があったんだと思う。
「お前らにはウソをついてた。ゴメンな」
「謝ったからいいよな!! 許す!」
「俺も別に気にしてないし、いいよ」
というか俺は親すらよくわかってないからな。どっかの島に置き去りだった俺(推定0歳)を、じいちゃんが拾ってダダンに預けたってだけで。まじこの世界やべえ。俺は黒髪に紫の目だけど、紫の目ってこの辺りじゃ見ないから、誰が親かなんて皆目検討もつかない。きゃはっ☆(思考放棄)
まあ俺自身、誰が親とか興味ないから、サボが誰の子どもとかどうでもいいけど、エースにとっては違ったらしい。サボに背を向けている。
「コトによっちゃおれはショックだ。貴族の家に生まれて……なんでわざわざゴミ山に」
「………!!」
サボが言いづらそうに顔を伏せる。優しいサボは、親のいない俺たちには言いにくいだろうな。
「……まあ、そう言うなよエース。親がいるからって幸せだとは限らないよ」
……どんな形であれ
「ルークの言うとおりだよ……あいつらが好きなのは「地位」と「財産」を守っていく誰かで、おれじゃない。おれの居場所なんて、あの家にはなかった」
サボの目は暗かった。
「お前らには悪いけど……おれは親がいても"一人"だった。貴族の奴らはゴミ山を蔑むけど……あそこで何十年先も決められた人生を送るよりいい」
「……そうだったのか」
ぱ、と顔を上げたサボの表情に暗さはもうなくて、かわりに笑顔を浮かべていた。
「なあ、エース、ルーク、ルフィ! おれ達は必ず海へ出よう! この国を飛び出して、自由になろう!! 広い世界を見て、おれはそれを伝える本を書きたい!航海の勉強なら全然苦じゃないんだ。そして、もっと強くなって海賊になろう!!」
「ひひ! そんなもんお前に言われなくてもなるさ!!」
サボの言葉を聞いたエースが、海に向かって叫ぶ。
「おれは海賊になって勝って勝って勝ちまくって、最高の名声を手に入れる! それだけがおれの生きた証になる! 世界中の奴らがおれの存在を認めなくても、どれ程嫌われても!! "大海賊"になって見返してやんのさ!! おれは誰からも逃げねェ! 誰にも負けねェ! 恐怖でも何でもいい! おれの名を世界中に知らしめてやるんだ!!」
すごい目標だ。スケールがデカくてびっくりしたけど、エースなら叶えられる。そんな気がする。
ルフィも目をキラキラさせて、海に向かって声を張り上げる。皆大きな夢があって、聞いてると俺までワクワクさせられる。
「おれはなァ!! 海賊王になる!!!」
「「は?」」
「いいじゃん、海賊王」
「なっはっはっは! そうだろ?」
誰よりスケールが大きかったルフィの夢に、エースとサボが二人揃って口をぽかんと開けた。海賊王と言えば、それはゴールドロジャーを示す通称だ。
「お前は……何を言い出すかと思えば……」
「あははは、面白ェなルフィは! おれお前の未来が楽しみだ!!」
「にしし! なあ、ルークは将来どうするか、決めてるのか?」
「俺?」
三人の視線が俺に集中する。少し前まで、俺は将来の夢とか決めてなかった。やりたいことも思い浮かばなかった。それはきっと『今』が楽しかったからだ。でも、もうそれを自覚出来た今、やりたいことは決まってる。
「まだ決まってねぇなら、これからゆっくり決めればいいさ。おれ達はお前の選んだ夢なら応援するからよ」
「いや、いいよ。俺も海賊になる。今、決めた」
多分、ありふれた夢だと思う。前世での日本なら誰しも一度は考えたことがありそうな、そんな夢。
俺は幸運なことに、それを目指せる環境にいる。なら、俺は自由に冒険してみたい。気心しれた仲間と一緒に、この目で世界を見てみたい。
「この国にいても何もやることなんてないんだ。なら、あちこち自由に冒険して、この海の果てを見てみたい」
「ルーク、お前……!」
「まさか、じいちゃんみたく止めたりしないよな?」
どこか嬉しそうなエースにニヤリと笑いかけると、エースもニカっと笑った。
「ンなわけあるか! お前
「ああ、よろし……」
言いかけたところで、サボが「ちょっと待て!」と叫んだ。何だ何だどうした?
「エース、おれ船長やりたいんだけど」
「おれもだぞ!」
口々に騒ぎ出すサボとルフィに、エースが頭をかいた。
「え? ルフィはまあわかるが……サボ、お前もか。思わぬ落とし穴だ。お前はてっきりウチの航海士かと」
「お前らおれの船に乗れよー」
ふむ、なりたい役職が被ってるのか。船長でいいのなら……。俺は思わず口を挟んだ。
「君らは仲良く一つの船に乗るという道はないの? ほら、三大船長みたいな感じでさ」
「「「嫌だ」」」
oh……何ということでしょう。ここに来て主張がバラけだしたぞ。俺は船長とかそういうこだわりないけど、他の三人はどうやら違うらしい。ごちゃごちゃ言い合っていたけれど、結局それぞれの船の船長になることで落ち着いた。いや、まあ俺も三人と一緒に海賊やれるとは思ってなかったけどね。
「ルークも船長になんのか?」
「いや、俺は別に船長じゃなくても「ならおれの船に乗れよ!」「いーや、おれの船だろ」「お前ら馬鹿言ってんじゃねえよ。おれの船で決まりだ!」……おーい、ちょっと聞いてる?」
もみくちゃになって俺を取り合っている三人。
「おれの船に来れば、ルークは飢えさせねえ! 毎日腹いっぱい食わせてやる! 絶対にだ!!」
「そんなの当然のことだろルフィ!? おれと来ればルークに海の果てを見せてやれる!」
「いいか! おれならルークの望むもの全て用意する。絶対後悔させねぇし、あいつの夢も必ずおれが叶えてみせる!!」
思い思いにわーわー騒ぐ三人を見て、思わずため息をついた。いや、皆俺のこと真剣に考えてくれて嬉しいよ。嬉しいけど……。
こういう時、普通に介入したら巻き込まれるのはこの数年間でわかってる。俺は片手を地面についた。
「わっ!?」
「ぶへっ!」
「おわあっ!?」
走る青雷。たちまち地面からせり上がった1メートル程の高さの土壁が、もみくちゃの三人をあっという間に引き離した。ふふん見たか、最近は毎日置物造ってるからな。破壊の細かい調節も創造スピードも上達してるんだぜ?
ついでに懐も潤ってきてる。海賊貯金に出来る分も、チンピラから巻き上げてただけの前より増えつつある。芸術品って以外と高く売れるんだよな。
「お、お前いつの間にそんなに速く能力使えるようになったんだよ」
「俺だって日々成長してるんだ。近いうちに組手の戦歴も塗り替えてやる」
本気だ。ただ追いかけるだけじゃないぞ、俺は。歯を見せて好戦的に笑った。
ちなみに俺はエースとサボに負け越してる。能力ありと無しの状態で分けて組手してるけど、能力ありなら勝てることも偶にあるけど、無しだと全然勝てない。「し、身体能力お化け(虚無)」ってなっていつも負けてる。悔しい。
ルフィにはどっちの状態でも勝ち越してるけど、それはルフィが能力を使うことにこだわってるから。ルフィが能力を使いこなせるようになったらわからない。ゴムの身体は打撃を全部無効化するからな。今のところはまあ……自滅してばかりだけど。
「……それと、乗る船だけど。今から俺が言ったことに当てはまるやつの船に乗るから!」
「「「!?」」」
「よく聞いて、考えて。自分が当てはまると思ったら手をあげて元気よく返事してね。はい、じゃあ……」
緊張した面持ちの三人に、俺は無慈悲に告げた。
「この中で一番、自分が死にやすいと思う人!」
「はあーっ! んぐ!」
エースがフライング気味に手を上げかけて、瞬時に下ろした。開きかけた口をしっかり噤んでいる。
口を噤んだエースとサボが目を合わせて、流れるような動作でルフィを見た。ルフィはそれに気づいてない。エースとサボがじっと無言で俺を見たので、一つ頷いてみせる。
俺の言いたいこと、伝わったみたいで何より。
「やめだ」
そっとエースが戦いの終戦を宣言した。そして俺に言う。
「ルーク、ルフィを頼むな」
サボが優しい目をしてルフィを見る。
「ルフィ、ルークにあんまり無茶させないようにしろよ? 船員を守るのが船長の仕事だからな?」
「? わかった! じゃあ、ルークはおれの船に乗るんだな!?」
「ああ。一緒に頑張ろうな、ルフィ船長」
「やったー!」
こうして、俺が乗る船が決定した。エースとサボは残念そうにしていたけど、ルフィを一人には出来ないという結論に至ったらしい。だって多分、ルフィ一人で海に出たら色々と大変なことになるよ? カナヅチだし。いや、カナヅチは俺もなんだけどさ。
それから、俺達四人で酒を飲んだ。何でも、盃を交わすと"兄弟"になれるという。所謂兄弟盃ってやつだ。これで俺達四人は、切っても切れない強固な絆を持つ兄弟だ。
「たとえ何処にいようと。それが世界の裏側でも。お前らはいつもおれと一緒だ。おれ達四人はずっと兄弟だ」
そう言ったエースが嬉しそうで、俺も何だか嬉しくなった。そうか。今日から俺達は兄弟か。前からぼんやりと自分達の関係性を考えて「兄弟がいたらきっとこんな感じ」とか考えてたから、こうして正式に兄弟になったことがたまらなく嬉しかった。きっとそれはサボとルフィも同じだ。
意味もなく笑いがこみ上げてきて、暫く四人で馬鹿みたいに笑いあった。
帰りに野牛を二人で一頭ずつ仕留めてダダンの家目指して引き摺っていると、一緒に引き摺っていたエースが言った。
「そういやさっき言ってたけどよ。お前、親を探したりはしねぇのか?」
「……産んでくれたことには感謝してるけど。探しはしないかな。俺はじいちゃんに拾われてこの島に来てよかったと思ってるから」
「なんでだ?」
「お前達に会えたから」
俺の名付け親が実はエースだってこと、知ってるよ。じいちゃんがつけ忘れてたらしい名前をダダンの家で皆で考えて、当時3歳だったエースがつけてくれたって。……というかじいちゃんは名前つけ忘れるとかヤバいだろ。まあ、そのおかげで俺は今『ルーク』って名前を名乗れてるんだけどさ。
「……そうかよ」
「そうだよ。何、照れてんの?」
「は? 寝言は寝て言え」
「寝言じゃない。本心」
「……」
「ゴメンて。怒るなよー、兄ちゃん!」
無言で歩くペースを早めたエースを、俺も早足で追いかけた。
打撃無効化ってかなり強いと思う。