タッタッタッ!
「ギャーーーーーッ!!!ネガティブ・ホロウ!ネガティブ・ホロウ!!ホロウ!ホロウ〜〜ッ!!!」
「ぐっへへへェ!当たらないよペローナちゃぁん!!」
「クマシ〜〜!!助けて〜〜!!」
「げっへへへ!逃げる姿もサイコーにキューティクル!!」
あーー楽しい!これってあれでしょ!?「捕まえてごらんなさーい」「おーい待て待てー」「キャッキャッ」的なアレでしょ!?ペローナちゃんも私とイチャイチャしたいならこんな回りくどいことしなくてもいいのに〜!
「い、いい加減にしろォ!!特ホロ!!」
「!…大きなゴースト…!」
「ハァ…ハァ…そうだ!いくらお前が頑丈だろうと、この技の破壊力に耐えられる訳がねェ!
巨大なゴーストが、私の体を包み込んで大爆発を起こした。
当然近くにいたペローナちゃんも爆風に巻き込まれて床を転がっていく。
「ペローナちゃん!大丈夫…?」
「いやなんでお前ピンピンしてんだよ!!直撃しただろうが!!」
「?」
「何言ってるのコイツ、みたいに首傾げてんじゃねェぞ!!頭イカれてんのか!?」
まぁ…ダメージはあったけどそんなに効かなかったかな。それにしてもペローナちゃんの反応って、この世界でも新鮮でなんだか興奮してきた。
(や、やばい…こいつはとにかくヤバい…!どうにかして逃げねェと、マジで犯される…!!)
「ま、待て!ほ、宝物庫の宝をやる!だから見逃してくれ!!」
「え?別に宝はいらないかな。私はペローナちゃんが欲しい」
(お前海賊じゃねェのかよ…!!でもそんなストレートに言われたらちょっとトキめいちまったじゃねェか…ガキみたいななりしてる癖に…畜生!!)
ガシ、とペローナちゃんの両腕の掴んで床に押し倒す。
ふふふ…口調からして、ちょっと男勝りなのかな?だけど格好とか、趣味は女の子らしい…可愛すぎ?そう、キューティクォー。
「や、やめろ…!ネガティブ・ホロウ!」
「あ」
し、しまった…何の技か分かんないから避けてたのに当たってしまった…ダメだ…警戒してたのに当たるなんて…私、本当に人間のクズ…。
「死のう…生まれ変わったらカタツムリになりたい…」
「い、今のうちだ!どけ!」
そのまま強引に退けられてペローナちゃんはどこかへ走り去ってしまった。
そうだよね…私なんかじゃ、ペローナちゃんには釣り合わないよね…はぁ…。
「…はっ!私は何を…」
ブンブン、と頭を振って深呼吸する。
…ネガティブ・ホロウだっけ。技名からして、まぁそういう効果なんだろう。実際喰らったわけだし…。
「…でもまさかペローナちゃんがあそこまでかわいこちゃんだとは…!もう嫁にするしかない…!」
問題は、ペローナちゃんをどうやって嫁にするかなんだよねぇ…。とにかくアタックしまくって、チャンスを待つしか無さそうだけど。
「おーい!イリスー!!」
「あ!ナミさん、ミキータ、ロビンも!」
3人が私が通ってきた道を同じく走ってくる。所々にある爆発の跡にギョッとしているが、私自身がピンピンしているので気にするのはやめたようだ。
「大丈夫だった?イノシシは?」
「何かわかんないけど、あの子…ローラって言うんだけどね、ローラの恋を応援したら友達になったわ」
うん、わかんない。
「キャハハ!ナミちゃん、イリスちゃんが困惑してるじゃない」
「でもそれ以上に説明する事なんてないわよ…、それで?あんたの方はどうだったの?」
「あ、うん、めっちゃ可愛い女の子見つけた!嫁にする!」
ぐっ、と握り拳を作ると、その女の子は?と聞かれたので逃げられたよ、と答える。
ただ能力はとんでもなく厄介だから、それについてはキチンと説明しておこう。
***
「…なるほどね、ネガティブ…」
「うん、なんか精神侵されるって感じで…」
「それで、イリスはそのコを探すのかしら?」
ロビンの言葉に迷わず頷く。
ブルックの影の件も大事だけど…ペローナちゃん、あの
あんなに可愛い女の子を嫁にしなかったら、私はハーレム女王なんて一生名乗れないよ!
「でも、だとしたら手強いわよ。今まで嫁にしてきた人達と違って、そのコは何にも困ってない。寧ろ本当に私達の敵なんでしょ?」
「うん。…だから、真正面から口説き落とそうかなって思ってる」
「それしかないでしょうね」
「キャハ、イリスちゃんに口説かれて落ちない人なんて居るのかしら?」
「……そうね、イリスが“本気”を出せば恐らくは…」
本気?私は常に全力だよ!
ナミさんの言葉にミキータも頷いている。分かってないの私とロビンだけなの?
「イリス、私達もあなたの嫁勧誘を手伝うわ。でも、その為にはまず二手に分かれる必要がある」
「…何か作戦があるんだね?」
「ええ。それも…とっておきのね」
作戦の大まかな流れはこうだ。まず、私とミキータが空からペローナちゃんを探す。
そしてナミさんとロビンが“あるもの”を探し出す事が出来れば、後はそれを使うだけでペローナちゃんは確実に私の下へ自分から来たがるというのだ。
…ナミさんの言うことだからとりあえず信じるけど、本当にそんな美味しい話があるの?
「それで何だけど、イリス、ちょっと
「ああ、そうだね。だけど知っての通り
「分かってる、必ず見つけてくるわ」
そもそもその“あるもの”が何なのか分かってないんだけど…。
「ま、いっか。ミキータ、よろしく!」
「ええ!任せてちょうだい!」
「見つけたら分かるように合図送るわー!!」
「うん!!じゃあまた後でー!!」
「ちゃんとペローナちゃん見つけてよ、私!!」
「そっちも、ちゃんと2人を守ってよ!“私”!!」
そうしてナミさんとロビンと分かれて、段々と高度を上げていく。やがてこの島全体を見渡せるようになった時…私とミキータは思わず目を見開いた。
「…これは…!」
「そう言うことだったのね…」
今、私達の目の前に見えるのは…地上に居た時には霧で見えなかった巨大な“帆”だ。
帆はペローナちゃんを追いかけ回していた建物の上にあり、メインマストだろうと推測出来る。
…つまり、この島は島自体が動いているんじゃない。この島自体が丸ごと“船”だったんだ!
「ほへー…ジョリー・ロジャーも描いてるから、海賊船かぁ…。ん?という事はホグバックもアブなんたらも、ペローナちゃんも海賊なんだね」
「ええ…それに、ここまで規模の大きな『船』の船長となると…間違いなく名の知れた大物だわ。あ、勿論イリスちゃんの方が強いのは当たり前よ!名の知れた大物なんか敵じゃないわ!」
ミキータの中での私ってどうなってるんだろう。無敵生物なのかな…?
とはいえ、この島が船だから何だという話だ。私達の第1優先目標はペローナちゃんの勧誘であり、そこに船だとか島だとかの些細な違いはどうだっていいのだ。
てな訳で、ミキータと一緒に空から捜索を続ける。
ぶっちゃけ屋敷とか、最初にペローナちゃんが居た塔みたいな建物の内部に居たら見つからないけど…。
「……ん?何かあの建物揺れてない?」
「え?…本当ね、私達が飛んでるから分からないだけで地震が起きてるのかしら?」
「島とはいえ、一応船だからね。地震が起きるような事は無いと思うけど…下から
もし本当にそうだとしたら洒落にならない。流石に全滅しちゃうよ…。
しかし、その考えは杞憂だったと次の瞬間に思った。…いや、これはこれで厄介だけど…。
「肉ーーーーーーッ!!!!ハ〜〜〜ラ〜〜〜ァへ〜〜〜〜ったァ〜〜〜〜〜!!!!!」
「…!!!!」
「な、何かしら!?」
ビリビリ!と空気が震える程の大声があの建物内部から轟く。
一瞬ルフィかと思ったけど、有り得ないと首を振った。幾らなんでも爆音過ぎるだろう。ルフィにあそこまでの声量は無いハズだ。……多分。
「…なんか、あの建物内からすっごい気配を感じるんだけど」
「キャハハ…私もよ。……行ってみる?」
確かに、今のところペローナちゃんの姿も手掛かりも何も無し。
唯一起きた変化がさっきの声だから行ってみるのはアリだけど…。
さて…どうしようか。
「ゴムゴムの〜!
次の動きを考えている間に、さっきの声の主が建物を内側から破壊して外へ出てきた。
…何だあれ…巨人族、か?
でも技名…
「…いや待って!?ミキータ、ちょっとあの建物に近付いて!!」
「え!?でも危険よ?得体の知れない怪物が近くに…」
「平気!」
私がそういえばミキータも特に反論はせずに少しずつ建物へと近付いていく。
崩れた箇所から内部が見えるようになっており、そこにいる人物をじっくりと視力倍加を使って見ていく。
「…やっぱり、居た…!!」
ペローナちゃん!!
ホグバックと、あとなんか大きなナスみたいな大男。ついでに腕に包帯を巻いてフラフラと足取りの覚束ないアブサロム。まぁそいつらはどうでもいいや。ペローナちゃんが居たんだし!!やほーーい!!
あ、丁度ホグバックの屋敷の方でナミさん達が目的の“何か”を見つけたみたい。合図であるロビンの腕が、屋敷の一点から天高く連結して咲いていた。
「先にナミさんとこ行こっか。ペローナちゃんはここにいるって分かったし」
「そうね、あの鬼みたいな巨人族に暴れられたら面倒だものね」
確かにそうだ。建物の壁を内側から広範囲に粉砕する腕力と巨体…敵じゃない事を祈りたいけど、風貌はどっからどう見ても敵だ。
ホグバックが居る所から出てきたにも関わらず、奴に攻撃を仕掛けたような跡がない事からも私達の味方ではないと判断がつく。少なくともルフィではない…筈。
そして私達は急いでナミさん達の元へと向かい、到着して
「見つかったの?」
「ええ、バッチリよ。やっぱりキッチンにあったわ」
キッチン?一体何を探しに行ったの…。
「準備も出来てるわ。とにかくこれを飲んで」
「これ?……まぁ、飲むけどさ、何か意味あるの?」
「それが無いと始まらないわ。一気に飲みなさいよ」
ナミさんから何か飲み物の入ったコップを受け取り、コクリと頷いて中身を一気に呷った。
…………っ!!!こ、これは……!!!!
***
「…ナミ、これを飲ませるだけで、本当に大丈夫なの?」
「ああ…そういえばロビンは知らないのね。なんて言ったら良いのか…体験したら分かると思うわよ?」
「体験?」
ナミの言葉に、ロビンは意図を把握しきれず眉を寄せる。一体
ナミが今も片手に持っているーーーーーーー酒なんかが。
ナミは知っていた。アルコールを少しでも摂取したイリスのある意味での恐ろしさを。
…だが、1つだけナミは見落としている事があった。
ウイスキーピークでの1件では、まだイリスは自分を乗り越えていない状態であり…つまり不完全で殻に閉じ籠もっている状態だった。
しかし今はどうだ。エニエス・ロビーで自分という存在を根から天辺までを余す事なく認められて、愛されて…籠もっていた殻なんかはとうに破り捨て、ゴミ箱に捨てて収集車がすり潰している今は…果たして、どうなるのか。
逆に抑えている物が無くなったから、アルコールを摂ったくらいでは人格は変わらない?
…そんな事がある筈がない。イリスという存在は、殻を破ってもヘタレる時はヘタレる奴だ。
つまり、今のイリスがアルコールを摂取するとどうなるか…答えはーーーーー。
「………ヒック、…はァ〜…気持ちよかったぁ…」
イリスの足元には、乱れた服を整える余裕すら無くなっている3人の姿。
それでもイリスの瞳から欲の光が絶える事はなく、未だにギラギラと妖しく眩く。
ーーーーーそう、答えは……「全てのタガが外れた、怪物が誕生する」だ。
「そうだ…ペローナちゃん…!…ふ、ふふふふ、ハハハ…ハッハハハハハ!!ハァーーーッハッハッハ!!!!ーーーーーー待っててね…今行くよぉ」
一筋の閃光が、空気を蹴って空を駆ける。
その目に映るはピンク髪のゴスロリっ娘と、さっき頂いてきた嫁達だけであり…邪魔する存在は全て敵だと認識している怪物が、スリラーバークに放たれたのだった。
モリアは泣いていい。