「彷徨う島…?でも、
「そうでしょう。この島は遠い
笑いながら、ブルックはダイニングを出たすぐの場所から船首まで跳躍した。
「うお、何て身の軽さ…!」
「ヨホホホ!そう!“死んで骨だけ”、軽いのです!あなた方は今すぐ後ろに聳える門を何とか突き破り脱出して下さい!絶対に海岸で錨など下ろしてはいけません!私は今日、あなた達に出逢えてとても嬉しかった、美味しい食事…一生忘れません!!ではまたご縁があればどこかの海で!」
「ちょ、あなた能力者でしょ!?海に飛び込んだら…!」
そのままぴょん、と海へ飛び込んだブルックを見に行けば、まさかの海の上を走っている姿が見えた。
身が軽いからああいう事も出来るって事か…青キジとはまた違った海の対策だね。
「…!と、とにかくルフィ!あいつの言う通りにしましょう!何が起きてるのか分からないけど、完全に
「…んんー?なんか言ったか?にしししっ!」
「だって、ナミさん。行く気満々だよ」
「分かってた事だけどね…!」
いやー、実は私も気になってるんだけどね。
こんないかにもーって感じの雰囲気なら、ナミさんはきっと怖がって…そしていつもとは違った雰囲気で私に抱き付いてくる筈…!ふへへ…おっとヨダレが。
「なァなァ!さっきのゴーストどこ行った!?まだ船に居るのか!?」
「いや、島の方へ飛んでった。あの島の住民なんだろ」
ゴーストか。…私の見立てでは、あれは誰かの“能力”だと思ってるんだけどな。
ブルックの件でも分かった事だけど、この世界で起こる摩訶不思議な現象には、大抵悪魔の実が絡んでるもんだし。
そしてブルックのあの反応…きっとこの島に彼が言っていた“影”を奪う人が居るんだ。
「さっき起きた大きな震動だけど…あの口みたいな門が閉じた音だとしたら、私達はあの“口”に食べられた形になったんだと思うわ」
「食われた?」
「キャハ、ロビンの言う通り…霧で分かりづらいけど、門の延長に延びる壁が島を取り囲んでる様に見えるでしょう?」
「そう。ーーつまり、この船は今、島を取り囲む壁の内側に閉じ込められたという事」
例えばこの島を真上から見た時に、ゴースト
「じゃあこの島は人工的に海を彷徨ってるって事!?何の為に…」
「それは分からないけど、島が動いてるとなると錨は下ろせないね」
「おいおい!何停める気でいんだよ、脱出するんだ!今すぐに脱出だ、呪われるぞ!」
そんなウソップの言葉も虚しく、ルフィは既に冒険準備万端だ。何を捕まえる気なのかは知らないけれど、虫網に虫かごまで装備している。
「ルフィ、よく見ろあの不吉な建物!本物の「オバケ屋敷」だ!」
「よし、ルフィ船を停めよう。目指すは「オバケ屋敷」!!」
「てめェまで何言ってんだ!?お前らは悪霊ってもんをナメてるぞ!」
「何言ってんだ、おれはちゃんと細心の注意を払いながら…さっきのゴーストを捕まえて飼うんだ」
「ナメ過ぎだっ!!」
だけどウソップも伊達にルフィと長い付き合いな訳じゃない。何言っても止まらない事は分かっているんだろう、それ以上は何も言わなかった。というか、弁当まで用意してきたルフィを見て諦めてた。とはいえ、島には絶対に降りたくないらしく船番を強く希望していたが…。
という流れもあって、居残り組と探検組で分かれる事になった。
居残り組は、ウソップ、チョッパー、ナミさん、ロビン、ミキータ、私。そして探検組は残りのメンバーだ。
ミキータはともかく、どちらかと言えば探検好きなロビンが残るなんて珍しいな、と思って理由を聞けば「イリスが居る方を選んだの」と言われて思わぬ攻撃をダイレクトに浴びてしまったぜ…。
私は探検…というかオバケ屋敷に行きたかったんだけど、ナミさんが無理だって言うから…。涙目のナミさんに勝てる私がどこに居るのか。
「さて、お前ら、これより小舟を使って島へ上陸するわけだが、おめェらにまだ見せてねェとっておきのものがあるんだ」
「とっておき?」
「あァ。「ソルジャードックシステム」“チャンネル2”だ!このシステムのチャンネルは5つある。0が2つに、
えーっと、0が
「たしか2と4はまだ空だって言ってなかった?」
「うははは、とっておきなんでそう言った。上陸する気のねェ奴らは試し乗りしてみろ!」
「何人くらいなら乗れるの?」
「最大4人ってトコだ」
だったらナミさん、ミキータ、ロビンと一緒に乗りたいな。海上デートを楽しんでくる!!
3人の手を引っ張って2番ドックへ向かえば、そこには私達がよく見知った“あの船”の小舟版があった。
見間違える筈もない、デフォルメされた羊の船首像は…。
「すごい…メリー?いや、メリーの子供的な立場か…メリーJr.?ミニメリー?」
「ミニメリーの方が可愛いからミニメリーで行きましょ!それにしても、フランキーも粋な事してくれるわね!」
メリーが帰ってくる事はないけども、サニーと同じでこのミニメリーもメリー号の意思を受け継いでいるんだろう。
私達は早速ミニメリーに乗り込んで、海へと飛び出した。
***
「…それで、どうしてこうなったんだっけ」
「う……ごめんなさい…」
現在の状況?ええ、ここはもうスリラーバークの中ですね。
で、どうしてこうなったかと言うと、ナミさんがミニメリー号に浮かれ過ぎて岸に乗り上げてしまった拍子に、私達はその勢いで島の中に放り出された、という訳です。
しかも運悪く落ちた所が堀の底という事もあり、登ろうと思えば6.7メートルもある壁を登らないと行けない。
あ、勿論私やミキータなら簡単に船に戻れるけど、せっかくなんでこのままデートをしようと思います。ぐへへ…幸いな事に今ナミさんは自分のミスでこうなった事に対して責任を感じてるから、そこまで頭は回っていないだろう。
酷い?私はそれでもみんなとデートしたいの!!
「でも、島に入ってすぐこんな深い堀があるっておかしいよね」
「ええ、竹ヤリが敷き詰めてなかっただけ幸運だったかもしれないわ。…でも、何があってもイリスが守ってくれるんでしょう?」
「勿論っ。あ、ナミさん、足場はガイコツで一杯だから歩くときは気を付けてね」
「ヒイイイ!!」
おふ…抱き付かれるのを狙って言った事だけど、真正面からはちょっと息が…!幸せ窒息死しそう…!!
「とにかく、ここは海面の下だから早く移動しようよ。流石にここが海水で浸かっちゃったらどうする事も出来ないし」
「そ、そうね…でも、どっちへ行けば……」
その時、パキ…と何かを踏み潰す音が聞こえた。何かって、ガイコツしか無いんだけど…。
その音がする方へ視線を向けた私達は、驚きに目を見開く。
1つの体に3つの頭部…それって、どこからどう見ても…。
「け、ケルベロスッ!!」
ナミさんはそう叫んで私の後ろに隠れた。
ケルベロスって言ったら、確か地獄の番犬だった様な…。
「ワン!」
「ワワン!!」
「コーン!」
コーンて…1匹キツネ混じってない?
「どう思う?ロビン」
「そうね…少なくとも私の知る“ケルベロス”は、3つの頭部全て犬のものの筈」
「キャハっ、じゃあ、アレは?」
すっとケルベロスを指差すミキータ。ケルベロスはそんなミキータに狙いを定めたのか、一直線に彼女へ向かって駆け出した。
そして、3つの口を大きく開いて…。
「私の嫁に手を出そうとしてるくらいだから…能無しのバカ犬でしょッ!!!」
「「「ギャッ!?」」」
1番左の頭を右に向かって殴りつける事で全ての頭を連鎖的に攻撃し、ワンパンしてやった。
20倍に抑えてやったんだから感謝しろ!!
30倍はあのクロコダイルの
「?このケルベロス…何というか縫った痕が多いね」
「縫い目だけじゃないわ。ほら、ココ…数字が書いてある」
…82?何か意味のある番号なのだろうか。
「わ、ワン…」
「コーン…」
「え、結構タフだね。一応意識は奪ったつもりだったんだけど」
もう立ち向かってくる気はない様だけど…体も大きいし、相手のタフさを見誤ったかな?
とりあえず私達はこの一本道の堀を道沿いに歩いてみることにした。じっとしていられないっていうのはさっきも話したことだったからね。
「いやー、やっとデートっぽくなってきたね!」
「どこがよ!ケルベロスを倒すデートなんて聞いたことないわ!」
「キャハっ!私はそうでもないわよナミちゃん。ケルベロスに襲われそうになった私を助けるイリスちゃん…最高のシチュエーションだったわ!!」
「あんたはそういう奴よね…」
がく、と項垂れるナミさんを慰めながら、私達は何とか地上へ出られる階段まで辿り着き、上がっていく。
階段を上ってる最中から感じてた事だけど…堀の底を長く歩いている間にどうやら森の中まで入り込んでしまったみたいで、上がりきった先は目を凝らせば周りが見えない事もないって程の仄暗い森の中だった。
震えてるナミさんが可愛い。可愛い…けど、流石にここまで怯えさせちゃったとなると罪悪感が…。
「私は能力があるから大丈夫だけど…みんなは周り見づらいよね、絶対に私から離れないでね」
「は、離れる訳ないでしょ…」
「でも、実際これからどうする?来た道戻ろっか?」
「けど、さっきのケルベロスみたいな生物がアレだけとも限らない。ルフィ達も後から来る筈…どうにかして落ち着ける場所を探すのが無難じゃないかしら」
成程ね…流石はロビン。ちょっと顔にこの島が気になるからまだ居たいって書いてあるのは気になるけど!
「だったら、お屋敷に案内してあげまし」
「…ん?」
後ろから声が掛かって振り向けば、そこには木の枝にぶら下がって私達を見ているコウモリ…のような何かが居た。
ロビンがしゃがんで、私の耳元で「あのコウモリも額に数字があるわ」と囁いてくる。…なるほど、ケルベロスだけじゃない…と。番号は21か。
しかも縫い目まできちんとある。ケルベロスと無関係って事は無いだろう。
「屋敷?そもそもあなた誰?」
「私はヒルドンと申しまし…。どうやらこの森に迷い込んでしまったご様子でしたので、お困りなのではと背後から忍び寄りました…。ここらの森はこれから夜が深けて参りましと、この世のものとは思えぬ程に危険な森へと変化致しまし…もしよろしければ、私の馬車でお屋敷へいらっしゃいまし…ドクトル・ホグバック様のお屋敷へ…」
「いやだ」
「そうでしか、ではこちらの馬車へ……え?嫌?」
当たり前じゃん。いきなり現れてペラペラ喋り出す善人人面コウモリがどこにいるの。こういうのは大体敵だと相場が決まってるの!
「で、ですが、話を聞かせて貰った所、お仲間を待つのなら屋敷が1番安全でし、目立ちましし、安全でし!」
「その聞き取りづらい話し方やめてくれる?馬鹿にしてんの?」
「オェ…!の、能力者でしか…!」
腕を伸ばしてコウモリの首を掴み、無理矢理引き寄せる。
「イリス、もし、もしよ?万が一、ううん、億が一コイツの言ってる事に悪意が無かったら…」
「…そうだね、確かに、手を出すのは早すぎたかも…。ごめんね、こっちは嫁を連れてるからあなたみたいな怪しさ満点野郎は警戒しないといけないの」
「い、いえ…、だ、大丈夫でし…!そ、それよりどうでし?屋敷へ案内…」
どうする?とみんなに顔を向ければ、みんな私の判断に任せると言った。
うーん…そうだなぁ。
「じゃ、お願いしようかな。もし何かあっても蹴散らせばいっか」
「キャハハっ!イリスちゃん、私も強くなったのよ?」
ふんす、と鼻を鳴らしてドヤ顔するミキータが可愛いですはい。
そんな感じで私達はヒルドンの馬車へと案内されて中に入った。
馬車内は4人乗りみたいで、私はナミさんの膝の上に座る。
「どうぞワインでも」
「誰が得体の知れない生物から渡された物を嫁に飲ませるか。いらない」
「そ、そうでしか」
…逆に怪しすぎて何も無いとか、ある?ただの善人でした、みたいな…。
……いやないか、流石に無いよね。
「所で、そのドクトルなんたらってのは人間なの?」
「はいでし」
「
「ふーん…なんでその天才がこんな“オバケ島”に住んでるんだろ」
ねー、とナミさんを見上げれば、ナミさんは窓のカーテンを少し開けて外を見ていた。
「…ウソ、この森…ライオンまで」
「ライオン?」
私もナミさんと同じく窓から外を見れば、そのライオンが私達の方を見てにやりと笑った。……人の顔で。
「………ねぇイリス、この島絶対おかしいわ」
「
となると…今のとこ1番怪しいのはそのホグバックとやらか。
ロビンもそう思っているのか、何やら難しい顔をしていた。
「ライオンの他にも何か居るのかな」
再度カーテンを開けて外を確認する。
…………。なんか大量に居るんだけど。しかも踊ってるんだけど。エモノがどうとか言ってるんだけど。木とか猫とか馬とか。
「ねぇヒルドン、これは何?」
「……えーっとでし…まず、このカーテンを閉めるでし」
「ふんふん」
「そして再び開けましと…なんと、何も居ないでし!」
「おー!!…で?遺言はそれだけ?」
「ヒイイイ!ま、待って下さいでし!せ、説明するでし!!」
ヒルドンの首を掴んで力を入れていくと、彼は慌てて弁解し出した。
「こ、この森は少し変わっていまし…そして、この深い霧と恐怖心から幻覚を見てしまう方もちらほら…!」
「幻覚…?……分かった、じゃあこの際“そう言う事”にしてあげるから、とにかく海岸まで送ってくれない?」
絶対幻覚なんかじゃないし、私の中ではこのヒルドンとかいう奴も何かしら隠してそうだと思うけど…。
「…わかりましたでし。ーーーでは、使用人にその旨伝えましので、お待ち下さい」
ヒルドンは馬車を止めるように指示を出し、外に出て行った。
「…で、みんなはどう思う?私はこの島絶対何かあると思う」
「イリスちゃんの意見に賛成よ。さっきの木や馬も、ロビンが言っていたように体に番号が振られていたわ」
「縫い目も同じようにね」
「……もしかして、そのホグバックって奴が何か…?」
ナミさんが言った事にロビンが頷いて肯定する。やっぱりロビンもそう考えてたか…。
ん?となると、ホグバックがブルックの“影”を奪ったってやつ…?
「ま、それは行ってみればわかるか」
「イリス?それってどういう…」
ガン!と扉を蹴破って外に出る。
前を見ると、やっぱりヒルドンも馬も消えていた。
「ちょっと隙を与えたらこれだよ。…ナミさん、手を」
「ど、どうなってるのよ…?」
ナミさんは私の手を掴んで馬車から降り、ミキータとロビンも続いて降りる。
「見ての通り、馬車だけ置き去りにしていったみたいだね……墓地に」
「ぼ、墓地…」
今日何度目か分からない、頭に当たるナミさんのぽよんの感触に頰が緩む。
わざわざ奴はここに私達を置いていったんだ。…何かあるんだろうね。とにかく…油断だけは絶対にしないでおこう。