最初は少し短いです。
とっくに日は沈んですっかり暗くなった夜の駒王街。その街を一人の少女が歩いていた。
金髪の巻き髪。頭にはとんがり帽子。羽織っているマント。手には箒。マントの上から少女の身長以上はある大剣を背負っている。
如何にも魔法少女といった格好をしたその少女の名は、『ルフェイ・ペンドラゴン』。あのアーサー・ペンドラゴンの妹である。
そんな彼女が何故、こんな夜中に駒王街を訪れたかというと、住人が寝静まって人気がなくなった夜のこの街で大いなる目的を果たすため……
グウゥゥゥ……。
(お腹……すいた)
……なんてことは一切なく、実はあてもなく彷徨っていただけであった。
最強の聖剣使いになるために聖剣を持ち出して行方を晦ませた兄を探すため、所属していた黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)を抜けて一人旅に出たのだが、それからどれくらいの時間が経ったのかはルフェイ本人にも分からない。
兄を見つけられないまま時間だけが過ぎていき、持ってきた食料やお小遣いも数日前に完全に底をついた。
そのため、ここ数日のルフェイは野宿とほぼ絶食が続いていた。
ルフェイの魔法使いといった格好はコスプレではなく、実は本物の魔法使いで魔法少女だったりするのだが、人間をやめた訳ではないため、老いれば寿命で死ぬし、何日も何も食べていなければ空腹になって最後は餓死する。
その証拠に、ルフェイの身体は限界であることを伝えるようにフラフラと足取りがおぼつかず、失礼ではあるが、まるで街を徘徊する蘇った死人のようにも見える。
(一人で出るんじゃなかった……。私の馬鹿!!)
自分はアーサー・ペンドラゴンの妹であることを抜きにしても、それなりの実力者だという事を自負していた。
だから一人でも何ら問題はないと思っていたのだが、今になってそう思っていたことを後悔する。
せめて情報収集が得意な人にでもついてきてもらうべきだったか。
グウゥゥゥ……。
「うぅ……」
何でもいいから食べ物をよこせとうるさいお腹を両手で抑えるルフェイ。
今のルフェイは冗談抜きで餓死仕掛けているため仕方のない事であり当然の事であるが、空腹だからか、さっきから……というより少し前から鳴り続ける自分のお腹にも苛立ちを覚える。
意識が朦朧とする。身体を支えている足から力が抜けていく。これは本格的にまずい。
うるさい!ちょっと黙って!と心の中で自分のお腹に文句を言いながら、何処か休める場所はないかと顔を上げて周囲を見渡す。
誰かの家に泊めてもらうことも考えたが、今の自分の格好を思い返して即座に諦めた。
この世界には魔法だけでなく悪魔に天使といった人外も存在しているのだが、そのことを全く知らず、現実に存在する訳がないと思っている一般人の方が多い。
ルフェイのこの格好も裏では特に珍しくもないのだが、何も知らない表の住人にとってはコスプレをした変質者と思われて追い返されるのがオチだろう。
しかも、今は夜だ。こんな夜中に訪ねてきたとなれば怪しすぎることこの上ない。
もしかしたら裏の住人だったり、表の住人でも受け入れてくれるかも知れないが、その可能性はかなり低い。
これ以上心や体に傷を負いたくないルフェイはそんな危険な賭けには出れなかった。
「あ」
丁度いい所に公園があった。
中には噴水もあるから水には困らないだろう。
今日はここで野宿だなぁと自分が置かれている現状に情けなさと若干の絶望を感じながら公園に入る。
噴水の水をそれなりに飲んで空腹を誤魔化し、ベンチの端に手に持っていた箒と背負っていた大剣を置いてから座り、ふぅと一息吐く。何気に大剣がかなり重かったので体が軽くなった気がした。
(明日はどうしよう。……ていうか、何でこんな事になってるの?私ってば何やってるんだろ)
行方不明になった兄を探すために旅に出たのに肝心の兄は見つけられず、それどころか先ずはこの状況をどうにかして生き延びなければ元も子もないという始末である。
我ながら情けないにも程がある。
自信満々で余裕ぶっていた過去の自分に文句を言ってやりたい。
(……眠い)
空腹は勿論、ここまで歩いて来たことで疲労が溜まったのか、瞼が重い。少しでも気を抜けば座ったまま寝てしまいそうな程の強烈な眠気が襲ってきた。
ルフェイはこの眠気に抗わずに身を任せることに決めた。
こんな状態で冷静な思考なんてできるはずもない。無駄に体力と気力を消耗するだけだ。そんな事をすれば、今の自分では冗談抜きで命に係わるだろう。
先ずはゆっくりと身体を休ませよう。
これからどうするかはまた明日考えよう。
頭に被っていたとんがり帽子と羽織っていたマントを外す。
ベンチの上で身体を横にし、とんがり帽子を枕代わりに、マントを毛布代わりにして身体に被せる。今はもう慣れたが、最初にやった時は趣味で身に着けているものを寝具代わりにする事になるとは思わなかったものだ。
当然こんな姿を一般人に見られる訳にはいかないので、簡単な人払いの結界を張る事も忘れずに。
簡単で小規模とはいえ、力を使ったのが原因だろう。もう意識を保つのは限界だった。
(せめていい夢を見れますように)
朝に少しだけでも気持ちよく起きられるようにそう思いながら、ルフェイは目を閉じた。
グウゥゥゥ……。
「…………」
明日は絶対まともな物を口にすると心に誓って。
次は長めにします。