「おら!こんにゃろ!ふん!!」
「ぶへェ!?も、もうやめてくれェ!お、おれ達が悪か…ぼはァッ!?」
「あ、悪魔かァ…こいつァ腐れやべェ!!げふゥ!?」
「お、おれ達、まだ何もして…ごはァ!」
「……なんていうか、ここまで来たら怖くなくなってきたわね」
現在、私の足元には何10体ものゾンビが倒れ伏している。
…どうしてこうなったかと言うと、ヒルドンに馬車ごと置き去りにされたこの墓地の墓から、こいつら“ゾンビ”がお約束通り土を破って出てきたのだ。
それだけならまだいいんだけど、こいつらはあろう事かナミさんやミキータ、ロビンまで狙った。攻撃しようとしたんだ。…そんなの、許せないよね?
「あなた達は、頭が取れても生きてる…というか動けるんだからちょっとやそっとじゃ大丈夫だよね?」
「え!?いや…そういう訳では…」
「や、やめてくれ!わ、悪かった!もう何もしねェ!」
「
両手の大きさを倍加し、奴らの真上へと跳んだ。ここからなら…ゾンビ1匹逃さずに済むからね!!
「
「ギャエエエエェエエ!!?」
「に、逃げ場が…ァぐへェ!?」
ドドドドッ!!
ゾンビどころか墓すらも巻き込み、それはもうかなり罰当たりな行為をしでかしたけれど奴らを全滅させる事には成功した。
…どうせこのままほっといても復活するだろうけど、ま、いっか。どうせ後からルフィ達も来るだろうし同じようにやられたらいいよ。
「お待たせー、待った?」
「待ち合わせじゃないんだから…」
かなり恐怖心も薄れてきているのか、ナミさんの顔はこの島に入った当初に比べると明るかった。良かった良かった、怖がるナミさんを見たいって気持ちもあるけど、行き過ぎると罪悪感が…。
「ありがとうイリスちゃん!でも次は私の分も残しておいてくれるかしら?私の成長をイリスちゃんに見て欲しいのよ!」
「はは、ごめんねミキータ、次はちょっと残しておくよ」
「それで、これからどうするのかしら?屋敷はもう目の前よ」
ロビンの言葉にナミさんが頷く。
「ここまで来たんだから、もう屋敷に行くわよ。あのヒルドンって奴が言ってたようにルフィ達と合流するならそこが1番早いわ」
「そうだね。2人もそれでいい?」
ミキータとロビンが私の言葉に頷いたのを確認して、私達は墓地を抜け屋敷を目指した。
墓地を抜けてすぐの並木道を真っ直ぐ歩き、屋敷の門前へと到着する。
「近くで見ると、また格段と大きく見えるね」
「ええ…。ホグバックって奴が居たら、どうする?」
「とにかく様子を見よう。あのゾンビや、キツネケルベロス、人面ライオンとかの生態を研究してるってだけかもしれないし」
良いように考えたらの話だけどね。十中八九、ホグバックは黒だろうけども。
「すいませーーん!ドクトル・ホグバック氏の屋敷はここでしょうかー!?開けて下さーい!旅の……“船乗り”ですけど!!」
…………。
「留守かな?…ん?門は開いてる…」
「キャハ、こんな森で鍵もしてないなんて、怪しいわ」
「中へ入れば、それも分かるわね」
とりあえず勝手に門は開けさせて貰うとして、私達は中へと入った。まぁ、ここは外門だからまだ屋敷の中に入れた訳じゃないんだけど。
屋敷の真ん中にトンネルがあって、その向こうに中庭が見える。トンネルの中間地点に井戸のような物を見つけたその時、その近くに設置されていたスポットライトが井戸を照らした。
「いらっしゃい」
「んひゃいっ!」
び、ビックリしたー!井戸に近付いたら中から女の人が出てくるんだもん!…結構美人だねこの人。
「んひゃいっ!だって、ふふ、可愛いじゃないイリス〜」
「フフ…大丈夫よ、怖くないわ」
「も〜、そういうナミさんだってビックリしてたじゃん!」
…井戸から出てきたのはビックリしたけど、この人も身体中に縫い目がある…。それになんていうか、暗くてよくわかんないけど…顔色に生気を感じない。丁度10枚お皿を持ってるのも気になるし。
「さぁ、入って」
「え、いいの?なんか随分あっさりだね…」
美人さんが井戸の隣にある扉を開け、私達は警戒しながらも中へと入った。
中は…結構広いね。壁に沢山飾ってある絵画や、熊?かなんかの剥製絨毯、そしてその部屋の中央にある長テーブルとそこに座るいかにもな悪役面…と。
「フォスフォスフォス!よく来たな我が屋敷へ!!」
「あなたがホグバック?」
「そうだ。そしてその女は昔婚約していた大富豪の主人の愛を試す為に、主人の宝物の10枚の皿を全て叩き割った所婚約破棄され、顔にハナクソをつけられて追い出されたという不幸な過去を持つ皿嫌いの使用人、シンドリーちゃんだ」
シンドリーちゃん…それはあなたが悪いような気が…。
婚約破棄されたなら私が貰ってあげてもいいんだけどね??
「座ってもいい」
「え?あ、うん、ありがとう」
シンドリーちゃんが椅子を引いてくれたのでそこに座る。みんなも同じように座り、上座に触るホグバックへと意識を向けた。
「それで、色々聞きたいことあるんだけど聞いてもいいかな?」
「なんだ、分かる事なら答えよう!」
「この島は一体何?ゾンビとか、訳わかんない生物は?あなたは何でここにいるの?」
どうせ適当に建前を返されるだろうけど、一応聞いておこう。
万が一、まだこいつが白である可能性も………ないか。
「まァ待て、その質問には全て同じ理由で返答出来る!答えはこうだ、
俺は
研究してるって事?と聞くと彼はいかにも!と興奮気味に立ち上がった。
「確かにゾンビと聞けば人は恐怖する。しかし“死者の蘇生”と言い換えるならば!!そりゃあ全人類にとっての永遠の“夢”じゃねェか!誰しも身近に生き返ってほしい人間の1人や2人いる筈だ…!ーーーしかし、人の生死を操ろうなど神をも恐れぬ邪道の医学…!だから俺はこっそりと世間から姿を消し、この不思議な島で研究を続けている」
成程…それが建前だとしても、まあ理由にはなってる訳だ。
「プリンをどうぞ」
「え?お、お皿…」
「世界から皿なんて無くなればいい」
「こ、こういう時の為にテーブルクロスは死ぬ程洗ってあるから安心しろ!」
そういう問題じゃないよ!
プリンを鷲掴みにして置くのはまだいいよ美人だから!でもそのままテーブルの上にべちゃって置かれたプリンを誰が食べるの!?…いやホグバックは食べてるけどさ!
「お風呂の準備もしたわよ、あんた達、森の中歩いてきたのなら入ればいい」
「ありがとうシンドリーちゃん。いやー、ゾンビに触ってるからお風呂入りたかったんだよね」
流石に手を付けられないプリンはそのままに、私達はホグバックに一声かけて風呂場へ向かった。
…なんかみんなで一緒に入る事になったけど。…ま、いっか、その方が安全だよね。
***
「ふんふん♪ふーふふん♪」
「痒いとこないかしら?」
「だいじょぶー」
4人で入れば狭くなるんじゃないかと懸念していたけど、なかなか広い浴室で助かった。ちなみに4人共体にはタオルを巻いている。今はむらむらしてる場合でもないので、それ対策だ。
そして今はロビンに髪の毛を洗ってもらってる所である。幸せすぎます…。
「はぁ〜…私がじゃんけんで負けなければ…!」
ミキータが浴槽の縁に両腕を置いて枕のようにしてもたれかかっている。さっき私の髪を洗うのは誰か、みたいな感じでじゃんけんしていたのだ。私としては誰が来ても幸せになる得しかない勝負でありがとうございます。
「…みんな、屋敷の中見渡した?気付いてる?」
「ええ」
「ん?」
ミキータと同じく湯船に浸かっているナミさんがぽつりと呟いた言葉にロビンが頷く。
気付いたって、何のこと?
「壁に飾ってある絵画や骨董品、気付かれないように観察してたけど…そのほとんどがゾンビよ」
「えっ」
そ、そうなんだ…全く気付かなかった。
ていうかこの感じ、気付かなかったの私だけ!?なんか情けない…。
「それも、ここに来るまでの廊下にあったのも含めて、ね。そうなると1番怪しいのはやっぱりホグバック…!彼はウソを付いてる。あの男とゾンビ達に繋がりが無かったら、この屋敷や島で暮らしていける訳がない!…どうする?」
「…そうだね、じゃあーーーー」
「ーーーーグルルル……なかなか、賢い女だ…」
「………、なに?」
突然、この浴室内から声が聞こえた。
…獣の唸り声…?人間の声もした…同じ奴か?
「ガルルル…ガキに用は無い」
「は?…ッ!?」
“何か”に腕を掴まれて浴室の端まで投げ飛ばされる。何…?姿が見えない…!
「イリス!…っ、な、何…!?手が…!」
ナミさんの両腕が掴まれ、“何か”に引っ張られていた。間違いなく居る筈の“敵”の姿が見えない…!
そのままナミさんは壁に押し付けられる。
「ナミちゃん!く…」
ミキータはナミさんを助けようとして、だけど躊躇うかのように体を止める。それはそうだろう、敵の姿が見えなければ、迂闊に手を出して逆にナミさんを傷付けてしまうかもしれないからだ。
そしてそれはロビンも同じで、彼女の場合はそもそも相手が見えなければ上手く能力を使用出来ないから難しいだろう。
「ほう…この中では、貴様が1番好みだ…。貴様、おいらの花嫁になれ…!」
「イリっ…う!?」
「…な、」
ナミさんの口が、塞がれた。
相手は透明人間だ。塞いだそれが手なのか、腕なのか……唇なのか、私には分からない。
だけどさ、一緒のお風呂に入ってて、声からして男だろう奴にどういう訳か侵入を許して、タオル巻いてるとはいえ裸を見られて、そしてあまつさえ…唇を奪われてるかもしれない…?
…ムカつく。ムカつく。人の女に…ナミさんに触りやがって…。どこのどいつだか知らないけど…覚悟は出来てるんだろうね…。
「イリスちゃ……、………ロビン、とりあえず避難しましょう」
「そうね…ここは危険だわ」
「なんだ?逃げるのか?丁度良い、邪魔者は殆ど居なくなった…!オイ貴様、こっちに来」
ゴキィッ!!
「い……?…が、あァアアアア!!?おいらの、おいらの腕がァ!!?」
「…何だ、腕か。良かった」
ナミさんの口を塞いでいた見えない“何か”を両腕で掴んでへし折る。
そうなれば勿論、ナミさんを拘束する余裕など無くなって“何か”が痛みに震えながら後ろへ数歩下がった音がした。
「とりあえず聞かせてよ、あなたは何の訳にナミさんに求婚したの?」
「…っ、ちっ、おいらの腕を折るとは…流石は腐っても6億…!ここは撤退…!」
「私はお前に、質問してるでしょ!!!」
「ごッ…!?」
浴室の窓へと走る音が聞こえ、私は大体の場所を予測して蹴りを放つとドンピシャで直撃して壁に人型の窪みを作った。
「私の懸賞金の話はしてないの。私は今あなたに、質問してるでしょ?」
ほら!と窪みを見てお腹の位置を1発殴ると、乾いた呻き声が浴室に響いた。
…まだ透明解除されないか。
「はァ…はァ…!か、可憐な女性に、ひ、一目惚れして…」
「私のナミさんに、一目惚れすんな!!!」
「り、理不尽…がはっ!?」
足裏でお腹を蹴り、更に壁へめり込ませる。壁の周りにヒビが広がっていくけど…まあいいか、ホグバックの屋敷だし。
「ぐ…お、おいらを舐めんじゃ…ねェ!ガルルル!!」
「っ…」
ドォン!といきなり私の顔面に何かの攻撃が直撃した。火薬臭い煙が私の顔を隠し、続け様に何発も同じ攻撃が顔に降り注ぐ。
「ど、どうだ…!こんな至近距離から何発もおいらの“死者の手”を喰らえば…!」
「ああもう鬱陶しい!!!」
「ごへァ!?」
何発撃とうが一緒だ、と返答する代わりにもう1発奴の腹を殴る。
…ああ、もういいや、この屋敷の事とか、ゾンビとか、色々こいつに聞けるかもしれないとは思ったけど…。
「声を聞くだけで腹が立つ。雑魚が調子に乗って私の女を狙うとどうなるかってのを、教えてあげるよ。……
「が、ルル…!こんな筈はない…!奴の懸賞金は、飾りじゃなかったのか…!?これが、“青キジ”から必死に逃げ出してきたあの“逃げ足の女王”な訳…!」
「そんなもん、自分の目で確かめなよ。もっとも、確かめてる余裕は無いだろうから直接教えてあげるね……
奴の腹に直撃したかなりの威力を誇る私の拳は、容易く浴室の壁を貫通して奴を吹き飛ばす。
どこかに行かれるのも鬱陶しいので腕を伸ばして回収し、流石に今の衝撃に耐えられなかったのか崩れそうになる浴室からナミさんを抱えて脱出した。
…それにしても、“逃げ足の女王”か。やっぱあんな遠回しの警告じゃバカには通用しないじゃん。
というか、いくら青キジが敗けたって事実を世間に知られる訳にはいかないとはいえ、やっぱり逃げ足は流石に酷くない?
もう会いたくないけど、もし今度青キジに会うことがあれば直談判してやる!侮辱罪で訴えてやる!!