目指すは海の果て 作:ワンピの風
誰かに身体を揺すられている。結構雑な揺らし方。後頭部に鈍い痛みがある。もしや俺、人攫いに狙われてる? そこまで考えて、一気に意識が覚醒した。俺は知ってるんだ、人攫いは総じて持ち金が多いってことを。絶対に逃さない。
「金目のモン置いてけやぁ!」
相手の顔があるであろう場所にピンポイントに拳を付き出す。だが、殴った感覚がしなかった。あれ?
「うっわ、完全にエースと同じ起き方」
「はあ? あれ、サボ?」
起き上がると、呆れた顔のサボがいた。近くにはエースとルフィもいて、二人とも何故か頭を氷嚢で冷やしている。いつの間にか、ダダンの家に戻ってきたらしい。大部屋の隅っこでダダン達が怯えているのが見える。
氷嚢とダダン達の様子で思い出した。そうだ、俺はじいちゃんに殴られて……!
「起きたか、ルーク」
「最悪の目覚めー!! ……嘘だよじいちゃん。冗談だから泣かないで」
「泣いとらんわい。起きたなら外へ行くぞ。お前達の成長具合を見る」
エースとルフィが露骨に嫌そうな顔をした。サボも苦笑している。彼は俺達に囮にされたことを最初怒っていたらしいが、意識を失って帰ってきた俺達を見て怒る気も失せたそうだ。
そうそう、じいちゃんはサボに何かするよりも速く俺達を捕まえに動いたから、サボは今のところ無傷。流石に初対面の子どもを殴ったりしなかったらしい。
外に出て、早速エースとルフィがヤケクソ気味にじいちゃんに飛びかかった。それを眺めながらサボと俺は適当な場所に座る。
「サボは器が広いな。もっと怒るかと思ってたのに」
「おれは被害受けてないし、あれ見てたらお前らが逃げ出す理由もわかるからなぁ……」
俺達の目線の先では、エースとルフィか二人同時に投げられていた。全く歯が立ってない。じいちゃんに良いように弄ばれている。
ぼんやり眺めていると、じいちゃんと目が合ってしまった。カッと見開かれるジジイの目。
「嫌だなあ……」
「なァに休憩しとるんじゃルーク! そんなんじゃ強い海兵にはなれんぞ!! お前もこっちへ来んか! サボ、お前もついでに鍛えてやろう。さあ、かかってこんかい!!」
「あー」
たった今「こっちへ来い」とか言ったのは誰ですかね? こっちから行く暇もなく、気づけばいつの間にかじいちゃんに襟首を掴まれている。
俺、猫じゃないんですけどね。これで何回目だろう。もはや抵抗する気も起きない。じいちゃんの左手に首根っこを掴まれたまま脱力する俺。
同じく右手に掴まれているサボが目を白黒させているのが面白かった。
「この人いつもこうなんだ」
「そ、そうなのか。何か納得したよ。お前らの爺さんらしいや」
振り回される直前、俺とサボは最後にそんな会話をした。
「ぶわっはっはっは! まだまだじゃが、なかなかどうして悪くない。腕を上げたなお前達!」
「俺以外誰も聞いてないよ……」
じいちゃんが褒めてくれたが、意識があるのは俺だけ。周囲に死屍累々と転がる三人は絶賛気絶中だ。俺も数秒前までは気絶してた。……くそ、力入んない。こりゃ暫く動けなさそうだ。
「ねえじいちゃん、ルフィはゴムだよな?」
地面に寝転がったまま、俺は岩に座っているじいちゃんを見上げた。
……うわ、星空が凄く綺麗。
「ん? そうじゃな。それがどうした?」
「何でじいちゃんの打撃はルフィに効くの? ゴムなのに」
ちょっとした疑問だった。ルフィはゴム人間だから、打撃は効かない。俺達が幾ら殴ったところで、ゴムの身体には痛みも無ければダメージも無い。けど何故かルフィはじいちゃんの拳骨を痛がる。単純に力の差かと思ってたけど、それも多分違うよね。
「ふむ……ゴムに打撃は効かんと思っとるのか、ルークは」
「? 普通に考えたら効かないだろ」
「その「普通」を忘れろ。それは強くなるのに必要ないもんじゃ」
その時のじいちゃんは何故か機嫌が良くて、少し饒舌になっていた。例えば俺達を見て「背が伸びたな」とか言ってくれたり、わざわざ遠くの島から「土産じゃ」とか言って何か持って来てくれたりする時の、少し優しくなる表情と同じ。
「いいかルーク。今はまだわからんでもいい。じゃが覚えておけ。どんなに霞のような存在でも「殴れる」と思えば「殴れる」んじゃ」
「何それ?」
まるで言葉遊びのような、何でもはっきり物を言うじいちゃんにしては珍しい曖昧な答えに首をひねる。
「何でもいい。「殴る」「蹴る」「見る」……全て、信じることが大切なんじゃ。固定観念に囚われないこと。自分なら出来ると強く信じること。よく覚えておけ」
聞き分けのない子どもに言い聞かせるように、じいちゃんは辛抱強く言葉を繰り返した。
「つまりじいちゃんは、信じたからルフィのゴムの身体に攻撃を通せたの?」
「そうじゃな」
何だそれ。そんなので強くなれるなら誰も苦労はしない。そう言って笑おうとしたけど、じいちゃんの目は真剣だった。冗談を言う目ではなかった。
「誰でも出来ることではない。しかしお前達ならば出来る。何せ、儂の孫じゃからな!」
「何その根拠のない自信。それに俺、じいちゃんとは血繋がってないでしょ」
「信じることじゃ、ルーク」
「……わかったよ。忘れてなかったら、いつか思い出すから」
おざなりな返事だったけれど、それでもじいちゃんは満足げだった。
じいちゃんが帰って数日後。
俺達は独立することを決めた。ちなみに言い出しっぺが誰だったかは忘れた。多分誰かが「秘密基地作ろう」的なことを言い出したんだと思う。
独立するにあたっての準備はあっという間だった。準備と言っても、何せ手荷物なんて無いから、紙に「独立する ASLL」と書いて部屋に置いただけ。ちなみにASLLは俺達の名前の
独立すると決めてから5分もしないうちに準備は完了した。
基地を建てる場所はすぐに決まった。森の中で一番大きくて太い木の上だ。皆で材料になる木材と釘をあちこちから拾い集めてきて、一からツリーハウスを組み立てた。ここでは俺の能力が大活躍だったおかげで、二日間でツリーハウスが完成した。
完成したお祝いに美味い飯をここで食おう! という話になって、俺達はそれぞれ思い思いの「美味い飯」の調達に向かうことになった。
調達に向かってから、大体一時間後くらいかな。基地がある巨木の根本に向かうと三人はもう帰ってきていて、俺が最後だった。
「皆早くない?」
「遅えぞルーク! おれはワニ狩ってきたぞ!」
ルフィは狩ってきたと思しき中型のワニをぺしぺし叩いている。大型じゃなければ俺達はもうワニを一人でも狩ることが出来るようになっていた。一人でワニを狩る子ども……いや、何も言うまい。
「おれは蛇と魚だ。蛇は蒲焼きにしような」
サボがそう言って5メートルはありそうな大蛇をズルズルと引き摺ってくる。背中に背負っている籠の中には大きな魚が6匹。大量だ。
「脂が乗ってて美味そうだな〜!」
「どこでこんなに釣ったんだ?」
「滝壺から少し下ったところだよ。まだまだ居そうだったから、今度皆で釣りに行こうな」
サボは俺達の中で一番釣りが美味い。二番目は俺で、三番目はエース。一番下手っぴなのがルフィ。エースとルフィはじっと待つことが苦手だから、まだ手掴みのほうが捕れると思う。
ルフィと俺はカナヅチだから、魚を捕る手段があんまりないんだけどね。ちなみに俺は、追い込み漁が一番得意。
エースが大きなイノシシと、大きな紙袋を俺達の前に置いた。
「次はおれだな。街の店から盗ってきた肉饅頭と、さっき狩ってきたイノシシ。あとおまけでチンピラから金も巻き上げてきた」
「あれ、エースも街に行ったの? 俺もほら、肉饅頭」
「お? ルークもか? しまった、被っちまったかな」
おんなじ紙袋を俺も差し出す。
サボが笑って言った。
「被っちまうのもしょうがねぇよ。だってこれ美味いし。結構数あるみたいだから、他の肉とか焼いてる間に食おうぜ」
「うん。あ、鹿も狩ってきたよ。それとこれ」
引きずっていた鹿と、背負っていた麻袋を下ろす。中身は大量のキノコや果物だ。
「いいな! 肉と一緒に焼こう」
ずらりと並んだそれぞれの獲物。こうして見るとやっぱり、肉が多い。エースが苦笑した。
「肉ばっかだな」
「俺達らしくていいじゃん」
それぞれ思い思いのものを持ってきて、それを皆で食べる。何でもないような、たったそれだけのことでも俺は楽しかった。多分、今日誰がどんなものを持ってきても俺は同じ様に笑ったはずだ。
俺にとってエース、サボ、ルフィとの日々は、いつしか当たり前になった。この先もずっと、続いていくと思って疑わなかった。
約束された未来なんて、どこにもないと知っていたのに。