「やることなすこと全てが遅いわね。こんな子を弟子にするんじゃなかったわ。」
「あら? そこにいたのね。 まったく気づかなかったわ。 さっさと紅茶を淹れて頂戴。」
「私は少し町に出掛けるわ。帰って来るまでに私の部屋を綺麗にして。ほら早く。」
「…駄目ね、全然駄目。まだこんなに埃が残っているわ。 あなた、魔法だけじゃなく片付けすらも出来ないのね。」
「…ふう、疲れちゃった。あなた、私の代わりにランプと窓を磨いといてね。 汚れてたりしたら許さないから。」
「…何? ドラゴンが襲いかかってきた? そんなの別に難しくないでしょ。 一人でドラゴン一匹すら倒せないなんて、あなた本当に無能ね。」
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「……はぁ。今日もきつーく言われちゃったなぁ……」
僕は、まだまだひよっこの魔法使い見習い。
他の友達よりも、才能も頭も足りない。その点は、今まで努力でカバーしてきたつもりだ。
この国では、一人前の魔法使いになるために、見習いの魔法使いを、一人前の魔法使いの元へと派遣する。
そうして、一人前の魔法使いから認められれば、晴れて名実共に魔法使いとなれるのだ。
僕も、その例に沿って、魔法使いの元へと派遣された。
僕が派遣されたのは、かの有名な大魔女、アルジェ様の元だ。
大魔女であるアルジェ様に魔法を教われると、僕はとても舞い上がっていた。
数日たって、僕はアルジェ様の元に派遣された。
アルジェ様は、僕を見るなり
「駄目ね。あなたには才能が無いわ。」
と、おっしゃった。
僕は、その評価を何としても覆したくて、毎日必死で訓練をした。
でも、いつまで経ってもアルジェ様は認めてくれなかった。
「…あなたは本当に頭が足りないみたいね。どんなに努力しても、あなたには無理よ。」
「前々から思ってたんだけど、もう紅茶を淹れないでくれないかしら。 あなたより、私の方がうまく淹れられるから。」
「もういいわ。いつまで経っても成長しないんだもの。家に帰っていいわよ。」
そのうち、アルジェ様に仕えることが苦しくなっていった。
アルジェ様は、生まれ持っての才能と頭脳がある。
でも、その二つとも、僕には無い。
だから、いつか認めてもらえるようにと、訓練は惜しまなかった。
でも、その努力すらも認めてくれなかった。
「はい。買い物のメモ。 あなたは本当に愚図で無能なんだからこれくらいはやりなさい。」
「遅いわよ。もう日が暮れかけているわ。 え? ちゃんと買ってきた? そんなのもういいわよ。 もうご飯食べちゃったし。」
「今日はファスカとネレが泊まりにくるの。 あなたは屋根裏にいって。 ほら早く。」
……もう、魔法使いなんて成れなくていいや。
早くこの地獄から抜け出したい。その一心で、アルジェ様が留守の間に、アルジェ様の分の食事を作り、机の上に自分の気持ちをまとめた手紙を書き、僕は後先考えずにアルジェ様の屋敷を飛び出した。
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魔女の集会がやっと終わった。
今回も、特に変わりなく駄弁ってただけだ。
「~♪ ~~~♪」
彼が待っている家に帰ると考えると、自然と心が弾む。
彼はまだまだひよっこだから、私がしっかりと教えてあげなきゃいけない。
……でも、やっぱり今迄のは言い過ぎたよね。
彼を成長されることばかり考えて、彼のことを考えていなかった。
(帰ったら謝らなきゃなぁ……許してくれるかな。)
そんなことを考えている内に、家と着いた。
窓ガラスや植えてある花も、全て彼が整えたものだ。
こんな優秀な弟子を持っていたのだと、改めて思う。
「…ただいま。」
…?
返事が無い。
私が帰って着たことに気づいていないのか?
それとも、もう寝てしまっているとか?
(…まあ、仕方ないわよね。 今まであんな扱いしちゃったんだもの。疲れてるわよね……。)
廊下を進み、リビングへと着いた。
机の上には、彼が作ったのであろう、美味しそうな料理が並んでいた。
その隣に、見慣れない紙が置いてあった。
「…手紙かしら?」
どうやら手紙で、差出人は私の様だ。
手紙を開けて、読むことにした。
「アルジェ様へ。
今まで、本当にありがとうございました。
最後の最後まで、アルジェ様の手を煩わせてしまい申し訳ありません。
私は、魔法使いになることを諦め、故郷へ帰ることとしました。
私の様な無能を教えるよりも、才能ある若者を育てた方が良いと思います。
最後にわがままを言わせてください。
どうか、私のことを忘れて、健やかに過ごしてください。
それでは、お元気で。 ○○より」
「…え? 嘘、でしょう……?」
特徴的な丸みを帯びた文字は、私に現実を突きつけた。
お前のせいで、彼の将来を閉ざしてしまった。
お前がもっと早く謝っていれば間に合った。
お前がもっと丁寧に教えればよかった。
(嫌…! 彼が…ここを出ていったなんて!)
私は料理に目も暮れず、夜の空へ、彼を探す為に飛び出した。
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久しぶりに、友達に会えた。
彼はちゃんと認められて、一人前の魔法使いになれたらしい。
祝福すると、頬を赤くしていた。こういう所は変わってなかった。
他にも、久しぶりに家族にも会えたし、先生は涙して抱擁してくれた。
僕もいつの間にか泣いていた。
久しぶりにここまで感情を露にしたこともあり、とても疲れた。
泊まる場所のことを考えていなかったが、まあホテルくらいすぐに見つかるだろうと思い、ぶらぶらと夜道を歩いていた。
突然、後頭部に強い痛みが走った。
なにが起こったのか全く分からず、そのまま意識を失った。
意識を失う直前、「ごめんなさい…」と弱々しい声が聞こえた気がした。
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僕が目を覚ましたのは、見慣れた部屋の天井だった。
なぜ僕がここにいるのか? なぜ物が失くなっていないのか? と、気になることは山ほどあったが、その前に、部屋のドアが開いた。
「…あっ。」
「…アルジェ…様」
そこには、僕のかつての主がいた。
目には、深い悲しみが浮かんでいるように見えたが、そんなことはないと思った。なぜなら。
「…あなたは本当にバカなの? 道端で倒れるなんて。
こんなのが弟子だったなんて、私の人生の最大の汚点だわ。」
いつも言われていた言葉。それが今は、なぜかとても頭に来た。
「…いい加減にしてくださいよ!! 無能だなんて分かったら、とっとと捨てるか魔法の実験台にするなりすればよかったじゃないですか!!」
「…」
「…はっ!」
しまった。いくらなんでも言い過ぎた。
アルジェ様は下を向いて、なにかぶつぶつと呟いている。
「も、申し訳ありません! アルジェさ……
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい酷いこといってごめんなさい無能だなんていってごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい酷いことしてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
僕の本能が告げた。このままではいけない。
アルジェ様に駆け寄って、だきしめた。
「アルジェ様! 僕はもう大丈夫です! もう謝る必要はありません! 落ち着いてください!」
「……ごめん…なさい……っ! 今まで……ぐすっ 酷いこと…いっぱいしてきて……ごめんなさぁい……!」
「僕はもう大丈夫です。それよりも、また魔法を教えてください。」
「……あり……がとう……! 許して……くれて………!」
なんとか落ち着いた様だ。
アルジェ様が元に戻ってくれて、本当によかった。
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あれ以来、アルジェ様が僕に小言をいうことは失くなって、ちゃんと僕を認めてくれるようになった。
ただ、その代償として……
「…! すみません、ちょっとトイレに……。」
「…! 嫌! やめて! 私から離れないで! あなたがいないと私……なんにも出来ない……」
「え、でも…」
「なら、あなたが終わるまで、トイレの前で待っているわ!」
…と、僕に依存してしまったらしい。
どうやら、帰ってきた日に、僕がまたここを離れる夢を見たらしく、それからというもの、食事や寝るときもずっと僕のそばにいる。
僕がいないと、魔女同士での集会もいけないらしく、何回か魔女の人が家に来たが、アルジェ様が僕のそばを離れないため、仕方なく、アルジェ様は大魔女の座を降りることになった。
僕は、彼女という名の大樹の牢獄に囚われている。
今日も、そしてこれからも。
(本家のアルジェちゃんはこんな性格では)ないです。
出して欲しいモンスターの属性は?
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火
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水
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木
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光
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闇