ハーレム女王を目指す女好きな女の話   作:リチプ

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106『女好き、圧倒する力』

「うおおああああぁあああ!!!!忘れろ忘れろ忘れろ忘れろォォォォォォォォ!!!」

 

「何やってるのペローナちゃん」

 

ガンガンガン!!と石柱に頭をぶつけるペローナを不思議そうに見るイリス。

“お楽しみタイム”が終わって部屋から出てみればすぐにこうなったのだ。理由はお察し。

 

「て、てめェが、その…ベッドの上で散々…!」

 

「ああ、可愛い声で鳴いてたよ!私の嫁に相応しいって改めて感じたね!」

 

「うるせェこの変態が!!!ネガティブ・ホロウ!」

 

「もう、女の子がそんな言葉遣い…ん?でも可愛いからいいのかな?うん、いっか!」

 

飛んできたゴーストを笑いながら見もせずに手で弾き消滅させる様を、ペローナは泣きながら見ていたのであった。

 

「ペローナちゃんって、海賊?」

 

「…はァ?お前知らねェのか、私達の船長はあの王下七武海、ゲッコーモリア様だ」

 

「モリアって、もしかしてあのでかナス?」

 

「でっ…モリア様になんて事言うんだてめェ!あの人は私の親みたいな人で、本来ならてめェみたいな奴相手にもならねェからな!!」

 

親みたいな、というワードしか聞いていないイリスの脳内では既に、娘さんを私に下さいイベントをどの様にして行うか会議が行われていた。

 

「ペローナちゃんさ、私の嫁になったんだからお義父さんに挨拶しにいこっか。みんなにも紹介したいし…麦わらの一味の仲間が増えたって」

 

「お前らの船に乗るとか聞いてね……い、いや、何でもねェ。ほ、ホロホロ…」

 

もはや何言っても意味ない事などさっきのお楽しみ以下略で充分に理解したし、何なら相手にならないとは言ったけれど、イリスがモリアに負ける未来も想像出来なかった。それ程までに目の前の怪物から放たれている“オーラ”が強大だったのだ。

 

不服だけど、こいつらの船に乗るしかないと腹を括る。

…それに、個人的に愛されるのも悪くないと感じた……感じてしまったんだし、もう少しその心地よさを味わっても良いだろう。

何なら自分には不意をつくだけで一味を全滅させられる能力があるのだ。飽きたら捨てればいい。

 

そんな日が来る事はこの先一生来ないとは、この時のペローナに知る由もない事だが。

 

 

「……なんだ?」

 

建物全体が揺れている様な感覚と、いきなり物凄い音を立てて傾きだした建物にペローナが眉をひそめる。

既にあちこちで崩れている天井が恐怖を刈り立たせるが、心配する事無かれ、近くにいるのは絶対安全の怪物だ。

 

「なんか、でっかい気配が暴れてるね。その近くに……、…みんなも居るっぽい」

 

丁度ペローナの頭上に降ってきた瓦礫を気合…という名の覇王色のオーラで粉々に吹き飛ばし、彼女を横抱きして建物の外へ飛び出した。

 

「お、お前、空も飛べるのか…!?」

 

「全力で空気を蹴るイメージだよ、やってみる?」

 

「殺す気か!!」

 

イリスにとっては軽い事でも、ペローナからすればあまり遊べるような状況ではない。

外へ飛び出してまず1番最初に目に飛び込んできたのが、例の超特大ゾンビ、オーズだった。

あんなのが暴れ回れば、スリラーバークごと海に沈んでしまう可能性もある。今は何とか麦わらの一味が抑えているが、それもいつまで保つか分からない状況だ。

 

「ナミさん達は…あのデカブツのとこか」

 

「お、オイ、まさかお前…あっちに行く気じゃねェだろうな…!?冗談じゃねェ!死にたいのか!?何とかお仲間に合図を送ってあいつから離れるように言え!!…って聞いてんのかああぁぁぁ…」

 

ペローナを抱えたまま少し離れた場所にいるオーズの元へと瞬時に移動する。

速すぎて放心しかけてるペローナは、何とか落ちないようにイリスの首に腕を回して耐えていた。

 

「ナミさーん!ミキーター!ロビンー!見て見て〜ペローナちゃんゲットだぜー!!」

 

「おおおおお前バカやめろ掲げるなァ!落ちたらどうすんだ!死ぬぞ私は!!」

 

「イリス!その様子を見る限りだと、作戦は成功したみたいね。…何で 女王(クイーン)化してるのかは分からないけど」

 

イリスに文句は言うも、抱かれている事に嫌な顔してない所かしっかりと首に腕を回しているペローナを見て頷くナミ。

それに、女王(クイーン)化している事も今は都合が良い。さっきから自分達はこのデカブツ…ルフィの影入りゾンビ、オーズに苦戦を強いられていたのだから。

…正確には、オーズの腹の中に入ったモリアに、だが。

 

「あの方は誰なのですか?」

 

「ああ、お前は見たことねェのか。あれはイリスちゃんだ」

 

「イリスって…あの時の子供では!?」

 

「身長に触れるなよ、死にたくなけりゃな」

 

イリスの変化を初めて目にするブルックがサンジに尋ねているのを、オーズの中のモリアも聞き耳を立てる。

あの小娘の腕に抱えられているのは自分の配下だ。やはり無事ではあるようだが、何やら様子がおかしい。

 

「…あれ、デカブツの中にモリアいるじゃん。丁度良かった!」

 

そのまま宙を蹴りながらオーズの腹の前まで移動したイリスが、モリアと視線を合わせて一礼する。

 

「お義父様、挨拶に参りました、イリスです。単刀直入に申し上げます…娘さんは貰ったァ!!」

 

「挨拶じゃねェ!!!」

 

ウソップの突っ込みも何のその、イリスは言葉を続ける。

 

「ペローナちゃんは可愛すぎる罪で私の嫁に終身刑なんで、そっちの戦力的には痛手だろうけど許してね。ダメだって言うなら力尽くで奪っていくけど」

 

「キーッシッシッシ!相変わらず上からな女だなテメーは!この巨体が見えねェのか?オーズは生半可な攻撃じゃビクともしねェ、殴り飛ばせオーズ!」

 

「はい、モリア様」

 

その巨体に見合わぬ速度でイリスから距離を取ったオーズが殴る構えを取る。モリアがああやって司令塔になる前は、ルフィの影とはいえ体が伸びる事は無かったが、そこにモリアのカゲカゲの実の能力が加わる事で腕や脚が伸びる様になり、本当にルフィの様な戦闘スタイルの巨人が生まれてしまったのだ。

 

「ゴムゴムの〜!!(ピストル)!!」

 

巨大な拳は、通常ルフィの巨人の銃(ギガント・ピストル)並の火力を誇る。実際の威力で言えばギア3の方が強いが、そのレベルの攻撃なのは変わらない。

だが、

 

「危ないな、ペローナちゃんも居るんだよ」

 

「は?」

 

イリスへと直撃する筈だった拳は、彼女が下から振り上げた蹴りによって簡単に逸らされて不発に終わった。

イリスはそのままオーズの顔前まで瞬間移動でもしたのかと見紛う程の速度で移動し、顎を蹴り上げる。

 

「ぐえェ!?」

 

「なに!?オーズの体を浮かせただと!!?オイオーズ怯むな!痛いのは気のせいだ、お前はゾンビだろ!!」

 

「ペローナちゃんを抱く私を攻撃したって事は、つまりあなた達はペローナちゃんを攻撃したって事になるよね」

 

もう1発顎を蹴り上げ、更に宙へ浮かせる。そして更にもう1発、もう1発…。

気付けばオーズは、顎を蹴り上げられてスリラーバークのメインマストが目の前に見える程の高さまでやってきていた。

 

「ペローナちゃんが居てあまり派手には動けないから、このくらいで終わらせてあげるよ」

 

「ま、待て逃げ足!ペローナならくれてやる、大事な配下だ、無下に使わねェと約束しろ!!」

 

「も、モリア様〜…!」

 

顎を蹴るのをやめて、宙に浮くオーズの頭上まで飛ぶ。

モリアは、冷酷の様でいて元々仲間思いの側面もあった。ペローナごとイリスをオーズに殴らせたのも、イリスならペローナを盾にする様な真似は絶対にしないと変な所で確信があったからに過ぎない。

 

「許可が無くても貰って行くけど、もしかして、だからオーズに攻撃するのはやめてとか言うつもりだった?1度でも私の嫁を狙った相手に…慈悲はないから。… 女王の(クイーン)

 

イリスの右足が真っ黒に染まる。それは、高密度の武装色を纏わせている証明だった。

 

慈悲なき別れ(ファストリテ)

 

ドゴオォン!!!

 

オーズの頭頂部へと、バカげた火力の蹴りが振り下ろされた。

その衝撃はスリラーバーク全域に広がり、喰らったオーズは物凄い速度で落下して地面に巨大なクレーターが出来上がる。

ナミ達はギリギリ余波が及ばない位置に居て、オーズが落ちた際の揺れと突風だけで済んだ。あと少しでもズレていたら巻き込まれて大怪我は免れ無かっただろう。

 

「よっ」

 

「も、モリア様…!オイてめェ…モリア様は無事なんだろうな!?」

 

すた、と軽やかに着地したイリスの胸ぐらを掴んで揺らすペローナ。イリスはそんな彼女の頰に手を添えてキスを落とす。

 

「い、いきなりはやめろ!」

 

「だって可愛いから。それにそう簡単にでかナスは死なないよ。オーズは使い物にならないだろうけど」

 

今の攻撃で間違いなく頭蓋骨は粉砕、地面へ落ちた衝撃で全身の骨も粉々だろう。

青キジとは違い、オーズには覇気で守るという手段がない。よって覇気による攻撃を生身で受ける訳だから、それはもうかなりの威力になる。

 

「ここかァ!!!…居た!…ん?モリアはどこだ?」

 

「あ、ルフィ」

 

「麦わら…!」

 

森の方からルフィが走ってきた。身体中に擦り傷があり、息も切らしている。理由は、彼は彼でモリアを追っていたのだが途中でモリアの影… 影法師(ドッペルマン)を囮に使われて今まで森の中を探し回っていたのだ。

 

「あ、お前、お化けの女!!さっきは良くも…」

 

「何、私の嫁だけど」

 

「何でもねェ、何でも」

 

イリスの地雷を絶対に踏みたくないルフィは目を逸らして汗を流す。船長の威厳も、アルコールの入ったイリスには関係のない事なのだ。仕方ないね。

 

「勝ったわーーー!!やってくれたわ!」

「ありがとうお前ら最高だァ!!」

「あんた、強ェな!!まさかあの巨体を蹴り上げるたァ…!」

 

続々と一味の周りに人が集まりだす。イリスはそれを見て首を傾げるが、それ程興味も無いのかナミ達の近くに歩いて行く。

因みに彼らはモリアによって影を奪われていた人達であり、影を取り返せる可能性があった麦わらの一味を影ながら応援していた人達だった。

本当はルフィに“影”を与えてパワーアップさせようとしていたのだが、空高く蹴り上げられていくオーズを見てとにかく現場に向かおうと言う話になり今ここに居るという訳だ。

 

 

「おいルフィ!イリス!どっちでもいいから早く影を取り戻せ!朝日だ、夜が明けるぞ!!」

 

「知らないよ、私はみんなとイチャイチャするのに忙しいから勝手にやってて」

 

「誰だイリスに酒飲ませた奴は!!」

 

地団駄を踏んで文句を言うウソップ。

現時点ではルフィ、サンジ、ゾロの影が奪われており、奪い返さなくては陽に当たった瞬間灰となり消えるのだが…嫁しか脳のない今のイリスはその言葉が頭に入ってこない。

 

「ナミさん見てよペローナちゃん、可愛いでしょ?」

 

「はいはい、可愛いから影取り返してあげなさい。流石にルフィ達が消えたら酔いが覚めた時あんた絶対後悔するわよ」

 

「ぶー、ナミさんが言うならそうするけど…」

 

「…お前らの主人は頭イカれてんのか?」

 

「今日からあなたの主人でもあるわよ?それに、お酒が入ってない時はもう少しまともなの。知ってて飲ませたのは私だから、責任は私にあるけど」

 

ペローナを降ろして、ぶつぶつと唇を尖らせながらオーズの落ちた場所へと歩いて行くイリス。

その周りを影を奪われた人達もついて歩いてきていた。その中の1人、ローラが大きく声を上げる。

 

「さァ、モリアを叩き起こして影を返して貰うのよ!朝日はもうそこまで来てる!」

 

「…起こすにゃ及ばねェ…!!」

 

オーズの腹の中からモリアが息を切らしながら出て来た。

やはり地へ落ちた時の衝撃は凄まじかったのか、その体には傷が至る所に出来ていた。

 

「…“逃げ足の女王”イリス…てめェは確かに強ェ…だが、このまま航海を続けても死ぬだけだ…。“新世界”には遠く及ばねェ…!てめェには大切にしている女や仲間もそこそこいる様だが、全て失う!何故だか分かるか!?」

 

「どうでもいいから影返して」

 

「俺は体験から答えを出した。大きく名を馳せた有能な部下達を、何故俺は失ったのか…!…仲間なんざ、生きているから(・・・・・・・)失うんだ!全員が初めから死んでいるゾンビならば、何も失う物はねェ!!ゾンビなら不死身で!浄化しても代えのきく無限の兵士!!俺はこの死者の軍団で再び海賊王の座を狙う!!てめェらは影で俺の部下になる事を幸せに思え!!」

 

モリアはそう言って自身の影から無数の影糸を地に走らせた。

それは森中の…スリラーバーク中の全ての影を集める為の供給線で、集まった影が続々とモリアの体内へと注入されていく。

 

「……、下らない。死体を嫁にする趣味はないよ。シンドリーちゃんも可愛かったけど……生きていないと、温もりが無い」

 

「温もり!?下らねェのはそっちの方だ!これから先の海に…情などは必要ねェ!!」

 

「その情から逃げたのがあなた。情けない自分から目を逸らして、過去に怯えて縮こまる。…ちょっと前の誰かさんを見ているみたいで、酔いも覚めてきたよ」

 

ついに、1000体目の影を体内に取り込んだモリアが高らかに声を上げた。

影を取り込むだけで自身も強化されると言うことをイリスは知らない。…だけど、モリアに負ける気はしなかった。

モリアが今後、過去を乗り越えて自分の前に立ちはだかればどうなるかは分からないが…今の怯えてるだけの奴に負けるほど、女王は甘く無い。

酔いのおかげかいつもより長く保っている女王(クイーン)化も、酔いが覚めてきた事でそろそろ解除される頃合いだろうし、朝日の問題もある。

ここからは、時間との戦いだ。

 

 

 

 


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