「オオオオオオ!!!」
「ふん!!」
モリアの拳と私の蹴りがぶつかり合う。
1000体の影を取り込んだ奴の攻撃は、文字通り一撃で島を割った程だ。だけど、私のパワーだって負けちゃいない。
「ギア…『2』!」
「え…ルフィなにそれ、カッコいい」
ルフィが膝に手をついて、血液の流れる速度を速めた…のかな?ゴムだから血管をポンプのように使えるって事なのかも…それにしたってカッコいい。
「こうなったらおれは強ェぞ」
「頼もしいね」
酔ってる時の記憶は前と同じで残っている。その時に得た知識から考えれば、モリアが今回の黒幕なのは疑いようが無い。ていうか今起きてる事を見れば誰でも分かる。
今みたいに影を自分自身に取り込む力なんてのは知らなかったけど…モリアも詰め込みすぎたようだね。影の量に耐えきれず暴走気味だ。
「ゴムゴムの
「オッ…!?」
ヒュ、と消えたルフィがモリアの腹前まで移動して拳を放った。技までカッコいい。
速さだけじゃなくて威力も上がっているようで、モリアは腹を押さえて呻き声を上げた。
「じゃ、次は私で…
ルフィと同じく腹近くに移動して、拳を振りかぶった。
「
「オゴァッ…!!?」
屋敷へと突撃しながら吹っ飛び、奴の口から大量の影が解放されていく。モリアは必死にそれらを手で押さえ込み、私達をギロリと睨んだ。
「お、オイ…お前!!モリア様になんて事を…」
「殺しはしないから、安心してよ。あとお前じゃなくてイリスって呼んで!」
「イリス!先行くぞ!!」
ペローナちゃんに返事している間にルフィがモリアへと突っ込み攻撃をぶち込んでいく。モリアも反撃はしているが、ゴム人間であるルフィに対しての有効打がない様だ。
…クロコダイルとかもそうだけど、全盛期は覇気を使えたんだろうね。前線を退いて鈍っちゃったパターンか。
「じゃあそろそろ、みんなの影を返して貰おうかな…!ルフィ、離れて!!」
「おう!!」
空高く舞い、口を塞いで影の放出を防ぐモリアの上に位置取った。
「
覇気を纏わせ、頭上にティアラ、肩にマントが出現して両腕を黒く染める。そして、真下に居るモリアに向けて拳を放った。
「
「ッ!!?」
私の両腕から放たれる無数の拳が、モリアの巨体を蜂の巣にしていく。
貫通はしていないが、1発1発深くモリアの体に直撃し、その体に数え切らない程の拳の痕を付けていた。
見た目だけで言えば
「オオ…ッ、グホ…!…にげ、あし…、麦わらァ!!てめェら…ハァ、ハァ…行ってみるがいい…!本物の“悪夢”は、「新世界」にある…!!…ぐ、あァあああああ!!!!」
それだけ言い残して、モリアは最後に自分の体の中に詰め込んだ影を一気に吐き出し意識を失った。
…何が悪夢だ、1人で抱えるから苦しいんでしょうが…!
「ーーー本物の悪夢?それは「過去」にあったし…私は、私達はもう乗り越えてる。宣言通りペローナちゃんは貰ってくね、お義父さん」
倒れたモリアの体に手を添えて言い、私はみんなの元へ戻っていった。
…と同時に変化が解けてペローナちゃんの胸にダイブしちゃった…さっきも堪能したけど、なんて素晴らしいぽよん…。
「…モリア様の許可もちゃっかり貰いやがって…ちゃんと責任取れよお前」
「はは…当然」
今回は意識を失うまでは行かなくて済みそうだね。今までは体へのダメージも半端なかったから倒れてただけか。確かにガープの時も変化が解けたからって気絶はしなかったっけ。
…体は全く動かせないけど。
「…朝日だ」
「影があるぞ…!!!」
「…何かよく分かんないけど、嬉しそうだね」
モリアを倒したのは、ブルックの影を取り返すっていう当初の目的とは随分変わってペローナちゃんを連れて行く挨拶ついで、って感じだったから、何だか申し訳ない。
「頭は痛くない?イリス」
「うん、平気」
「キャハ!どうする?今日はペロちゃんに背負って貰う?」
「ペロちゃん言うな」
「そうだねー、せっかくだからペロちゃんに背負っててもらおうかな」
「落とすぞ」
そんな事言いながらもしっかり背負ってくれるペローナちゃんの優しさと可愛さは異常。
「…でも、今回は意図してなかった
「…私達にもっと力があれば…。現状はイリスとの力量差が激しすぎて、戦いも足手纏いになりかねない」
「そんな事、気にしなくていいんだけど」
私の呟きにナミさんはため息を吐いて私の額を小突いた。痛い。
「私達は気にするのよ、ね、ペロちゃん」
「ぶっ飛ばすぞ女」
「言っとくけどペロちゃん、ナミちゃんの懸賞金は1億よ」
「すみませんでした!…ぐ、全然そんな風には見えねェってのに…!」
ナミさんの懸賞金額の設定は何というか…特例みたいな感じだからね。ナミさん本人の危険度で言えば3000万も無いんじゃないかな、可愛いし。いや待てよ?可愛さを懸賞金額に加えるとしたらナミさんどころか私の嫁は全員100億くらいいくのでは…?というかそもそも額が決まるのか!?
「もし!」
「?」
「うおーゾンビ!!…ん?なんだ、墓場で会ったじいさんか」
突然声をかけられて顔を向ければ、そこには身体中を包帯や縫いキズが見られるゾンビ…のような老人が居た。ウソップが反射的にパチンコを向けて、見覚えのある顔に武器を下ろす。…あれ、ウソップのパチンコも新しくなってるね、何か大きい。
「信じられん…太陽の下をまたこうして歩ける日が来るとは…。ありがとう、どうお礼をすればよいか…!」
「スポイルじいさん!」
「被害者の会名誉会長!!」
…本当に話についていけないよ。今回に関しては、私はただペローナちゃんを嫁にしたかっただけだし…。あ、ペローナちゃんの髪の毛良い匂い。
「嗅ぐんじゃねェよキモい」
「だってこの体勢だとペローナちゃんのうなじが目の前にあるんだもん、嗅ぐでしょ」
「本気で落とすぞ…」
でも嗅ぐのはやめなーい!ナミさん達もそうだけど、美少女の匂いは落ち着くというか、精神安定剤だよね。
「あんた達…!礼が遅れたわね!…ありがとう!!スリラーバーク被害者の会一同、この恩は決して忘れないわ!!」
「「ありがとうございました!!!」」
「だってさ、ルフィ」
「しし!気にすんな、ついでだからな」
被害者の会か。…本当についでだったとはいえ、助ける事が出来たのは良かった。ずっと影無しで太陽に怯えるなんてあんまりだもんね。
「…あ、そういえば…」
「どうしたの?」
ぽつりと呟いた私の言葉にナミさんが反応する。
…私が酔って
「もしかしたら、この島にはまだ何か……」
『成程な』
「っ!」
突然、近くの崩れた建物から声が聞こえて見上げれば、そこにはモリアにも劣らない程の巨体をした男が瓦礫に座って電伝虫に話しかけていた。
頭に熊耳帽子を被ってる黒目のないその男を、私は何処かで見た事がある気がする。…前世かな。
『ーーー悪い予感が的中したというわけか』
「…そのようで」
『やっとクロコダイルの後任が決まった所だというのに、また1つ“七武海”に穴を空けるのはマズい』
…ん?ペローナちゃんがあいつを見て固まってる…、ロビンも目を見開いてるし、何か凄い奴なの…?
「誰だありゃあ!?」
「…誰ってお前、ネガっ鼻…知らねェのか?」
「知ってるの?ペローナちゃん」
「逆に何で知らねェんだ!あいつは…王下七武海、“暴君”バーソロミュー・くまだ!!」
「「七武海!!?」」
それは…マズい…本当にマズい…!私は反動で動けないし、みんなだって疲れは残ってる…万全じゃないのに!!
くまって奴が私達に敵対しなければ、それが1番いい流れだけど…!。
『まだ微かにでも息はあるのか?』
「さァ…」
『生きてさえいれば、回復を待ち一先ず七武海の続投を願いたい所。措置についてはその後だ。ーーーそう次々落ちて貰っては七武海の名が威厳を失う…この情報は世間に流すべきではない、全く困った奴らだ。……私の言っている意味はわかるな?モリアの敗北に目撃者がいてはならない』
…は、はは。
クソ…!これは、見逃してくれそうな雰囲気じゃ無くなってきたね…。
『世界政府より特命を下す…!麦わらの一味を含むその島に残る者達全員を、抹殺せよ』
「……容易い」
「…くそ!」
ペローナちゃんの私を背負う腕に力が入る。まだ動けるゾロやルフィ、サンジが前に出て戦力外の私を庇うように構えを取った。
「イリスちゃん、“反動”が無くなるのはいつだ?」
「…正確には分かんないけど、大体半日から1日くらい」
「おっし…お前ら気合入れろよ、1日耐えれば勝ちだ!」
「うるせェアホコック、イリスを待たずとも俺が斬り捨ててやる」
「おれがブッ飛ばす!!」
だが、次の瞬間くまは被害者の会が集まる目の前まで瞬間移動した。
その速すぎる移動に誰もが目を見開き、逃げる事が叶わないと知ってくまに斬りかかる。
「こんな所で死んでたまるかァ!やっちまえ!!」
「うおお!!!」
数人でくまに立ち向かう被害者の会だが、くまが先頭の1人の腹に手の平を当てるだけで吹き飛ばされた。しかも何故かその人の後ろに居た人達まで同じ様に飛ばされていく。
…それ程強く衝撃を与えたとは思えない…!どう見ても、ぽん、と触れただけにしか見えなかったのに!まるで衝撃が、貫通弾のように貫通したとしか考えられない…!
「“逃げ足の女王”イリス、お前が戦闘不能なのは幸運だった。俺では勝てまい」
「は…私の周りに居る人達には勝てるって?バカにしないでよ、麦わらの一味は私のワンマンチームじゃないっての!!」
「…的を得ている。だが、それでも俺には届かん」
「ゴムゴムのォォ!!」
ドルン…!とギア2を発動したルフィがくまの顔横に現れた。
「
そのまま渾身の一撃を顔面目掛けて放つも、くま本人は多少フラついただけであまり効いていない様だった。
…ルフィのあの攻撃を喰らってもダメージ無いって…顔面にパンチ貰ったんだよ?人体の急所に攻撃受けてんのに…本当に人間!?
「二刀流…居合!羅生門!!」
「消えた…!」
ゾロの高速の剣技すらも見極めて躱し、羅生門を放ち終わった後のゾロの前に現れ突っ張りで攻撃する。
ゾロはそれを跳んで後ろに躱し、ルフィとサンジの隣に並んだ。
「…何だありゃ」
「変なマークが地面に残ってるぞ…」
ゾロが避けた事によりくまの平手は地面に直撃した。
まるで肉球の様な形で地面に跡をつけており、ふざけたマークではあるけれどその威力の高さが窺える。
「うォオ!!
「麦わらのルフィ、海賊狩りのゾロ、…手配書とは少し違うが、黒足のサンジ。…やめておけ、俺には勝てない」
サンジの回転して勢いをつけた踵落としですらも涼しい顔をして、逆に攻撃をしたサンジの方が足を押さえて痛がっている。
「ハァ…ハァ…!くそ、強ェなコイツ…!」
「三十六…
ゾロの螺旋状に飛ぶ斬撃は、手の平を当てる事で軌道を逸らす。
あの手の平…肉球があった…!ゾロの攻撃で生まれた衝撃を弾いた感じだ。恐らく、何らかの能力者…!
「それがてめェの能力か…!」
「あらゆるものを弾き飛ばす
「肉球人間…」
弱そうな名前のわりに、あらゆるものを弾き飛ばすとかとんでもない能力だ…肉球関係ない!
さっき見せたゾロの斬撃を弾いたのも、被害者の会を吹き飛ばしたのも全部悪魔の実か…。サンジの蹴りやルフィの拳に対して平気な顔してるのも能力なのか…?何か違う気がする…。
戦闘は、その後も一方的に続いた。
オーズもモリアも結局決めを私が取っちゃった事で、3人の蓄積ダメージはそれ程多くはない状態での連戦だった…にも関わらず、ここまで一方的にやられているのはくまの強さ故だろう。
「…やはり、万全ではないお前達を消した所で何の面白みもない…。政府の特命はお前達の完全抹殺だが…」
「…あれは…」
くまが自分の真上にある巨大な何かを抱えるポーズを取った次の瞬間、そこに肉球型の大気の層が発生した。
それはボッ、ボッ、とくまが開いた両腕を閉じていくにつれてどんどん小さくなっていく。
「肉球で弾いて…大きな大気の塊に圧力をかけてるのね…あんなに小さく圧縮されてく…!」
「ち、小さくなったらどうなるんだ」
「あれ程の大気が元に戻ろうとする力は…例えば物凄い衝撃波を生む爆弾になる…!!」
ナミさんの言葉に疑問を口にしたペローナが、ロビンの答えに顔を真っ青に染めていく。
良く分かんないけど、とにかく爆弾なんだね…!
「よしペローナちゃん、いざとなったら私を盾に」
「何当たり前の事言ってんだ!あんなのまともに受けたら死んじまうだろ!!」
ペローナちゃんが死ぬくらいなら喜んで肉壁になります!!
「お前達の命は、助けてやろう」
ぎゅ、と手の平に納まる大きさまで圧を閉じ込めたくまが静かに呟く。
「そのかわり、麦わらのルフィ、もしくは逃げ足の女王イリスの首…どちらか1つを俺に差し出せ。無論、両者2つの首があれば尚良いが…その首さえあれば政府も文句は言うまい」
「…仲間を、売れってのか」
「さァ、麦わらか逃げ足をこっちへ」
ちら、とナミさんを見ると丁度彼女も私を見ていたようで目があった。
その顔は…あー、怒ってますね、凄く。私の首を差し出すとか死んでも言わないって無言の圧を感じる…。青キジと戦う前のナミさんにも似た凄みがヒシヒシと私の体にぃ…!
「「「断る!!!!」」」
「…残念だ」
ルフィの首も、私の首もやらないというみんなの決意がその場に轟いた。
ペローナちゃんは何も言わずにただ黙っているだけだ。背負われている私には表情が見えないから、何でペローナちゃんが今すぐ私を捨てて逃げないのかが分からない。
「チクショウ…っ!…お前を盾にすれば、少なくともダメージを軽減は出来るってのに…」
「
「…どうしてもお前に傷付いて欲しくないって私が、うるせェんだ。お前ほんとのほんとに責任取れよ、人の為に傷付きたいだなんて思ったの初めてだからな」
「ーーー!!ペローナちゃ…」
私を押し倒して、覆う様に上に被さる彼女と目が合った。
…涙を浮かべて、死の恐怖を押し殺している目と。
本当は物凄く怖い筈なのに、本当は今すぐにでも逃げ出したい筈なのに…唇を噛み締めてそこから動かないペローナちゃんを見て、申し訳ないけど私は心の底から歓喜に打ち震えた。
だってそうだ。私がペローナちゃんを嫁にしたのは完全に容姿一択、性格なんて二の次だったというのに……なんて、なんて優しい…!!
くまの放り投げた小さな肉球型の“爆弾”が地面に触れた瞬間、その大気の層が爆発的に広がり、範囲の中の存在全てに破壊的な衝撃を与える。
当然範囲内に居るみんなはそれぞれ衝撃に吹き飛ばされ、それはペローナちゃんに守られている私も同じ事だった。
…ただ、吹き飛ばされてもペローナちゃんは私を離さなかった。必ず私の体を晒さず、自分の体を盾にして。
…能力の使えない、肉体的にも子供レベルしかない私が…守られているとはいえ気を失うのにそれ程時間は掛からなかった。
ただ、これだけは言える。私がこれ程の衝撃の中…能力が使えないにも関わらず絶命していないのは……間違いなく、間違いなく…ペローナちゃんのおかげだったのだ。