ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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102『女好き、戦略的敗北』

あの後、崩壊した浴室にてへぺろしながら着替えを終えた私達は、気絶した事で透明が解除された男を引き摺って元の部屋に戻る為廊下を歩いていた。

この男も色々と混ざっている(・・・・・・)らしく、人間がベースなのは分かるんだけど、体や顔の部分部分に獣の部位が移植されているような感じだった。

となると、ゾンビやケルベロス…それからシンドリーちゃんにあった縫いキズも同じ考えで間違いないだろう。

 

そしてそれを行なったのは、間違いなく天才外科医のホグバック。

 

「この絵画もゾンビなんだっけ?」

 

「まぁ…勘でしかないんだけど…」

 

「よっ!」

 

「ぐへっ!?」

 

おお、本当にゾンビだ。殴ったら呻き声あげたし間違いない!

呆れ顔のナミさんは見なかった事にして、私は次々と目についた絵画や置物を攻撃していく。

中には本当にただの絵画とかもあったけど…紛らわしいのが悪い!弁償なんてするか、こちとら海賊だっての。

 

そんな感じで最初ホグバックと話していた部屋へと戻ってきたんだけど、何故かその部屋は真っ暗で、灯りを消されていた。

 

「…キャハ…これはもう、確定ね」

 

「ええ、ホグバックこそが、ゾンビ達を生み出してる張本人…!どうして私達を屋敷に招き入れたのかは知らないけど…」

 

「私達をゾンビに変えようとしているのかも」

 

「こ、怖い事言わないでよロビン……そんな事したら、今度こそ本当に死人が出かねないんだから」

 

何故か私と私の腕に引き摺られてる男を交互に見ながら言うナミさんにピースを返せば、彼女は分かりやすくため息をついた。え、何?

 

「ホグバックはどこに行ったんだろう…」

 

「お2人はもう、お休みになられましたでし…!」

 

「ん?」

 

その声に合わせてパッ、と灯りがつき、ヒルドンが姿を現す。

奴はシャンデリアにぶら下がり私達を見下ろしていた。…よくもまぁ、この状況で私達の前に姿を見せれたもんだよ。

 

「伸びろ」

 

最初にヒルドンに会った時の様に腕を伸ばして掴み、引き寄せる。ただ1回目と違うのは…もうお前を庇う人なんて1人も居ないって事だけどね!

 

「な、何をするでし…!」

 

「ホグバックの所へ案内して欲しいんだけど」

 

「そ、それは出来ないでし…!お2人ともお疲れでし…休ませてあげたいでし!」

 

「白々しいなこのコウモリもどき。ねぇ、この男はあんた達の仲間?」

 

透明獣野郎の頭を掴んでヒルドンに見せると、奴は目を見開いて私とその男を交互に見る。…OK、その反応だけで充分。

 

「痛いのがイヤなら、早いうちに決断してね。…そーら!!」

 

ヒルドンを顔面から床に叩きつける。それはもう床に穴が空くほどのパワーで。

 

「ホグバックはどこ?」

 

「………!」

 

「もう」

 

しょうがないなぁ、みたいな雰囲気を出しながらもう1度床に叩きつけた。ついでにもう1回、更にもう1回!

 

「どこ?」

 

「い、言いまし…言いまし!お2人はこの屋敷の2階の…」

 

「嘘をつくな」

 

もう1回床に叩きつけて、今度は腹に小太刀を突き立てて床に張り付けにした。

流石ゾンビ、血の一滴も出ないんだね。そもそも痛覚とかあるのかな?

 

「言え」

 

「…そ、その、暖炉の中でし。か、隠し通路がありまし…その先の…」

 

「そ、ありがとね」

 

ズボ、と小太刀を抜いてヒルドンを部屋の端まで蹴り飛ばした。

扱いが酷い?こいつらにはこれくらいで充分でしょ。

 

「行こっか、暖炉の先だって」

 

「キャハっ、凄いわ!でも、最初のが嘘って何で分かったのかしら?」

 

「あー、1回目に本当の事喋るとは思ってなかったから、カマかけただけだよ」

 

「流石ね」

 

にひひ、とピースしてロビンに返した。

暖炉まで歩いていく途中で絵画からゾンビが襲ってくるかと思ったけど、奴らは汗をだらだら流して私と目を合わせようとしない。

…ああ、もしかしてこの透明男が原因なのかな?ゾンビとはまた違った感じだし…血も出てたから、こいつらの中でも偉い方だったのかも。

 

「あ、これね。…確かに隠し扉があるわ」

 

ナミさんが暖炉に入ってペタペタと調べ、石煉瓦にカモフラージュさせていた奥へと続く回転扉を見つけてそこを通っていく。流石は泥棒、そういうのを見つけるのはお手の物だね!

私の心も会って早々に奪ったからなぁ…ナミさん、恐ろしい娘…!!

 

さてと、左は行き止まりだから、右に進めば良いんだよね。

流石に行き止まりの壁にまた何か仕掛けがあるとかは…ないよね?

 

「この廊下もゾンビで一杯ね」

 

「よーし、じゃあさっきと同じく殴りながら進んじゃおう!」

 

びく、と絵画の中のゾンビが震えたけど、お構いなしに殴って先へ進んでいく。ナミさん達に危害を加えるかもしれない存在は予め潰しておかないと!

 

「ふんふーん♪えいっ」

 

ドォン!!

 

「ふふふーんふーん♪ていっ」

 

バコォン!!

 

 

「声の重みと屋敷の被害が釣り合ってないわよ…」

 

「ここより先のゾンビ達からすれば、まるで死へのカウントダウンね」

 

ゾンビだから死なないんだけどね。

だけどそれが今の私にとってはかなり嬉しい事で、何故かというと30倍の火力を相手の命を気にする事なく実験出来るからである。

そりゃもう楽しすぎて鼻唄も知らず知らずのうちに歌っちゃいますよ!

 

「お、扉発見」

 

もはや屋敷のダメージなど全く気にする必要がなくなった私は、その扉を蹴破って中に入った。

 

「…って、何この部屋」

 

「また絵?…いや、写真ね」

 

その部屋は、所狭しと美人な女性の写真を飾っていた。

…というか、この写真の人…もしかしてシンドリーちゃん?

 

「シンドリーちゃんの部屋…なわけ無いか」

 

「ええ…それより見て、この写真には顔にも体にも、どこにも縫いキズが無い。やっぱり、シンドリーちゃんも…」

 

ゾンビって訳ね…。

 

「ビクトリア・シンドリー…随分有名な舞台女優だったみたいよ」

 

ミキータが部屋を漁って、見つけた記事を読んでいく。

 

「…舞台女優?以前どこかで使用人してたとか…ああ、もしかしてそれも嘘だったのかな」

 

「これを見る分には、そんな経歴考えられないわ。元々貴族の生まれで、子供の頃から人気者……。……やっぱりね、みんな、ここ見て」

 

ミキータが私達に見えるように記事を開けて、とある一文を指差す。

…えーっと、なになに…ビクトリア・シンドリー、大舞台での悲劇…舞台から転落…。

 

「…死亡…!!」

 

「ということは、やっぱり彼女は、ゾンビなの!?」

 

そうとしか考えられない…!だって、この記事は10年前のものだから少なくとも10年前にはシンドリーちゃんは亡くなっているんだ。

だというのにこの写真と、私達が見たシンドリーちゃんは縫いキズ以外は瓜二つ…いくら何でも、歳を重ねてそんなに変化がないなんてあり得ない。

…いや私の例もあるけど!

 

「死者蘇生…まともな方法だと思う?」

 

「まともなら、今頃世間に公表して大金持ちよ」

 

「だよね」

 

これは尚更ホグバックを問い詰めた方が良い。奴自身の戦闘力は分かんないけど、私の目を信じるならばあいつはそんなに強くない。

 

「ま、ルフィ達が来るまでの暇潰しにはなるんじゃない?」

 

「フフ、頼もしいわね」

 

「暇潰しって、そんな軽い話じゃ無い様な気もするけど…」

 

そう言って私達はその部屋を後にし、更に奥へと進んで行く。

あー、でもシンドリーちゃんがゾンビなのは勿体ないなぁ…流石に死者を嫁にするのは…いやいや、でも可愛いしなぁ。く〜…!

 

 

 

***

 

 

 

「フォ〜〜スフォスフォスフォス!!フォ〜〜スフォスフォスプォ…ウ…ンン!!フォ〜〜スフォス!!」

 

「……ホグバックだ」

 

「ここは…研究所かしら」

 

廊下をずっと歩いていけば、1度聞けば耳に残る、あの甲高い笑い声が部屋から聞こえてきて扉を少し開けて中を覗く。

やはりそこにはホグバックが居て、隣にはシンドリーちゃんも控えていた。

 

「フォ〜〜スフォスフォスフォスフォーーース!!もうすぐ完成だ!この見事な没人形(マリオ)!!見ろよシンドリーちゃん!まさに芸術(アート)!天才の所業!!」

 

「もう一息の所で失敗すればいい」

 

「何言ってんの!?シンドリーちゃん!!まったくおめェの暴言には毎度生き肝を抜かれるぜ!!」

 

「こちら、夜食のスープスパゲティです」

 

「みるみるスープが無くなるぜ!?シンドリーちゃん!!何故そう果敢なメニューを選ぶんだ!!?」

 

…ちっ、イチャイチャしやがって…今すぐこの屋敷全壊させてやろうかな。

 

「!…あの台の上を見て」

 

「…人?いや…死体ね」

 

ロビンが呟いた言葉にミキータが反応する。

以前にミキータは“そういうの”は見慣れてるって言ってたから、彼女が言うならあれは死体で間違いないだろう。

 

「しかも今まで見てきたゾンビと同じで、番号が付いてるね」

 

「それをもうすぐ(・・・・)完成だと言ってた。…これで決定的ね、アレこそ今まさに生み出されようとしてるゾンビ…!この島にいるゾンビ達はやっぱりホグバックが蘇らせたんだわ…」

 

「……それで、あなたもゾンビ?」

 

くる、と振り返っていつのまにか私達の後ろにいた“ソイツ”と顔を合わせる。

ナミさん達も私の言葉で気付いたのか、勢いよく振り返った。

 

「ヨホホホホ!ご機嫌よう!よく私の接近に気が付きましたね」

 

「ヨホ…?ブルック…?」

 

いやでも、ブルックにしては肉も皮もついてるし…!

 

「ハァ!」

 

「ちょ、いきなり…!」

 

刀で斬りかかってきたその男の攻撃を、みんなを巻き込まないように小太刀で受ける。

…!なに、この刀…!小太刀が折られそう…!強度2倍にしてるってのに!

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

そのまま、奴の力に押し切られてホグバックの研究所内へと飛ばされた。

しまった…見つかった…!くそ、小太刀じゃなくて素手で受ければ良かった!

 

「ぬう!?貴様ら、何故ここへ…!?……まァよかろう、今更何の秘密を知ろうとも…もう手遅れ。あと数分で“夜討ち”が始まる…!油断させ、島に迷い込んだ客人達を一気に狩り込む“夜討ち”が…!!……て、えェ!!?き、貴様…その手に持ってる男は…まさか…!!」

 

「え?ああ…知り合い?あげる」

 

ぽい、と死体を置いてある台に勢いよく投げつけて、“あと少しの所で失敗”させてやった。

透明獣野郎の体は妙に頑丈だったから、あの死体の方が潰れるか折れるかしてる事だろう。

 

「き、貴様…!まさかアブサロムを…!!シンドリーちゃん!サムライ・リューマ!今すぐコイツらを影の世界へ叩き落としてやれ!!もう2度と光の差さない影の世界へ!!」

 

カチャ、とお皿を重ねたシンドリーちゃんが前から、まるでブルックの様な笑い方をする“サムライ”が後ろから。

…どうしようかな、多分、纏めて相手しても勝てると思う。だけど何の手掛かりも無くなるってのは…。

せっかくゾンビの手掛かりも掴めそうだし…“影”の世界って言ってたからブルックの“影”を奪った人も分かるかも知れないし。ホグバックではないと思うけど…。

 

「おやおや、よく見ればそちらのお嬢様方、んビューーーティフォーーー!!パンツ、見せて貰ってもよろしいですか?」

 

「残念だけど、パンツどころか体の隅々まで私のだから…あなたに見せられるものなんて何もないよ」

 

ちら、とナミさん達にアイコンタクトを送る。伝わるかは分かんないけど、ここは愛に託すしかない!

内容は、「わざと負けて私達をどうするか見よう!」ってものだけど…果たして伝わるか…。

 

「フォスフォス…!お前達がこれまでに見たゾンビ共とは“格”が違うぞ、そいつは特別な肉体を持つ将軍(ジェネラル)ゾンビ!“新世界”「ワノ国」から来た男!!アブサロムをも凌ぐ実力を持つ、伝説の侍だ!!」

 

「……さて」

 

リューマとやらが剣を抜く。なんだあの剣カッコいいな。いや違うそうじゃない!

…どう攻撃してくる…?奴に気付かれないよう、攻撃を完璧に受け流して敗けた“フリ”をしなければ…。

 

「ッ!!?」

 

次の瞬間、恐ろしく速い剣撃が私達を襲い、リューマは何事も無かったかのように横を通り過ぎて行った。

………だけど…ふぅ、間に合った。

 

「な、何?斬られるかと思った…」

 

「…いや、さっき、攻撃されたよ」

 

「え?」

 

恐らく、私が青キジを倒した瞬焉たる別れ(エンデイスタンテ)、あれと同じ事が起こったんだろう。

斬られた事すら気付かない、みたいな。

 

「まぁでも…私は見えたからみんなの攻撃を上手いこと流しといたよ…。後は倒れるフリするだ…け…ッ!」

 

ーーー囁く様にみんなに指示を出した直後、私のお腹に凄まじい衝撃が襲いかかる。

だって、そうじゃん。いくら私でも…気付かれない様に自分とみんなを守るなんて無理だから…だから、自分くらいは犠牲にしないと…。

 

「イ…ッ!」

 

思わず叫びそうになるナミさんを、倒れながら目だけで訴えて止める。

…私の事は良いから、倒れて…!!

 

「ッ…!」

 

3人とも、唇を結んで私を睨みながら私と同じように地面へと倒れた。

……あー、次目を覚ましたら、怒られるんだろうなぁ。

 

だって思ったより威力あったもんあの剣撃…というか私だけ妙に威力高かったもん…!

…そんな事を考えながら、私の意識は薄れていく。

意識を失う前、最後に聞こえたのは…リューマとかいうサムライが辺りに響かせる様に刀を鞘に納める音だった。

 

 

「鼻唄三丁…矢筈斬り!!!」

 

 

 




意識を失う事に定評がある主人公。

リューマは一目見てイリスが1番面倒な存在だと思ったので、とりあえずイリスに対しては全力で攻撃していました。

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